<軋(きし)む米国>
【ワシントン古本陽荘】米大統領選(11月6日)の共和党候補指名争いで、米国経済の立て直しを訴える穏健派のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(64)が28日投開票された中西部ミシガン州と西部アリゾナ州の予備選で、共に勝利を収めた。11州で予備選・党員集会が実施される3月6日の「スーパーチューズデー」に連勝の勢いをつなげたいところ。だが、出身州ミシガンで保守派のリック・サントラム前上院議員(53)の追い上げで苦戦を強いられるなど、保守層では支持が伸び悩む。両氏の対決は「経済重視の穏健派」と「人工妊娠中絶への反対など社会的な課題を重視する保守派」の党内路線対立を象徴しており、指名候補選びは長期戦の様相を強めつつある。
「大勝はしなかった。でも、勝つには十分だった。それが大事なのだ」。ミシガンでサントラム氏との接戦を制したロムニー氏は勝利宣言で安堵(あんど)の表情を浮かべた。「生まれ故郷で敗北すれば勢いが失速する」と懸念する声が出ていたためだ。
一方、サントラム氏は電話でロムニー氏に祝意を伝えた後、家族と共に支持者を前に「1カ月前は誰も私たちのことを知らなかった。だが、今では皆が知っている」と語った。その姿は「勝利宣言」さながらで、自信に満ちあふれていた。
サントラム氏はミシガンで、キリスト教右派や、大学を出ていない労働者らに照準を定め、これまで以上に保守色の強い主張を繰り広げた。大学進学率の引き上げを目指すオバマ大統領を「お高くとまった俗物だ」と批判し、政教分離の方針を明確にしたケネディ元大統領の姿勢にも疑義を差し挟んだ。
サントラム氏による保守派の支持固め戦略は一定の効果を上げた。米CNNテレビなどの出口調査によると、ミシガンでは自らを「かなり保守的だ」と名乗った3割の有権者のうち5割がサントラム氏に投票し、ロムニー氏を大きく上回ったのだ。
これまでの予備選・党員集会の結果を見ると、共和党支持者の投票行動は二分化の傾向を強めている。経済の立て直しを求める都市部の支持者がロムニー氏に、妊娠中絶に異を唱え、家族の絆などキリスト教の価値観の拡大を目指す地方の保守層はサントラム氏に投票するという形だ。
スーパーチューズデーの11州のうち、ロムニー氏の勝利が濃厚なのは、知事を務めた東部マサチューセッツ州と、ロムニー氏とロン・ポール下院議員(76)の2人だけが立候補を認められた南部バージニア州。両州以外でロムニー氏に有利と断言できる州はない。
クリーブランドなどの都市部と農業地帯が混在する中西部オハイオ州は、ロムニー氏とサントラム氏の激戦場になりそうだ。大都市アトランタを抱える大票田・南部ジョージア州はニュート・ギングリッチ元下院議長(68)の地元で、ギングリッチ氏は選挙戦続行のためにも死守の構え。都市人口の割合が低くキリスト教右派の多い南部テネシー、オクラホマ両州でもロムニー氏は苦戦を強いられそうだ。
このため、混戦が長引く可能性が大きく、先頭を走るロムニー氏がスーパーチューズデーで指名を確実にできる保証はない。
毎日新聞 2012年3月1日 東京朝刊
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