韓国の大手しゃぶしゃぶチェーン、菜鮮堂・仏堂店(忠清南道天安市)で発生した店員と妊婦の乱闘騒動は、当事者2人を「敗者」に追い込んだ。この事件は、事実関係がはっきりしない一方的な主張を基に社会的世論を形成する、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の弊害を如実に物語る事例として記録されることだろう。
同事件の捜査に当たった天安西北警察署(忠清南道)は27日、当事者の妊婦Aさん(33)と女性店員(45)に対して事情聴取を行った結果「店員に腹を蹴られた」という妊婦の主張は事実と異なることが判明した、と発表した。
警察によると、Aさんは17日午後1時半ごろ、おいと(10)と一緒に菜鮮堂・仏堂店を訪れ、料理を注文した。ソースが足りなかったため、店員を「アジュンマ(おばちゃんの意)」と呼んだところ、店員が「呼び出しボタンを押せばいいのにどうして大声で呼ぶのか」と言ったことから口論になったという。Aさんが「店員が不機嫌そうにソースと追加で注文した肉をテーブルに置いた」と主張したのに対し、店員は「呼び出しボタンがあるのに、スプーンでテーブルをたたいて大声で『アジュンマ』と呼ぶので不快だった」と説明した。
約20分後、Aさんが店員に「あなたが(食事代を)払って」と言って店を出たため、店員は店のドアの前でAさんの背中を押し、転ばせた。するとAさんは「私は妊婦だ」と叫び、2人は互いに髪の毛をつかんで30秒ほどもみ合いになった。
警察は、対質尋問(事件当事者の供述が一致しない場合、両者を相対させて言い分を聞く形の尋問)と監視カメラの分析により、2人はもみ合いになったものの、店員はAさんの腹を蹴っていないことが確認されたと説明。逆にAさんが店員の腹を蹴ったことから、店長(37)が止めに入ったことが明らかになった。
Aさんは警察で「お腹の子に問題が起きるかもしれないと不安になり、正確に覚えていない状態でネットに書き込んだが、これほど大騒ぎになるとは思わなかった」と話したという。
今回の事件は、Aさんが17日にオンラインコミュニティーとツイッター(簡易投稿サイト)に「菜○○食堂で不親切な店員にののしられ、妊娠していることを伝えたにもかかわらず、お腹を強く蹴られた」と書き込んだことから、急速に広まった。さらには、歌手のシン・ヘチョルさんなど有名芸能人までもが加勢し「この店で不親切な接客を受けた」と明かしたことから、事態はさらに悪化した。だが、警察の捜査結果が発表されて以降は世論が逆転し、妊婦のAさんに対する激しい個人攻撃が始まった。
菜鮮堂のキム・インス社長は「売り上げが落ちることよりも、世間の冷ややかな目がつらかった。真偽が定かでない事実がSNSを通じて一気に広まり、一企業がこれほどまでに大きな影響を受けるとは思わなかった。全チェーン店を合わせ1日に5400人の客を迎える側としては、SNSの威力は本当に恐ろしい」と心境を語った。