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【寺野典子コラム】内田篤人、厳しい現実を前に

寺野典子/Football Weekly

寺野典子提供:寺野典子/Football Weekly

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内田篤人

 2月19日のヴォルフスブルク戦で、久しぶりに先発フル出場を果たした内田篤人。チャンピオンズリーグの決勝トーナメントでも奮闘していた昨季に比べると、今季リーグ戦先発はこの日も含めてわずか7試合。ベンチ外という試合も多い。

 シーズン開始1カ月で監督が代わり、そのときに負傷で離脱してしまったことも出遅れた原因のひとつだが、熱血漢のステフェンス新監督から見ると、内田のプレーや振る舞いが淡泊に見えているのではないかという危惧もあった。しかし、監督とのコニュニケーションはキチンと取れているようだ。

「ベンチから外れるときとかは、ちゃんと話をしてくれた。たとえば、『右サイドバックは本職ではないけれど、バランスはとれるから、彼を使うことにした』という風にね。まあ、ようは、俺はゼロか100。先発かベンチ外だってことを言いたいんだなと理解した」

 ステフェンス監督は、ヘヴェデス(CB)やヘイガー(ボランチ)といった右サイドバックが本職ではない選手を起用している。左サイドバックのフクスが攻撃的な選手であることもヘヴェデスを起用する一因かもしれない。メンバー交代のオプションを増やす意味で複数のポジションができる選手をベンチに置きたいと考えるのも当然のことだろう。

 ヘヴェデスが出場停止となるヴォルフスブルク戦での先発は内田にとっても予想外だった。
 最近、シャルケでは、攻撃的MFをボランチの位置で起用する采配が続いており、ヘヴェデスの代わりにセンターバックにはメッツェルダーが入り、右サイドは前節同様にヘイガーが務めるだろうと思われていたが、その前節でボルシアMGに3−0と大敗し、ステフェンス監督はヘイガーをボランチに、右サイドバックには内田を先発出場させる決断をくだした。

「先発は試合の日のミーティングで言われた。確かに大きなチャンスかもしれないけど、普通にやることが大事だと思っていた。DFなので、とにかく失点をしないことを考えて試合に入った。最近先制点をとられることが多かったからね」

 ヴォルフスブルク戦では、右のMFとしてファルファンも先発している。新加入のオバシが出場停止だったためだ。昨季いいコンビネーションを構築したファルファンの出場も内田にとっては好材料となったはずだ。
 開始6分には右サイドから縦へ駆け抜けた内田は、ペナルティエリア付近に侵入し、中央にいるドラクスラーへクロスボールをあげる。シュートはわずかに外へ外れてしまったが、いい出だしとなった。
「ああいうところで、決めてくれれば、結果(数字)として残るんだけど、なかなかうまくいかないね」
 それでも、10分、15分とゴールを決めたこの日のシャルケは、左右両翼を活かし、ヴォルフスブルク陣地へと攻め入り、試合は4−0と圧勝した。
「まだ、試合の体力が戻っていないので、やはり今日は疲れましたね。そういうコンディションが戻ってくれば、ミスも減ると思うけど。まだまだこれからですね」
 試合後の内田は淡々とそう話すにとどまっていた。表情は硬いままだ。

 そして、2月21日、休日明けの練習を取材した。
 ヴォルフスブルク戦に先発した選手は1時間弱の短時間で練習を切り上げた。
「今日も監督と話した。『ヴォルフスブルク戦は悪くなかった。このまま続けてくれ』と言ってくれた。それで試合に続けて出られるかどうかは、わからないけどね」
 スタメンから外れた内田にチームメイトたちは「監督と話したほうがいいぞ」とか、「お前が出られないなんておかしいよ」と言葉をかけてくれるという。それはスタッフたちも同様で、彼らが「内田はもっと堂々と伸び伸びしていればいいんだ。少し謙虚すぎるんじゃないか」と言っている話を内田は耳にした。

「俺はいつも練習前にボールや荷物を運ぶんだけど、そういう姿が“遠慮している”“積極性にかける”という風に見えるみたい。まあ、荷物を運ぶ姿勢を変えるつもりもないけれどね。もちろん、別に遠慮しているわけでもないし。ちゃんとやれれば、自分はスタメンでプレーできるという自信はあるから」

 以前から、内田はドイツでの厳しい練習こそが、自分にとって貴重な経験になると話していた。試合出場機会が減った現在、その練習時間の重要度はさらに高まったのではないだろうか?
「それはそうだね。変な話、毎日練習が思いっきりやれて、そこで100%出せれば、“ここ”へ帰ってくるときもイヤな気分にはならない。でも逆に試合に出ていたとしても、練習でうまくいかない、不完全燃焼で練習が終わる日のほうがつらい気分で、“ここ”へ帰ってくるんだ」

 シャルケのトップ選手は、高台にあるロッカールームから、階段を下りて、駐車場を抜けて、練習グラウンドへと向かう。内田のいう“ここ”とは、その駐車場に設けられた取材エリアのこと。毎日、練習グラウンドから駐車場までの間のスペースでファンサービスを行い、“ここ”を通るわけだが、日々そんな風にさまざまな思いを抱き、彼はロッカールームへと向かっていたのだ。
 今後もボランチのジョーンズが長期出場停止から復帰すれば、ヘイガーが右サイドバックへ定着する可能性もある。ベンチには右サイドバックや右MFでプレーするティム・ホーグラントも座っている。
 厳しい競争の真っただ中で、生き残るためのベースとなるのが日々のトレーニングだ。わずか2時間にも満たないその時間で、選手誰もが週末の試合へ向けた先発争いをしている。
 そんな毎日は内田が望んだ欧州生活そのものでもあるだろう。ここでバージョンアップできるかどうか? それは内田自身の問題であり、自分との闘いでもあるだろう。それは本人が一番わかっている。
「監督やチームメイト、スタッフからの言葉もありがたいけど、それよりも自分で考えることが大事だからね」
 
 1試合先発したからといって、先発復帰というわけではない。しかし、数試合ベンチ入りが叶わなくとも、チャンスは突然やってくる。気を抜くわけにはいかないのだ。
「練習をするためにドイツへ来たわけじゃないけど、いい練習ができていれば充実した日々を送れる」
 内田はそう言って、ロッカールームへの階段へ向かった。「だから、そう悪い毎日でもないんだよ」とその背中は語っていた。2月21日、この日の練習はいい練習だったのだろう。

 プロ入り以降、常に先発を務めてきた内田。だからこそ、出場機会が奪われた現実は彼の新しい“欲”を引き出すきっかけになるかもしれない。初めてに近い経験で彼が何を学ぶのか、とても楽しみだ。
寺野典子/Football Weekly

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寺野典子

フリーライター。Numberや専門誌など様々な媒体に寄稿。著書に『15歳の選択』(河出書房新社)など。

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