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野田首相と自民党の谷垣総裁がきのう、2度目の党首討論に臨んだ。ふたりのやりとりから、税と社会保障の一体改革で、両党が合意できる道筋がはっきりしてきたように見えた。[記事全文]
原発事故に直撃された福島県などで、今年のコメの作付けをどうするか。4月から、一般の食品に含まれる放射性セシウムの基準が1キロあたり500ベクレルから100ベクレルに強化[記事全文]
野田首相と自民党の谷垣総裁がきのう、2度目の党首討論に臨んだ。
ふたりのやりとりから、税と社会保障の一体改革で、両党が合意できる道筋がはっきりしてきたように見えた。
協議を拒む谷垣氏が「一番の大きな問題」と指摘したのは、何のために消費税率を上げるのかがわからないという点だ。
民主党が来年の国会に出すという最低保障年金の新制度案をどうするのか。被用者年金の一元化などの法案も、この国会に提出できるのか。現状は一体改革の名に値しない、と攻めた。
さらに谷垣氏は畳みかけた。
民主党内で最大のグループを率いる小沢一郎元代表は、増税に反対している。説得できるのか、と問うた。
確かに、一元化などいまの制度改革をめぐる政権内の議論は迷走中だ。そこに小沢氏の示威行動のような対応が重なるのだから、谷垣氏の言い分はもっともだ。
これに対し野田氏は、大綱に書いた通りに法案を提出していくと答え、党内の異論についても「たとえ51対49の党内世論でも、手続きを踏んで決めたらみんなで頑張っていくことを示していきたい」と言い切った。
一方で野田氏は、自民党が出した12年度予算案の対案を取り上げ、谷垣氏から基礎年金の国庫負担割合の引き上げには赤字国債をあてる、その償還財源は消費税でまかなう、との答えを引き出した。
もとより自民党は、消費税率10%を掲げている。
この日の応酬では、民主、自民両党の主張の重なりの多さが改めて浮かび上がった。
それはつまり、谷垣氏が挙げた問題点をクリアできれば、改革そのものが実現に向かって動き出すということだ。
そのために野田首相がすべきことは、はっきりしている。
まずは、実現が極めて難しい最低保障年金の新制度はきっぱりと棚上げする。そのうえで、消費増税と社会保障関連の法案を間を置かずに出すことだ。
討論からは、両党首の政策の距離よりも、それぞれの党内での見解の開きの方が大きい実態も見えた。法案提出までには、小沢氏ら民主党内の増税反対論者との激突は避けられないだろう。だが、首相がまずそれを突破するしか展望は開けない。
ふたりは「違憲状態」だとされた衆院の一票の格差是正を、選挙制度改革や定数削減より先行させることでも一致した。
速やかに成果を出してもらわねばならない。
原発事故に直撃された福島県などで、今年のコメの作付けをどうするか。
4月から、一般の食品に含まれる放射性セシウムの基準が1キロあたり500ベクレルから100ベクレルに強化されるのを踏まえ、農林水産省が方針を決めた。
警戒区域と計画的避難区域に加え、11年産米の検査で500ベクレルを超えるコメが出た地区は、原則として合併前の旧市町村単位で作付けを禁止する。
100ベクレルを超え、500ベクレル以下だった地区では、田の除染や栽培状況の管理、できたコメの全袋調査を条件に認める。
焦点は100〜500ベクレルの地区の扱いだった。農水省が昨年末、「作付け禁止を検討する」との考えを示したところ、地元から反発の声が相次いだ。「作付けしないと田が荒れる」「働く意欲がなえ、耕作放棄地が増える」といった理由からだ。
生産者の思いと食の安全をどう両立させていくか。
ここは、耕作を望む農家にはできるだけ耕作してもらう仕組みが大切だろう。福島県は全国有数のコメどころで、米作が地域の土台だ。コメ作りを再開できるかどうかは、コミュニティーの存続にもかかわる。
ただ、そのためにはできたコメをきちんと検査し、基準を超える分は市場に出さない態勢を整え直すことが前提になる。
11年産米では国が決めた手順に沿って検査をし、500ベクレルを超える例がなかったため、福島県は昨年10月に「安全宣言」をした。
ところが、その後、基準を上回るコメが福島市や伊達市などで相次いで見つかり、消費者の不信を招いてしまった。
この二の舞いは避けなければならない。100〜500ベクレルだった地区などで農水省は全袋検査を求めているが、検査機器が足りるのか、不安が残る。絵に描いた餅に終わらないよう、国は支援する必要がある。
作付けが禁止される地区では再開に向けた取り組みが欠かせない。田の除染や維持作業に加え、様々な方法で試験栽培をする方向だ。
稲わらやコメが汚染される経路や程度を解明するためにも、しっかり取り組んでほしい。
私たち消費者も改めて考えたい。「福島産のコメ」と聞いただけで、何となく遠ざけていないだろうか。
安全・安心への感覚は、人によって違う。特に妊婦や子どもには配慮が欠かせない。そのうえで、福島産のコメを買う消費者が増えれば、地元への何よりの支援となるはずだ。