きょうの社説 2012年2月24日

◎旧町名復活で連携 歴史都市の魅力高め合い
 「旧町名復活」を通じた金沢市と高岡市との連携の動きは、歴史的背景を同じくする加 賀藩ゆかりの両市の絆を深め、「歴史都市」としてのまちづくりを後押しするものである。

 旧町名は地域の歴史と人々の営みなどを今に伝える文化資産であり、復活に向けた取り 組みは地域づくりのエネルギーになる。全国に先駆け、これまでに11の旧町名をよみがえらせた金沢の実践例は旧町名復活の機運が高まってきた高岡にとって参考になることが多い。金沢にとっても運動の意義を再認識し、新たな復活の動きにつなげる機会にもなるだろう。両市がしっかり手を携えて、「歴史都市」の魅力を高めていきたい。

 金沢市と同市旧町名復活推進協議会は新年度、高岡市と連携して旧町名復活に向けた勉 強会や情報交換を行う方針である。高岡市は2009年の「開町400年」や金沢市に続いて昨年、歴史まちづくり法に基づく「歴史都市」に認定されたのを機に、加賀藩の歴史遺産に磨きをかける取り組みに力を入れている。

 旧町名復活も地元の歴史に目を向けたものであり、高岡商工会議所が「高岡の旧町名復 活を推進する会」をつくり、9月にパネル討論会を開くことを決めている。高岡には「油町(あぶらちょう)」や「母衣町(ほろまち)」など、町人の職種や町の成り立ちにかかわる旧町名が多く、高岡の歴史が鮮明に伝わってくる。

 高岡市は「高岡ストリート構想」を掲げるなどして、「歴史都市」の魅力を生かしたま ちづくりを進めようとしているが、旧町名を復活させる市民の熱意は、有形、無形の歴史遺産の保全活用を後押しする。それは金沢の取り組みでも示されている。さらに、課題を乗り越えて合意形成を図った住民同士の連帯感は、地域の美化や防犯活動などにもつながっている。両市の行政、関係団体、住民が意見交換などを重ねて、運動の意義を幅広い層に広めてほしい。

 金沢、高岡両市の連携は、「加賀藩主前田家墓所」の国史跡一括指定でも成果を挙げて いる。相乗効果による旧町名復活運動の盛り上がりを期待したい。

◎取り調べ可視化 避けて通れない範囲拡大
 取り調べ録音・録画(可視化)の試行範囲が4月にも拡大され、否認事件などに適用さ れる見通しとなった。裁判員裁判で、裁判員が公正な判断を下せるように、取り調べの透明性を高めていく努力が欠かせない。特に有力な物証がなく、供述に頼らざるを得ない事件では「合理的な疑い」を差し挟む余地がないほどの立証が求められている。証拠の評価が厳格化する流れのなかで、可視化の拡大は避けて通れない。

 国家公安委員長主催の有識者研究会が可視化に関する報告書をまとめたのを受け、今は 殺人など裁判員裁判になる罪種で、容疑者が自白している事件に限られている可視化対象を必要に応じ、否認事件にも拡大する方向が固まった。 現場では可視化の拡大に慎重論も根強い。警察庁が全国で試行した可視化の検証結果では、横柄な言葉遣いの被疑者が録画を意識して敬語を使ったり、印象を良くしようとする傾向がうかがえ、「真実の供述が得られなくなる」などの懸念が指摘された。

 確かに組織犯罪などで、録画されていることを承知のうえで、仲間を罪に陥れるような 供述を引き出すのは難しい面もある。可視化の拡大には、司法取引やおとり捜査など新たな捜査手法の導入を急ぐ必要があろう。

 可視化には、自白の任意性を立証するという利点もある。取調官へのアンケートでも、 立証に「大きな効果がある」が36・8%、「ある程度の効果はある」が60・3%と、計97・1%が有効と答えた。足利事件や氷見市の冤罪(えんざい)事件をみても、取り調べ段階で虚偽の自白に至った例は少なくない。虚偽の自白まで至らなくても、取調官の誘導などで供述内容とは一致しない調書が作成されやすいことは以前から指摘されていた。

 裁判員裁判により、証拠の客観性を重視する傾向はますます強まる。検察や警察の取り 調べに対する不信感が高まるなか、自白の信頼性や任意性を担保するうえで、可視化の流れは止められない。試行範囲を徐々に広げて功罪を見極め、捜査力の向上や信頼回復に役立ててほしい。