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福島第1原発:収束作業死で労災認定…横浜南労基署

「お父さん、やったよ」と涙を浮かべながら大角信勝さんの遺影に話しかけるカニカさん=静岡県御前崎市の自宅で2012年2月24日午後7時49分、平塚雄太撮影
「お父さん、やったよ」と涙を浮かべながら大角信勝さんの遺影に話しかけるカニカさん=静岡県御前崎市の自宅で2012年2月24日午後7時49分、平塚雄太撮影

 昨年5月、東京電力福島第1原発事故の収束作業中に心筋梗塞(こうそく)で死亡した静岡県御前崎市の配管工、大角信勝さん(当時60歳)について、横浜南労働基準監督署は24日、「短時間の過重業務による過労死」だったとして労災認定することを決めた。連絡を受けた遺族の代理人弁護士が明らかにした。これまで同原発の収束作業中に大角さんら4人が死亡しているが、労災認定されたのは初めて。

 元請けの東芝などによると、大角さんは、東電から収束作業を請け負った東芝からみて4次下請けにあたる御前崎市内の建設会社の臨時雇いとして作業に当たった。

 11年5月13日から午前6~9時のシフトに入り、汚染水の処理機材を設置するため、集中廃棄物処理施設の配管工事などを担当。2日目の14日午前6時50分ごろ、特殊のこぎりを運搬する途中で倒れた。

 2日間で計4時間弱の作業だったが、代理人の大橋昭夫弁護士によると同労基署は「防護服、防護マスクを装備した不自由な中での深夜から早朝にわたる過酷労働が、特に過重な身体的、精神的負荷となり心筋梗塞を発症させた」と認めた。

 労災申請していた大角さんのタイ人の妻カニカさん(53)は今後、東電と東芝に安全配慮義務違反があったとして損害賠償請求訴訟も視野に、企業側と交渉するとしている。大橋弁護士は「これからも続く収束作業の従事者に励ましを与える結果」と評価した。【西嶋正信、平林由梨】

 ◇妻「救われた」

 「お父さん、やったよ」--。東京電力福島第1原発事故の収束作業中に心筋梗塞(こうそく)で死亡した大角信勝さん(当時60歳)の労災申請が認められた24日、妻カニカさん(53)は静岡県御前崎市の自宅アパートで夫の遺影に語りかけた。

 「弁護士の先生からは1月に結果が出るかもと言われたが、延びていた。まさか今日とは思わなかった。とてもうれしい」と笑顔で話した。

 報道陣に囲まれ、夫に何を語りかけたいかを質問されたカニカさんは「みんな、やってくれた。みんなのおかげでお父さんが救われた」と涙ぐんだ。

 昨年5月、信勝さんが福島県内で収束作業中に死亡。だが、信勝さんは4次下請けの御前崎市内の建設会社から派遣されており、元請けの東芝からは見舞金もなかった。

 下請けの建設会社の社長からは「50万円やるからタイに帰れ」と言われ、補償の話もないまま。昨年7月、「お父さんの命は50万円じゃない」と横浜南労働基準監督署に労災を申請した。

 静岡県島田市内の弁当店でパートとして働くカニカさんは、国民健康保険の保険料を滞納するほど生活に困窮している。労災認定により元請け会社などとの今後の交渉に光が差し、カニカさんは「お父さんが好きだったタイの刺し身を買って、喜びを分かち合いたい」と話した。【平塚雄太、西嶋正信】

 ◇解説 現場の過酷さ重視 4時間従事で異例の認定

 東京電力福島第1原発事故の収束作業中に死亡した労働者に対し、初の労災認定をした横浜南労働基準監督署は「難しい判断を迫られた」という。収束作業は今後30~40年続くとみられており、専門家は今回の決定が作業現場の環境改善に大きな影響を与えるとみている。

 心筋梗塞(こうそく)で死亡した大角信勝さん(当時60歳)は2日間で計約4時間弱の作業に当たった。厚生労働省によると、脳や心臓疾患による労災の認定基準は(1)長期間の過重業務(2)短期間の過重業務(3)異常な出来事--の少なくとも一つに該当する場合。遺族は今回、現場に放射性物質が飛散し、防護服を着用した過酷な作業だったとして(2)を重点的に主張し、認められた。原発労働に詳しい萬井隆令・龍谷大名誉教授(労働法)は「4時間の労働で過労死と認定されるケースは非常に珍しい」と話す。

 遺族側は他にも、救急体制の不備による救護の遅れや、放射線被ばくによる死亡の可能性なども指摘したが、代理人の大橋昭夫弁護士によると労基署はそれらを考慮せず、労働環境の過酷さの一点で認定を下した。

 原発作業員が過酷な環境で働いていることを国が認定した今回の判断は、原発作業員の労働災害について救済の道を広げる画期的なものといえる。【西嶋正信】

毎日新聞 2012年2月24日 20時49分(最終更新 2月24日 23時05分)

 

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