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20
2010
07
07
ベクトル解析[3] - スカラー線積分と経路
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数学
ベクトル解析
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そろそろ始めてから 10 日目になりそうですが、いよいよベクトル積分に入ります。基本的にここでは自分の気になった話題 (計算や理論を理解するのに苦労したところ) しか掲載していないので、初学者として落とし穴にはまってしまった部分だけをどこまでも突き詰めて解明していく、そんな執念がこのサイトには詰まっています。というわけで連番にはなっていますが、全てのことをこのサイトで網羅することを試みているわけではありませんので (第一ここは私のメモ帳)、本気で学習したい人はちゃんとした本を買いましょう。
(スカラー) 線積分の記号的な定義
上記のような形をしている積分を、スカラー線積分といいます。これを単に線積分 (Line integral) ともいいます。積分と言えば始点・終点がつきものなのに、左下に C としか書いてないのは何事かといった感じですが、これは積分経路を表します。一般に、スカラー線積分は積分経路に依存しますので、インテグラルは一本ですが同じ積分でも通常の積分のように始点と終点の座標だけ書けば OK というわけではないのです。
線積分とは何者なのか
しかし、一般には経路依存だなんて言われても、そもそも、これが実際にはどのような具体例で表現されるかも不明瞭なので、全くイメージがわきません。これは一例にすぎませんが、高校物理、もっといえば中学の理科で、"仕事" というものを習いました。仕事は、力を加えて物体を動かしたとき、 (力の動かした方向への有効成分)×(動かした距離) で定義される量のことでした。中学理科では、単に直線上を動かした場合なので、力を F、距離を s とすれば Fs、高校では単に直線上ではなくななめに力をかけた場合などの仕事を問題にしたため、動かした方向と実際に加えた力との角度を θ とすれば、Fscosθ として定義されていましたが、これはよく見れば内積によってと書くこともできるわけです。
しかし、世の中物体を一直線で動かしたい場合だけが全てではなく・・・おそらくその方がずっと特殊です。本当は、複雑な曲線に沿って動かしたいことの方が多いでしょう。となると、もはや上の知識だけでは仕事が求められないわけです。
ただ、今までやってきた微分積分学の知識によれば、曲線だってごく間近で見たら曲がりを考慮しなくてもいいんです。ようするに曲線だって十分問題の点に近い拡大率で見れば、直線で見てもよいということです。これは Taylor 展開や全微分等、微積分学で非常に重要な概念の根底にもなっていることでした。そういうわけで、ごく至近距離において見ると、どんな複雑な経路で仕事を取ろうが、その小さな区間では
という関係がやはり成り立ちます。ただし、この場合の s ベクトルは、ごく微小距離における、微小要素ベクトルをさします。このへんで何がしたいのか見えてきたかもしれませんが、一般の複雑な経路における仕事を求めるには、「小さい区間なら曲線だって直線のように見える。ならその細切れの区間で上の定義を使って仕事を集計してやればいいんだ」というアイデアに基づいて計算してみよう、ということです。
ここで、微小線素ベクトルを Δr ベクトルという微小量で表現すれば、仕事 W は
ということになります (添え字などは面倒なので省略)。ここで、分割を無限に細かくすれば、Δr ベクトルは dr ベクトルへと姿を変え、つまり
という定義になります。そもそも仕事もあまりイメージしやすい概念ではないかもしれませんが、物理的には仕事を求めるときにこの線積分が登場する、ということになります。もはやここに面積や体積といった意味はありません。積分とは、面積・体積のイメージが微分積分学によって染みついてしまったかもしれませんが、Riemann 和という概念もあったように、積分を特定量の総和の極限としてとらえると、理解が進むのではないかと思っています。
このことから、線積分は始点終点が同じでも、結局足し合わせなのだから経路が延びたらそれだけ値も変わってくるというのはすぐに想像できます。しかし実は、線積分は経路に依存する場合とどんな経路をとっても始点終点だけしか問題にならない 2 つの場合に分かれます。これは最後の方で記述します。
線積分の計算方法
おおよその具体例が定まったところで、これはどうやって計算すればいいのでしょうか。それは微小線素ベクトルと f を具体的に定義通り内積を取れば計算できます。つまり、なので、
となります。これでもう計算できる、と思うかもしれませんが、実は計算できません。f の各要素は一般に 3 変数関数であるのと、経路が複雑であるため、簡単に各要素の積分というわけにはいかないのです。たとえば x の積分なら x だけがしかも直線上に動いていくというのであれば今までの手法で積分計算できますが、この場合 x も y も z も経路 C に沿って複雑に変化します。
定義上ならば計算はここでおしまい (これ以上何もできない) ですが、通常経路 C は媒介変数で表せるような経路となっています (複雑な経路だって分割すれば局所的には媒介変数で表せますしね)。すなわち、
です。この定義に従えば、微小線素ベクトル dr は、
ですから、dx, dy, dz で表された微小線素ベクトルが dt のみで表されることになります。つまり、
なので、この内積 f・dr を計算すると事実上の 1 変数関数の積分に持って行くことができます。(C は a → b でその曲線を描くのだから、積分範囲はもう普通に t に関する積分なので a → b とすればいいだけ)
となります。これはただの 1 変数関数の積分なので、これで線積分もようやく具体的に計算できるというわけですね。ですが、こんなものを文字で追っていても何をやってるかさっぱりつかめないので、とりあえず手順に沿ってやってみることが大事です。次に簡単な計算例で実際に線積分を計算します。覚えるべきなのは、1000% 上の公式そのものではなく、線積分の概念と、この導出手順です。
例題でみる経路に依存する線積分の例
最も基本的な線積分の例です (なぜか変換ミスで径路になりましたが正しくは経路です)。まず、直線経路なので、すぐに媒介変数 t によって経路を
とおきかえられます。いうまでもなくこれは dx=dy=dz=dt ですね・・・。また、x, y, z も全部 t で置き換えられるので、結局
ですから、これにより線積分の値は
となります。
今度は始点終点が同じでも、違う経路を取らせてみます。
やり方は全く一緒です。
このように、始点、終点が同じなのに、経路によって値が全く異なるものとなってしまいます。なので、単にインテグラルの上下に始点終点さえ書いておけばいいわけではないため、経路は別途記載ということで C しか書いてないのも納得がいきます。
しかし、最初の方に書いたとおり、こういう綺麗な経路どころか手書きでめちゃくちゃな経路を書いても始点終点さえ同じなら値が同じになるような線積分が存在します。
例題でみる経路に依存しない線積分の例
次の線積分を求めたいとします。始点は (0,0,0) から (1,1,1) です。最初に直線経路をとってみましょう。
次に、さっきのわけのわからない経路をもう一回とってみましょう。
こんなに指数が大きいのに一致するはずがないのでは、と思ったら一致しました。
これは、偶然ではありません。ほかにどんな経路を取ろうがこの場合は 3/2 になります。いいかえれば、始点、終点が決まれば、経路によらず値が一定になります。このような線積分は始点終点が問題なのであって、経路は問題にはならないのです。
なぜ経路に依らない場合が存在するのか
では、2 つの例の間の違いは一体何なのでしょうか。これは先に答えを書いた方が見通しが良くなるので、答えもといここで一番大事なことを書いておきますと、ということです。[2] での話題も交えておくと、"ベクトル f にスカラーポテンシャルが存在するとき、その線積分は経路に無関係となる" です。スカラーポテンシャルの正確な定義は f=-∇φ なのですがそれは本質的な問題ではないので簡単のためここではマイナスを抜いてあります。ちゃんと定義したい場合はこれから出てくる式に全部マイナスをつけておけば同じことです。電磁気学において、"電界によって電荷が動くとき、その仕事は経路に依らない" というのも、このことに関係しています。E=-∇φ (φ は電位差) なので、電位差は電界のスカラーポテンシャルです。したがって電界にはスカラーポテンシャルが存在するためこの線積分は経路によらなくなります。
念のためなぜそうなるかを書いておきますが、まず、仮定より、
ですが、定義に従って展開していきます。
赤く囲った部分はまさに、φ の全微分の定義そのものです。したがって、
となります。これは心の底からうまいなあと感心するテクニックですね。すばらしいと思います。φ についての微分に切り替わったので、ようするに、"φ の値がどこからどこまで変化したか" にしか興味がなくなったわけです。なので、単純に始点終点の x, y, z 座標を持つ A 点から B 点までの積分でよくなり、経路 C が A 点から B 点までの任意の経路を示すとき、
でよくなりました。f がスカラーポテンシャルを持つときは f・dr がスカラーポテンシャルの全微分になるのでスカラーポテンシャルの始点終点に関する積分でよくなるんですね。
力学や、電磁気学においては、このような条件を満たす f を保存力といいます。もっとわかりやすく保存力を定義すると、curl f = 0 である場合 (curl grad φ = 0 なので一般には curl f = 0 であれば保存力であることが証明できる)、つまり、一般に、時間によらず、位置にのみ依存するような力は保存力です (curl grad f(r) = 0)。なので、電界もそうですし、フックの法則によるあのバネの力も、万有引力も、これらはみな保存力です。これらの力による仕事は全て経路によらず一定になるのです。
当然、始点終点が一致すれば、保存力の線積分は 0 になります。したがって、任意の閉路において、その閉路の周回線積分、つまり保存力の循環 (circ f) は、0 になります。
仕事という概念は統計力学にもあるし力学、電磁気学等広い方面にわたるため、物理学の様々な方面で周回線積分は 0 だとか、経路によらず一定だとかいう言葉を聞きますが、そもそも線積分の計算方法が分からない、しかも分からないなりに例題にあてはめて必死で計算したらなぜか経路ごとに値が違った、経路によらず一定というのは一体何?という風に涙目だった私もようやくこの辺のことが理解できるようになりました。ベクトル解析は偉大だと思います。
長くなりましたが今回はこの辺で。実はこの記事の概念を全て自分のものにするのには 3 日くらいかかりました。最初からこういう形で教科書が書いてあればすぐに分かったはずなのに、教科書は意地悪で、なぜかそういう風にはなってないんですね。まあ例題や演習書などを通して自分で気づけっていうことなのでしょう。それも学習のうちですか。
次は、面積分についても慣れたら最後にガウスの定理やストークスの定理についても同様の自分なりの見解を示して、終わりにしたいと思いますが、まだこれらは手をつけていないのであと 1 週間ほど時間が必要になりそうです。
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