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★★★治療法を選択するための3大因子、「肝障害度」「腫瘍数」「腫瘍径」をしっかり把握することが大切
治療法がよくわかる「肝癌診療ガイドライン」のすべて

監修:高山忠利 日本大学医学部消化器外科教授
取材・文:柄川昭彦
(2009年09月号)

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肝移植の5年生存率は約80パーセント

ケース5 「C」 「1〜3個」 「3センチ以内」

肝障害度がCまで落ちているものの、腫瘍数が3個以下で、腫瘍の大きさが3センチメートル以内の場合、治療法としては肝移植があげられる。肝障害度がCになってしまうと、腫瘍の状況には関係なく、切除手術も、経皮的局所療法も、肝動脈塞栓療法も、動注化学療法もできなくなってしまう。そのため、かつては緩和医療以外の選択肢はなかった。しかし、現在では、腫瘍が3個以下、3センチメートル以内であれば、肝移植が推奨されている。腫瘍数が1個の場合なら、腫瘍径は5センチメートル以内が対象となる。

「この適応範囲を示す基準は、ミラノ大学で考案されたため、『ミラノ基準』と呼ばれています。この基準を満たしている患者さんであれば、肝移植の治療成績は非常に良好で、移植後の生存率は約80パーセントになるのです。この基準を外れる場合は、再発が多くなり、生存率は約60パーセントに下がります」

[生体肝移植を行う場合の実施基準「ミラノ基準」]
生体肝移植を行う場合の実施基準「ミラノ基準」

肝移植が健康保険の適応となるのは、ミラノ基準を満たしている場合だけである。基準からはずれると自由診療となり、2000万〜3000万円の費用がかかることになる。

「切除手術、経皮的局所療法、肝動脈塞栓療法を、肝臓がんの3大治療法と呼びます。肝移植を含めて4大治療法と呼べないのは、国内で年間100例に満たない数しか行われていないからです。肝臓がんになる人が年間3万3000人くらいいることを考えると、肝移植はごく一部の人が受けている特殊な治療法という位置づけになります」

ケース6 「C」 「4個以上」

肝障害度がCで、腫瘍が4個以上ある場合、推奨されるのは緩和医療である。技術的には肝移植も問題なくできるが、再発率が高くなるため、推奨できるのは緩和医療となっている。

再発した場合の治療もアルゴリズムに従う

第1次治療でよくなったとしても、肝臓がんは再発してくる可能性が高い。肝臓自体が慢性肝炎や肝硬変になって、それががんの発生に関係しているからだ。肝臓の状態が変わらない以上、再発が起こりやすいのは当然といえる。

たとえば、切除手術を受けた場合の5年後再発率は70パーセント程度である。しっかりがんを取り除いても、これだけ再発してくるのだ。経皮的局所療法の代表であるラジオ波焼灼療法では、5年で80〜90パーセントが再発する。肝動脈塞栓療法の場合は100パーセントに近い。

「それぞれ対象とする患者さんが違うので、治療法によって再発率に差があるのは当然です。たとえば、手術は肝臓の状態が比較的いい患者さんを対象とすることが多いし、がんの数も3個まで。一部のエリートを対象としているようなものですから、成績がいいのは当り前なのです。ラジオ波焼灼療法はもう少し条件の悪い患者さんも対象にしていますし、肝動脈塞栓療法は条件の悪い患者さんを一手に引き受けているのですから、当然、再発率は高くなります」

再発が起きてしまった場合、どのような治療が行われるのかというと、やはりこの治療アルゴリズムに従うことになっている。たとえば、最初の手術をした後も肝障害度がAかBに維持されていて、再発したがんが単発であれば、やはり切除手術が第1選択となるのである。

「初回治療を行った後は、定期的に検査を受けるので、再発した場合でも、比較的小さいうちに見つかりやすく、3センチメートル以内で発見されることはよくあります。ただ、再発の場合には、腫瘍の数が3個以内に収まらず、多くは4個以上になってしまいます。そのため、肝動脈塞栓療法になるケースがほとんどなのです」

がんが肝臓以外の臓器に転移していることもある。このような場合、化学療法が行われるのが一般的だが、化学療法を行うとよいという科学的根拠はまだない。肝臓がんは抗がん剤が効きにくいのが特徴なのである。

2009年5月から分子標的薬が使えるようになった

2005年版のガイドラインが刊行された後、新たに登場してきた治療薬として注目を集めているのは、分子標的薬のネクサバール(一般名ソラフェニブ)である。切除手術のできない進行した肝臓がんの生存期間を延ばすとして、2009年の5月に承認されている。

ガイドラインの改訂版は今年中に刊行される予定だが、この分子標的薬については、治療アルゴリズムには加えられていないという。

「2009年に改定版を出すために、2007年以前に発表された論文を対象にして改訂作業を進めてきました。ネクサバールの論文は、それ以降に発表されたため、対象となっていないのです」

したがって、2009年版のガイドラインには入っていないのだが、もし治療アルゴリズムにネクサバールを加えるとしたら、どこに入ることになるのだろうか。参考までにうかがってみた。

「ネクサバールは切除不能肝臓がんを対象にした薬ですから、肝障害度がAかBなら、腫瘍数が4個以上の場合(ケース4)になります。それから、緩和医療となるところ(ケース6)にも入るかもしれませんね」

分子標的薬の登場は明るいニュースだが、「これによって肝臓がんの治療が大きく変わるようなインパクトを与えるかどうかは現在検証中です」と高山さんはいう。これからも、切除手術、経皮的局所療法、肝動脈塞栓療法の3大治療が中心となって治療が勧められることはどうやら変わらないようだ。

[進行肝がんに対する分子標的薬の効果]
進行肝がんに対する分子標的薬の効果
出典:N Eng J Med 359:378-90,2008

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