【こども】 人身保護法による子の引渡請求
子どもの争奪合戦の最後の切り札になるのが、人身保護法による子の引渡請求です。
ここまでに至るケースでは、夫婦相当共に感情が高ぶっているため、代理人で関与する場合も未成年者の国選代理人で関与する場合も、本当に薄氷を踏む思いで、立ち会うことになります。
私が関与したケースなどでは、当事者双方共に、子どもに対する愛情はものすごく深い方が多かったように思います。それゆえ、この案件を担当した場合には、両親が話し合ってなんとか解決しないものかといつも考えさせられます。
人身保護法による子の引渡請求が認められるためには、拘束者が被拘束者を拘束しており、当該拘束の違法性が顕著であること、他の方法により相当の期間内に救済の目的を達せられないことが明白であることが必要です。
まだ、離婚には至っていない非監護親が、事実上の監護親から子どもを奪った場合に、人身保護法に基づく請求ができるかということが、問題になっていました。
最高裁平成5年10月19日は、
共同親権者相互間において、拘束の違法性を判断するためには、当該監護が請求者による監護に比べて子の幸福に反することが明白であることが必要だとして、
いわゆる明白性の要件をかしました。
そして、どのような場合に明白といえるかについては、
最高裁平成6年4月26日(判例百選家族法NO41)は、
①拘束者に対し、家事審判規則52条の2又は53条に基づく幼児引渡を命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合
②幼児にとって、請求者の監護の下では安定した生活が送ることができるのに、拘束者の監護の下では著しく健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができない場合
と判断しています。
これに対して、離婚後に親権者になった者から非親権者に対する請求については、一連の最高裁判例により、親権者である請求権者に幼児を引き渡すことが、著しく不当なものと認められない限り、非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合に該当すると判断されています。
つまり、監護権者から非監護権者に対する幼児引渡請求がされた場合には、請求者による監護は親権等にもとづくものとして、特段の事情がない限り適法であるのに対して、拘束者による監護は権限なしにされているから、著しい不当性が証明されない限り、監護権者からの請求が認められます(最高裁平成6年11月8日)。
なお、刑事事件において、別居中の共同親権者である父による実力での子の奪取行為につき、未成年者略取罪の成立を認めた決定もあるので(最高裁平成17年12月6日)、子をめぐるトラブルの場合のアドバイスは、専門家も慎重に意見を述べる必要があります。
いずれにしても、子の引渡しをめぐる紛争については、人身保護事件の経験のある相当程度経験のある弁護士に依頼しなければ、適切なアドバイスが受けられないことがあります。
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