橋下徹大阪市長が代表を務める地域政党「大阪維新の会」が起草した大阪府の「教育基本条例案」と「職員基本条例案」が、2月定例議会に提出された。
大阪府議会は「維新の会」府議団が単独過半数を占めており、いずれも可決・成立し、4月の施行が確実である。28日に開会する大阪市の定例議会にも、同様の条例案が提出される予定だ。
維新の会は昨秋、府知事選と大阪市長選のダブル選前に、政治の教育への関与を打ち出した教育条例案を提出し、私たちは社説で強い違和感を表明した。
今回、知事提案の条例案は府と市の協議機関である府市統合本部で教育委員会側と修正論議したとはいえ、内容はほぼ原案通りである。私たちの懸念も依然、変わらないと言わざるを得ない。
条例案では、現在は教育委員会が担っている教育目標の設定について「知事が教委と協議して教育振興基本計画を作成する」と明記した。知事が一方的に事を進めることはないものの、教育行政を教委主導から政治主導に転換する意思を明らかにしたと言っていいだろう。
ほかに、教育委員の取り組みが不十分と評価した場合、知事は罷免を検討する▽3年続けて定員割れした府立高は廃止対象にする-など成果主義、競争原理に貫かれた内容が随所に見て取れる。
保護者の関与もうたい、保護者が指導力不足の教員を申し立て、免職対象にする制度を盛り込んだ。教員の質向上と問題のある教員の排除が狙いだが、恣意(しい)的な運用や保護者側の理不尽な要求の増加を招かないか、心配する声もある。
憂慮されるのが、処分規定だ。
職員も教職員も、同一の職務命令違反を3回繰り返した場合の処分は「免職を標準とする」と定めた。昨年6月、維新の会主導で君が代の起立斉唱を教職員に義務付ける府の条例が成立している。
これを守らなければ、機械的に教職員が免職される事態もあり得るのだ。
最高裁は先月の判決で、不起立の教職員に減給以上の処分をする場合には「慎重な考慮」を求めた。違反回数による一律処分を戒めたものであり、それでも維新の会はこの規定を押し通すのか。
「教委を改めさせる」。橋下市長は昨年11月、市長選の当選会見でこう述べた。今回の条例案提出の背景に、形骸化した教育委員会制度への根強い不信があることは理解できる。国の教育行政の上意下達機関と言われて久しい。
ただ、大胆な改革も教育委員会や学校現場の理解がなければ混乱するだけだ。維新の会は「民意を取り入れた」と言うが、果たしてどこまで改革の理念が浸透しているのか、はなはだ疑問である。
政治主導の名の下、強権的手法で現場を管理することが、教育本来の姿ではあるまい。教育問題は子どものためにどうあるべきかの視点が不可欠だ。ここは子ども不在の論議にならないよう、議会で深く徹底した審議を求めたい。
=2012/02/28付 西日本新聞朝刊=