枝野大臣は翌14日の記者会見でも、議決権取得に関して「一般論として申し上げれば、りそな銀行に資本注入をしたケースが、国が資本注入する場合の基本的な考え方だ」と見栄を切った。
地域独占、発・送電の分離、総括原価主義の見直しといった電力制度改革と、抜本的な自社の経営改革の両方に、以前から難色を示してきた東電に対し、経産省では昨年春から、「いっそのこと国有化して経営権を取得してしまえば、メスを入れやすいはずだ」という意見があったことは事実だ。筆者も早い段階の取材の際に、複数の関係者から意見を求められて、「血税を浪費しかねない施策を安易に採ることは反対だ」と述べたことがある。
それだけに、新聞やテレビの記者は今回の枝野発言に関して、経済産業官僚から「実現すれば、東電に鉄槌が下る」といった類の解説を刷り込まれ、早とちりしたまま、枝野発言を大きく取り上げてしまったようだ。
しかし、話はそれほど単純ではない。というのは、枝野発言がこのタイミングで行われたことには、東電に甘いとの批判をかわしたいという同大臣の意図が読み取れるからだ。
そもそも、13日に、枝野大臣が西沢社長を呼んだのは、昨年秋に続く2度目の手厚い賠償支援の決定を伝えるためである。これによって、1回目とあわせた政府の支援額は、1兆6000億円に膨らむことになった。
また、翌日の枝野発言は、前日の交付金の受給決定によって、東電が経営悪化批判を免れることができた第3四半期決算の発表日である。
この両日、政府が淡々と2度目の東電支援だけを公表していれば、どれほど大きな政府批判が新聞紙面を飾るか予測できない局面だった。
だから、次の支援策である公的資金の投入に伴う経営権の取得要求という、一見したところ東電に厳しい議論と映る話を、批判回避のために持ち出したと見るのが妥当なのだ。経営権を取得したところで、東電国有化が国民に余分な負担を求める東電救済策であることにかわりはない。
実際のところ、先週末の終値で株価が250円弱に過ぎない東電が増資によって1兆円を調達しようとすると、発行する株式は単純計算で約40億株となる。
しかし、東電の定款第6条が定めた同社の株式発行枠は18億株。一方、同社はすでに16億株を発行しており、追加できる枠はわずか2億株しかない。実現には、臨時株主総会を開いて定款を変更しなければならないが、3月末という国有化までに、臨時総会を開くことなど事実上、不可能だ。つまり、最初から、3月末までの増資や国有化、それを前提とした経営権の所得など、すべて絵に描いた餅なのだ。
むしろ、この問題が再び、ヤマ場を迎えることがあるとすれば、それは定時株主総会がある6月か、総会の議案を決める5月だろう。2度目の賠償支援によって、今年度末の東電の資金繰りには目途がついたはずで、3月末がヤマ場になるとは考えにくい。
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