2012年2月25日03時00分
テレビの人気犬の声帯手術をめぐって起きた議論。ペットの立場になって考えると……。
声帯を切除する手術を受けてかすれた声しか出ないことが明らかになった、日本テレビの情報番組「ZIP!」に出演する「ZIPPEI(ジッペイ)」。サモエド種の2匹の兄弟犬で、週替わりで交互に「ジッペイ」を演じている。
「声を奪うなんてひどい」「避妊手術は良くて声帯はだめなのか」。ネット上では、こんな賛否両論の書き込みが相次いだ。
■環境省が撮影基準
農林水産省によると、ペットの声帯切除の手術は特に規制はなく「人間の自由診療と一緒」という位置づけだ。ペットにとって問題はないのか。日本動物愛護協会(東京)に尋ねると、考える材料として環境省が2004年に示した「展示動物の飼養及び保管に関する基準」を教えてくれた。
ここでは、テレビや映画での撮影を想定した動物の取り扱い方の基準も示し、動物の管理者らに対して「動物本来の生態及び習性に関して誤解を与えるおそれのある形態による撮影が行われないようにすること」と求めている。
今回のケースについて、同省は「声の出ない犬を意図的に使っていれば、この基準に違反する可能性もある」と言う。本来、自由にほえる犬の生態とはかけ離れた様子が、視聴者に伝えられるからだ。
では、日テレは、声が出ないジッペイを番組制作に都合の良い犬として評価して起用したのかどうか。また、環境省の見解をどう考えるか。朝日新聞は書面で同局に質問したが、評価した起用かどうかは回答せず、環境省の見解については「仮定の質問には回答しない」とした。
■「無駄ぼえ」理由に
この兄弟犬が登録している都内のプロダクションによると、2匹は番組へ出る前に「飼い主の事情で」手術を受けたのだという。
手術の理由の多くはペットの“無駄ぼえ”という。それがしつけで抑えられず、さらに集合住宅の場合などに飼育が困難になり、保健所で殺処分されるケースがあるという。
プロダクションの担当者は「殺処分よりは手術した方がずっといい。犬だってほえたつもりになっているので、ストレスはないはず」と主張する。
別の見方もある。動物の問題行動について研究する東京大大学院農学生命科学研究科の武内ゆかり准教授は「ストレスはゼロとは言い切れない」。例えば、ほえることによって犬は威嚇の効果を期待するが、その効果がなければ犬もストレスを感じる可能性がある。「『効果がない』と犬が学習すれば、攻撃行動に発展するおそれもある」と指摘する。
武内准教授はまた、「去勢や避妊の手術と比べて、声帯切除は対症療法でしかない」。なぜなら、手術後も「ほえたい」というモチベーションは残る。また将来、声帯が再生すれば再びほえ始める可能性が高い。
実際、声帯切除を行う動物病院は少なく、そもそも大学の獣医学部でも声帯手術の方法について詳しく教えるケースがあまりないのだという。
「できればしたくはないが……」。関東地方の動物病院で声帯切除の手術をしている獣医師が、手術を引き受けるようになったのもやはり、「殺処分よりは」という考えからだ。依頼は年間に10件足らず。「どうしてもやむを得ない事情というのがある」と話す。
■「しつけを尽くして」
日本動物愛護協会の吉野功事務局長も「殺処分するよりは、声帯切除という選択肢はあるかもしれない」と一定の理解は示す。しかし、こう続けた。「ほえるという犬本来の生態に手を入れるべきではない。まずは、しつけに手を尽くす、引っ越すなど、手術を回避できる方法に努力してほしい」(小田健司)