2012年2月26日(日) 東奥日報 社説



■ 風評被害を拡大させるな/那覇市の雪騒動

 南国の子供たちを楽しませるつもりで、本県から那覇市に空輸された雪が思わぬ波紋を広げた。

 海自の八戸航空基地と那覇航空基地が1995年から続けている「雪を贈る」企画に、東日本大震災後に本土から自主避難してきた保護者らが「雪の放射能汚染や子供の被ばくが不安」と待ったをかけたのだ。

 これを受けて那覇市は雪遊びイベントの中止をいったん決めたものの方針を撤回、開催することにした。

 中止を残念に思う市民の声に押された結果だが、中止した場合には「青森の産品は危険」というイメージを、風評被害という形で全国に拡大させる恐れがあった。それだけに予定通りのイベント開催は、公益を第一に考えるべき自治体としては当然の判断といえる。

 東京電力福島第1原発事故による風評被害については既に本県の肉牛や子牛、輸出用ホタテなどに及んだ。これ以上はご免だ。

 その意味では、今回の雪騒動はたかが雪の一言では済まされない根深い問題を露呈した。関係自治体には事実に即した冷静な判断と慎重な対応を求めたい。

 雪は八戸航空基地の隊員が十和田市の蔦温泉周辺で集めたもので、段ボール25箱分(約600キロ)。訓練で八戸を訪れていた那覇航空基地の隊員が、機体への積み込みと荷降ろしの2度にわたって放射線量を測定し、安全を確認していた。

 県内4カ所でちりや雪を含む降下物の放射線量を調べている県と東北電力によると、昨年末の観測値は福島第1原発事故前の水準に戻っているという。

 那覇市の問い合わせに対して、県原子力安全対策課は「データを示して安全性を十分説明した」という。那覇市はデータを基に「青森の雪は危険ではない」と避難住民に説明したが、結局理解を得られなかった。

 雪遊びイベントを不安視したのは、本土から自主避難してきた人々が大半だ。子供の健康と安全を願う心は十分に理解できる。しかし、過剰といえなくもない反応はかえって子供自身を戸惑わせないか。

 沖縄在住のフリージャーナリスト比嘉康文さんは「親が子供の健康を考えるのは当然。しかし、今回は青森の雪は安全というデータが出ていた。被災地で暮らす人たちの気持ちを考える冷静さを持ちたい。那覇市の判断はお粗末だ」と語る。

 在日米軍基地の7割以上を抱える沖縄県民は事あるごとに「本土は島の痛みを知らない」と訴える。今回の雪騒動は少なからず青森県民の心を傷つけた。その「痛み」を一番知っているのは沖縄県民だろう。

 だからこそ、イベント中止が報道されるや否や、那覇市に「風評被害につながる判断はおかしい」「青森に失礼」といった電話が殺到したのだ。守礼の邦(くに)の礼を尊ぶ心は生きていた。そう解釈したい。

 那覇市に続いて、石垣市も本県の雪を使った行事の実施を決めた。根拠のない風評によって宙に浮いていた雪が、ようやく動き始めようとしている。


HOME