「妊婦暴行騒動」に見る韓国ネットユーザーの心理

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて広まった、飲食店店員による妊婦暴行騒動、いわゆる「菜鮮堂事件」が、警察による捜査の結果、当初伝えられていた内容と違っていたことが明らかになり、ネット上では「国民に対する詐欺劇だ」との非難が相次いでいる。

 今回の事件は今月17日、大手しゃぶしゃぶチェーンの菜鮮堂・仏堂店(忠清南道天安市)で発生した妊婦の女性客と店員による言い争いが発端となった。女性客がオンラインコミュニティーやツイッター(簡易投稿サイト)などのSNSに「妊婦だと言ったにもかかわらず、店員に腹を蹴られた」と書き込んだため、ネット上では菜鮮堂への批判が相次ぎ、全国各地の菜鮮堂チェーン店で客足が遠のいた。だが警察の捜査の結果、女性客が店員に腹を蹴られたという事実はなかったことが明らかになった。

 きちんと事実を確認せず、盲目的に非難を浴びせるネットユーザーの攻撃は今に始まったことではないが、心理学者らは今回の事件について「韓国人の固定観念と被害者意識が根底にあり、自分が信じたいことだけを信じる傾向が生んだ奇異な現象だ」と分析している。

■消費者は弱者だという「固定観念」が問題の発端

 今回の事態を招いた最大の原因は、消費者が持つ思い込みだ。飲食店の店員は大半が不親切で、妊婦は弱い存在でうそをつかないという「固定観念」が、真偽の定かでない主張を人々に受け入れさせたというわけだ。

 高麗大学心理学科のソン・ヨンシン教授は「妊婦の書き込みを読んだ消費者たちは、自分と同じ『弱者』が企業という『強者』にまたしても嫌な目に遭わされたと思い込んだのだろう」と説明した。

■見たいものだけを見る「選択的知覚」

 事実関係が明らかになっていないにもかかわらず「店員による妊婦暴行」がネット上で事実のように扱われ、店に対する誹謗(ひぼう)中傷が相次いだ理由は「選択的知覚、選択的注意」という概念でも説明できる。選択的知覚とは、個々人が自分の見たいものだけを見ることを意味する。人間は新たな情報を自身の固定観念と葛藤することなく素早く処理するため、無意識に選択的知覚、選択的注意の状態にある。仮に事件のニュースに「まだ事実関係は明らかになっていない」という一言が添えられたとしても、これを知覚できないというわけだ。

金城敏(キム・ソンミン)記者
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