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(42時間32分前に更新) |
太平洋戦争末期の沖縄戦で首里城地下に構築された日本陸軍・第32軍司令部壕の入り口に、県が来月設置する予定の説明板から「慰安婦」と「日本軍による住民虐殺」の文言を削除したことが分かった。同司令部壕の慰安婦と住民虐殺について「相反するいろんな意見があり、確認されていない」(仲井真弘多知事)というのが削除の理由だ。
県は慰安婦と住民虐殺について多くの証言があることは事実と認めながら、「ない」という証言もあり、行政対応のバランス上、削除を決めたと説明している。行政バランスを根拠に削除するやり方に説得力があるだろうか。
削除のプロセスも不透明で、釈然としない。
県は昨年10月に有識者ら5人で構成する説明板に関する検討委員会を設置。同年11月に最終案を作成した。池田榮史委員長(琉球大教授)によると、県側から異論は出なかったが、2月半ばを過ぎて突然、担当職員から削除するとの連絡を受けたという。
この間に何があったのか。これでは何のために検討委員会を設置したのか分からない。「最終的に判断した」知事には、検討委員会の最終案から削除に至るまでの経緯を説明する責任がある。
削除されたのは説明文のうち、「…総勢1000人余の将兵や県出身の軍属・学徒、女性軍属・慰安婦などが雑居…」の中から慰安婦を削除、「司令部壕周辺では、日本軍に『スパイ視』された沖縄住民の虐殺などもおこりました」を全文削除した。
検討委員会委員の村上有慶沖縄平和ネットワーク代表世話人は、県の担当者の説明から「沖縄戦を美化しようという勢力からのクレームが来たからというニュアンスを強く感じた」と語っている。県には説明板の最終案に対し、内外からメールや電話、ファクスで82件の抗議・意見が寄せられたという。
今回の県の削除には既視感が伴う。「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題である。文部科学省は2006年度の高校歴史教科書検定で集団自決について日本軍強制の記述を削除した。その際理由に挙げていたのが「集団自決」訴訟が係争中で、結論が出ていないからというものだった。あのときも外部からの強い圧力があった。
県は4カ国語表記のため字数に制約があることも要因に挙げているが、逆に説明を尽くす工夫を凝らすべきだ。
検討委員会は、削除の撤回を求める意見書を県に提出した。司令部壕内の辻遊郭を中心とした女性たちの存在や、住民虐殺を記述した各種書籍・資料がある。検討委員会にはこれらを具体的につまびらかにしてもらいたい。
問題なし、として最終案を受け取りながら一方的に削除を告げる県の姿勢はやはりおかしい。検討委員会の「異議申し立て」は当然だ。
研究者から最前線の成果を聴取する方法もある。平和教育・学習が目的である。県は削除を急ぐのではなく、資料や証言を基に歴史的事実を検証して対処すべきだ。記録なくして記憶のリレーはない。