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2012年3月3日(土)付

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本四架橋―この失敗を繰り返すな

本州と四国を結ぶ本四架橋の高速道路について、国土交通省と地元の10の府県・市が、料金と負担の見直しで合意した。3ルート、計17の橋からなる本四架橋は2兆8700億円をか[記事全文]

朝鮮学校―無償化の結論だすとき

卒業式の季節になった。だが文部科学省には、年度内に解決すべき課題が残っている。高校無償化を朝鮮学校にあてはめる判断だ。「厳正に審査」がずっと続いている。生徒や親をどこま[記事全文]

本四架橋―この失敗を繰り返すな

 本州と四国を結ぶ本四架橋の高速道路について、国土交通省と地元の10の府県・市が、料金と負担の見直しで合意した。

 3ルート、計17の橋からなる本四架橋は2兆8700億円をかけて造られた。ところが、通行量が想定を大きく下回り、本四高速会社に入る料金収入だけでは借金を返せない。

 03年に約1兆3千億円の借金を切り離して税金で穴埋めする一方、国と10自治体は計800億円を毎年拠出し、料金値下げと借金返済に充ててきた。

 このうち267億円を負担する自治体側が「もう払えない」と音を上げた。そこで、拠出はあと2年で打ち切る。

 かわりに東日本、中日本、西日本の高速3社の料金収入を回す考えだ。それを原資に、借金を返しつつ、本四高速の料金を全国平均並みに引き下げ、通行量の増加をめざす。

 高速道路全体の借金返済も、2050年度と決められている期限の先延ばしを検討する。

 05年に実施された道路公団民営化の狙いは何だったか、思い起こす必要がある。

 高速道路の料金収入をひとまとめにする「プール制」を改めて、会社・路線ごとに収支をしっかり管理する。造る道路は本当に必要なものに限り、各社の創意工夫で売り上げを増やし、確実に借金を返す。こういうことだったはずだ。

 新たな方針は、民営化の理念に反する。全国各地の高速道路の利用者も、支払う料金が本四架橋の借金返済に回ることに納得するだろうか。

 架橋を3ルートも整備したのは、地元が強く要請し、関係する政治家が後押ししたからだ。自治体の資金拠出を前提に着工したものの、心配されたとおりの計画破綻(はたん)である。

 痛感するのは、大型事業のツケの重さだ。同様の構図がほかにもないだろうか。

 政府・与党は新年度に、整備新幹線の未着工3区間、東京外郭環状道路の練馬―世田谷間を相次いで着工する方針だ。それぞれ3兆円余、1兆2千億円余かかる。

 整備新幹線を運行するJRや外環道を建設・運営する高速道路会社を通じて利用者が負担するほか、多額の税金も投じる。

 経済が右肩上がりの時代と違い、人口は減っていく。国や自治体の財政は大きく悪化し、消費増税が日程にのぼっている。

 そんな時に巨額の投資が本当に必要なのか。

 造り始めてからでは遅い。本四架橋を教訓に、立ち止まって考えるべきだ。

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朝鮮学校―無償化の結論だすとき

 卒業式の季節になった。だが文部科学省には、年度内に解決すべき課題が残っている。

 高校無償化を朝鮮学校にあてはめる判断だ。「厳正に審査」がずっと続いている。生徒や親をどこまで待たせるのか。

 他の外国人学校生や日本の公私立高生は、2年前から無償化の恩恵を受けている。普通の家庭で年12万円弱になる。

 その財源にと、特定扶養控除の一部が減らされた。この負担は朝鮮学校生の家庭にも等しく課されている。

 民主党が衆院選マニフェストに掲げた高校無償化について、民主、自民、公明の3党が効果を検証する協議を始めることになった。検証するのは制度全体である。朝鮮学校を外し続ける事情にはならない。

 立法の目的として説明された「すべての意志ある若者が教育を受けられるよう」をあてはめれば、認めるのが自然だ。

 無償化は日本人拉致問題で軟化したメッセージを送ることになる、と反対する声がある。

 だが拉致行為や北朝鮮の体制に責任のない生徒たちに、責めを負わせてはなるまい。

 民主党政権は「教育に外交上の問題をからめない」と確認している。そうであるならば、政治の思惑によって、少数派であり、多感な年代である生徒たちを疎外するべきではない。

 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と結びついた学校のあり方にも疑念の声がある。文科省はそうした点にも踏み込み、調査を続けてきた。

 その間の議論を通じ、学校側は開かれた教育への姿勢を示しつつある。教科書の記述も改める動きが出てきた。父母の間にも、祖国の「3代世襲」に違和感を持つ人はいる。教室に肖像画を掲げることも考え直す時期だろう。そして、自国の負の部分も教えるべきだ。

 多様な学びの場の一つとして認めた上で、自主的改善を見守る。そんな関係を築けばよい。

 歴史を思えば、私たちは在日の人たちとその社会をもっと知る努力をすべきだ。

 韓流ドラマの翻訳を支えるのは民族の言葉を学んだ在日だ。年末の全国高校ラグビーには、大阪朝鮮高校がホームタウンの代表として3年連続で出た。彼らは北朝鮮だけを背負っているわけではない。生まれ育った国と祖国の間で悩み、揺れながら生きる若者がいる。

 なぜ自分たちがハンディを負わされるのか――。政治の動きに巻き込まれ、生徒たちは苦しんできた。アウェーの寒風をいつまでも浴びせてはならない。

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