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『』内の言葉は主に中国語です。
9.四神とご対面です!
 晩餐会などと言われたからといって気軽に考えてはいけない。なにせそれは皇帝によって催されるものである。
 香子の大方の予想通り、扉の向こうに広がったのは大広間だった。直線距離の段差の上に玉座が見え、その一段下の横に一回り小さな椅子が置かれている。椅子といっても豪奢なものだからあれは皇后の席なのだろう。
 促されるままに扉の内側に足を踏み入れると、宦官と思しき男性に席を案内された。
 段差の一番下、皇后の側に置かれた贅沢な椅子の前に立つと、
『白香娘娘、千歳千歳千千歳!』
 と広間の脇に控えていた人々が合唱した。びっくりしてその場に立ちすくむ。
 これは皇帝やその家族に対する国民からの挨拶と言っても過言ではない。何故香子にそのような挨拶を向けられるのかわからなくて戸惑うことしかできない。
 いつのまにか脇に控えていた先ほどの男性が『かまわぬ、とおっしゃってください』と低い声で告げた。
『……かまわぬ』
『娘娘、ありがとうございます!』
 そう言って人々は拱手を解いた。
 皇帝は万歳、であり、その臣下に当たる家族や連なる者には千歳という言い方をする。
(なんでこんなことに……)
 頭を痛めていると音楽が鳴り、反対側の扉から皇帝が入ってきた。その後ろには着飾った女性の姿がある。
『皇帝陛下、万歳万歳万々歳!』
 というお決まりの挨拶があり、その後で『皇后陛下、千歳千歳千千歳!』という挨拶があった。
 やはり後ろから伴ってやってきた女性は皇后だったらしい。
 一通りの挨拶が済むと『どうぞおかけになってください』と男性に言われ、香子は椅子に腰かけた。
(そういえば四神ってどこだろう……?)
 と視線を巡らすと、広間を挟んだ向かいに派手な髪色をした男性たちの姿が目に入った。
『こたびは四神の花嫁を迎えまことにめでたいことである。今宵は無礼講にて好きに談笑するがよかろう』
 皇帝の言葉に場内が湧く。けれどやはり節度というものがあるらしく香子よりも向こうに並んでいる女性たちの方にも誰もやってくる気配はなかった。そこで女性たちの立場に気付く。
(こ、これがいわゆる後宮の方々というのでわっ……!?)
 皇帝の寵を競い合うように着飾った女性たちは皇帝を熱い眼差しで見つめている。中にはその横に並ぶ皇后を睨んでいる者もいた。
(こ、こわいっ! キレイなのにこわすぎるっ!)
 香子が目の前に置かれた料理に手をつける余裕もなく引いていると、いきなり目の前に赤い長髪の美丈夫が現れた。
『そなたが異世界から来た娘か。染めているようだが、赤が好きなのか?』
 耳に心地よい声で話しかけられ香子は面食らった。
『は、はい。赤は好きです……』
 そう答えると美丈夫は嬉しそうに笑んだ。
 なんでこんな格好いい男性が香子に声をかけてくるのだろう。心当たりがなくて戸惑っているとまた後ろから、
『朱雀様にございます』
 と教えられた。
『ええっ!?』
『こちらにおいで。皆に紹介しよう』
 香子が驚いている間に美丈夫―朱雀は香子を軽々と抱き上げると飛ぶように広間の向かいの一角へ戻った。
『わぁ……』
 近くで見れば皆惚れ惚れするような美丈夫である。緑の髪をしているのは青龍、白い髪は白虎、黒い髪はおそらく玄武だろう。
(竜と鳥と虎と亀の姿で来られなくてよかった……)
 ちょっとピントのずれたことでほっとしていると、朱雀が頬に口づけてきた。
『なっ、なっ、なんでっ!?』
 びっくりしていつのまにか腰かけてる朱雀の膝から下りようとするが、彼はにこにこしながら全く下ろしてくれる気配がない。
『名はなんという?』
 さすが神様、全然人の話を聞いてない。
 ここで香子は一瞬逡巡した。神様相手に嘘が通用するだろうか。けれど周りの意識は全てこの一角に向いているような気がして、やはり香子は最初に名乗った通りの名を言うことにした。
『白香と申します』
 そう言うと朱雀の目が楽しそうに丸くなった。
『ふうん?』
『……そうか』
『…………』
『白香、たいへんであろうがよろしく頼む』
 四神四様の反応に冷汗をかく。ちなみに上から朱雀、白虎、青龍、玄武の応えだ。
(うわーん、やっぱりこの人たちわかってるよ!)
 朱雀に必要以上のスキンシップを受けながら香子は泣きそうになった。
設定等:

四神

青龍(中国の伝説上の神獣、四龍の一つ。緑色の龍。東方を守護する)
朱雀(翼を広げた鳳凰状の鳥形。南方を守護する)
白虎(細長い体をした白い虎の形。西方を守護する)
玄武(蛇のからみついた亀の姿。北方を守護する)
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