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山口・光の母子殺害:元少年に死刑判決 報道、実名か匿名か 少年法の理念尊重貫く=社会部長・丸山雅也

 毎日新聞は、山口県光市母子殺害事件で最高裁判決後も元少年の匿名報道を続けています。何ら落ち度のない母子の尊厳を踏みにじり尊い命を奪った残虐極まりない事件です。誠に許し難い凶行ですが、少年法の理念を尊重し匿名で報道する原則は、最高裁判決が出たからといって変更すべきではないと判断しました。事件発生以来、取材にあたってきた西部本社報道部の意見も踏まえ、東京本社編集編成局で議論したうえでの判断です。

 94年の連続リンチ殺人事件で死刑が確定した元少年3人の最高裁判決(11年3月)でも毎日新聞は匿名で報じ、その経緯を紙面で紹介しました。今回の判決でも実名報道に切り替えるべき新たな事情はないと考えました。そうした事情は、今回の判決を報じた21日朝刊で「おことわり」として読者の皆さんにも説明しています。

 少年法61条は、少年時の事件で起訴された被告らの名前や住所、容貌など本人と推測できるような記事の掲載を禁じています。これは、少年法が成熟した判断能力を持たない少年時代に起こした事件に関して、その少年の更生を目的としているためです。

 今回、多くの報道機関が死刑確定で更生の機会がなくなるなどとして実名報道しました。しかし、元少年には死刑確定後も事件を悔い、被害者や遺族に心から謝罪する姿勢、すなわち心の更生が求められていることに変わりはありません。

 遺族の本村洋さんは判決後の記者会見で「眼前に死というものが迫ってきて改めて自分が犯した罪、自らの死を通じて感じる恐怖から、自ら犯してしまった罪の重さを悔いる、かみしめる日々が来るのだと思う」と述べました。被告から死刑囚に立場が変わり、元少年の心境に変化が生じる可能性もあります。

 法制度上は再審や恩赦も全くありえないわけではありません。事件当時、元少年は死刑の適用が可能な18歳となってから30日で、確定すれば記録が残る66年以降、最年少となります。4人の裁判官のうち宮川光治裁判官は「精神的成熟度が18歳を相当下回っている場合は死刑回避の事情があるとみるのが相当」として再度の審理差し戻しを求める反対意見を述べました。最高裁の死刑判断に反対意見が付くのは、被告が冤罪(えんざい)を訴えた「三鷹事件」(55年)など戦後まもない時期に3例把握されているだけという極めて異例なもので、匿名報道にあたってはこうした点も判断材料としました。

 今回の判決は読者の関心も高く、匿名報道について「筋を通している」「強く共感を持つ」などの評価、「実名報道すべきだった」との指摘など、さまざまな声をいただきました。背景には少年事件報道の在り方、裁判員裁判時代の死刑判断基準、さらに死刑制度そのものなど論議が必要な多くの問題を含んでもいます。

 元少年の状況については今後も可能な限り取材に努めます。また、毎日新聞の第三者機関「『開かれた新聞』委員会」で06年、「死刑が執行されるに際しては匿名であってはならない」と、国家に生命を奪われる人の氏名は明らかにすべきだとする指摘があったことも重く受け止めています。

 私たちは、読者の皆さんのご意見も参考にしながら、編集編成局内、さらに「『開かれた新聞』委員会」で論議を深めていきます。

毎日新聞 2012年2月25日 東京朝刊

 

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