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帰国子女は「逸材」か、あるいは「ただの語学屋」か

小学校高学年の時、クラスに“キコクシジョ”の女の子が転入してきた。お父さんが大きな商社に勤めていて、2歳の時に日本を離れて以来4ヵ国を移り住み、今回生まれて始めて日本の学校に通うのだと言った。1985年頃の話だ。

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その子の入学に一番湧いたのは生徒の親たちだった。「そんなに色々な国で育ったの」「素敵ねぇ」「英語ペラペラなんですって」。

さらに先生たちも湧いていた。週に1時間だけあった英語授業の若い講師は、特に使命を感じたようだ。その子を周囲に慣れさせるべく英語で自己紹介をさせたり、“Apple”とか“Girl”とか、日本人には難しい単語を発音させたりして、そのたびに生徒は「すごーい」と歓声を上げるのだった。

裾がカールした栗色の髪は少女漫画のようで、新しい物好きの女子はみんなで「ハーフみたーい」と取り囲んだ。まるで歌番組に出演した外タレのような扱いであったが、純国産の生徒たちにとって、“キコクシジョ”はピカピカの高級舶来品のような存在だったのである。-----

だがみんなが湧けば湧くほど、中には面白くない感情も生まれる。小学高学年ゆえ、クラスのキツい女子グループが、「えっ何、そんなのも知らないの?」「常識ないんだねー」と、容赦のない言葉をぶつけて“キコクシジョ”を泣かせる日が来るのも、それほど遠くはなかった。そして正直に認めると、瓶底メガネの学級委員(私)も、大人たちが“キコクシジョ”をチヤホヤするたびに、「私だって勉強頑張ってるのに」と心の中でチラッと僻(ひが)んだのである。

両親共に英語が苦手な純国産家庭に育った私は、英語なんか大ッ嫌いで、中高一貫女子校に進んでからも英語で赤点をかするという(そしてその東大合格者数日本一の女子校ではそんなアホウは大問題であるという)憂き目を見た。

文法を総ざらいしたが全く好転しない。いいんだ自分は数学と国語で生きていこう、将来は農水官僚になって砂漠の緑化に技術で貢献するんだという意味不明な志を持っていたが、ある時ブリティッシュロックの雷に打たれて突然英語(とかその他諸々)に目覚め、親の転勤で大阪の高校に編入した頃にはすっかり巻き舌英語でバンドのボーカルを買って出るほどになっていた。

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青春の迷走の末、選んだ大学はどうしたことか創設間もない「帰国とオタクの天国」と呼ばれる変わった学校だった。「英語」と「コンピュータ」の2本の太い軸だけを持ち、学内の空気は政治経済でも建築でもゲノム解析でもノールール。

世界中から風変わりな帰国子女や留学生たちが集まっていて、教員たちもなんだか海外研究帰りばかり、ワークステーションが並ぶ近代的な建物の間を外国語まじりの者どもが闊歩する、とても神奈川の田舎とは思えないほど海外かぶれした学校だったのだ。

帰国子女たちの中にはアイビーリーグ校を蹴って来た才女もいれば、ドイツで政治に目覚めた男前な女子、中国の達人、フランス帰りの大女優の息子、台湾からのVIP子弟、マレーシア帰りの格闘技選手、ビバリーヒルズで人生を謳歌しすぎて日本へ強制送還を食らったドラ息子や、米国の系列校からエスカレーターでやって来る人々など、その経歴も学力も語学力もバラエティーに富んでいた。

キラキラした話ばかりでもない。10代で父親の海外駐在について米国に渡り、大人しい性格から現地校でコミュニケーションがとれずに、英語コンプレックスを深めて帰って来た子もいた。

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帰国子女みんなが「ビバリーヒルズ青春白書」みたいなカッコをしているわけでなく、きれいなブランド物を身につけて外車を乗り回す日本育ちの一部の学生とは対照的に、大抵よれよれのTシャツとジーパンだった。研究が忙しくて学校に寄生し、布団は段ボールでシャワーは毎朝学校の体育館で浴びるというツワモノもたくさんいた。

経済観念や環境意識がしっかりしていて、一度買った水のペットボトルに麦茶を入れて持ち歩く子もいた(やはりというか、ドイツから来た子だった)。

共通していたのは、みんな驚くほど謙虚に自分自身を見つめ、自分は何が強みで何が足りないかを認識していたところだ。そしてもれなく勉強家だった。その学校は単位取得と卒業が厳しかったからだけではない。「だって、日本で育った子はみんなすごく受験勉強して、本当に頭がいいから」。

大学は勉強するところだと誰もが口々に言った。テストがあるから仕方なく勉強するのではない。日々当たり前に学ぶという習慣が身についているのだった。

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もちろん、日本の受験勉強をゴリゴリ積み重ねてきた学生たちにも、プライドがあった。帰国子女が何ほどのものぞ、日本の受験勉強を舐めんなよ、と難しい日本語に専門用語を散りばめ、そこそこ喋れる英語を駆使して、研究会でもフォーラムでも互角に討論した。

帰国子女だろうが受験エリートであろうがオタクであろうが起業家の卵であろうが、才能のある者は皆それをさらに磨き尖らせ、相手の技を盗み、自分の手数と魅力を増強する。国産受験エリートたちは思った。「帰国子女は(思ったほど)怖くない」。帰国子女たちもこう思ったはずだ。「日本のガリ勉も(思ったほど)怖くない」。

そんな大学の日々からも20年経ち、日本政府や企業が海外へ派遣する人員の累積数も相当なものになっただろう。少なくとも都市部では、お父さんお母さんに連れられて海外住まいをしたことのある子どもたちは今や無数にいて、年齢や滞在地、それぞれの経験、滞在年数も語学力も本当にまちまちだ。

「日本に住んでいる人」を「日本人」の一言で括ることはできないように、海外住まいをしたことのある子どもを「帰国子女」という言葉で一括りに説明した気分になるのは、あまりにも乱暴なこととなってしまった。

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いま、私は帰国子女という言葉にとてもフラットな気持ちを持っている。自分の結婚相手が筋金入りの帰国子女だった上に、現在ロンドン在住の私の子ども二人も日本に帰ったら帰国子女になる。

そして我が家では、私だけがNHKラジオ「基礎英語」や「出る単」や「桐原の英頻」の古い記憶を持つ“非”帰国子女だ。世の帰国子女はともかく、我が家の帰国子女(予備軍)どもが、私が小さい頃チラッとジェラシーを感じたような「特権階級」の意味を纏うことはまったくない。妻の目、親の目で彼らを見た時、課題がよく見えるからである。

彼らは、私の知らないことをたくさん知っていて、私のできないこともたくさんできる。だが、日本で育った私が彼らに知っていて欲しい/できて欲しいと思うことの中で、彼らが知らない/できないことも確実にある。

例えば6歳の息子は先日、日本人の先生との面接で、椅子に深々と背中を預け、足を組んで座った。元々の格好をつけたがる性格の上に、普段そういう場面では「リラックスして座り、余裕を見せる」ことがいいと学校で教えられているからだ。

私が教えなければ、彼にはまっすぐ姿勢を伸ばして両手を膝に置いて座るという発想がないことに気づいて、異文化で育つということはこういうことの積み重ねなのだと反省した。

また、彼は英国と古代エジプトの歴史は学校で習ってとてもよく知っているが、日本の歴史は知らない。それを「海外育ちは常識がない」という言葉で片付けるのはたやすいことだが、同時に彼は英国ではとても快適に生きている。

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海外で育った、あるいは学んだ人材を優遇採用し、そうでない人材と比べて給与面で2倍の差をつけるという企業があるという。社内の他の人材のモチベーションやプライドを傷つける恐れも多分にあるわけで、無茶な採用だと私の目には映った。

海外経験のある人材が、イコール「万難排して獲得すべき逸材」かどうか、それには疑問だし、それは「海外」というものへの盲目的な畏怖に満ちたナイーブな反応なのではないかとも思う。一口に海外経験といっても、何を身につけて帰って来るかは結局は本人次第だ。
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一方で、かつて日本の企業に海外経験のある人材が入社したときの「語学ができるだけ」という烙印や、「英語(語学)屋さん」という嫉(そね)みを含んだ呼称も、人材を活用できない裏返し、ひいてはそれが長じた拒否の試みだったのだろうと察する。

海外大・院卒採用や、海外ビジネス/ロースクールへの社費留学が一般的になって、もうそんな言葉を口にするロートル(笑)はいないと信じているけれど。


「帰国子女」という言葉には、眩しく輝く面もあれば、排除的な面もある。功罪のある言葉だ。「そんな言葉でオレのことをわかった気になられちゃ困る」、と昔ある帰国子女がぽつりと言った。帰国子女イコール「逸材」でもなければ「ただの語学屋」でもない。日本の「内」と「外」をたまたま経験して育つことができた、語学以上のものを持っている(かもしれない)それぞれに異なる人材であること、これは帰国子女なるものが特別でもなんでもなくなった時にこそ見えることだ。


河崎環河崎環
コラムニスト。子育て系人気サイト運営・執筆後、教育・家族問題、父親の育児参加、世界の子育て文化から商品デザイン・書籍評論まで多彩な執筆を続けており、エッセイや子育て相談にも定評がある。現在は夫、15歳娘、6歳息子と共に欧州2カ国目、英国ロンドン在住。


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