本書は、若きドイツ人研究者シェーンがベル研究所で起こした空前の論文捏造事件を追い、数々の賞を受賞したNHKドキュメンタリー「史上空前の論文捏造」を、番組で紹介できなかった資料などをふんだんに用いつつ文章化したものです。超伝導の新たな記録でネイチャーやサイエンスに矢継ぎ早に論文を掲載し、科学界に彗星のごとく現れたシェーンを巡る壮大な不正行為の裏側にじっくりと迫っていくのですが、そのスリリングな展開に読み出したらとまらなくなること間違いなしの名著です。(私も行きの飛行機の中で一気に通読してしまいました)
例によって一部本文から引用させて頂きます。
アメリカでは、何らかの科学的な不正行為を犯したことがあるバイオ分野の研究者は、なんと全体の3分の1にも上る、という驚愕の調査結果もある。
これはアメリカの財団などの研究チームによって、2005年、科学雑誌『ネイチャー』に発表されたもので、アメリカ国立衛生研究所から資金提供を受けた7千名近い生命科学・医学・バイオ関係の若手・中堅研究者への大規模な調査から分かったものだ。回答したのは半数近い3200名あまり。具体的には、「データの捏造・加工」0.3パーセント、「アイデアの盗用」1.4パーセント、「論文の多重投稿(いくつかの科学雑誌に同じ内容の論文を投稿すること)」4.7パーセント、「矛盾するデータの隠蔽」6.0パーセント、「資金提供者からの圧力による研究方法・結果の変更」15.5パーセント、などとなっている。
軽重の差こそあれ、3人に1人はなんらかの不正をしていたのである。21世紀の私たちの人生をもっともっと健康に豊かにしてくれると大きく期待がかけられているバイオ分野、その屈指の大国での実状は、こんなことになっているのだ。きわめて由々しき事態だと言わざるをえない。
(5ページ)
この本で紹介する事件は、そうした一連の科学の不正事件の中でも、最大規模のものと言ってよいだろう。アメリカが誇る名門・ベル研究所を舞台に起きた科学論文捏造事件は、論文のきわめて先進的な内容、掲載された論文のぼう大な数、追試に乗り出した世界の研究機関の数多さなど、どれをとっても圧倒的なスケールである。不正を犯した若きドイツ人物理学者であるヤン・ヘンドリック・シェーンはノーベル賞の有力候補とまで言われた、まさに科学界のスーパースターだった。市場空前規模の、論文捏造事件である。
(中略)
本書では、番組では紹介することのできなかった莫大な量に上る取材内容も詳細にひもときながら、シェーンがなぜ捏造を犯したのか、不正はなぜ見抜かれなかったのか、具体的な証言やスクープ情報をもとに迫ってみたい。そして事件の真相やそこに潜む問題性をより深く考察してみたいと思う。
(10ページ。太字はyyasudaによる)
ある研究者の論文の結果を、複数の審査員が実験で再現可能か否かを吟味して、論文掲載を決める自然科学で、これだけの不正があることに驚きました。
そうなると現実のデータを使って実証研究している経済学の結果は、どのようにしてその真偽が担保されているのでしょうか?
たとえば統計書として公刊されていない、自分でコストをかけて採取した統計データを使って、そのデータも論文と共に学術誌に提出したとしても、そのデータが本当に正しいことを、誰が証明するのでしょうか?
いくらデータからの計量経済学的な推定手続きが正しいとしても、元のデータを改変して捏造すれば、推定結果も捏造できますよね?
経済学はそういう不正行為に(もしあるとしたら)どのように対処すべきなんでしょうか?これまでの歴史で捏造された経済研究も沢山あるのかなと考えると怖くなりました。
私は大学時代は理系学部にいました。経済学の授業を経済学部に受けに行ったことはあります。私のこのコメント、もし間違えていたら、すみません。