さまざまな分野で活躍する方々に、「言葉がもつ力」「言葉の魅力」について語っていただきます。
第3回[インタビュー]安住紳一郎氏
1973年北海道生まれ。明治大学文学部を卒業後、アナウンサーとしてTBSに入社。以来、年末恒例のオリコン「好きなアナ」ランキングでは第一回より常に首位を走り続け、5連覇となった2009年に殿堂入りした。鉄道、合唱などが大好物だが、なによりも好きなのはテレビ。自宅には12個のテレビを置き、全局を一覧で視聴する変人ぶり。目下の悩みは、「お嫁さんが見つからない」こと。
『ぴったんこカン・カン』(金19:56-20:54)『情報7daysニュースキャスター』(土22:00-23:24)にレギュラー出演。
『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ・954kHz/日10:00-11:55)も聴いてね☆
今回は、ことばオタクとして強い自負のあるTBS安住紳一郎アナウンサーがゲスト。日本語とは。テレビとは。辞書とは。入社16年、ひたむきにアナウンサーとしてトップを走り続けてきた男の、ことば論を聞いた。
世界に言語は3,000以上あると言われていますけれども、日本語がいっちばん難しいと言われてます。英語を話している人同士で意味が通じないと言うことはほとんど、まず無い。でも日本語くらい、表現が多様だと、普通の社会人でもちょっと相手が使ってることばが分からない、でもなんとなく聞き返さずに流してしまう、なんてことがある。それほど難しい言語を使いこなしてる、使いこなせてるかどうかは別として、使いこなせている気がする瞬間の高揚感は、たまらんよ、と思います。だから日本語は時おりブームになるほど面白いんだな。
子供の頃から本よりもテレビを見ていました。「本を読んで日本語を覚える」って言うとなんかすごくかっこよく聞こえて、「テレビを見て日本語を覚えました」って言うと、ちょっと眉をひそめられる。格下の感がバリバリ出ます。だけど、小さなころから大相撲中継とかを見ながら日本語を覚えたと思います。刑務所でボクシングを覚えた『あしたのジョー』の気分です。大相撲中継とか野球中継とか聞くと、日本語のシャワー。
「西方から魁皇があがりました。東方からは横綱・白鵬であります。両者、仕切り線に手をついて・・・今ッ、立ち会いました! おっと。魁皇、押す!! 押す、右ののどわ!! 左のかいなを返して、まわしに手をのばす白鵬!! まわりこんで両者、赤房下がっちりと組み合っています。ハッケヨーイ。ひびく行司・庄之助の声。国技館、期せずして大歓声が上がっております!!(※編集部注:実際の安住アナ、エア実況中継の模様を一語一句漏らさず実録いたしました)」・・・みたいな流れるような日本語。面白いですよ。野球だと、「横浜スタジアム。薄暮の空から漆黒の闇に変わりました。今日のナイターゲームは横浜ベイスターズ・・・」といった具合です。聞いていると「はぁ、薄暮の空、漆黒の闇か・・・!」とね。言葉オタクですから、そういうのはたまりません。「薄暮」も辞書に載ってるんじゃないかな。あ、あったあった。「薄暮・・・夕暮れ。黄昏」だって。小学生向けでも十分だよね。
そのまま、『例解学習国語辞典』を読む安住アナ。。。
▲辞書で遊ぶ
国語辞典の逆引きゲームをたまにする。お気に入りのことば「嫉妬、羨望、猜疑心」。
▲各辞典について
中学校一年生で国語辞典。帯広、藤丸百貨店の書店で父が買ってくれた。
高校の時買った古語辞典。英和辞典は姉のおすすめに従いました。
この「依存する」という項目は気になりますねぇ。「いそんとも言う」という但し書きがありますが、放送局は「いぞん」ではなく、「いそん」を正しいとしている局が多い。だから「うちの局じゃ、“いそん”としか言えないな」という風にいやらしい気持ちで見ちゃう。正しい方を使うのか、大多数が使っている方を使うのかというのはいつの時代も日本人の共通の悩みです。
テレビは新語との戦いです。グラフティなのか、グラフィティなのか。アタッシュケースなのかアタッシェケースなのか。ちなみに、正しい方はアタッ「シェ」ケース。放送でそういうと「この人どうしちゃったの!?」ということになる。言うときは言わないといけないけれど。だからそう言うときは。。。ここだけの話、できるだけ避けて通ったりしています。
だって、聞いている人だって「いそん」や「アタッシェケース」って言われるとひっかかっちゃうよね。
それから、助数詞をともなう数字の読み。私たちが必要としてるのは「ギガ」とか新しい単位。それに対しての読みはまだは決まってない。だから、今生きてる、平成を生きてる日本人が決めてかなきゃいけない。1ギガ、2ギガ、3ギガ、4ギガ、5ギガ、6ギガ、ナナギガ? シチギガ、ん? どっち?? みたいな。
どっちを取るんだというのは常に気にしています。実は、間違いとされている読み方が50年くらいたつと正しい方にとってかわるということがほとんどです。そのダイナミズムを “知って変える” のと “知らずに流れに乗る” のと違う、と思います。両方知っとくのがマニアのたしなみです。
発音に迷ったときに頼りになるのは『日本語発音アクセント辞典』(NHK放送文化研究所・編)です。アナウンサーは必ず持っています。私は社会人になった時に買いました。自分たちの世代は紙。表紙が改訂によってデザインが変わってるから、見ると入社年次が分かるんですよ。新語は年に一度、用語懇談会みたいのがあってアクセントの統一見解が発表されます。北海道帯広出身なので、ありがたいことに、八割五分、合っています。しかし、「○○から出る」という発音だけはいまだに間違う。「↓で↑ちゃってー」になってしまう癖がある。意識してるんだけど、これはなかなか直せません。アウトです。三つ子の魂、四十近くまで。
若い子たちは音が出る電子版を使っています。最近は、紙のアクセント辞典使わない。ただね、この持ったときの重みがね。お守りと化すんだよね。ことばはね、変わっていくから面白い。日々研究ですよ。これ。日々研究です。
小学館刊/税込み1,000円
TBSの看板アナウンサーである安住紳一郎アナの初エッセイ本。TBS社員として働くサラリーマンの悲哀や、華やかなテレビ業界の裏側を、ときに真面目に、ときに辛口に綴った痛快エッセイ。
ちょっと疲れが溜まったとき、仕事がなんとなくイヤになってしまったとき、安住アナのひとことで、ちょっとだけ気持ちが軽くなるはずです。
撮影・文/国語辞典編集部