警告
この作品には
〔ガールズラブ要素〕
が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
約束
1話:里菜side
私は一応アイドルをやっている。とは言ってもまだまだ知名度は低いんだけどね……。
しかも、1チーム16人で3チーム……つまり全体では48人。
ほとんど毎日のように劇場のある秋葉原で公演をしている。
『会いに行けるアイドル』
それが私たちのコンセプト。
秋元先生が言っていた。
その名も『AKB48』。
私、中西里菜はチームA。
ダンスが好きでオーディションを受けた。
合格通知が来た瞬間、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
それと同時に、あの子の合否が気になってしまった。
あの子は、小さいながらも独特な存在感があって、私は視線を反らすことができなかった。
『高橋みなみ』
…そう、きっと今の気持ちはあの時からだったんだろう。
歌が上手で、すごく可愛くて、何をするのも一生懸命。本当は疲れてるはずなのに、いつもメンバーやお客さんに笑顔を振りまいていた。
最初はこれが恋なんて気付きもしなかった。
だけど、確実に惹かれていたのは確かだった。
今日は、シアターで公演がある。
最近私たちチームAは公演回数が少ないような気がした。
それもそうかもしれない。
女優業に励む人、テレビの司会業に励む人がいるAでは、メンバー全員が揃って公演できないのだから。
だけどやっぱり寂しい。
たかみなの笑顔が見れない、声が聞けない、自称滑らない話が聞けないなんて……。
〈私、重症だなぁ……。〉
なんて考えながら歩いていると、誰かが居るのに気がついた。
〈何か絡まれてるよー……って、あの身長は…たかみな?〉
近付いていくと、ファンに囲まれて苦笑いをしているたかみながいた。
「あ、りなてぃん!」
私に気付いたたかみなは、助けを求めるように私の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「えっとー…、バレちゃいましたっ」
たかみなはこんな時まで可愛い。
〈って、そんな事よりどうしよう……。……逃げちゃえ!〉
私はたかみなの手を握ると猛ダッシュでシアターに向かって走った。
「はぁ…っ…いきなり走らないでよっ」
たかみなは息を切らしながら、私を見上げてきた。その姿がとても愛しくて、たまらなくなった。
そして、気付いたら私はたかみなを抱き締めていた。
「り…なてぃん…?」
普段とは違う私の様子に驚いているみたい。
「たかみな、もう心配させないでよね?」
バレてはいけないと、私は必死に平然を装い苦笑いすると、たかみなを離し、着替えに向かった。
「私…なんなんだろう……。」
ロッカーの前に立ったままでいると、誰かに肩を叩かれた。
「あ、めーたん…。」
「里菜悩み事?
私で良ければ話、聞くよ?」
めーたんは何でもお見通しだなぁってつくづく思わされた。
〈めーたんなら大丈夫かな…?…話してみよう!〉
心の中で自分と相談して、大丈夫だと判断すると、私はめーたんに話し始めた。
「そっか……。つまり、里菜はみなみが好きなのね?」
「…す、好きって言っていいのかな?……でも、女同士だし…。」
私はよく分からなくなり、少し俯いた。その瞬間、私は暖かいものに包まれた。
めーたんに抱き締められていた。
何だかとても落ち着いて、気付いたら抱き付いて泣いていた。
「め…たん…、めぇたん…」
めーたんは私が泣き止むまでずっと頭を撫でていてくれた。
1話:みなみside
〈りなてぃん、何かあったのかな?……聞いてみよう。〉
私はりなてぃんの後を追うようにしてロッカールームに向かうと、そこにいたのは、りなてぃんと…
「めーたん…?」
二人は抱きしめあっていた。
〈二人ってこういう関係だったの…?……そうか、りなてぃんが元気が無かったのはこの事だったのか。〉
私は納得したつもりだった。だけど、何か心の中がもやもやしてた。
〈なんなんだろう?この気持ち……。いつもの事じゃん。…気にするなんてらしくない。〉
そう思おうとしても、さっきの二人の姿が脳裏に浮かんでしまう。
「嫌だ…。」
〈りなてぃんがいなくなっちゃうような気がする……〉
私は、急いでその場を去っていった。
見たくなかったのか、認めたくなかったのか、どっちかなんて私にも分からなかった。
ロビーに戻ると誰も居なくて、少し寂しいような、ほっとしたような気持ちになった。
「たかみなー、そろそろ始まるよ!」
奥から呼ばれた声にハッとし、急いで着替えに行った。
その時、りなてぃんとめーたんもロッカールームにいた。
私はわざと目線を合わせないで素早く着替えてステージに上がった。
公演中も歌とダンスに身が入らなかった。そのお陰で振りを少し間違えてしまった。
「たかみなが間違えるなんて珍しいね。」
そうメンバーにも言われたし、夏先生にも注意されてしまった。
〈本当についてない……。〉
楽屋でみんなが騒いでるのをよそに、私は1人でボーっと考え込んでいた。
2話:里菜side
今日のたかみなは何だかおかしい。
普段は振りを間違える事なんて無いのに……。
しかも、楽屋でも大人しい。
〈これ以上心配させないでよ……。〉
そう思うのと同時に、私の体はたかみなの居る方へと向かっていった。
「たかみな元気ないね。」
隣に座って
「なんかあった?」と探るように声を掛けてみた。
返事も無いし、こっちを向いてもくれない。私はたかみなのほっぺを指で軽くつつこうとした瞬間……
「触らないで!!」
たかみなは大声でそう言うと思いっきり私の手をはじいた。
私も他のメンバー達もみんな驚いてしまった。
「ごめん、少しほっといて」
申し訳なさそうな表情をしながらたかみなはどこかへ行ってしまった。
2話:みなみside
あんな大きな声初めて出したかもしれない。
ただ、これ以上あそこに居たくなかったし、二人を見ているのが辛かった。
「嫉妬…かな……?」
「誰に嫉妬?」
小さな声で呟くと、不意に後ろから声を掛けられた。
「…めーたん……。」
「何よ、そのもの凄く嫌そうな顔。」
めーたんは苦笑いしながら、私の隣に座った。
「さっき、見てたんでしょ?」
めーたんのこの言葉に、かなり動揺してしまった。
まさか気付かれてたなんて思いもしなかった。
「…気付いてたんだ?」
「一応はね。
……言っとくけど、何もないわよ?」
「…え?」
いきなりの事に、すごく間抜けな声を出してしまった。
〈何も…無い…?〉
驚いたと言うか、拍子抜けしたと言うか、何とも言えない気分になった。
「里菜の相談にのってただけ。」
「安心した?」といつものように笑いかけてくるめーたん。
「本当に…?
だったらりなてぃんに謝らないと……。」
立ち上がって歩き出そうとした時…
「みなみ、あなたは里菜の事をどう思ってるの?」
いつになく真剣な表情をしためーたんが、私を真っ直ぐに見つめて問いかけてきた。
「…好き…かもしれない。」
実際、恋愛なんてしたこと無いし、どんな感覚なのかも分からない。だけど、りなてぃんだけは失いたくない、そう思った。
「今のあなたには100点の答えよ。」
頭を撫でて
「がんばれ」と言ってくれためーたんに感謝しながら、私はまだりなてぃんが居るだろう楽屋へと向かった。
〈許してくれるかな…?〉
そんな不安がこみ上げてきた。「りなてぃん!」
姿を見た瞬間に私はりなてぃんに抱き付いた。
りなてぃんは驚きながらも、きちんと受け止めてくれた。
「どうしたの、たかみな?」
冷たく当たってしまったのにも関わらず、いつも通りに接してくれたりなてぃん。やっぱり、大人っぽいなぁ…と改めて思った。
「さっきはごめんね。
私、誤解してて……めーたんに…嫉妬…してたの。」
自分で言っといてもの凄く恥ずかしくなってきた。
「え…?…嫉…妬?」
驚いたように目を見開いているのがよくわかる。
「私、りなてぃんの事…好き…だよ。友達とか、メンバーとしてじゃなくて、一人の人として。」
あーぁ…。
きっと今、顔が真っ赤……。
「……嬉しい。」
りなてぃんが小さく呟いた。
聞き取り難い大きさの声だったのにも関わらず、私にははっきりと聞こえた。
3話:里菜side
今信じられない言葉が聞こえたような気がするのは気のせい?
確かに好きって……。
「……嬉しい。」
思わず声に出してしまった。
それにしても…たかみなの顔が真っ赤になっていてすごく可愛い。
「みなみ…好きだよ?」
わざと『たかみな』から『みなみ』に変えてみた。
気付いてもっと真っ赤になっていった。
「私もだよ、里菜。」
不意に名前で呼ばれ、体が熱を帯びてくのが分かった。
私は我慢できなくなって、みなみの唇にキスをした。
最初は驚いていたみなみも、次第に自分からするようになった。
物音が聞こえ、唇を離すと名残惜しそうに銀色の糸が二人の口元でひいた。
「まだいたの?早く帰りなよ?」
どこか行っていたみぃちゃんが戻ってきたらしい。
私たちは帰る用意を済ませると、二人一緒に帰路についた。
もちろん、手をつないで……。
[End.]
最終話
「もう心配かけさせないでよね?…本当に心配しちゃうから。」
里菜が心配な顔でみなみに話しかけると、みなみは幸せそうに笑い…
「里菜がいるから大丈夫だよ。……だから、側にいてね?」
「うん。」
「「『約束』だよ!」」
[End.]
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