肝癌診療ガイドライン

 

肝細胞癌サーベイランスアルゴリズム(図1)の解説

1.高危険群の設定

B型慢性肝炎,C型慢性肝炎,肝硬変のいずれかが存在すれば肝細胞癌の高危険群といえる。そのなかでもB型肝硬変,C型肝硬変患者は,超高危険群に 属する。高危険群に男性,高齢,アルコール多飲の因子が加わるごとに発癌の危険性が増す。超高危険群と高危険群の間に明確な線引きは困難であるため,検査 間隔は,外来医がリスクとコストを勘案して決定する。

2.サーベイランスの実際

サーベイランスの至適間隔に明確なエビデンスはない。検査間隔を短くすることのデメリットは,コストであるが,リスクが低い集団ほど一人の癌患者を 見つけるためのコストは上昇する。ここでは,一つの案として,超高危険群に対しては,3〜4カ月に1回の超音波検査,高危険群に対しては,6カ月に1回の 超音波検査を行うことを提案する。腫瘍マーカー検査については,推奨に従って2つ以上の腫瘍マーカーを測定することを推奨するが,保険適応の問題から AFP/PIVKA-IIかAFP-L3分画/PIVKA-IIを交互に測定することを提案する。超音波検査が困難な進んだ肝硬変症例,肥満症例などで は,外来医の判断で適宜dynamic CTあるいは,dynamic MRI検査を行う。

3.超音波検査で結節性病変を指摘

超音波検査で結節性病変が新たに指摘された場合,dynamic CTあるいは,dynamic MRIを撮像し,鑑別診断を行う。

4.Dynamic CT/MRIによる診断

典型的肝細胞癌像とは,動脈相で高吸収域として描出され,静脈相で相対的に低吸収域となる結節と定義される。それ以外の結節は,すべて非典型的であ るが,肝内胆管癌,転移性肝癌,その他の良性肝腫瘍などが積極的に疑われる場合,各々の精査を行う。

5.Dynamic CT/MRIで結節性病変を指摘

腫瘍マーカー高値のため,あるいはサーベイランス目的で行ったdynamic CT/MRI検査で非典型的腫瘍像が描出された場合,まず超音波検査の再検を行い,描出できた場合は,腫瘍径2 cmを区切りとして経過観察を行う。超音波で描出できない場合,dynamic CTあるいは,dynamic MRIにて腫瘍径の経過観察を行う。

6.腫瘍マーカーの上昇

AFPは,特異度が低いため,低すぎるカットオフ値は,positive predictable value(陽性的中率)を下げ,サーベイランスの効率を悪くする。一方AFPの持続的上昇は,癌の存在を強く示唆する。PIVKA-II,AFP-L3 分画については,それぞれ40 mAU/ml,15%が最も効率がよい。よって,AFPの持続的上昇あるいは200 ng/ml以上の上昇,PIVKA-IIの40 mAU/ml以上の上昇,AFP-L3分画の15%以上の上昇を認めた場合,超音波検査で腫瘍が検出できなくても,dynamic CTあるいはdynamic MRIを撮像することを提案する。

7.腫瘍径

腫瘍径2 cmを一応の基準として,dynamic CTあるいはdynamic MRIで典型的肝細胞癌の画像を呈さず,さらに他の肝悪性腫瘍が否定的である場合,経過観察を行うことを提案する。

8.腫瘍径の経過観察

腫瘍径の経過観察は,超音波で描出可能な場合は超音波で,dynamic CTあるいはdynamic MRIでのみ描出可能な場合は描出可能な検査で行う。検査間隔は,3カ月を一応の目安とする。腫瘍径に有意な増大傾向がみられた場合,治療の適応となる。

9.Option検査

血管造影検査,血管造影下CT,SPIO-MRI,造影超音波検査,肝腫瘍生検は,Optionalな検査として,精査目的に担当医の裁量で行う。

 

図1:肝細胞癌サーベイランスのアルゴリズム

図1:肝細胞サーベイランスのアルゴリズム

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肝細胞癌治療アルゴリズム(図2)の解説

肝細胞癌の治療法選択における妥当な基準は?

推奨

肝細胞癌の病態に応じた治療法の選択基準として『幕内班アルゴリズム』(図2)が推奨される。

(グレードB)

【サイエンティフィックステートメント】

肝細胞癌の治療に関するアルゴリズムを,肝障害度・腫瘍数・腫瘍径の3因子を基に設定した。肝障害度AまたはBの症例においては,1)腫瘍が単発な らば腫瘍径にかかわらず肝切除が推奨される(ただし,肝障害度Bの症例で腫瘍径が2 cm以内ならば経皮的局所療法も選択される)(LF001781)Level 2b),2)腫瘍数が2個または3個で腫瘍径が3 cm以内ならば肝切除または経皮的局所療法が推奨される(LF001781)Level 2b),3)同腫瘍数で腫瘍径が3 cm超ならば肝切除または肝動脈塞栓が推奨される(LF062832)Level 1b),4)腫瘍数が4個以上ならば肝動脈塞栓または肝動注が推奨される(LF06283 2)Level 1b)。肝障害度Cの症例においては,1)腫瘍数が3個以下で腫瘍径が3 cm以内(および腫瘍が単発で腫瘍径が5 cm以内)ならば肝移植が推奨される(LF00540 3)Level 2a),2)腫瘍数が4個以上ならば緩和ケアが推奨される。なお,脈管侵襲を有する肝障害度Aの症例では肝切除が,肝外転移を有する症例では化学療法が選 択される場合がある。

【解 説】

肝障害度A,B症例における肝切除と経皮的局所療法の選択に関しては,現時点で日本における最も大規模な多施設共同研究の成果であるArii論文 (LF001781))を根拠とした。肝動脈塞栓に関しては,肝障害度A,B症例の多発性肝癌における有意の予後向上を無作為化比 較試験で実証したLlovet論文(LF06283 2))を,肝移植に関しては,前向きコホート研究でミラノ基準を提唱した Mazzaferro論文(LF005403))を根拠とした。

【参考文献】

図2:肝細胞癌治療アルゴリズム

PDF上記の図を別ウインドウ(PDF形式)で表示します.図2:肝細胞癌治療アルゴリズ ム(PDF_4kb)

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