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農相 新たなコメ作付け方針発表

2月28日 18時10分

農相 新たなコメ作付け方針発表
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農林水産省は、食品の放射性物質の新たな基準を受け、ことしのコメの作付けの方針を発表しました。
この中では、去年収穫されたコメの検査で、1キログラム当たりの放射性物質が100ベクレルを超え500ベクレル以下の地域では作付制限を行うことを基本とする一方、自治体の検査などで、基準を超えるコメが流通しないことを条件に作付け自体は一部認めるとしています。

農林水産省は、食品に含まれる放射性物質の新たな基準値が1キログラム当たり100ベクレルと大幅に厳しくなることを受けて、ことしのコメの作付方針を新たにまとめ、28日に発表しました。
それによりますと、去年収穫されたコメの検査で1キログラム当たり500ベクレルを超えた地域では、作付制限を行います。
制限の対象は「旧市町村単位」を基本にしますが、地域の事情に合わせて、さらに狭い範囲にできるとしています。
一方、100ベクレルを超え500ベクレル以下の地域では、新たに作付制限を行うことを基本とする一方で、市町村が水田ごとに生産を管理することや、出荷前に全袋検査を行うなど基準を超えるコメが流通しないことなどを条件に、作付け自体は一部認めるとしています。
農林水産省が今回、条件付きとはいえ、一部作付けを認める措置を取ったのは、福島県内の農家などから作付けが認められなければ、高齢化が進むなか、離農が増加しかねないなどとして作付けを求める声が高まっていることに配慮した形です。
これについて、鹿野農林水産大臣は「長い間、作付けをしてきた方々や市町村としては、どうしても作付けを認めてほしいという意欲を持っているのが実態だ。100ベクレルを超えるコメが出回らない仕組みを実施できるよう市町村と密に連携をしていきたい」と述べました。
農林水産省は、この方針に基づいて、来月8日までに福島県など関係自治体から作付制限をするか、収穫後の検査などを条件に作付けを行うか聞き取ることにしています。

“条件付き”複雑な思いも

福島県二本松市などを管轄し、コメから100ベクレルから500ベクレルまでの放射性物質が検出された地区を抱える、JAみちのく安達の齋藤道雄組合長は、「条件付きでも作付けができるということで、農家の思いをつなげたということは、うれしいことです。すべての水田での放射性物質を取り除く除染を進めたうえで、収穫したコメの全袋検査などの対策をしていきます。消費者の皆さんにも十分理解してもらって、福島のコメを食べてもらいたいです」と話しています。
二本松市の三保恵一市長は、「われわれの要請した部分が相当盛り込まれていると判断している。ただ、作付けの方針については国が全責任を持って示すべきで、それを各市町村に委ねるような部分については残念だ」と述べました。
また、三保市長は「食の安全確保が大切なので、これから春の作付けまでの限られた期間の中で、すべての水田の除染を進めて、田植えまで大変な作業を進めないといけない。市としても全力を挙げて取り組んでいきたい」と述べました。
伊達市の仁志田昇司市長は、「全面的に作付けができるよう求めてきたので、残念だ。作付けができないと、田んぼは荒れるし、農家にも打撃になる」と述べました。
そして、「安全なコメだけを消費者に届けるというのが前提であることは当然だが、コメから500ベクレルを超える値が検出された地域でも、試験的にでもコメ作りができるよう、これからも国や県に要請していきたい」と話していました。
今回の方針で作付け制限の対象になるとされた、500ベクレルを超える地区の、伊達市の小国地区に住む57歳の農家の男性は、「田んぼの手入れをしなければ、雑草はすぐに生えてくる。作付け制限によって田んぼが荒れて、誰もコメを作らなくなるのではないか」と心配そうに話していました。
また、同じ地区の64歳の農家の男性は、「除染をすれば、また農業ができるのではという望みを持っていたが、作付けができなくなり残念だ。先祖代々、コメを作ってきたのに、作付け制限がいつまで続くかも分からず、先のことを考えたくない」と、暗い表情を見せていました。
福島県の佐藤知事は、条件付きながら1キログラム当たり100ベクレルを超える地域の作付けが認められたことについて、「地元の声が一定程度受け入れられたと考えている」と、評価する内容のコメントを出しました。
そのうえで、「福島県としては、作付けを行う地域について、コメの全袋検査をはじめ、除染や栽培管理など、生産から流通に至る徹底した安全確保の体制を構築していく」と述べています。
また、作付けを行わない地域については、「除染や水田の保全管理に取り組み、可能なかぎり、早期の作付けが再開できるよう、支援していく」としています。

課題は「全袋検査」と「除染」

今回、農林水産省は、放射性物質が100ベクレルを超え500ベクレル以下の地域で、条件付きでコメの作付けを認める方針を打ち出しましたが、新しい食品の基準を超えるコメが流通しないようにする態勢作りには課題もあります。
基準を超えるコメが市場に流通しないことを担保するカギとなるのは、出荷されるすべてのコメについて、袋ごとに放射性物質を調べる、「全袋検査」です。
福島県内で去年生産されたコメは、およそ35万6000トンで、30キログラムの袋に換算すると1200万袋になります。
膨大な量の袋を全袋検査するためには、短時間で大量の袋を検査できるベルトコンベヤー式の新しい検査装置が必要で、大手メーカー各社が開発を急いでいます。
あるメーカーの試作機では、10秒余りの時間でコメが基準値を超えているかどうかを判別できるとしています。
福島県は、このようなベルトコンベヤー方式の新しい検査装置を、農協や自治体に導入してもらうため、総額30億円を新年度予算案に計上して、県全体で150台整備することを目指しています。
ただ、この新しい検査装置はいずれも開発中であり、いつ完成し、実際にどの程度の検査能力があるのかは、はっきりしない点もあります。
また、もれなくすべてのコメを検査するための態勢作りもこれからです。
一方、放射性物質を取り除く水田の除染も進んでいません。
NHKが、100ベクレルを超え500ベクレル以下の地域を抱える12の市町村に取材したところ、実際に除染を実施する時期が決まっているのは、福島市など3つの市と村にとどまっています。
水田の除染では、県は、放射性物質に汚染された表面の土と汚染されていない地中の土を入れ替える、「反転耕」と呼ばれる方法を進めていますが、この方法に対して、現場の農家からは、水田が荒れてしまい、米の収穫や品質に影響するのではないかという懸念が出ていることも、除染が進まない一つの原因になっています。
コメ作りの現場では、コメの安全性と農家の生産意欲の両立のため、春の作付けまで残された時間が僅かななかでの判断を迫られそうです。