厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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<<   作成日時 : 2011/11/24 13:34   >>

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すでにどらめもんさんのところでところできちんとしたエントリーが上がっているので、ワタクシが付け加えることは少ないのですが、一応メモね。
ムーディーズが22日付で、こちらの格付をAa3から7ノッチも引き下げてBa1にした(もう少し言えば10月にもAa1から2ノッチ下げている)ことで、ちょっと騒ぎになっています。というのも、ここはこれまでノルウェー王国の輸出信用(平たく言えば輸出業者向けの補助金つきファイナンスね)を独占的に引き受けることが法律で決められていたわけで、信用力は(そういう仕組みから一種の暗黙の政府保証があるとみられて)ノルウェー王国とほとんど同じぐらいの格付を維持してきたわけです。ちなみに同社の株の15%は政府が持っていて、さらに政府が34%保有するDNBという銀行が40%の出資をしているうえ、後の多くも銀行が保有しています(余談ですが、同社のプレゼン資料ではDMBの保有40%と政府直接保有15%を単純に足して55%政府の直接・間接保有、と書いていますが、ちょっとミスリードかな)。政府がこれまで国策的にやってきた仕組みであり、それゆえ、EUの規制の一部についても国が特例対象と指定してきたという事情があります。今回問題の発端となったのは、そのEUの資本規制です。

今年の10月にノルウェー政府がEUのCRD(Capital Requirement Directive)すなわち金融機関の資本充足要件についての特例をEksportfinansに適用しない(パーマネントな適用除外から1年の時限適用に切り替える)という発表をしました。問題は同社がCRD上問題となる(規制資本の25%以上を一社にたいしてエクスポージャーとして持てない)貸し先を5社も持っていたことです。それは主に同国の主力輸出企業(Statoilとかでしょうね)でしょうが、同社はすみやかにそういう状況を解消するため、大口先への融資を減らすか資本を相当規模で増強するかしなければならなくなったわけです。この規制は今年の1月から施行されたものですが、もともと昨年の段階で移行期間として2011年12月まではこのルールの適用除外とするお墨付きをもらっておりました。今年の10月の段階で、これがさらにあと1年だけと政府に言われたこと(つまりこれまでのように永遠に適用除外になるわけではないこと)が今回の格下げ問題の発端となりました。

もちろんそこに至るまでには同社と国との間にいろいろないきさつがあったことが伺えます。ムーディーズの格付ステートメントを読むと、

The rating agency also understands that the government considers that Eksportfinans lacks the capacity to provide a relevant service to the Norwegian export-finance industry, which is skewed toward industries such as shipping, energy and other industries, which often require large loans. As a result, the government has decided to assume responsibility of Eksportfinans's future lending obligations under the 108-scheme .

とあります。ここでいう108スキームというのが政府がサポートする輸出信用スキームですが、要するに政府としてもこれまでから同社のあり方に不満を持っており、見直すべきだと考えていたと思われるフシがあります。ちなみに政府(首相府)からのステートメント(18日付け)にも次のような記述があり、その「残念さ」感が出ていると思います。

In the wake of the financial crisis of 2008, comprehensive international efforts were made to strengthen the solidity of financial institutions, and in response the EU tightened up its rules for large exposures of credit institutions. This means that Eksportfinans requires substantial recapitalisation if it is to continue to provide the same service as it does today. However, Eksportfinans and its largest owners have not managed to agree on a plan for recapitalisation that would ensure adequate export financing.

一方会社側の発表資料(11月15日最終アップデート)によれば
In its annual letter to Eksportfinans regarding the management of the
government supported export financing scheme for 2010 and 2011, the
Ministry of Trade and Industry has requested Eksportfinans to be aware
of innovative projects and to support the Norwegian export industry in
renewable energy projects specifically.

とあり、より新しい分野への信用供与(つまり分散化)を政府が期待していたとも読めます。結局それが思うように行かなかったのが今回の背景にあるのではないかと推測しています。

で、10月のこの発表を受けて、ムーディーズ(格付業者のなかでは比較的政府やシステミックサポートを重視する立場です)は2ノッチ格下げしました。11月18日に行われた政府の発表は、最終的に政府が輸出信用機能を完全に新しい組織で取り扱うというもので、これによって、同社は正式にRun-offすなわち整理の段階に入ることになりました。ムーディーズの更なる7ノッチ格下げはこれを受けたものです。(別にムーディーズさんが好きなわけではないけれど、あえて言えば、この背景を理由として10月の格下げの段階で格下げ方向でさらに見直しとしており、格下げの大きさは驚きを与えたとはいえ、格下げそのものは別に驚きではありません)。

さて、どちらにしても新規業務(貸し出し)は行えないのでそれに見合ったファンディングもありえないでしょうから、Eksportfinansの新発債というのは、格付上問題となることはないでしょう。問題は既存の債務です。この企業の名前にきっと日本人でも見覚えがある方が多いはずで、いろいろなリンク債や仕組み債などでは常連ともいえる発行体として売り出し債をしばしば出しています。購入された方もいらっしゃるかもしれません。これらの債務はどうなるのかがポイントです。

現状はまだ非常にあいまいな状況の中での判断しかできませんが、政府や会社側発表からはっきりとしていることは、現状の融資を管理する主体としては(おそらくその残高が存在する限り)存続するということです。ただし、政府はPermanent solutionについて来年の7月1日に施行されると述べているので、それまでの間にいろいろ状況が変わっていく可能性はあります。すくなくとも来年の7月までにこの会社が清算されることはなさそうです。

同社の資産内容は一般貸付(Commercial Loan)が約6割、政府保証つき貸付が約3割で残り1割強が地方自治体向けローンです。このうち地方自治体向けローンは法律によってデフォルトしないことになっています。すなわち4割強が政府保証。また一般貸付も銀行保証がついていていると思われ、資産内容だけ見れば、それほど問題はなさそうです。

また流動性もリザーブファンドとして370億ノルウェークローネ(約4800億円)の流動性のある資産と20億ドルのレポラインをもっているので、大丈夫だといってます。

では、何が問題なのでしょう?
ひとつには潜在的なファンディングギャップの問題。同社の借り入れと資産のマチュリティ(満期)が完全に一致していれば(そして少なくともその金利差が逆ザヤになっていなければ)満期まで細々と資産管理会社として存続し、債務の返済も問題ないはずです。ただし、ファンディング期間のミスマッチがあれば、そのつなぎ資金の問題が発生しますが、そういった状況が上記の流動性リザーブ等でカバーできるのかあるいはこういう状況になった会社にお金を融資してくれるところが果たしてあるのか?という問題です。ただ、資産全体の3分の一ぐらいはリザーブファンドなので、結構余裕がありそうには思えますね。

もうひとつは、おそらく同社が抱えているであろう膨大なデリバティブのエクスポージャーです。ちゃんと調べてませんが、あれだけ仕組み債を発行しているのだから、相当なポジションになっているはずです。これも一般論としては市場リスクは同社から見て完全にヘッジされていると思われるのですが、格下げを食らってしまった場合、カウンターパーティーから追加担保の要請やラインの問題がどういうレベルになるのかがよくわからない。場合によってはポジションを解消しなければならないという事態もまったく考えられないわけではありません。まあこれについてもリザーブファンドなどで対応可能かどうか、ということですね。

まあ、常識的には資産内容の悪化(もちろん世界的に悪化しているといえばそれまでですが)による信用力の悪化というより、政府支援がなくなることから生じる資金繰り懸念ということで、要するに資金繰りの問題がどうなるかが実は非常によくわからないことになっていて、ノルウェー政府がこの企業の倒産を避ける必要があると考えるならば、早急にその辺についてきちんとしたコメントを出す必要があると思われます。まあ、これまで事実上政府の信用で(ノルウェーはそう思っていないかもしれないけれど日本の金融の世界ではみんなそう思っているので)日本から大量の資金を調達しているわけですから、ノルウェー政府としても常識的に無視はできない・・・という気はしますが、あくまで「気がする」というだけであり、根拠はありません。過去においてもニュージーランドやイタリアにおいて政府の信用をバックにお金を借りていた機関が民営化してあっという間に倒産したケースなどいくらでもあります。

ただ、(ここから先は思い切り個人的感想です)北欧って、そういう信用問題についてはあまり無茶はしないと信じています。90年代中ごろにやはり北欧で信用危機があり、フィンランドなどで大手銀行が資金繰りの危機に瀕していたとき、先方のえらい方々や政府の方々が総出で、主だった債権者を回って事態の収拾に努めました。きちんとしたリストラプランや(もちろんはっきりとはいえなかったでしょうが)政府からの事態へのつよいコミットメントが理解できるように債権者を安心させ融資などの引き上げを防ぎ、結局銀行も国も事態を乗り切っております。ワタクシ自身の経験から北欧のボロワーへの信頼度はきわめて高いです。

今回のEksportfinansもある意味システム的に重要であります。ここがこけて債務返済不能となれば、ノルウェーはもちろん欧州の「政府関係機関」といわれるところが総崩れになる可能性があります。そういう自分で自分の首を絞めるようなことはノルウェー政府としてもしないんじゃないかなぁーと思っております。明確な根拠はありませんがそういうところがきちんと詰められてくれば、それなりの結論が見えてくるのではないでしょうか。

しかしながら、大事なことは、あくまでそういう結論を出さねばならないのは投資家自身です。格下げ=債券処分みたいなルールになっている投資家にとっては本当にお気の毒としかいいようがありません。これからそういうルールの妥当性そのものも見直す必要が出てくるんでしょうね。格付業者は一介の信用調査機関にすぎないし、そこで働く人々が多くの金融機関で働く人々より飛びぬけて優秀であるということもないので、格付業者の判断に自分の投資をゆだねるのはやっぱりやめたほうがよさそうに思います。

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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
深い洞察に満ちた記事を楽しみに読ませて頂いております。この記事とは直接関係ないのですが、教えて頂けませんでしょうか。EFSFが発行する債券はなぜAAAでないといけないのでしょうか?AAではだめなのでしょうか?(2番ではダメなのか?と聞くとスーパーコンピューターみたいですが)
欧州駐在@私もReimsに行きました
2011/11/27 01:22
欧州駐在・・・さん(すみません省略で)コメントありがとうございます。たぶんとしか言いようがないのですが、AAAでなければ救済のバズーカという意味がなくなってしまう、ということではないかと思います。絶対に大丈夫だからこっちに金を入れてね、ということがいえるかどうか、ということで。ちなみに、Reimsに行かれたとのことですが、意外に賑やかな街でしたよね。
厭債害債
2011/11/27 12:23
ご回答ありがとうございます。確かに、外貨準備やSWFで買ってくれというのにAAAでないと迫力ないですね。藤田礼拝堂がG.H.Munnというシャンパン工場敷地にあるのは晩年の支援者だったからなのですね。車で行ったので「箱」で買いました。
欧州駐在@私もReimsに行きました
2011/11/28 17:37
”格付業者の判断に自分の投資をゆだねるのはやっぱりやめたほうがよさそうに思います”

全く同感です。
で、今日の日経のマーケット面に”「国債の格付けは信頼できない」と回答した債券担当者4割”という記事がありましたが、それはいいとしても、投資家の59%は信用力の判断材料がCDSスプレッド???
あんなヒステリックなマーケットを判断材料にしてて大丈夫なのでしょうか…まぁ、スプレッドがこれ以上開いたら機械的に売却ねーとかいうことなのでしょうけど、それだともっと性質が悪いような気もします。
みほのぶるぼん
2011/11/30 00:11
欧州駐在・・・さんどうもです。ワタクシは藤田礼拝堂は体調を崩していけなかったのが残念です(ってただ酔っ払っていただけですが)。

みほのぶるぼんさん、どうもです。おっしゃる通りCDSを参考にするのはともかく、なにかの行動基準とするのはマクロベースのリスク管理という観点からもあまり感心しないので、この辺は公的なところがもう少ししゃしゃり出てもいいのではないかと思っています。
厭債害債
2011/11/30 06:10
記事には関係のない話なんですが、
勝手に私のブログでこちらを紹介してしまいました。
支障があれば訂正しますので、
遠慮なく、おっしゃってください。m(_ _)m

http://blog.livedoor.jp/mushoku2006/archives/51029932.html
mushoku2006
2011/12/03 16:00
そうですね。ソブリンはソブリンなので、民営化してはいかねいのです。アホな方はなんでも民営化して市場リスクにさらせば、なんでもよくなるとかゆう神話で信じて、8割方失敗ですね。なぜか、1そもそも市場では失敗する可能性が高い分野でやっているものを、無理やり民営化ってアホじゃないですか。市場は失敗するもの。それを補う意味で公的な介入がゆるされるって、政策論の根本ですよね。
かる
2011/12/03 22:45
あと格付けを7段階さげるような、アホな格ずけに数字的な定量的意味はないので、みなさん気にせず、BBとBの違いをちゃんと説明できる人はいないので、シングルaマイナスとシングルaの財務的な違いを定量的に説明できる人は多分いないでしょう。
かる
2011/12/03 22:51
あと、もうひとつ格付けがだめな理由は、財務的な要素でなく、ソブリン物の勝手格付けに対して、公的債務がどうとかいう、きわめて不確実性の高い要素を入れてしまったことです。米国債は30年債ですが、そのころの財務状況を語ること自体おかしいし、JGBでもはたして破たんすることが、その政権政党の政策に依存しているわけで、かつ自国通貨でファイナンスできる以上その国の国債はすべてAAAですよね。
karu
2011/12/03 23:25
mushoku2006さん、どうもです。ブログでお取り上げいただき恐縮です。当方はリンクフリーとしておりますので、全く何の支障もありませんし、くだらない内容でも多少なにかのお役にたてればと。

かるさん、どうもです。今回のケースは欧州域内での規制が絡んでくるので、ノルウェー政府としてもある程度はやむを得ない決断だったかもしれません(組織単体をみれば民営化というよりは廃止に近い)。格付けが実質的に「使えない」理由はおっしゃる通りかと思いますが、いずれにしてもこれからは規制面でももっと使いづらくなるような気がします。今回の欧州をめぐる一連の流れの中で格付けが投資側の規制に取り込まれていることの問題点が浮き彫りになったような気がします。
厭債害債
2011/12/04 07:53
はじめまして。DNBとノルウェー政府合わせて55%というところで、ご存知かもしれませんが、正確には、DNB BANKがEKSPORT株を40% 持っていて、DNB BANKの持株会社であるDNBの筆頭株主はノルウェー政府(30%強の持分)なので、そのように表記されているものかと思われます。ご参考までに。
deracinewalker
2011/12/08 23:05
 あー、ここってダイヤモンドな外資合弁プライベート証券がガンガン営業掛けてきて、虎の子定期をあらかた吸い上げていった商品ですね。
 いやぁこないだ担当が電話口で配当ありませんと冷や汗だか脂汗だか垂らして言い訳してくれるのを聞いてため息ついてたんですが、これではあの担当さんは次回の連絡くれますかねえ。夜逃げしてなけりゃいいですが。

 最近、その担当を連れてきた銀行支店長と営業担当は電話かけても捕まりません。まぁ買値の3割は消滅したのでそれ以上被害が大きくならないことを祈ってますが......
まるふう
2011/12/14 14:28

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