「決められたことをチェックするだけ」「木を見て森を見ず」--。民間事故調が27日にまとめた報告書から浮かぶのは、形骸化した原発の検査体制と縦割り行政の弊害だった。また、国が原子力政策を決定し、事業者が運営する「国策民営」方式で、安全規制へのモラルハザード(倫理観の欠如)が生まれ、責任の所在が不明確になったと断定。「原子力ムラ」が生んだ原発の安全神話が事故原因になったと指摘した。【中西拓司、奥山智己】
民間事故調は、縦割り行政の象徴として、放射性物質の拡散状況を予測するSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測システム)の公表遅れを取り上げ、400ページに及ぶ報告書のうちの16ページを割いた。この中で、「文部科学省が放射線モニタリングをまとめ、内閣府原子力安全委員会がそれを評価する」との役割分担が昨年3月16日に決まったのを機に、公表責任の所在があいまいになったと言及。
文科省は公表の役割について、安全委員会が受け入れたと主張しているが、班目春樹・原子力安全委員長らは聴取に「文科省が勝手に決め、安全委に(公表の役割を)押しつけた」と証言した。事故調は「文科省が安全委に一方的に役割を『移管』した」と推定。「文科省の対応は、責任回避を念頭に置いた組織防衛的な兆候が散見され、公表遅れを招く一因になった可能性は否定できない」とした。
上空から放射線を測る「航空機モニタリング」では、実施主体となる文科省所管の財団法人「原子力安全技術センター」と、ヘリを運航する自衛隊との連絡がうまくいかず、3月25日まで測定できなかったことを明らかにした。
一方、原発の安全審査について、経済産業省原子力安全・保安院と、その傘下の原子力安全基盤機構(JNES)、文科省とその傘下の日本原子力研究開発機構(JAEA)による「二元審査」にあったと指摘。両者について「横の連携が取りにくいちぐはぐな関係にあった。それぞれの機関が定められた行動だけを取り効果的な事故対応ができなかった」と指弾した。
報告書は、電力会社任せになっている原発の安全審査の実態も言及。「電力会社が作成した資料を丸写しして、決められた手順通りに行われているかチェックするだけ」(元JNES検査員)▽「検査はどんどん細部に入り、『木を見て森を見ず』になっている」(JNES幹部)--などの発言を紹介した。
毎日新聞 2012年2月28日 6時35分