続グーグルの新プライバシー規定をめぐる混乱 ビック・データという新ゴールドラッシュ(前編)

2012年03月03日(土) 小池良次(Ryoji Koike)
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 なお、一般的なプライバシー情報と区別するため、本稿では以下ネット・プライバシーと書くことにする。

ビック・データにとってネット・プライバシーは最大の壁

 話をサンタクララの展示会に戻そう。

 「さぞや緊張しているだろう」と思ったが、登壇したグーグルのマッシェロ・マネージャーに厳しい様子はなく、時々笑顔なども見られた。

 彼女は、淡々と今回のポリシー変更について解説し、質疑応答でも会場から批判めいた質問はでなかった。説明の中で彼女自身が「ワシントンは過剰反応をしている」と指摘したが、そのとおり、シリコンバレーでは今回の新ポリシーについて寛容的な雰囲気がある。では、なぜシリコンバレーは、グーグルに寛容なのだろうか。

 ご承知の通り、シリコンバレーにはグーグルやフェースブック、イーベイ、ヤフーなどネット企業が乱立している。また、多くのベンチャー・ビジネスも、ウェブ関連のビジネスを追求している。もちろん、インターネットが登場して約20年が経過し、単純なウェブ・ベースのサービスは発掘し尽くされた。にもかかわらず、シリコンバレーではネット企業が繁栄を続け、ウェブ・ブームが続いている。

 こうした活力の源泉には、シリコンバレーがモバイルと並んで、ビック・データという金脈を見つけたことがあげられる。いま、ゴールドラッシュならぬ「データ・ラッシュ」が始まっている。しかも、ビック・データの鉱脈でもっとも価値の高いのが、先ほど述べたネット・プライバシー情報にほかならない。

 ビック・データは、これまで取り扱うことができなかった巨大で不揃いなデータ(Unstructured Data)を分析し、様々な新サービスやソリューションを提供できると期待されている。その対象は、新薬の開発や犯罪予知から油田発掘など多種多様だ。

 従来、ネット・ビジネスにおける最高の金脈は、グーグルが発掘した「検索連動広告」だろう。やや大雑把だが、ネット・ビジネスにおける収益モデルは広告収入以上のものがない。しかし、ビック・データは、広告モデルの枠を超えて、様々なビジネスに収益を見いだせる可能性を秘めている。

 その臭いをかぎつけてシリコンバレー企業がビック・データに殺到しているわけだ。しかも、今週サンタクララで開催されたストラタ会議は、米国でも有数のビック・データ専門会議にあたる。つまり、グーグルと同じビック・データを追い求める人々の集まりだ。だからこそ、マッシェロ・マネージャーは、くつろいだ感じで新ポリシーについて解説したと言えるだろう。

◇◇◇

 シリコンバレーのネット企業では「ネット・プライバシーの壁を破らなければ、ビック・データ・ビジネスは成功できない」という暗黙の認識が広がっている。グーグルにせよ、フェースブックにせよ、政府機関や市民団体の抵抗を押し切って、繰り返しネット・プライバシー情報の収集を続けるのは、こうしたシリコンバレー企業特有の考え方があるからだ。

 では、ビック・データ・ビジネスとは、どのようなものだろうか。次回は、ビック・データの解説を中心に、シリコンバレー企業がめざすこれからのネット・ビジネスを紹介してみたい。

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