心優しい人々の国から来た好漢は、何の落ち度もないのに命を奪われた。なぜこんな惨劇が起こったのか。なぜ彼は、理不尽な暴力を受けながら、最後まで「反撃しない勇気」を持ち続けられたのか。
同行者にも「手を出すな」と
やれ肩が触れた、目が合ったと言いがかりをつける。言われた方もキレて怒鳴り返す。あっという間に殴り合いの大ゲンカ---。今の日本でしばしば起こる、悲しく殺伐とした出来事だ。
ところが、深夜の路上で酔った若者たちに因縁をつけられ、殴る蹴るの暴行を受けても反撃せず、無抵抗のまま尊い命を落とした人がいる。在日ネパール人のビシュヌ・プラサド・ダマラさん(享年42)だ。
惨劇が起きたのは、1月16日の午前4時過ぎ。大阪市天王寺区でネパール料理店を経営するダマラさんは、前夜からネパール人の仲間たちと飲食を楽しんだ後、20代の従業員2人を送ろうと同市阿倍野区松崎町を歩いていた。
そこへからんできたのが男2人、女2人の若者4人組。皆、21~22歳と成人して間もない年齢だ。彼らは突然、「お前らのせいで転んだ」などとダマラさんたちに因縁をつけ、殴りかかってきた。
ダマラさんはとっさに「手を出すな!」とネパール語で従業員たちに言い、あとはまったく抵抗しなかった。倒れたダマラさんに、若者グループのうち3人が襲いかかり、特に顔や頭を執拗に蹴り続けた。ついには近くにあった自転車を持ち上げて、何度も身体に叩きつけたという。
結局、ダマラさんは外傷性急性脳腫脹で亡くなった。若者3人は殺人罪で起訴されている。
ネパール商工会議所日本代表のディネス・シュレスタさん(51歳)が言う。
「僕はその日の朝8時半頃、ネパール人の後輩から電話で事件を知らされました。詳細がわからないまま、朝日新聞の夕刊などに『ケンカ』と書かれたのを読み、最初は『ケンカなら、ダマラさんや一緒にいたネパール人にも落ち度があったのかもしれない』と考えた。ところがその後、たまたま暴行の様子を写していた監視カメラの記録で、彼は一切反撃していないことがわかったのです。
ダマラさんも本当は、やり返したい気持ちがどこかにあったのかもしれません。しかし、自分がやり返してケンカになると、ネパール人全体が悪い集団のように日本で思われてしまう。それを避けたくて、自分を抑えたのでしょう」
突然の襲撃に対し、瞬時に無抵抗を決意するだけでなく、同行者たちにも「手を出すな」と命じるとは、生半可な覚悟でできることではない。しかし、同じ心構えを持っているネパール人は少なくないという。シュレスタさんが続ける。
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