大阪・ミナミの繁華街で、飲食店や風俗店の客引きが問題化している。不況で客足が落ちていることから客引きに頼る店が増えてきたらしい。しつこい付きまといなどもあり、所管する大阪府警南署には昨夏以降1000件を超える苦情が寄せられた。客を連れて行った店からマージンを取る客引き専門業者も登場。地元商店主らは3月の歓送迎会シーズンを前に、パトロールを強化して違法な客引き対策に乗り出した。【武内彩】
南署によると、ミナミの中心街にある戎橋周辺だけでも多い時で、客引きは専門業者のアルバイトを含め50人ほどいるという。数十店分のメニューを持ち、通行人に次々に声を掛ける。数十メートル付きまとったり、メニューを目の前に広げて通行人を足止めすることも。商店主らの意向を受けて調査を始めた南署への苦情や相談は、昨年7月~今年1月で計1135件あった。
風営法は風俗店の客引きを禁止。飲食店も午前0時以降は客引き行為はできない。府迷惑防止条例では、業種や時間に関係なく、通行人への付きまといや進路妨害など悪質な客引きを禁じている。
客引き業者によると、完全歩合制で、客が店に支払った代金の2割程度を受け取る場合が多いという。このため、しつこい声かけや、違法となる午前0時以降の客引きにつながっているとみられる。
今月12日には、ミナミのガールズバーで働く公立高3年の女子生徒が店で飲酒後に死亡する問題も起きた。女子生徒は男性客相手に飲酒したり、客引きをしていたという。
地元商店主らによると、人通りの少ない通りやビル上階にある店が客引き業者に依頼することが多いという。商店主の一人は、「客引き業者に払うマージンの分、料理やサービスの質が悪いはず。このままでは安物の街になる」と危惧する。
商店主らでつくる「大宝(だいほう)自治連合会」は昨年末に店への「改善依頼書」を作った。違法な客引きを見つけると、担当する店舗名を記入させ、店側に中止を求めている。これまでに延べ約100店舗に改善を求め、南署にも店名を報告したという。南署は「悪質な客引きはミナミのイメージダウンにつながる。あらゆる知恵を絞って、検挙したい」としている。
ミナミの繁華街は2月中旬の寒さの中でもにぎわいは変わらない。午後8時半ごろ、記者が歩くと、「居酒屋どうですか」と、黒色エプロン姿の茶髪の若い男性が、厚さ5センチほどのメニューの束を手に近づいてきた。
記者が「鶏料理が食べたい」と言うと、男性は「ええ、トリですか?」と一瞬困った様子だったが、携帯電話で店に空席を確認し、雑居ビル5階の居酒屋に案内した。「この店でもトリは食べられますよ」。この店を最初から薦めたかったようだ。
彼は「外で立ちっぱなしで仕事は厳しい。完全歩合制だが、うまくやれば月に40万円は稼げる」と笑顔で話した。紹介した客の飲食代金の20%が業者に支払われる仕組みだという。
居酒屋の店員は「お客さんの半分は客引きが連れて来るんです」と打ち明け、帰り際には「次は客引きを通さずに来てくださいよ。10%割引しますから」と持ち掛けてきた。
客引きができないはずの午前0時過ぎ、黒色エプロン姿の別の男性に出会った。茶色の長髪でピアスを付け、私立大に通っているという。「アルバイトで始めたばかりで月に10万円も稼げないが、お客さんと話すのは勉強になる。午前3時ごろまではやりますよ」と屈託がない。
この日は平日にもかかわらず、午前1時を過ぎても客引きの姿が絶えなかった。未成年にしか見えない少女が千鳥足の男性をガールズバーに誘う姿が印象的だった。
毎日新聞 2012年2月25日 12時40分
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