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焦点/漁船がない、注文殺到/宮城、1万2000隻大破・流失
 | 新船の建設が急ピッチで進む造船所。震災後、注文が増えている=2日、気仙沼市浪板の木戸浦造船 |
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 | 三重県から運ばれてきた中古の小型漁船=11月29日、宮城県南三陸町戸倉の津ノ宮漁港 |
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東日本大震災による津波で宮城、岩手両県を中心に数多くの漁船が大破、流失した。9割近い1万2000隻余りの漁船が被災した宮城県では、震災後の新規登録は約800隻にとどまる。大手メーカーや地場の造船所が急ピッチで建造を進めているが、膨大な需要に追い付かない。漁業者は漁船の確保に苦慮している。(肘井大祐、神田一道)
◎メーカー、増産急ピッチ/漁業者、一部漁取りやめも
<新登録は800隻> 水産庁によると、震災で大破、流失した漁船は全国21都道県で計2万5014隻に上る。県別では宮城の1万2029隻が最も多く、岩手の9673隻が続く。 震災前、宮城県での登録漁船は1万3770隻。被災漁船は87.3%に達する計算だ。このうち20トン未満の小型漁船の被害は1万2005隻と大半を占めた。 同県によると、3月11日の震災後、新たに登録した漁船は約800隻(11月末現在)。漁業関係者からは「まだ、漁船の絶対数が足りない」(県漁協幹部)との声が漏れる。漁船不足のため、一部地域では冬のアワビ漁を取りやめるなど影響も出ている。 漁船の価格は装備にもよるが、新造の場合、1トン未満の和船で約200万円、4トン級ではその10倍程度になることもあるという。
<購入費を支援> 国は漁船の購入への支援策として、新造、中古漁船の購入費の3分の2を国と都道府県で負担する事業を設けた。本年度補正予算で計約395億円を計上。2011年度中に申請し、12年度までに完成した船が対象で、期間中に1万隻程度を調達する見通しだ。 宮城県では11月、漁船購入の受け皿となる施設保有漁協が3地域に発足。漁協が漁船を購入し、組合員に貸与して共同利用する。年内中に3漁協合わせて500〜600隻を取得するという。 事業の後押しもあり、メーカーには新船建造の注文が殺到している。 ヤマハ発動機(静岡県磐田市)は震災後、約4000隻の新船建造を請け負った。7月から本格的に建造を始め、13年3月までに全て完成させる方針だ。 同社の年間の建造船数は約200隻(10年)。「従来の態勢ではとても建造が追い付かない」(同社広報)として、退職者を中心に160人を増員し、約3億円の設備投資を行った。 10月には宮城県村田町に、漁に必要な漁具などを漁船に取り付ける菅生艤装(ぎそう)センターを新設し、被災地に向けた出荷を急いでいる。
<従業員も不足> 被災地の造船所も、故障船の修理や新船建造に追われている。 主に養殖に使う5トン前後の漁船の建造を手がける大勝造船(宮城県南三陸町)は震災後、町内外から約30隻の修理、約20隻の新船建造を請け負った。 4月中旬から町内の仮設工場で業務に当たる。従業員は13人。千葉勝司社長は「仮の工場は効率が悪く、手いっぱい。従業員を増やさないと注文をこなせない」と話す。建造の工程は13年3月まで埋まっている。千葉社長は「国の補助事業はいつまで続くか分からない。13年度以降の注文は受けられない」と言う。 国内でも有数の大型漁船基地、気仙沼市でも新船の建造が進む。 同市の木戸浦造船は現在、200トン級のサンマ船3隻を建造中で、来夏までの完成を目指す。木戸浦雄三社長は「同時に3隻を造るのはめったにない。工場が被災し、フル稼働できないが、早く建造して漁業再開につなげたい」と語る。
◎中古調達、関東以西へ/ボランティア仲介、確保
東日本大震災で漁船を失った漁業者は、仕事に欠かせない船の入手に焦りを募らせる。メーカーなどが建造する新造船の調達は、緒に就いたばかり。早期に漁船を確保しようと、中部や関西から中古船を調達する動きが出ている。
11月29日午後、中古の小型漁船3隻がトラックで宮城県南三陸町に運ばれてきた。地元漁師の依頼を受けたボランティアが三重県の業者に発注し、陸路で13時間かけて輸送した。 0.4トンの小型和船を買った同町戸倉の須藤徹さん(47)は「一安心。これで希望が持てる」。ホヤやワカメ、ホタテの養殖を手掛ける。震災前にあった2隻の漁船はいずれも、震災の津波で使えなくなった。 須藤さんは5月から船を探していた。「今から頼んでも、いつ納入できるか分からない」といううわさも耳にした。「船がなければ、漁師は何もできない。いつになったら船が手に入るのか」。途方に暮れたこともあった。 助け舟を出したのは、震災後に知り合ったボランティアだ。インターネットのオークションで三重県の中古船を見つけ、手配してくれた。 「新しい船は納期が早くて1、2年後になる。中古船は関東以西に頼まなければ、手に入らない」。須藤さんの漁船を発注したボランティアの嶋津祐司さん(44)=仙台市青葉区=は話す。 嶋津さんは7月、地元漁師らと任意団体の南三陸町漁業再生支援協会を発足させた。漁具などの物資を全国から募り、漁師らに届けている。活動を通し何人もの漁師から「漁船が欲しい」と頼まれたという。 納期が遅く、購入費もかさむ新造船の調達は諦めた。知人のつてやネットを使って、これまでに三重県や兵庫県から中古船8隻を調達した。「中古船はある程度出回ってはいる。だが、程度が良く、地元の漁に合う船を手に入れるのは難しい」と嶋津さんは言う。 県漁協志津川支所(南三陸町)によると、支所の組合員が震災前に所有していた漁船は1075隻。震災後に使えた船は約50隻にすぎない。11月末現在、修理を施すなどして186隻が使えるようになった。支所が発注した新造船の納入は11月に始まり、来年2月までに約80隻が届くという。
◎絶対数不足、漁再開遠く/3500隻中3000隻被災/気仙沼
「船があればすぐにでも漁に出たい。何もしないでいるのはつらい」。気仙沼市本吉町の漁業外山秀雄さん(68)は深刻な表情で打ち明ける。 タコ漁が盛んな同市の三島漁港は、漁船約80隻の大半が津波で流された。残った船はたった3隻。外山さんも10年ほど漁を共にしてきた0.7トンの「富山丸」を失った。 7月ごろ、親類の縁で1隻を確保したが、修理に出した造船所からは戻ってきていない。工場には各地の漁業者から新船建造の依頼が殺到していて、修理のための長い順番待ちが続く。 「タコ籠もロープもそろえた。漁船だけがないのがもどかしい」と外山さん。今季のタコ漁が解禁された1日、三島漁港に外山さんの姿はなかった。 気仙沼市によると、市内で大小3500隻の漁船のうち3000隻が被災。一部は修理を終えて漁を再開したものの、「漁船の数は圧倒的に少ない」と関係者は口をそろえる。 全国から中古漁船が届けられるケースもあるが、地域の漁法に合った船とは限らない。新船は工場の供給が追いつかず、県漁協気仙沼地区支所によると、国の補助制度を活用し建造する約170隻のうち届いたのは2割程度にとどまる。 漁協の担当者は「来年も船不足が続けば、漁の再開はさらに遠のく恐れがある。早期に漁船が調達できるよう各方面に働き掛けたい」と話す。
2011年12月07日水曜日
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