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大震災1年:原発再稼働自治体調査 「安全」「国策」板挟み

 毎日新聞が実施した原発の再稼働に関する自治体アンケートでは、条件付きで賛成した首長が半数を超えた。しかし、安全性の担保に厳格な条件を課した意見が目立ち、再稼働への道のりは平たんと言えない。さらに全体の72%の首長は、将来的に依存度を減らす「脱原発」志向に賛意を示している。「住民の安全・安心」と「国のエネルギー政策」のはざまで揺れる姿が浮かび上がった。【西川拓、永山悦子】

 ◇規制や開示に厳格

 昨年、東海地震による被災を懸念した菅直人前首相の要請で運転停止し、津波対策として高さ18メートルの防波壁建設が進む中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)。回答を寄せた周辺首長11人のうち9人が再稼働に反対した。

 反対理由としては「地震動による被害を机上で想定する難しさが如実に露呈している」(同県吉田町)など、安全上の危惧を表明する意見が大勢を占めた。立地する御前崎市は唯一、条件付きで賛成し「原発に代わるエネルギーとして即実用にできる基盤は整っていない」と主張。同時に「運転再開には新たな安全規制をクリアし、国民の理解と納得を得ることが基本」と注文を付けた。

 再稼働に前向きな首長が最も求めた条件は「政府による再稼働の条件や安全基準の提示」だ。経済産業省原子力安全・保安院は東京電力福島第1原発事故を踏まえ、電源の多重化など30項目の安全対策をまとめたが、具体的に反映されるのは、新たな規制機関となる原子力規制庁ができる4月以降になる。

 自由記述でも、「福島の知見を踏まえた技術基準など、納得のいく説明を受けておらず、即座に認められない」(福井県美浜町)▽「安全ならば国がすべて責任を持つと法律に明記すべきだ」(長崎県松浦市)など、厳しい条件が並んだ。

 今回、2割強は判断を保留したが、背景には「判断に必要な情報が提供されていない」(石川県穴水町)▽「福島事故の検証なしに再稼働を議論する段階にはない」(新潟県)など、政府の姿勢への不信感も根強い。

 一方で、「法律上の権限と責任を有する国が厳正にチェックし、判断すべきだ」(富山県)など、地元の意見を聞く前に政府が判断を示すべきだという指摘もあった。

 ◇今は容認、将来「脱依存」

 アンケート結果では、当面の原発の利用に理解を示した首長ですら、将来的に原発への依存度を下げていく政府の「脱原発依存」路線に76%が賛成した。

 「使用済み核燃料の最終処分技術が確立しない状況を考えれば、原発は過渡的発電」(茨城県那珂市)との意見が寄せられた。

 一方、原発が立地したり距離が数キロと近かったりする自治体では脱原発に反対意見が多く、「代替エネルギーの明確な見通しが示されていない」(青森県むつ市)▽「十分な議論がない段階での決定は早計」(愛媛県伊方町)との声が上がった。

 政府は、運転年数を原則40年とし、安全と確認された場合に例外的に20年の延長を1回だけ認める原子炉等規制法の改正案を今国会に提出している。

 しかし、この運転制限に賛成したのは7%と、首長に不評だ。年数の根拠が不明確なのが理由で、松江市は「考え方に科学的合理性がないと、規制全般に対する信頼性が失われる」と批判している。

 新規建設がなければ、今世紀半ばにも原発ゼロ時代を迎える。佐賀県玄海町は「再生可能エネルギーの技術開発を進めながら原発への依存を減らしていくべきだ」と提言した。

 ◇改訂遅れる防災計画

 原発事故を受け、政府の原子力防災指針が見直され、防護対策の内容や範囲が大きく変わる。政府は9月末までに、避難準備や放射線量の監視体制の整備などを盛り込んだ地域防災計画の改訂を終えるよう、自治体に求めている。

 調査では、「9月末ごろまでの改訂に対応できる」と答えた自治体は37%。さまざまな調整が必要で、4割超の自治体は「国・県の進捗(しんちょく)次第」と見通しすら示せなかった。

 地域防災計画の改訂を原発再稼働の前提ととらえる自治体も多く、再稼働に条件付き賛成と答えた自治体の22%が「地域防災計画の見直しが終了すること」を条件に挙げた。反対とした自治体の35%が「地域防災計画の見直しが終わっていない」を理由に掲げる。

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 ◇質問項目への主な自由記述

 《再稼働》

・二酸化炭素の排出規制も考慮が必要。(北海道古平町)

・市民の最大の願いは「避難などほとんど考える必要がないほどの安全性確保」。(新潟県長岡市)

・今後の日本経済のため必要なエネルギー確保など多角的な議論が必要。(岐阜県揖斐川町)

・福島第1原発事故は、「原発の安全神話」を作り上げ、自らも安全神話に酔いしれ、備える力が脆弱(ぜいじゃく)になったことにつきる。再稼働にあたっては、安全確保の徹底、情報開示が大切。(愛媛県西予市)

・再稼働は国の責任において決定すること。地元自治体や住民に判断の責任を転嫁しないこと。(佐賀県唐津市)

・大臣が個人的な考えの域を出ないような考え方の提示では、右往左往させられるだけだ。(鹿児島県薩摩川内市)

 《脱原発》

・福島原発事故はゆがんだエネルギー政策が生んだ。事故で故郷を喪失した者たちに責任を感じているのか。こういう状況でカネ、エネルギー確保のことばかり言うのは、原発等を持つ資格がない。(茨城県東海村)

・人間が制御できず、廃棄物の処理技術も確立していない不完全な技術を前提とするエネルギー政策は転換されて当然。(静岡県吉田町)

・原発の数は減っても、エネルギー政策上欠くことができないと考える。(福井県高浜町)

・これまでの原発推進策は日本の社会、国民が求めた電力の安定供給に応じたものであり、恩恵は私たち立地地域のリスク負担のうえに成り立っていた。また当面、稼働の有無に関係なく原発が存在していくことに変わりない。(松江市)

 《防災計画》

・福島第1原発事故に学ぶべきだ。同心円での区域設定に根拠がない。(北海道ニセコ町)

・安全協定はUPZ圏内も対象とすべきだ。多くの市町村を巻き込んで、原発への監視の目を強化すべきだと考える。(茨城県城里町)

・UPZなどが広範囲にもうけられ、周辺地域は混乱している。(福井県高浜町)

・(UPZが設定されると)全住民の避難措置が必要になる。庁舎などの移転、住民の受け入れ先の選定作業などを考慮すれば、9月末の策定は困難。(鹿児島県阿久根市)

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 ◆再稼働への可否回答(その他意見、無回答など除く)

 ◇賛成 なし

 ◇条件を満たせば賛成

 <北海道>岩内町、共和町、神恵内村、泊村、倶知安町、古平町、仁木町、蘭越町、赤井川村<青森県>むつ市、横浜町、東通村、六ケ所村<宮城県>宮城県、東松島市、涌谷町、南三陸町<茨城県>城里町、常陸大宮市、大洗町、茨城町、高萩市、笠間市、大子町<新潟県>刈羽村、柏崎市、出雲崎町、小千谷市、燕市<静岡県>掛川市、御前崎市<石川県>志賀町、中能登町、羽咋市、輪島市、宝達志水町、かほく市<福井県>南越前町、美浜町、越前町、福井市、鯖江市、池田町、おおい町、高浜町<滋賀県>高島市<岐阜県>岐阜県<京都府>舞鶴市、京都市、福知山市、伊根町<島根県>雲南市、出雲市、安来市<鳥取県>境港市、米子市<愛媛県>愛媛県、西予市、大洲市、宇和島市、伊予市<山口県>上関町<佐賀県>玄海町、唐津市、伊万里市<福岡県>福岡県<長崎県>松浦市、佐世保市、平戸市<鹿児島県>鹿児島県、薩摩川内市、いちき串木野市、阿久根市、出水市、鹿児島市、日置市、姶良市、長島町

 ◇反対

 <北海道>積丹町、余市町、寿都町<宮城県>登米市、美里町<茨城県>東海村、鉾田市<新潟県>十日町市、見附市<静岡県>菊川市、牧之原市、吉田町、袋井市、磐田市、焼津市、藤枝市、森町<滋賀県>長浜市<京都府>綾部市、京丹波町、宮津市<福岡県>糸島市<長崎県>壱岐市

毎日新聞 2012年3月1日 東京朝刊

 

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