どうする暴落「東電株」処理 時価680億円が吹き飛んだ
【政治・経済】
都知事選 これを取り上げろ!
選挙カーなし、拡声器なし、現職の石原慎太郎候補(78)にいたっては選挙活動すらしていない。東京都知事選(4月10日投開票)は、ないない尽くしで静かな選挙戦が続いているが、どの陣営も肝心な問題に触れようとしない。東京都が大量保有する東京電力株の取り扱いである。
東電のルーツのひとつは、明治末期から都が行っていた配電事業にたどり着く。都は東電設立にもかかわり、1951年5月の創設時に大量の東電株を取得。今も保有数4267万6791株、保有率3.15%は第5位の大株主である。
昨年度の東電からの配当利益は約25億円。しかし、この利益は都の一般会計には一銭も入ってこない。あまり知られていないが、東電株の配当益は、都営地下鉄などを運営する東京都交通局が独占・利権化してきた。
「東電株は、あくまで交通局の『公営事業会計』のもの。国の特別会計のように一般会計とは完全に切り離されています。しかも配当益は、公営事業会計のうち、都営バスを運営する『交通事業会計・自動車事業』に全額組み込まれる。自動車事業の前身は昭和40年代まで都心を走った“チンチン電車”を運営。同時に東電が引き継いだ配電事業も行っていました。チンチン電車の路線が都営バスに変わっても、東電株は変わらず自動車事業に受け継がれてきたのです」(交通局財務課)
毎年、数十億円の配当益を生み出した東電株が都営バスの赤字を補填してきたのだが、半世紀以上に及んだ利権構造は原発事故と汚染拡大で吹き飛んだ。
東電株は29日も売り浴びせられ、前日比130円安の566円。約47年ぶりの安値水準となった。この未曽有の大暴落で、震災後に都は時価約677億円を失った計算になる(保有株の時価は約241億円=29日現在)。
交通局財務課は「東電株の簿価は取得額で資産計上しており、算定額は170億円。含み損は出ておらず、現時点で処分は検討していない」と言うが、東電の経営には赤信号が点滅している。原発事故で数兆円規模の補償は避けられず、政府内では東電の国有化案が早くも浮上。32年ぶりの無配どころか、都が保有する東電株が“紙クズ”となりかねない。
当然、都バスの運営を直撃し、料金値上げなどで都民の負担も増す。東京都のトップが手をこまねいていたら、都民の大事な株資産が消滅してしまう。
次の都知事には早速、交通局の利権構造を許すのかも含め、東電株の処理という大きな難問が待ち構えている。