秋田の超神ネイガー、沖縄の琉神マブヤーに続き、鹿児島県のローカルテレビ番組にも人気のヒーローが誕生した。その名も「薩摩剣士隼人」。鹿児島に伝わる示現(じげん)流剣術で悪を蹴散らすなど、地元の魅力を詰め込み、郷土の誉れである西郷隆盛が愛した言葉「敬天愛人」の精神を体現したことが県民の心をつかんだようだ。続々と登場するご当地ヒーローは、地元経済の「味方」にもなっている。【山崎太郎】
◆再生16万回以上
隼人は昨年10月から鹿児島テレビで毎週日曜日午前6時15分から放送中の15分番組。地元4社と有志がつくる「薩摩剣士隼人プロジェクト」の自主製作で、3月までの放送予定だが、あまりの人気に4月以降の再放送が決まり、続編も計画中だ。ユーチューブの専用チャンネルでは16万回以上再生された。
和太鼓の音と「たぎる薩摩の風が吹く」の決めぜりふで隼人が現れ、悪者を退散させる--という分かりやすいストーリーが基本。オープニング映像では伝統工芸の薩摩切子や大島紬(つむぎ)が流れる。隼人以外のキャラクターは黒豚や茶、黒ぢょか(薩摩焼の酒器)、おはら祭など特産品や文化を擬人化した。もちろん登場人物はバリバリの鹿児島弁。ロケ地も観光客を意識して選んでいる。
生みの親は、鹿児島市で着ぐるみ製作などを手がける外山雄大さん(42)。仮面ライダーにあこがれ、高校時代はショーのアルバイトでアクションを学んだ。「鹿児島の素晴らしい歴史や文化を分かりやすく県内外に発信したかった」という。
◆パン15万個販売
「ご当地ヒーローの使命は古里を元気にして、大きな経済の流れを生み出すこと」と外山さんは力を込める。隼人はNTTドコモなど7社のCMに出演。地場製パン会社が売り出したキャラクター菓子パン4種類は15万個が売れるヒットに。グッズ販売は200万円を超え、ショーはゴールデンウイークまで埋まっている。
「隼人は10年続けたい。鹿児島の魅力を集めたテーマパークをつくるのが目標」。外山さんは目を輝かせた。
◆岩手や沖縄でも
ローカルヒーロー番組の先駆けは、秋田で放送された超神ネイガー。「ジュースにネイガーのラベルを貼ったら1カ月半で10万本売れた」と言われるほど商業的にも成功した。
ネイガーの生みの親、海老名保さん(42)=秋田県にかほ市=は「仮面ライダーなど70年代ヒーローのアクションに地域密着性を掛け合わせた。ご当地の魅力を分かりやすく落とし込んだことが市場開拓につながった」と話す。隼人とほぼ同時期、岩手では鉄神ガンライザー、沖縄では琉神マブヤー3などの放送も始まった。
秋田大学教育文化学部の井門正美教授(学校教育学・社会システム論)は「ローカルヒーローは地域の歴史、地理、社会、文化などを総合的に体現している。行政のマスコットと違って物語に発展性がある」と人気の理由を分析している。
ユーチューブ専用チャンネルは(http://www.youtube.com/user/hayatoproject?ob=0)。
毎日新聞 2012年3月2日 13時37分(最終更新 3月2日 16時21分)
岩手県・宮城県に残る災害廃棄物の現状とそこで暮らす人々のいまを伝える写真展を開催中。