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原発防災拠点“2か所に”見直し案

2月28日 18時41分

原発防災拠点“2か所に”見直し案
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東京電力福島第一原子力発電所の事故で、原発の近くで住民避難などの対策に当たる防災拠点「オフサイトセンター」が機能しなかったことから、国の原子力安全委員会の作業部会は、センターの機能を県庁など原発から十分に離れた場所に設ける「中枢」を担う拠点と、原発から遠くない場所に設ける避難誘導などの活動拠点の2か所に分けるとする見直し案を示しました。

福島第一原発の事故では、住民の避難などの対策に当たる原発からおよそ5キロのオフサイトセンターを巡って、地震や津波の影響で自治体の職員などが集まれなかったうえ、放射線量の上昇で施設も使えず、課題を残しました。
このため、国の防災指針の見直しを進めている原子力安全委員会の作業部会は、オフサイトセンターの見直し案を示しました。
それによりますと、オフサイトセンターの機能について、県庁や道庁といった原発から十分に離れた放射性物質の影響を受けにくい場所に、避難の指示や住民への広報などの対策を行う「中枢」を担う拠点を、原発から遠くない場所に住民の避難誘導や放射線量の測定などの活動を行うための2つ目の拠点を、それぞれ設ける必要があるとしています。
また事故が急速に悪化するなどの緊急時には、政府などの指示がなくても現地で意思決定できるよう、その手続きを明確にしておく必要があると説明しています。
さらに意思決定が的確で迅速にできるために、自治体が専門知識を持ったスタッフをふだんから確保することや、複合災害も想定して専用の通信回線を多重化するといった対策も求めています。
作業部会では「意思決定の範囲を具体的に決めるべきだ」「自治体がすべきことを明確化してほしい」といった意見が専門家から出ていました。
原子力安全委員会の作業部会は、来月上旬に最終的な提言をまとめ、国の原子力の防災指針に反映させることにしています。

オフサイトセンター“役割明確化を”

全国の原発周辺にある16か所のオフサイトセンターは、北海道や静岡県などの5か所が原発から5キロ以内に設置されているなど、いずれも15キロ以内に設けられています。
また、放射性物質の侵入を防ぐ二重扉やフィルターを設置している施設は一部に限られていて、今、各地にあるオフサイトセンターの実効性は、疑問視されている状態です。
こうしたなかで、道や県が今年度実施している、原子力事故を想定した防災訓練では、対応が分かれていて、佐賀県と愛媛県がオフサイトセンターを使わず、北海道がセンターの移転を想定し、島根県と静岡県が機能の一部を利用して行いました。
自治体からは「東京電力福島第一原発の事故のあと、国がオフサイトセンターの在り方を見直しているためだ」として、センターの役割の明確化を求める声が出ています。
政府は先月下旬、原子力事故での体制案について、事故対応の意思決定は総理大臣官邸の原子力災害対策本部が行い、オフサイトセンターは地元自治体との連絡・調整や住民の対応に当たるとする案をまとめています。
政府案をまとめた内閣官房の原子力安全規制組織等改革準備室は、「総理大臣官邸が決定するのは、自治体では対処できない、被害が広い範囲に及ぶ大事故を想定していて、場合によって現地で決定することもあるだろう」と説明しています。
また、全国のオフサイトセンターについては、当面は、今ある施設が津波や地震に耐えられるかや、放射性物質を遮れるかなどを調べたうえで、使える施設は改良して使用したいとしています。
しかし、原発周辺にある施設はいずれも半径15キロ以内で、福島第一原発の事故では避難や屋内退避が30キロ以上に及んだことから、現状の施設でよいのかどうか、今後、議論を呼びそうです。

自治体“国が責任持ち対応を”

佐賀県の玄海原発では、原発から13キロ余りの佐賀県唐津市にオフサイトセンターがありますが、去年11月に佐賀県が行った原子力防災訓練では、国の方針が示されていないとして使用されませんでした。
佐賀県の山崎忠文総合防災統括監は「離れた場所のほうが専門家が集まりやすいという面もあり、現地の実動拠点と参謀的な機能を分けるという考え方は理解できる」と、一定の評価をしています。
そのうえで、「国には、オフサイトセンターを整備するための十分な財源措置を求めるとともに、具体的な設備や規模などの基本的な枠組みを示してもらいたい」と述べました。
また、作業部会にオブザーバーとして参加している、福井県敦賀市の河瀬一治市長は「専門的な知識を持ったスタッフが確保できれば、現地でも迅速な対応ができるだろうが、スタッフを抱える財源の問題や、各地に原子力施設が数多くあるなか、全国に配置できるような人材の育成も課題になる」と述べました。
そのうえで、「原子力は本来、国が一元的な責任を持って対応すべきで、専門的なスタッフの役割を、新たに発足する原子力規制庁の担当者が担うことを要望するなど、今後、われわれも意見を述べていきたい」と話しています。

専門家“政府と現地の役割分担を”

原子力の防災に詳しい東京女子大学の広瀬弘忠名誉教授は、政府と現地での意思決定については、それぞれメリットとデメリットがあり、あらかじめ役割分担を決めておくべきだと指摘しています。
広瀬名誉教授は、現地の意思決定について、「住民や現場の状況などを把握しているため、住民に密着した対応が迅速にできるというメリットがあるが、自然災害とは違って、放射性物質の危険性などの専門知識が求められる状況で、判断には限界がある」と話しています。
一方で、政府の意思決定については、「事故の全体像を把握しやすく、自衛隊や警察を広域で動かすこともできる」と、メリットを説明しています。
そのうえで、「意思決定のしやすさは、事故の規模や全体像の把握状況によって変わってくるので、住民の安全のために、政府と現地とがあらかじめ役割分担をしたうえ、両方が連携をしながら、対策を考えておくことが重要だ」と指摘しています。