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鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
脳機能科学者・苫米地英人さん VS
「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
(2010年01月号)


心と身体を一体のものとして考える医療――そこに新たな地平が開かれる
治ったあとに自分が活躍している世界、それをゴールにする

健常な身体に洗脳すれば患者さんは健常な身体に

写真:苫米地さんと鎌田さん

鎌田 洗脳・脱洗脳の手法は、がん患者さんに使えますか。

苫米地 間違いなく使えますね。私もアメリカのいろんな病院で基礎研究をやってきましたから、医療の分野でさまざまなイメージ療法が行われていることは知っています。私の場合はイメージ療法というより、脳の話ですが、脳の情報処理が、がんだけではなく、身体の情報に圧倒的な影響を与えることは明らかです。その方法の1つが洗脳です。私たちや医師が、患者さんを健常な身体に洗脳してあげれば、患者さんは健常な身体になるしかありません。
問題はリアリティです。一方には病気という物理レベルのリアリティがあり、もう一方には治療する医師が与える情報レベルのリアリティがある。より強いのは、情報レベルのリアリティですよ。話は少しそれますが、アメリカに、現役をリタイアした人の平均余命は1年6カ月、という統計があります。

鎌田 ハッピーリタイアメントした人でも、そんなに短い!

苫米地 あくまで平均ですけどね。どうやら人間はゴールすると、身体が勝手に壊れるようにできているようです。

鎌田 そう言われて、思い浮かぶ人がいますね。

苫米地 一般論として、老人になって呆けるのは、定年退職が契機ですよ。従来、これまで一生懸命働いていた人が、定年退職して働かなくなるから呆ける、と言われてきました。最近、脳の研究でわかってきたのは、明らかに原因はコルチゾールというホルモンだということです。過剰なストレスによりコルチゾールが多量に分泌されたとき、脳の海馬を萎縮させることがわかっています。つまり、定年退職が強烈な自己喪失感をもたらし、大きなストレスを引き起こして、多量のコルチゾールを分泌させ、海馬を萎縮させることによって、呆けを誘発しているのです。

鎌田 海馬が萎縮すると、記憶力も衰える。

情報空間にゴールをつくるとゴール達成まで呆けない

苫米地 呆けの第1段は記憶を失うことから始まります。それから、最近、もう1つ、脳のカラクリでわかってきたことは、私たちの目の前の認識は記憶から成り立っているということです。逆に言えば、私たちの脳の情報処理能力は半端なくすごい。脳は生体の中の半分のエネルギーを使っています。ある程度回転すると、7割のエネルギーを使いますが、それでも脳は1パーセント程度のアイドリング状態です。生命体の流れとして、人間の脳はとてつもなく進化しています。その脳をフル回転させようとすると、莫大なエネルギーを使いますから、エネルギー供給ができなくなって、人間は“餓死”してしまいます。人間の胃腸は、脳にそれだけのエネルギーを供給する能力を持っていないのです。天才は5年、10年に1度、それができる。

鎌田 それはダイエットしていると、脳が働きづらくなる、ということと同じですね。

苫米地 同じです。また、逆に、太っている人は脳をあまり使っていないんです。

鎌田 脳を使っている人は太れない。

苫米地 そういうことです。ただ、脳を使っているようで、使っていないケースが少なくありません。というのは、私たちは記憶でものを見ているからです。実は、新しいものは何も見ていない。見ている気になっているだけです。その証拠に、自分の腕時計の絵を正確に書ける人は、1人もいません。時計の文字盤がアラビア数字なのか、ローマ数字なのか、思い出せないんですよ。
それが何を意味しているかと言えば、私たちは、昨日までの日常で今日がある、ということです。通常、生命体は現状維持をゴールとしています。そうであるならば、本来、明日は要らないのです。次の世代が生まれた瞬間に死んでもいい。実際、そういう生命体が多い。孫が生まれるまで生きているのは、人間ぐらいです。

鎌田 言われてみると、たしかにそうですね。

苫米地 人間でも動物と同じでいい人は、孫が生まれる前にちゃんと死ぬんですよ。動物と同じでない人というのは、物理世界の現状維持がゴールではなく、情報空間に対して何らかの現状がつくれた人です。先ほどから申し上げているように、それを私たちはゴールと言うわけです。情報空間にゴールをつくった人は、そのゴールが達成されるまでは、新しいものが見えますから、呆けないのです。

治癒後の活躍をリアルに感じることが治癒に直結

鎌田 リタイアメントしても、何か違うゴールを持てばいい。

苫米地 そう。ゴールを持たなきゃ、1年半で死にますよ。まだ明確にはわかっていませんが、脳と細胞は直接的に関連しているんですよ。

鎌田 錯覚でもいいから、人間が生きていくためには、夢、ゴールが必要なんですね。

苫米地 あとはリアリティの問題です。ゴールには臨場感が必要です。たとえば、戦争のない世界がゴールだとすると、パーソナルな生活空間では、なかなか臨場感を持てません。しかし、戦争のない世界をつくるために、自分は日常生活においてこういう生き方をしていこう、ということであれば、臨場感が出てきます。ですから、ゴールは現状とかけ離れていてもいい。むしろかけ離れていたほうがいいのです。それにリアリティが持てれば、長生きするしかなくなるのです。私たちはコンフォートゾーンと言いますが、居心地のいい空間を現状の外に置いたほうがいい。達成の仕方がわかるようなゴールは、むしろ危ない。社長になるというゴールではダメですよ(笑)。

鎌田 たとえば、胃がん患者さんが主治医から、「完治の可能性は20パーセントです」と言われたとします。患者さんは、治って職場に戻りたい、家族のためにもうひと働きしたい、と思うわけですが、その場合のゴールはどう持てばいいのですか。

苫米地 その場合、治りたいというのが最低限必要なコンフォートゾーンになると思います。治りたいというのはゴールではありません。治るのは当たり前で、治ったあとに何か活躍している世界、それをゴールにする。パイロットになりたい。スチュワーデスになりたい。何でもいいのですが、それをリアルに感じることが大切です。しかも、それがあたかも、いま現実に起きているようにリアルに感じることです。イメージ療法は細胞レベルで治っていることをイメージするものですが、こちらは身体レベルでイメージする、イメージ療法の生体版です。

鎌田 ぼくは戦争のない世界を目指して、イラクの4つの病院に、この5年間に2億4000万円の支援をしてきました。8月末にイラクの50度の砂漠にある難民キャンプに子どもたちの診療に行って来ました。コンフォートゾーンという快適空間は、はるかに、手の届きにくそうなところにあるので、ぼくの夢はすぐに実現しそうにない。だから、ぼくは忙しいけど、元気なのかもしれない。元気が出るための目標の設定の仕方がわかりました。



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