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東日本大震災1年:福島第1原発、現状と課題 続く水との闘い 廃炉へ道険しく

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復旧作業が続く福島第1原発=2月20日、小林努撮影
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 ◇温度計故障、凍結水漏れ…相次ぐトラブル

 東日本大震災で被災し、3基が炉心溶融を起こした東京電力福島第1原発は、昨年12月16日に原子炉の「冷温停止状態」が達成され、野田佳彦首相が事故収束を宣言した。だが、その後も水漏れなどのトラブルが相次ぎ、現場はいまだに不安を抱えたままだ。一方、2号機で格納容器内の内視鏡調査が始まるなど、30年以上とされる廃炉への長い道のりに一歩踏み出した。未曽有の原子力事故を起こした福島第1原発の現状と廃炉に向けた課題を探った。

 福島第1原発は津波によって電源を断たれ、1~4号機の原子炉や使用済み核燃料プールの冷却機能を失った。燃料が露出して可燃性の水素ガスが発生、次々と水素爆発を起こし、大量の放射性物質を放出した。

 政府や東電は、破損した原子炉格納容器から漏れ出してくる放射性汚染水を浄化して再び原子炉や燃料プールに注入する仮設の「循環注水冷却システム」を構築。原子炉の冷却や放射性物質の新たな放出抑制が達成できたとして、事故から約9カ月後に「冷温停止状態」を宣言した。

 しかし、その後もトラブルは続いている。中でも、原子炉内の状況をまったく把握できていないことを露呈したのが、2号機の圧力容器底部の温度計一つが突然、高い温度を表示し始めた問題だ。

 この温度計は1月下旬まで40度台を示していたが、炉内への注水方法を変えた後、上昇し始め、2月6日には70度台になった。東電は温度計の異常なのか、実際に温度が上がっているのか判断できず、注水量を段階的に増やし、核分裂反応の連鎖を抑制するホウ酸も投入した。

 その後も温度は上がり、12日には冷温停止状態維持の目安としてきた80度(誤差含む)を突破。最終的に400度以上となり、温度計の故障と断定された。炉内を把握するための重要機器である温度計を1個失った上、壊れた温度計に振り回されて汚染水を増やすだけの結果に終わり、「冷温停止状態」の危うさを露呈した。  さらに、冷温停止状態宣言以降、循環注水冷却システムの要となる原子炉への注水設備7カ所や3、4号機の燃料プール、汚染水の塩分除去装置など計44カ所(3月1日現在)で、凍結などによる水漏れが発生。1月29日には4号機の燃料プールの冷却が約2時間停止した。

 汚染水浄化の後に残った濃縮塩水をためるタンクでも放射性ストロンチウムを含む水が2度にわたって漏れ、最大2シーベルトもの表面線量が計測された。東電は保温材を配管に巻き付けるなど凍結対策を取ったとするが、事故後に急造した循環注水冷却システムの運用・維持に苦慮している。

 雑草の一種「チガヤ」がホースを貫通した想定外のケースもあったが、冬場の凍結は十分に予想されたことで、福島第1原発の高橋毅所長は「重要な設備を重点的に保温対策を取ってきたが、想定が甘かった」と認めざるを得なかった。事故発生以来、政府・東電が悩まされた「水との闘い」がこれからも続く。

 ◇変わらぬ「自転車操業」

 1~4号機の廃炉処理のためには、放射性汚染水が滞留するエリアをできるだけ減らして除染し、作業環境を改善することが必要不可欠だ。しかし、地下水の浸入などで汚染水の処理は難航。事故から1年を経過しても「自転車操業」の状況は変わっていない。  東電によると、第1原発内の放射性汚染水は処理済み分も含めれば約20万立方メートル(ドラム缶換算で約100万本分)にも上る。東電はこれらを保管する仮設タンクを16・5万立方メートル確保し、4万立方メートル分も順次建設している。さらに、地下にも「ため池」(4000立方メートル)を作って対応するが、今秋までには満杯になる見通しだ。

 汚染水が増え続けるのは、原子炉を冷却するための水が漏れているからだ。原発の停止には「(原子炉の運転を)止める」「(原子炉を)冷やす」「(放射性物質を)閉じ込める」の三つの機能が必要だ。しかし、福島第1原発は水素爆発などによって「冷やす」「閉じ込める」機能を失った。このため、事故直後は消防ポンプ車などを使って海水やダムの淡水を圧力容器に注ぎ込んでいたが、圧力容器や格納容器は損傷しており、そこから漏れた汚染水が原子炉建屋地下やタービン建屋地下に広がった。

 東電は昨年6月に汚染水の放射性物質を除去して、原子炉の冷却水に再利用する「循環注水冷却システム」を設置。施設内で汚染水をループさせる仕組みを作った。当初は、油分離装置(東芝)▽セシウム吸着装置(米キュリオン社)▽除染装置(仏アレバ社)▽塩分除去装置(日立など)――の4段階で構成していたが、水漏れトラブルが相次いだアレバ社のシステムはバックアップ用に回された。しかし、配管回りは4キロもあり、水漏れトラブルのリスクは残っている。

 東電が昨年4月に公表した収束に向けた工程表では、今年1月中旬までに「汚染水を処理し減少させる」と明記していたが、昨年12月に発表した廃炉工程表では、汚染水処理の終了時期を2020年度へ大幅に先送りした。

 もう一つ、処理の障害になっているのが外部から流入する水だ。建屋損傷部分から雨水が入るほか、地下水がタービン建屋地下などから1日200~500立方メートル程度流れ込んでいるとみられている。東電の松本純一原子力・立地本部長代理は「汚染水を多く回収すれば水圧が変化し、その分地下水が流入する」と説明する。

 東電は地下の汚染水の水位を維持し、地下水との圧力を均衡させているが、事故後1年たっても抜本的な解決策を講じられずにいる。

 さらに、汚染水処理に伴って発生する高線量の放射性廃棄物の処理も難航しそうだ。放射性セシウムを吸った使用済みフィルターは2月21日時点で358本、放射性汚泥は581立方メートル。東電は14年度までに本格的な保管容器の設備計画を作る方針だが、最終的な保管方法については「処分場へ搬出」(廃炉工程表)と記載されているだけだ。

 ◇作業環境改善 「冠水」がカギ

 政府と東電が昨年12月にまとめた第1原発1~4号機の廃炉工程表では、すべての廃炉作業が終了するまでに30~40年かかると見込んでいる。安全に冷温停止した原発の廃炉よりも倍以上の歳月が必要になる。

 工程表は、原子炉建屋などの除染方法を検討し、使用済み核燃料プールの燃料回収を始める第1期(~13年度)▽原子炉格納容器に水を満たす冠水(水棺)作業に取り組み、原子炉内の溶融燃料の回収を始める第2期(14~21年度)▽溶融燃料の回収を終え、全施設を解体する第3期(21年度以降)――の3段階で実施する。

 第1原発内には、1~4号機のプール内に計3108本、1~3号機の原子炉に計1496本分の核燃料が残っており、廃炉作業ではすべてを回収する必要がある。プール内の燃料回収については、事故当時定期検査中だったため4基の中で最も多い2炉心分の燃料を抱える4号機から着手(13年中)。その後、1~3号機も順次取り出しを始める。東電は回収したプール内の燃料を、第1原発施設内にある既設の「共用プール」へ移送する方針だ。

 しかし、共用プールは6840本の貯蔵容量に対し、すでに6375本が保管されており、ほぼ満杯状態だ。「玉突き移送」で宙に浮く共用プール内の燃料を、どこで保管するかが直近の課題になる。

 廃炉コストについては「現段階での把握は困難」(資源エネルギー庁幹部)として、廃炉工程表への明記が見送られた経緯がある。

 東電の財務状況を点検する政府の第三者機関は、昨年10月時点で廃炉費用が1兆1500億円に上ると試算した。しかし、作業期間が長引いたり、5、6号機や第2原発(計4基)も廃炉になればさらに膨らむ。

 エネ庁は事故前、安全に冷温停止した通常の原発の廃炉コストは、第1原発と同じタイプなら1基659億円。第1原発を含む全国54基なら3兆円かかると試算しており、事故の代償の大きさが分かる。

 炉心溶融事故があった米国のスリーマイル島原発2号機の場合、費用をできるだけ抑えるため、実際の廃炉作業は現在運転中の1号機の廃炉を待って進められる計画だ。しかし、第1原発の場合は核燃料が壊れた格納容器の底に落ちているため、早急に燃料を回収し、廃炉を終える必要がある。 大きな事故を起こした原子炉4基の廃炉を並行して進めるのは世界初で、東電幹部も「人類の踏み込んだことのない領域」と困難さを認める。2号機では1月、格納容器に初めて工業用内視鏡を差し入れ、内部の様子を直接確認する作業があった。だが、充満する水蒸気や水滴、強い放射線の影響で鮮明な画像は得られず、水面なども確認できなかった。

 政府・東電が示した廃炉のステップの中でも、「最大の課題」と専門家が口をそろえるのが、格納容器全体を水で満たす「冠水(水棺)」作業だ。水が放射線を遮ってくれるため、作業がやりやすくなる。

 事故収束作業の中で東電がいったんは挑戦する方針を発表したが、1、2号機の格納容器に最大50平方センチ相当の穴が開いている可能性が浮上し、断念した経緯がある。原子炉建屋内は最大で毎時数シーベルトもの高い放射線量が計測されており、その中で格納容器の損傷箇所を特定し、修理しなければならない。

 新型転換炉「ふげん」の廃炉に携わった経験を持つ日本原子力研究開発機構福島支援本部の飯島隆・企画調整部長は「冠水ができなければ作業はかなり難しくなる。日本の技術力が試される」と指摘する。

 さらに、溶けて崩れ落ちた燃料を遠隔操作で回収する作業も難しい。燃料を覆っていた金属管や炉内構造物などと混ざり合い、原子炉圧力容器を貫通して格納容器内にまで散らばっている可能性が高い。同じように炉心溶融を起こした米スリーマイル島原発事故(79年)では、燃料をすべて回収するまでに10年を要した。

 スリーマイルの廃炉を指揮したロジャー・ショー元同原発放射線管理部長は昨秋の来日時、微生物が大量発生し炉内に入れたカメラが役に立たなかったことや、放射能を帯びた微粒子が空中を漂っていることなど「まったく予想外の困難に悩まされた」経験を披露。「大量に出る放射性廃棄物の処理や、完了までに延べ5万~10万人の訓練された作業員の確保など、スリーマイルの数倍の困難が予想される」と語った。

 ◇02年から廃炉作業、実験装置でも 所要30年、30億円超

廃炉処理が進む重水臨界実験装置(DCA)の炉心部分。核燃料を挿入する穴は封印されていた=茨城県大洗町の日本原子力研究開発機構で2月23日撮影

 原子炉の廃炉作業は実際にはどのように進められているのか。02年に廃炉作業に入った日本原子力研究開発機構・大洗研究開発センター(茨城県大洗町)の重水臨界実験装置(DCA)の内部を取材した。

 「役目を終えた核燃料をどう処理するか決まっておらず、廃炉計画の見直しも検討せざるを得ない」。案内してくれた同センターの井上設生・環境技術課長はこう話した。

 DCAは、中性子の減速材に重水を使用する「新型転換炉(ATR)」の研究開発を行うための臨界実験装置で、1969年に初臨界に達した。ATRの研究終了に伴い、01年に運転を終了。02年から始まった廃炉作業は、10年を経てなお続いている。

 炉心上部に降りると、核燃料を挿入するたくさんの穴はすべて封印されていた。将来的にはこれらも解体されるという。すでに核燃料は取り出されており、周辺の線量は毎時0・3マイクロシーベルト未満だった。

 施設内の保管庫には、プルトニウムを含む核燃料が燃料集合体の形で約28トン保管されており、国際原子力機関(IAEA)の監視の下、厳重保管されている。しかし「引き取り手がなく当面はここで保管するしかない」(井上課長)。燃料保管庫内部の空間線量は、最大毎時450マイクロシーベルトある。

 同センターによると22年度までにすべての核燃料を搬出し、早ければ27年度までに建屋を解体する計画だった。計画通りでも約30年を要する。しかし、核燃料の行き先が見つからなければ計画が遅れる可能性がある。廃炉処理には約30億円かかる見込みだが、核燃料の処理方法によってはさらに膨らむ。

 DCAの出力は最大1キロワット。炉心溶融した福島第1原発に比べれば46万~78万分の1程度で、燃料も原形をとどめており、まったく異なる。しかし、半永久的に管理する必要がある核燃料をだれが、どこで管理するか――という原子力が抱える問題は共通している。

 文部科学省によると、DCAのような研究用原子炉は国内に22施設あり、うち7施設が廃炉処理中だが、いずれも核燃料などの放射性物質の行き先が決まっていない。

 ◇除染、ロボット活用

第1原発に投入されているクインス2=千葉県習志野市の千葉工業大で撮影

 1~4号機の廃炉作業では、作業員の立ち入りが困難なエリアが多いため、建屋内部の状況確認や除染、溶融燃料の回収などでロボットの活用が検討されている。

 「放射性物質で汚染されたコンクリートを削る」「ウオータージェットで吹き飛ばす」「特殊な液体で放射性物質を閉じ込める」――。2月24日に経済産業省で廃炉技術を検討する会議が開かれ、除染用ロボットのアイデアや、必要な性能などが話し合われた。  原子炉建屋内の現状を報告した東電の担当者によると、内部は最高毎時数シーベルトの高放射線かつ高温高湿度で、がれきが散乱したり水たまりがあるという。機械にとって厳しい環境で正常に動作し、さらに2次廃棄物をあまり出さない方法を考案しなければならない。国内外の企業に有用な技術を公募するという。

 「政府・東京電力中長期対策会議研究開発推進本部」(本部長=北神圭朗・経産政務官)のメンバーで、東京大大学院の浅間一教授(精密工学専攻)は「作業員の被ばくを減らすためにもロボット技術は必要不可欠」と指摘する。

 すでに現場に投入されているロボットもある。千葉工業大(千葉県習志野市)などが開発した国産災害対応ロボット「クインス2」だ。2月27日に、2号機原子炉建屋1階から内部に進入。階段を使って最上階の5階に上がり、放射線量を測定するとともに写真撮影にも成功した。

 クインスは、がれきで埋まった被災者の捜索やテロ現場の調査用として開発された。しかしクインス2の前身機は昨年10月、原子炉建屋内で通信ケーブルが切れたため、回収不能に。実用化には課題も残っている。開発に携わった同大未来ロボット技術研究センターの小柳栄次副所長は「過酷な作業環境ではロボットが適しているが、改良するためには、過去の原発事故の情報が欲しい」と話している。

 ■ことば 冷温停止状態

 通常の原発では、原子炉を停止した後、炉内の水温が100度未満まで冷えて安定している状態を「冷温停止」という。福島第1原発は事故で原子炉が壊れており、通常の冷却装置も使えないため、政府は「圧力容器底部の温度が100度以下」「敷地境界での被ばく線量が年間1ミリシーベルト未満」の2条件を維持できることを原子炉の安定の目安として「冷温停止状態」と定義している。

復旧作業が続く福島第1原発=2月20日小林努撮影

◆国内の主な廃炉の例と期間(※は予定)◆

動力試験炉JPDR(茨城県、1万2500キロワット)                86年~96年

日本原電東海原発(同、16万6000キロワット)                  01年~21年※

新型転換炉ふげん(福井県、16万5000キロワット)                08年~28年※

中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県、1号機54万キロワット、2号機84万キロワット)09年~36年※

 この特集は、西川拓、中西拓司、斎藤有香が担当しました。

 2012年3月2日

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