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米朝 ウラン濃縮一時凍結など合意

3月1日 4時32分

米朝 ウラン濃縮一時凍結など合意
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アメリカと北朝鮮は、先週行われた直接協議の結果、北朝鮮が核実験やウラン濃縮活動を一時凍結し、IAEA=国際原子力機関の監視を受け入れる一方、アメリカが食糧支援をすることで合意したと発表し、今後、6か国協議の再開について当事国の間で意見調整が進められることになりそうです。

これは、アメリカ国務省と北朝鮮外務省が日本時間の29日夜11時に同時に発表したものです。
それによりますと、両国は、先月23日から2日間、北京で行われた核問題を巡る直接協議の結果、北朝鮮は、核実験やニョンビョンでのウラン濃縮活動、それに長距離弾道ミサイルの発射を一時凍結するとともに、ウラン濃縮活動の凍結をIAEAが監視することを認めると決めました。
そうした措置の見返りとして、アメリカは24万トン分の栄養補助食品を提供し、さらに追加的な支援について近く話し合うことで合意しました。
また、両国は関係改善に向けて努力することも表明しています。
ただ、ウラン濃縮などについては、北朝鮮側の発表文だけに「凍結は、アメリカとの実りある会談が行われる間」と期間を限定するような表現があり、アメリカ側の発表と微妙に違っています。
今回、北朝鮮が歩み寄った背景には、食糧が不足するなか、4月に迎えるキム・イルソン主席の生誕100年の節目に合わせて大規模な食糧配給を行わなければならず、核問題の進展の見返りとして、アメリカからいち早く食糧支援を得る必要があったとみられます。
一方、アメリカとしては、焦点となっていた北朝鮮のウラン濃縮を食い止め、6か国協議が3年以上停滞している現状を打開するねらいがあるとみられ、今後、6か国協議の再開について当事国の間で意見調整が進められることになりそうです。

政府“懸案解決への重要な一歩”

日本政府は、今回の合意について、北朝鮮を巡る懸案の解決に向けた重要な一歩だと歓迎しており、今後、北朝鮮が、非核化に向けた具体的な行動を取るかどうかを見守るとともに、日米韓3か国による外相会談開催の可能性も探りながら連携を強化し、6か国協議の早期再開につなげていきたい考えです。
今回の合意について、玄葉外務大臣は、29日夜、「北朝鮮を巡る諸懸案の解決に向けた重要な一歩であり、歓迎する。今後、合意内容の具体的な実施に向けて行われる調整が、円滑に進展することを期待している」というコメントを出しました。
日本政府としては、北朝鮮が合意内容を順守し、ウラン濃縮活動の中断など、非核化に向けた具体的な行動を取るかどうか、今後の米朝協議を通じて見守るとともに、日米韓3か国による外相会談開催の可能性も探りながら連携を一層強化し、6か国協議の早期再開につなげていきたい考えです。
また、新たにキム・ジョンウン体制となった北朝鮮が、今回、歩み寄りをみせた背景と意図について分析を急ぐことにしています。
さらに、今後の展開によっては、日本人拉致問題の進展につながる可能性もあるとして、日朝政府間協議の実現もにらみながら、水面下で、北朝鮮側との接触を模索することにしています。

米長官“今後も行動注視”

アメリカのクリントン国務長官は北朝鮮がウラン濃縮活動の一時凍結などで合意したことについて「正しい方向に向かう最初の一歩だ」と評価する一方「北朝鮮の新しい指導部の今後の行動を注視したい」として、北朝鮮が今回の合意の内容を着実に実行するよう求めました。
クリントン国務長官は29日、連邦議会下院の公聴会で今回の米朝間の合意について、「キム・ジョンイル総書記の死去をきっかけに、新しい指導部が国際的な責任を果たし、平和への道を歩むよう希望するとこれまでも言ってきた。今回の合意はささやかながら正しい方向に向かう最初の一歩だ」と述べ、歓迎しました。
その一方で「北朝鮮の新しい指導部の今後の行動を注視し評価していく」として、北朝鮮が今回の合意の内容を着実に実行するよう求めました。
アメリカは北朝鮮によるウラン濃縮活動の進展に強い懸念を示し、食糧支援を切り札に北朝鮮に譲歩を迫ってきました。
それだけに新しい指導部への移行をきっかけに、3年以上開かれていない6か国協議を再開させこれ以上の核開発の進展を食い止めるための協議を本格化させたいねらいがあるものとみられます。

韓国政府も歓迎のコメント

アメリカと北朝鮮が先週行われた核問題を巡る直接協議の結果、北朝鮮がウラン濃縮活動を一時凍結することなどで合意したことについて、韓国の外交通商省は29日夜、コメントを出し、「6か国協議再開の条件として求めてきた措置を北朝鮮が履行するという合意が忠実に履行されることを期待している」として、合意を歓迎しました。
そのうえで、「6か国協議の関係国や国際社会と協力し、検証可能かつ後戻りできない方法で核問題を解決するために引き続き努力していく」としています。

IAEAも“重要な一歩”

アメリカと北朝鮮がウラン濃縮活動の停止についてIAEA=国際原子力機関の監視を受け入れることで合意したことについて、IAEAの天野事務局長は29日声明を発表し、「合意によって重要な一歩が踏み出された」と評価しました。
そのうえで天野事務局長は「IAEAは監視活動を続けるためニョンビョンに戻る準備は整っている」と述べ、要請があれば速やかにニョンビョンへ査察官を派遣する意向を示しました。
IAEAは1994年から査察官を常駐させニョンビョンにある核施設を監視してきましたが、北朝鮮はその後2度にわたって査察官を国外退去させ、2009年以降は監視活動ができない状況が続いています。

ウラン濃縮活動とミサイル開発

北朝鮮は、もともと1980年代半ばから、ウランではなくプルトニウムを使用済みの核燃料から抽出して核兵器を開発する動きを本格化させました。
これまで2度行った核実験も、プルトニウムを使ったものです。
このためアメリカはじめ各国は、プルトニウムによる核兵器開発の阻止を目指して交渉を重ね、北朝鮮はかつてのアメリカとの「枠組み合意」や、その後の6か国協議での合意に基づいて、核兵器開発を凍結させたり核施設の一部を破壊したりしたことがあります。
しかし、そうした譲歩の裏で、2002年にはひそかにウラン濃縮による核兵器開発を進めているという疑いが浮上しました。
北朝鮮は一度は否定したものの、その後、「発電用だ」としてウラン濃縮を認めるようになり、おととしにはアメリカの専門家を招き、濃縮施設を見せました。
数多くの遠心分離器を稼働させてウランの濃度を核兵器に使えるほどのレベルまで高めるには高度な技術力が必要です。
その反面、原子炉のような大型の建物をつくる必要がないため、外部から核開発の動きが察知されにくく、また、いったん濃度が十分に高まれば、起爆させる仕組みは比較的単純なため、核実験をせずに兵器として使うことも可能だとされています。
太平洋戦争末期にアメリカ軍が広島に投下したのは、このウラン濃縮による核爆弾です。
また、北朝鮮は、旧ソビエトの技術をもとに1970年代半ばから弾道ミサイルの開発を進めてきたとみられます。
日本をはじめ周辺国にとって北朝鮮のミサイルが大きな脅威になったことが示されたのは、1998年の長距離弾道ミサイル「テポドン1号」の発射でした。
「テポドン1号」の射程は1500キロ以上とされ、実際、このときは弾頭部分が日本の上空を越えて三陸沖の太平洋に落下したのです。
2009年4月、北朝鮮は人工衛星の打ち上げだと主張してさらに射程を延ばしたミサイルを発射し、日本から東に2000キロ離れた太平洋上に落下しました。
今回、北朝鮮は、長距離弾道ミサイルの発射を一時凍結することでアメリカと合意したと発表しました。
しかし、北朝鮮は、過去にもアメリカやEU=ヨーロッパ連合にミサイルの発射を凍結すると約束したにもかかわらず、それを破り、発射してきたいきさつがあります。
背景には、ミサイルの性能を高めるという軍事的なねらいに加えて、輸出を推し進めるための外国へのアピール、さらにはアメリカと交渉するうえで取り引き材料として使いたいという思惑があるとみられます。