大藪春彦「非情の女豹」
汚れた油田
大使館の多い元麻布に建つマンション・シルヴィアの9階の続き部屋はエアコンによって快適な温度と湿度に保たれていた。その部屋で二人の女がキング・サーモンのステーキを口に運んでいた。家主である長身の女が、私立明和大学の動物学講師である小島恵美子。海外ではエミーと呼ばれているラテン風の美貌を誇る彼女は、母親がスペイン人であった。167センチ、体重50キロ、バスト98、ウエスト58、ヒップ94のボディは、31歳になって現在も贅肉ひとつついていなかった。
恵美子とテーブルをはさんで向かい合っている若い娘は、秋元信子といって、明和大学の2年生であった。「今夜はゆっくりしていけるのでしょう。レコードを聴きながら、あなたの将来のことを相談したいの」「憧れの小島先生にこんなに目をかけていただくなんて、夢みたい」「それは、あなたが頭がいいだけでなく、可愛いからよ」「まあ」「あなたは、故郷の秋田のニホンカモシカの生態を野外で調査したい、と言ってたわね」恵美子は信子の太腿に左手を置く。
「ええ。今年の夏から定期的に山にこもって調べたいんです」「ニホンカモシカは分類学的に見ても興味ある対象ね」恵美子は信子の腿をなでながら、ハスキーな声で囁く。「あ、ありがとうございます」恵美子はいきなり信子を自分の膝の上に乗せる。「やめて。先生」「好きよ。大好き。食べたいくらい」恵美子は信子の首筋に唇を這わせる。「堪忍して。先生」しかし恵美子は堪忍せず、信子の腿の内側を舐め始める。「やめて。やめて」もちろん恵美子はやめず、女同士の愛は夜明け近くまで続いた。快い疲れを感じる恵美子のもとに電話がかかってくる。「お楽しみだったようだな。疲れているところを悪いが、12時に会いたい。話は会ってからだ」
恵美子は古代武蔵野記念館の2階に行く。そこには長谷部が待っていた。「今度の仕事は?」「もうすぐ昼食の時間だ」長谷部はロンドンに本拠を持つ国際秘密組織スプロの日本支部長で、恵美子はスプロと契約を交わしている執行人の一人であった。スプロはあくどい荒稼ぎをしている連中の上前をはねたり、法の手が届かぬ大物への復讐を、莫大な報酬と引き換えに行っていた。15歳で日本を離れ、スイスの私立高校からオックスフォード大学に進んで恵美子は、そのセックス・アピールと男には心を動かさぬ性格、それに抜群の運動神経を買われ、アフリカのザンビアでハイエナの研究に熱中していた頃、スプロにスカウトされた。約束された莫大な報酬は、恵美子にとって魅力であった。金銭の報酬も大きな魅力であったが、命がどうなるかわからぬスリルも生きるうえで欠かせないものであった。それに昼間は鉄面皮でふんぞりかえっている男たちが、恵美子の誘惑を受けたり、恵美子の拷問を受けたときに示すセックスの反応が、恵美子のサディスティックな本能を強烈に刺激するのであった。
食事を終えた長谷部は恵美子に使命を言う。「今度の仕事は、国家的大事業とか称して、石油をタネに、日本石油発掘公団や日本貿易銀行を通じて、国民の税金や国民年金などを盛大に吸い上げている連中の隠し金を巻き上げることだ」16ミリフィルムに60近い脂ぎった男が映る。「この男は、田口内閣時代に、財界官房長官と仇名された古川常平だ。田口内閣時代に古川がでっちあげたのが、海外石油発掘株式会社と大日本石油発掘株式会社だ。今度の仕事で、この石油ゴロたちを思いきり痛めつけてやってくれ」残忍な笑いを浮かべる恵美子。
恵美子は特殊法人公害防止公団の総裁である田村の専用公用車を尾行する。田村は公団の総裁を務める前は、日本石油発掘公団の総裁を務めた男であった。田村のマンションに潜入する恵美子。田村は若い男と変態プレイを楽しんでいた。恵美子は若い男の急所を蹴り上げて、田村に迫る。「誰だ」「尋ねたいことがあって来ただけ。尋問に答えないと処刑を執行するわ」そんな恵美子に感じる田村。「ああ。女神よ。ついに待ち望んでいた女神が今目の前にいる。僕ちゃん、嬉しい」「いい加減にしないと、痛い目に会わすわよ」「嬉しい。いじめて。お願い。思い切りいじめてくれたら。何でもしゃべる。ああ、夢のよう」
恵美子の拷問に喜ぶばかりの田村に、田村のようなマゾヒストは一度セックスを爆発させないと何を聞いてもしょうがないと悟った恵美子は、田村を思い切り満足させてやって、田村を再度拷問する。「なぶり殺しにしてやる」恵美子は田村の小指を切り取る。「今度は薄汚いペニスを叩ききる」「やめてくれ。なんでもしゃべる。何をしゃべればいいんだ」「あんたが石油発掘公団の総裁だったとき、どうして古川の大日本石油発掘にあんなムチャクチャな投資をしたのよ」「私に話を持ってきたのは、当時は通産省の次官だった双葉と大蔵省の次官だった三谷だ。二人とも首相だった田口の子分で、今は双葉は核エネルギー開発公団の総裁、三谷は代議士になっている」
「それであんたの手元にいくら入ったのよ」「私には一文も」「そう?」恵美子は田村の男根にナイフをあてる。「本物のオカマにしてやる」「やめてくれ。しゃべる。たった20億円だ。国債に変えている」「自宅の金庫だ」「ところで、日本貿易銀行の総裁だった石黒の懐にはどれくらい入ったの」「知らん。だけど、オレと同じくらいと見るのが妥当だろう」田村の頭を蹴って失神させた恵美子は、目黒の柿の木坂にある石黒の豪邸に行き、石黒を脅して、株券と現金と宝石を巻き上げる。
続いて田園調布にある三谷の豪邸に潜入した恵美子は屋敷を警備する山野組の組員を皆殺しにして、三谷に迫る。「わたしがここに何をしに来たかわかるでしょう。古川の大日本石油発掘に、あんたたちはどうしてあんなに肩入れしたのか答えるのよ」「田口先生は古川と取引をした。大日本石油発掘に国の金をトンネルさせておいてから吸い上げることにした」「あんたの懐に入った金は」「100億だ」恵美子は地下の金庫室から無記名債権と宝石と現金を巻き上げる。
3時間後、恵美子は待ち伏せている8人の山野組戦闘員を皆殺しにして、品川高輪の屋敷にいる双葉を襲って無記名債権を強奪すると、世田谷の等々力にある古川の広大な屋敷に向う。そのころ古川は3階の奥の密室で越中フンドシ姿で鏡の前に正座していた。切腹マニアの古川は自分の腹に刀を押し当てた自分の鏡の姿に酔いしれていた。腹の皮を切った古川はたまらず大量に放出する。そこへ恵美子が乱入する。
狼狽する古川。「無礼者」「そんなに切腹が好きなら、介錯人になって首を叩ききってあげようか」拳銃で古川の右手首を撃ち抜く恵美子。「アラタブ石油で実際に使っていないのに使ったことにして浮かした金額は」古川の睾丸に日本刀の先を浅く食い込ませる恵美子。「やめてくれ。1500億だ。そのうち500億をわしが受け取った」「その金はどこに隠してあるのよ」「それだけはしゃべるわけにいかん」「どんなに可愛い金でも、死んだら使い道はないのよ」恵美子は古川の睾丸の袋を短く裂く。「しゃべる。南多摩の隠れ家の地下室にスイスフランに替えて隠してある」
古川を失神させた恵美子は屋上に行き、拳銃を三発撃つ。すると多摩川上空のほうからヘリコプターが現れ、みるみる接近してくる。スプロの持っているヘリの一機であった。これで恵美子の懐に莫大な手数料がはいってくる。恵美子はすでに上空まで来たヘリの爆風を避けようとうずくまり、ヘリのパイロットに凄艶な流し目を送る。
法王の隠し金
富士スピードウェイで恵美子は怪物マシンと格闘する。そして練習を終わったあと、コースで知り合ったルミという娘と激しく愛し合う。そしてレースは始まるが、恵美子の車はトラブルを起こす。しかし恵美子はなんとか一命をとりとめる。そして恵美子に上司であるスプロの長谷部から電話がかかってくる。「事故の原因がわかった。折れたサスペンションには金属の内部を腐蝕させる薬品が塗ってあった」「誰なの。わたしを事故死に見せかけて殺そうといしたのは」怒りに目をグリーンに光らせる恵美子。
「今のところ、我々が相手にしている団体が雇ったある巨大な暴力組織とだけ言っておこう。君は狙われている。戦闘準備を整えるんだ」元麻布のマンションに戻った恵美子は、そこでルミが4人の男たちに素っ裸で縛られているのを目撃する。「動くな。可愛い恋人をくたばらせたくなかったらな」大人しくする恵美子。「俺たちはあんたにお願いがある。あんたにスプロとかいう組織から抜けてもらって、俺たちの組織に鞍替えしてもらいたいということだ」「スプロってなんなの」
「またまた、とぼける。俺たちはスプロのエージェントを何人か痛めつけて、あんたがスプロの女エースだと知ったのさ」「知らないわ」「俺たちの組織は、初めはあんたを事故に見せかけて殺すつもりだった。しかし、あんたが有能だとわかったので、俺たちの組織のために役立たせることにしたんだ」「何のことだかわからないわ」「可愛い恋人が痛めつけられるところをたっぷり拝ませてやる。そしたら、あんたはプロのエージェントだと認める気になるだろうよ」
男たちはルミを犯し始める。「助けて。おねえさま。わたしを愛しているなら、お願い、しゃべって」「わたしには何もしてあげられないわ」「わたしを愛してないのね」「愛しているわ。でも、スプロなんて知らないの」男たちは恵美子が反応しないのに苛立って、ルミの秘所にバイクのチェーンを押し込む。約束が違う、と絶叫するルミ。その声を聞いた途端、野獣のように反応した恵美子は隠し持っていた銃で3人を射殺し、一人だけ殺さないで生かす。
「あんたの名前は?」「高岡だ」高岡を失神させた恵美子は、ルミの蜜穴に挿入されているチェーンを押し込む。「何すんのよ」「いつから、この連中の仲間になったの?わたしと知り合う前から?それとも知り合ってから?」「知らないわ。何のことか」「わかったわ。もう、あなたは、わたしの子猫ちゃんじゃない」チェーンをひねる恵美子。絶叫をあげるルミ。「許して、おねえさま。あたし、あいつらの組織に捕まって、何人ものチンピラにレイプされたの。その写真やテープを組織に協力しなかったら、おねえさまに見せる、と脅されたの。わたしが男を受け入れたと知ったら、おねえさまはわたしをボロ屑のように捨てると思って」
「それで、あなたは奴らのために何をしたの。今日のように囮になったほかに」「ただ、おねえさまの毎日のスケジュールや、おねえさまに起こったことを知らせただけ」「どうやって、誰に」「わたしと組織の連絡員は、モーター・スポーツ・ウィークリーっていう週刊誌の女記者の赤坂恵子」「組織の名は」「具体的なことは教えてくれなかった。でも、関東で一番大きな組織だと言ってたから、東関東会のことかもしれない」チェーンを引き抜く恵美子。口から泡をふいて失神するルミ。
恵美子はチェーンを高岡の男根に叩きつける。泣き喚く高岡。「助けてくれ」「あんたが入っている組織は、東関東会のことね」「ああ、そうだ」「東関東会が、どうして私に用があるの」「オレが知ってるのは、東関東会が請け負ったのは、全日本歯科医師会からの頼みがったということだ」聞くことを聞いた恵美子は高岡とルミを抹殺して、長谷部のところに行く。長谷部は全日本歯科医師会と会長で法王と呼ばれる会長の中野義正を知っているか、と恵美子に聞く。
「よくは知らないわ。でも、あの会の歯医者は、入れ歯一本に何十万円の差額料金を取る連中が揃っていると聞いたわ。そして会長の中野と中野一族が蓄えている隠し金は数百億という噂ね」「その通りだ。中野義正は父が創立したマンモス歯科大の東都歯科医大と、これもマンモス医大の大東医大の理事長である。それらのどの施設も中野一族が役職を占めていることは勿論だ。中野コンツェルンは薬品問屋や医療機器の輸入や製造や販売、それに修理会社など関連会社を何十も経営している」「……」
「全日本歯科医師会の連中は差額請求と健保の不正請求で派手に稼いでいる。中野ファミリーは自分の大学からも巨大な金を吸い上げている。東都歯科医大も大東医大も正規の入学者はわずか5%。あとの95%は裏口入学で、一人につき5000万から1億円の裏口入学金が中野ファミリーに吸い上げられる」「それで中野ファミリーの隠し金はいくらなの」「わからん。うちの二線級エージェントを繰り出したところ、結果は中野ファミリーに雇われた東関東会に殺された。こうなったら、中野ファミリーの隠し金をみんな巻き上げないと、スプロ日本支部のメンツが立たない」
恵美子は東五反田にあるメイゾン・ファイブに行く。その二階には、中野ファミリーの一人で、中野義正の長男一茂の従兄である松山が歯科クリニックを開いていた。患者を装ってクリニックに潜入して、松山から5億円を要求する。「あんたの隠し金はどこにあるの。言わないと火だるまにする前に、オカマにしてやる」松山の男根に切れ目を入れる恵美子。脱糞しながら苦悶する松山。「しゃべる。無記名の債券が、私の家の犬小屋の下に掘った地下壕に隠してある」「中野ファミリーはセックスの欲望も激しいと聞いたわ。まずボスの中野義正の変態ぶりを話してよ」「知らん。義正先生は、わたしにとっては雲上人なんだ」「わかったわ。もうあんたに用はない。火だるまになって死んでもらう」「やめてくれ。しゃべる。義正先生は死姦マニアなんだ」
「義正はどうやって死体を調達するの」「言えない。知らん」「そう言えば、大東総合病院には死体安置室があったわね」恵美子は歯の切削用ドリルを手にする。「しゃべらないと、これで全身の皮をはいでやるわ」「やめてくれ。しゃべる。お年を召してからの義正先生は、ドライアイスで冷やし、青白い化粧をほどこした若い女の死体でないとエレクトしなくなったんだ。死体は大東総合病院の霊安室から冷凍車で先生のお屋敷に運ぶんだ。先生がおきに召した患者が死ぬのは、いつも日が暮れてからだ」
「中野義正が気にいった娘は、どうして必ず日が暮れて死ぬの」「……」「言うのよ」ドリルで松山の耳をえぐる恵美子。「何でもしゃべる。義正先生の長男で大東総合病院の副院長であり、東都歯科大の副院長でもある中野至誠先生は、淫楽殺人症なんだ」「淫楽殺人症?殺人淫楽症でなく」「そうなんだ。殺すことだけでエクスタシーに達するんだ」「じゃあ、至誠は気に入った患者を殺して楽しんでいるのね。あの病院の歯科部長をしている義正の次男の国報も変態ね」
「国報先生は殺人淫楽症だ。強姦したあと相手を必ず殺し、死体をバラバラにして切り刻んで食ってしまう。国報先生は変り者で、女の美醜や年齢を気にしない。自分の反抗的な態度を見せる患者なら誰でもいいんだ。その女を地下にある人工的な熱帯ジャングル室に連れ込み、散々鬼ごっこを楽しんだ上で、犯して頃死んだ」「川口分院の分院長も中野ファミリーの一員なのね」「そうだ。国報先生の従兄だ。これはサディストだが緊縛と鞭うちと浣腸マニアでたいしたことない」
「どいつもこいつも汚らしいヤツラばかりね。義正の三男で大東総合病院の精神科部長をやっている忠三は?」「強姦マニアだ」「四男の孝郎は?循環器部長をしている」「あの先生はマゾだ。奴隷願望と家畜願望、それに人間便器願望が強い」「五男の義夫は?産婦人科の部長をしている」「セーラー服の学生を犯すのが大好きだ」「六男の誠六は?眼科の部長をしている」「放火魔のオナニストだ。フェチストでもある。都内のいくつもの女子大の近くに沢山のアパートを持っていて、女子大生専門のアパートから下着を盗む。そして、その下着の持ち主のアパートに放火する。燃え上がる火を見ながら、盗んだ下着を見につけ、頭からパンティをかぶってオナニーにふけるのが最大の生きがいらしい」「至誠の長男の猛夫は?」「あれはサディストだ。ただのプレイでは我慢できない本物のサディストだ」聞くことを聞いた恵美子は松山を抹殺する。
恵美子は中野誠六を尾行する。誠六は変装してアパートに行き、時限発火装置を使って女子寮を放火して、自慰にふける。その様子を写真に収めた恵美子は誠六の頭にかぶっていたパンティを奪い取る。「さあ、一緒に警察に行くのよ。これだけ証拠がそろったら、どんなに大物政治家を動かしても手遅れね」「一億出す」「冗談じゃない。あんたの放火のせいで、これまで何人死んだと思っているの」恵美子は誠六が自分の家の庭の貯水槽に金塊1トンを隠していることを聞き出して、誠六を殺す。
恵美子は次なる標的をスポーツ・ジャーナリストの赤坂恵子に定め、恵子のマンションに潜入する。恵子が中野猛夫と一緒に部屋に戻ったのを知った恵美子は薄く笑う。恵子を強引にモノにしようとする猛夫。「結婚してくれるの」「わかった。だけそすぐには無茶だ。明日、オレの家で中野ファミリーだけのパーティがある。その席で君をみんなに紹介する」その話を聞いた恵美子は、今夜は恵子と猛夫を嬲り殺しにするの中止する。
そのパーティは地下室で行われ、猛夫と忠三たちは、恵子や若い娘たちに拷問を加えて楽しんでいた。「もっとやれ」「レッツゴー」「いけいけ。もっといけ」そこへ現れた恵美子は猛夫に忠三の肛門を責めるように命令する。サディストの猛夫は喜んで責める。忠三は自分の隠し財産のありかを白状する。恵美子は聞くことを聞くと全員皆殺しにして、忠三の屋敷からダイヤを頂戴すると、一週間ほど休養する。
そして中野義夫のクリニックの天井裏に潜入した恵美子は、義夫が少女を犯すところをフィルムに収めると、義夫の財産の隠し場所を聞きだしたうえで、義夫を殺したあと、自宅でSMプレーを楽しむ孝郎の前に現れる。「あんたをこれまで味わったことがないまでに気持よくさせてやる。生きたまま指や耳や鼻を切り落とし、目玉を抉り出してやるのよ」「やめてくれ。私が好きなのは、あくまでもプレイなんだ」「あんたはサファイアのコレクターだそうね」孝郎からサファイアを奪った恵美子は、孝郎は気絶するにとどめて屋敷を出る。
一週間のちに看護婦姿の恵美子は埼玉県西川口にある大東総合病院の川口分院に忍び込み、地下室に潜入する。二日後の夜、地下室の三重ドアが開いて、中野国報が大きな麻袋をかついで入ってくる。中から出てきた女は国報を口汚く罵りながら逃げる。欲望に全身をふるわせながら女を追いつめた国報は、女を犯すと、女を切り刻み、ピラニアのいる水槽に投げ込む。その背後から忍び寄った恵美子は国報に拷問を加え、200億円相当のエメラルドを屋敷の掘りごたつの灰の中に隠していること、国報の兄の至誠が次の犠牲者としてマークした女のこと、義正の屋敷を警備している東関東会の人員が大幅に増員されたこと、などを聞き出し、国報を射殺すると、死体をピラニアの池にほうりこむ。
それから三日後、恵美子は大東総合病院の特別入院病棟の病室の屋根裏に潜入する。恵美子がもぐりこんでいるのは、心臓自体は少しも悪くないのに、中野至誠のために日本では珍しい難病だと診察され、高級ホテルのような特別病棟に入院させられた望月冴子という18歳の娘の病室だった。国報がしゃべったことでは、淫楽殺人症である至誠は今夜にも冴子に対して、淫楽殺人を行うはずだった。ファミリーのボスである義正は、恵美子の報復が始まってから、恵美子が輸送車で義正のところに運ばれてくる死体とすりかわって義正の屋敷にもぐりこものではないかというノイローゼに陥って、このところ長らく死姦を楽しむ欲望を無理に抑えられていた。
だが、その忍耐も爆発点に近づいており、至誠のほうも義正にこのところ禁じられている淫楽殺人への欲望が耐え切れない状態になっていた。そこで義正は至誠に殺人を許可し、冴子の死体は義正のもとに送ることになっていた。その夜、至誠は冴子に毒薬を注射し、悶え苦しみながら死ぬのを見て、クライマックスに達する。そして化粧を施され、冷凍室に運ばれた冴子の死体は義正の屋敷に連れていかれる。義正に頭を下げる至誠。「ずっと見張っていたので、すりかわる心配はありません。父上もきっとお気に召してくださる娘かと思います。写真よりずっとキレイです」「よろしい。離れでゆっくり休みなさい」冴子の死体を見た義正は喜びのあまり、身体を震わせて、素っ裸になる。「よしよし。わしの体温で生き返らせてやるからな」
そして義正の屋敷に忍び込んだ恵美子は至誠に激しい拷問を加えて、隠し財産のありかを白状させる。スプロの工兵隊は東関東会の連中を皆殺しにする。地下室にいった恵美子は義正が冴子の死体を抱いて死んだふりをしているのを発見する。ナイフでその肛門をえぐりながら、恵美子は大金庫室のダイアル錠の番号を聞きだすと、義正を八つ裂きの刑に処する。
スポンサーを失った上に戦闘力がひどく弱まった東関東会とスプロが手打ち式を行ったっのは、それから半月後のことだった。スプロは東関東会に100億、中野ファミリーと持ちつ持たれつの関係にあった保守党の大物政治家に50億払い、そのかわり彼らはスプロに手を出さないこととなった。
裏切り
スプロ日本支部の女エースの小島恵美子は度重なる呼び出しに応じ、スプロ日本支部長の長谷部と向かい合う。「よく来てくれた。君が引退したいという気持ちはよくわかる。従って、これが我々の最後の依頼と受け取ってもいい」「わかりましたわ」「君はこの前に起きた大徳相互銀行新宿支店の1000億円強奪事件を覚えているだろう」「もちろん」「大徳相銀は田口元首相の膨大な資金源の一つと言われている。それでは1000億円の現金が新宿支店に集められたか、の問題から検討してみよう」
それは明らかに大徳相銀の仕組んだ筋書き通りの事件であったが、最後で筋書きは狂ったと説明する長谷部。「大徳銀行の手に、新宿支店から奪われた金は予定通りはいってこなかった。今度の事件に新宿の暴力団野崎組が絡んでいることは明白だが、そこにも金は入っていない。それどころか、野崎組の組員は次々と事故死している。大徳側も、関連不動産会社の経営者や経理担当者が何人も行方不明になっている」「……」「まあ、ともかく、我々スプロの目的は、新宿支店の大金庫から奪われた金の行方を突き止めて横取りすることだ。成功したら君には10%の手数料を払おう」
恵美子は大徳相銀のダミー企業である中央興業の総帥である村上の妾宅に潜入する。恵美子に脅されて震える村上。「あんた、あの物凄い男の仲間か」「物凄い男って?」「仲間じゃないのか」恵美子は村上の男根にナイフを押し付ける。「しゃべる。やめてくれ。大徳は我々に野崎組のボディガードをつけた。新宿支店長の長崎には5人のボディガードがつけられたが、昨夜ある男が現れて、その5人を片付けて、長崎を拉致した」「その物凄い男のとか体つきは」「覆面をして顔はわからないが、背が高くてすっきりした体つきだったそうだ」
村上は強奪事件の全貌を話す。「大徳は紙切れを混ぜられた札束を野崎組を通じて雇ったプロの強盗団に襲わせ、奪った現金を大徳の本店に運ばせる計画だった。そして大徳は盗難保険を掛けてある東和生命に保険金を請求しようと企んだ」「その予定通りいかなかったわけね」「強盗団が獲物を持ち逃げしやがったんだ。野崎組が必死に奴らの隠れ家を探しているが、まだ成功してない。東和生命のほうも、今度の事件はおかしいと感づいて、保険金を降ろしてくれない」聞くことを聞いた恵美子は村上を永遠に眠らせる。
恵美子は野崎組の最高幹部である白浜の屋敷を襲うが、すでに白浜は「物凄い男」の拷問を受けて、全財産を奪われて死んでいた。そして恵美子は幹部の一人である松沢に拷問を加える。「野崎組は大徳に頼まれて、強盗団を集めた。新宿支店の大金庫室を襲うための。その事実は認めるわね」「認める。だが、そのあと、思いがけぬことが起きたんだ」「強盗団について、詳しく話してよ」「リーダーは黒金という男だ。サブリーダーは古賀という男。ナンバースリーは星野志麻という女で、男にも女にも惚れないという変り者だ」「物凄い男について、野崎組はどれくらい知ってるの」「まったく知らない」聞くことを聞いた恵美子は松沢を永遠に眠らせる。
それから三日後、恵美子のもとに星野志麻の隠れ家がわかったとの知らせがある。早速シェパードとのプレイに夢中になっている志麻を襲う恵美子は、志麻を自分の隠れ家の地下室に連れていく。「大徳から奪った金の隠し場所は?」志麻の足の裏をバーナーで焼く恵美子。「町田市の町田スクラップというポンコツ自動車の解体工場があるの。そこの養鶏場の飼料倉庫の地下よ」恵美子は志麻を昏睡させて、二階に上り報告書を作成しようとするが、そこに中年の長身の男性がいるのを見て心臓がショックで止まりそうになる。
レズの恵美子は秀麗なセックスアピールを放つ男の顔と深い湖のような男の瞳に幻惑されそうになるのをこらえ、機関銃に手を伸ばすが、機関銃は男が放ったリボルバーの銃弾で吹っ飛んでしまう。「ご苦労さんだった。地下室の話はみんな聞かせてもらったよ」「誰なの。そう、わかったわ。物凄い男と呼ばれる殺人鬼ね」「殺人鬼?君だって目的のために手段を選ばなかったじゃないか。私の名前は伊達邦彦。君はスプロのロンドン本部で一度は私の名前を聞いたことがあるかもしれない」「伊達邦彦!!」
「そういうわけだ。ある事情で日本に戻った私は、大徳相銀の事件を聞いた。これは何か裏があると思った。小遣い稼ぎも一興だと思って、奪われた金を自分のものにすることにした。君はわたしに尾行されていたことも気づかなかったようだな」屈辱にカッとなりながら、恵美子は反射的に尻ポケットに右手を走らせる。邦彦はリボルバーを再び撃つ。恵美子の右手からデリンジャーが暴発しながら吹っ飛ぶ。「名前を明かした、ということは、わたしを消す気ね」「迷っているところだ。君はサドで男嫌いだそうだな。本物の男の味を知らないで死なせるなんて」「自惚れないでよ」恵美子は突進して、邦彦の股間を蹴り上げようとするが、あっさりかわされ、頚動脈に手刀をくらい失神する。
意識が回復したとき、恵美子は素っ裸にされ、寝室のベッドに仰向けに寝かされていた。伊達邦彦は素っ裸でベッドの横に立っていた。服をつけていたときとは想像も及ばぬほど物凄い筋骨であった。たび重なる拷問を受けた傷跡が残るマグナム砲は、コブだらけであった。「気分はいかが」爽やかな笑顔を寄せた邦彦は恵美子は引っ掻こうとしたが、気絶している間に爪が短く切られているのを知る。「女豹とはよく言ったもんだ」
邦彦はベッドに移る。邦彦の喉笛を噛み付こうとした恵美子であったが、次の瞬間に、恵美子の顎は脱臼させられる。屈辱にうめく恵美子の内腿をバスーカ砲で愛撫しながら、邦彦は恵美子の乳房をくわえる。「馬鹿にしないでよ。やめてよ。くすぐったい」と言いたかったが、恵美子は初めて犯される快感に全身が震えてくるのを覚える。灼熱した砲が貫かれると、頭の芯まで痺れた恵美子は悲鳴をあげ、邦彦にしがみつく。
一時間半後、すでに十数回も大いなる波にさらわれていた恵美子は、最後のクライマックスに達しようとしていた。首を絞められ、死んでいく意識の中で混濁しながらも恵美子は溶けていく感覚に溺れていく。