児童文学を翻訳してみよう児童文学を翻訳してみよう
LESSON
例1 Grandpa George: 1/ The kids who’ll find the Golden Tickets can afford to buy candy bars every day. (18)

2/ Our Charlie gets only one a year. He doesn’t have a chance. (14)
Grandma Josephine: 3/ Everyone has a chance, Charlie. (9)
「チャーリーとチョコレート工場」

これは『チャーリーとチョコレート工場』に出てくるシビアなジョージおじいちゃんと、優しいジョゼフィーンおばあちゃんの会話です。世界中で売られている板チョコの「ウォンカ・バー」に5枚だけ金のチケットが入っていて、当たった子供はウィリー・ウォンカの世界最大のチョコレート工場に招待されるというので、世間が大騒ぎになるのですが、チャーリーの家は貧しくて1年に1度、誕生日にしかチョコを買ってもらえません。そこでジョージおじいちゃんとジョゼフィーンおばあちゃんの間で、こんな会話が交わされるのです。
字幕翻訳で一番厄介なルールは字数制限です。通常はセリフ1秒間につき4文字まで、1行12~14文字×2行が1枚の字幕に書ける文字数です。ですから字幕翻訳をする時には、まず最初に「ハコ切り」(「ハコ書き」とも言います)といって、セリフのどこまでを1枚の字幕にするか、字幕を出すタイミングを考えながらスクリプト(英語台本)のセリフを斜線で区切っていきます。そして頭から通し番号を振って、各セリフの時間を計り何文字で訳せばいいか文字数を割り出します。その上で翻訳に取りかかります。上の英文についている数字と斜線はハコ切りしてから振った字幕番号です。そして文末の( )内の数字は制限文字数、つまりこの文字数以内で訳さねばなりません。

では上の英文を普通に訳してみましょう

1/ 金のチケットを見つけるのは、毎日、板チョコを買ってもらえるような子供たちじゃよ。

2/ うちのチャーリーが買ってもらえるのは1年に1枚だけ。当たるチャンスはない。

3/ みんなにチャンスはあるわ、チャーリー。

これを制限文字数以内で訳すとどうなるでしょう?

1/ 板チョコを毎日 買える子が当たるんだ

2/ 年に一度きりじゃ望みはない

3/ チャンスは平等よ

このように字幕ではムダをぎりぎりまでそぎ落として制限文字数以内に収めます。何を言っているのか、何を伝えたいのかを的確に把握して、それを簡潔に表現しなければなりません。「みんなにある」というのは「平等」だということですよね。こうしたちょっとした頭の切り替えも必要になります。

ポイント

制限文字数以内で簡潔に表現する!

例2

"I’m so full."

「ラーメンガール」

これは『ラーメンガール』に出てくるセリフです。西田敏行さん扮するラーメン店のおやじに、アメリカから来た女性、アビーが弟子入りして繰り広げる涙と笑いの修行生活を描いた作品で、見終わったあと心がほんわか温かくなります。残念なことにアビーを演じたブリタニー・マーフィーは若くして亡くなりましたが、映画の中にはキュートなブリタニーが今も生きています。
普通に訳せば「もうお腹がいっぱいで、これ以上何も入らない」
字幕だとこれを4文字で表現しなければなりません。そこで、こうなります。

訳例  もう満腹

日常の会話で「満腹」という言葉を使うことはまずないでしょう。時代劇なら「余は満腹じゃ」とのたまう殿もいるかもしれませんが、普通にしゃべれば「お腹いっぱいで苦しいよう」となるところでしょう。字幕は目で読むもので耳から聞くわけではありません。それに、しゃべり言葉はとかく長くなりがちです。ですから目からパッと情報が入るような熟語や書き言葉を使う必要があるのです。

ポイント

字幕は読むもの!

今日は簡単に字幕翻訳のポイントをお話ししました。限られた文字数の中で、どうすれば原作どおり観ている人にわかる日本語にできるか。字幕翻訳者は「どうすれば短く的確な表現ができるか」、常に頭を悩ませています。字幕は目で読むものであるということもあわせて、ただ短くするのではなく、できるだけ情報を残しつつ簡潔でわかりやすく書くもの。字幕翻訳は、訳すという本来の作業の一方で、言葉遊び、パズルにも似ている点があると言えるでしょう。映画やTVドラマが大好きという方、ぜひトライしてみませんか?