個人資産が1500兆円もある「資産大国・日本」だからこそ、資産課税はおいしい。仮に税率を1%にしても税収は15兆円になり、所得税収入(約13・5兆円)を軽く上回る。口を開けば増税しか叫ばないオウムと化した野田政権にとっては、いますぐにでも手をつけたい税制だとわかるだろう。
もちろん消費税を増税されたうえ、隅から隅まで資産に課税されるのだから国民にしたらたまったものではない。しかも、資産課税が強化されると日本経済全体にこんな悪影響が及ぶ可能性もある。
一橋大学准教授の小黒一正氏が言う。
「特に預金や有価証券に課税することで悪影響が出てきます。まず、現金を持っていない人は保有資産を売って現金化したうえで納税しなくてはいけないから、株などの有価証券が次々に売られることが懸念されます。さらに税金をとられないようにタンス預金などが増えると、銀行が持つ『貸し出しを通じて経済を良くする効果』が機能しなくなり、資金調達に支障が出た企業の生産性が落ち込む事態もありうる。そうなれば結果的に税収も減ってしまうことになる」
香港に資産を逃がす富裕層
慶應大学教授の深尾光洋氏もこう指摘する。
「財政赤字がここまで膨れ上がった現状で預金などの資産課税を強化すると、消費が活性化してデフレは解消されるが、それが金利の上昇をもたらす恐れがある。国債利払い費も増加し、財政負担がいまよりきつくなり、財政破綻の恐れも出てきてしまうのです」
事実、不動産税の復活など資産課税を強化するイタリアでは直近の二四半期でGDPがマイナス成長になり景気後退局面に突入、2020年夏のオリンピックにローマが候補地として立候補していたが、「それどころではない」と断念した。財政再建のために課税するのに、税収減や財政破綻懸念を招いてしまっては元も子もない。
それだけではない。日本総研理事の湯元健治氏が危惧するのは「スウェーデンの悲劇」だ。
「かつてスウェーデンではおカネ持ちの資産に税金をかける富裕税というものがありました。これを不満に思った富豪たちは金融資産を税金の安い海外に移した。結果、税収はちっとも増えず、政府は富裕税自体を廃止することになった。
日本でも個人金融資産に1%課税するだけで15兆円もの税収になると言われているが、実際はそうはならない。課税対象になる不動産を売り払ったりして、資産を海外に移動させる富裕層が増える恐れがある」
ドイツ、アイルランド、オランダなどでも同様の理由で富裕税を廃止してきた歴史があることは見逃せない。
そしてすでに日本では資産課税を見越して、海外に〝資産フライト(逃避)〟させる富裕層が急増しているのだ。
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