68.髪の色はどうしましょう
玄武と白虎は困ったような顔をして押し黙った。
香子の言い分は間違っていないのだろうが、言う通りにするのは難しいのかもしれない。
『……できるだけ努力しよう』
しばらく経ってから玄武が答える。
ここまで答えるのに時間がかかるということは余程のことなのだろう。
(ある程度は妥協しないといけないのかしら……)
香子は諦めに似た気持ちで、『お願いします』と言った。
頭を下げた拍子に自分の赤い後れ毛が目に入る。
(……あ……)
そういえば髪の色をどうするかについて侍女たちに聞かれていたことを思い出した。
『ええと、話変わるんですけどいいですか?』
また忘れないうちに聞いておいた方がいいだろうと二神を見る。彼らは一様に頷いた。
『実は私の髪の色のことなんですけど……』
染めているということは前述したが、染めたのが半月以上も前なので元の色が出てきていること。このまま髪が伸びると黒と赤で頭がみっともないことになる為、改めて黒く染めてしまうか、それとも赤で染め続けてもいいのかどうかということを聞いてみた。
二神は顔を見合わせた。
『我はどちらでも構わぬが……香子はどうしたいのだ?』
『赤い髪というのはなかなか新鮮だ。このまま染め続けてもかまわぬと思うが?』
玄武と白虎らしい返事である。
香子は眉間に皺を寄せた。これは朱雀と青龍にも聞いた方がいいだろうか。
あのまま無事日本に帰国していれば就職活動の為に落ち着いた髪色に染め替えていたはずである。実際のところこの赤い髪は親には不評だった。
赤といっても途中迷走して紫がかった赤になったりピンクがかった赤になったりといろいろだったから仕方ない。今はどちらかといえばワインレッドと言って差し支えのない色味である。
(黒に戻すのもなんかもったいないんだよねぇ……)
そうは言っても染めるには染料が必要である。その染料が皮膚に合うかどうかというのも重要なポイントだった。
『決めかねるのでしたら、朱雀様と青龍様にもお声掛けしましょうか?』
白雲に提案され、香子は一も二もなく飛びついた。白雲は柔らかく笑んで『少々お待ち下さい』と白虎の室を出ていった。
大きい茶壺にお湯を足しお茶を入れながら、そういえば黒月はどうしているのだろうと考える。黒月は玄武の眷族だが一応朱雀預かりになっている。せっかくここまでやって来たのに自分の主の世話をできないというのもどうなのだろうか。
(ま、顔を合わせないにこしたことはないんだけどね)
今は自分のことで精いっぱいなので黒月については落ち着いてからにしよう。
もし玄武の領地に着いて行く場合、少しは意志の疎通が必要である。
(嫁いだ先で玄武様以外頼れないんじゃまいっちゃうし……)
まだ先のことではあるがそう考えると少しだけ気が重かった。
『白雲、戻りました』
やがて表から声がした。
『入れ』という白虎の声に扉が開かれ、朱雀と青龍が入ってくる。室に呼びに行ったにしては随分早いなと香子は思った。
朱雀と青龍は香子の様子を見て、何故かほっとしたような表情をした。それに二神が自分のことを案じてくれていたということを理解する。できるだけ香子の意に沿うようにしてくれているのがなんだか申し訳なかった。
『髪の色のことであったか』
朱雀に声をかけられて頷く。
『我としては赤いままでいてくれた方が好ましいが』
朱雀がにっこりして言う。そういえばそれで一番最初に攫われたような気がする。青龍を見やると、
『我はどちらでも構わぬ』
という答えが返ってきた。
『どちらにしろ染め替える必要はあるんですけど、こちらの染料が肌に合うかも問題なんですよね』
考えるように視線を上に向けて言うと、
『我と同じ髪色にするつもりがあるなら、恒久的に変えてしまう方法はないこともないが』
朱雀が思いもかけないことを言った。
『えっ!?』
そんな方法があるのかと香子は朱雀を見る。すると朱雀は人の悪い笑みを浮かべて言った。

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