C型肝炎(治療)(肝臓学会コンセンサス2001.10+2003.10)
「C型肝炎」 治療に関するRecommendation (2003)
今回のコンセンサス・ミーティングの大きな特徴は近いうちに保険適応になるPEG-IFN(単独療法)、および瀉血療法についてのrecommendationをまとめたことであった。
一方で、世界の趨勢から日本の保険医療が3〜5年遅れており、治療においてはそのギャップを認識する必要があり、recommendationが複雑になっている。
C型肝炎に対するIFN療法はIFN単独でも十分に有効な一部の症例を除き、PEG-IFN+リバビリンが柱になることが確認された。しかも投与期間は1年以上が望ましいことも確認された。しかしながらPEG-IFN+リバビリンが保険適応になるのはあと数年はかかると予想され、それまではgenotype 1、高ウイルス量の症例については従来の6ヶ月のIFN+リバビリン療法後に6ヶ月のIFN単独療法を追加するのが望ましいこととなった。低ウイルス量の症例についてはIFN単独療法、genotype 2の高ウイルス量の症例については6ヶ月のIFN+リバビリン療法が望ましいこととなった。
IFN+リバビリンについてはリバビリンが中止されると有効率が極端に低下する一方で減量しても最後まで投与した症例では有意な有効率の低下がみられないことが報告され、早めの減量も考慮すべきとの指摘もあった。
一方で虎の門病院の荒瀬らは2年以上の長期投与例の検討で2年以上HCV-RNA陰性化が達成できた症例の70%、3年以上RNA陰性の100%(症例数はわずか6例)でウイルスの持続陰性化が達成できる報告をし、IFNの長期投与も今後検討すべき治療法であることを示した。
瀉血については1〜2週ごとに200〜400mlの瀉血を血清フェリチン値が10ng/ml以下になるまで続ける治療でALTの低下および組織進展の抑制が認められ、発癌抑制効果が期待できることが確認された。
PEG-IFNのrecommendation
■ペグ化によってインターフェロンの血中濃度が維持され効果の増強と副作用の軽減が得られる.
PEG-IFN-α2aは血中半減期がIFN-α2aの10倍、PEG-IFN-α2bの5〜9倍になった。
■海外ではPEG-IFN-α2a、PEG-IFN-α2bともに単独でウイルス学的著効(SVR)率が従来のIFNより高かった.
国内における開発試験においてPEG-IFN-α2a単独でSVR率は全体で36%、ゲノタイプ1b型のHCV-RNA量100〜500KlU/mlで32%、ゲノタイプ2a,2b型でプロトコール完遂例で89%であった。.
■PEG-IFN-α2a単独治療においてはHCV-RNA早期陰性化が得られなくてもウイルス学的薯効(SVR)にいたる例がある。
■PEG-IFN-α2a単独治療においては,投与中HCV-RNAの陰性化が得られなくてもALTが正常化する例が半数にみられる.
■PEG-IFN-α2a単独治療においては,発熱や倦怠感などの副作用は軽減されるが、血小板減少や好中球低下など血球系副作用に充分注意する必要がある.
■PEG-IFN-α2a・2bいずれもリバぜリン併用によって欧米で高いSVR率が得られている。わが国でも治療効果の改善が期待される.
IFN+リバビリンのrecommendation
■欧米の大規模比較試験の結果からgenotype 1型に対する初回投与はIFNα/リバビリン併用療法48週投与が選択されるぺきである.
■欧米の結果からは,genotype 2型に対する初回投与ではIFNα/リバビリン併用療法24週で十分なSVRが得られている.。
■欧米の結果からは,genotype 1型の再燃例、無効例に対してはIFNα/リバビリン併用48週投与が必要である。genotype 2/3型の再燃例,無効例に対しては併用24週投与でよいと考えられる。
■治療開始早期に10MUの高容量IFNを投与してもSVRほ改善しない
■本邦の臨床試験の結果からは,genotype 1型高ウイルス量の難治例においてIFNα/リパピりン併用24週投与により初回投与で約20%、無効・再燃例への再投与でも約15%でSVRが得られる。
■genotype 1型高ウイルス量の難治例ではIFNαの1回投与量を5〜6MUに設定することが望ましい。
■IFN投与下においてりバビリンをできるだけ長期に併用することでより高いSVRが得られる。
■初回投与のgenotype 2型、低ウイルス量症例ではIFNα単独24週投与でも著効率60〜70%であるため,原則として24週でIFNα投与を終了する。
■初回投与のgenotype 1型、ウイルス量症例ではIFNα単独24週投与の薯効率が40〜50%と低いため,可能な限りIFNα単独48週投与を行う。
■genotype 1型高ウイルス量症例に対してはIFNα/リバビリン併用24週投与の後、IFNα単独24週追加投与が現在の保険診療の中では最もSVRが高い。
■IFNα/リバピリン併用治療開始後12週までのHCV減少率がSVRに関与しており,12週の時点でHCV陰性化やHCV-RNAの減少が認められない症例はSVRを期待しにくい。
■治療を継続LてもSVRの可能性が低い症例に対し、治療中止の判断をすることは副作用の軽減や医療経済的観点からも重要である。
■genotype とHCV-RNA量に従った治療方針に加えて、個々の症例における抗ウイルス療法に対する反応性を考慮に入れて最終的に治療期間が決定されるぺきである。
■高齢者やリバビリンによる副作用が出現した症例では.速やかにリバビリンを減量し、目標期間中の併用療法を完遂することがSVRを得るためには重要である。
瀉血のrecommendation
■C型慢性肝炎で軽度または中等度に上昇する肝内鉄濃度は,IFN反応性の強い予測因子である。しかし、瀉血によりインターフェロンの効果が増強されたというエビテンスはない。
■C型慢性肝炎における瀉血療法は、強カミノファーゲンC(SNMC)およびウルソデオキシコール酸(UDCA)服用と並んでALTの改善効果のある保存的治療法である。
■1〜2週間ごとに200〜400mlの瀉血を血清フェリチン値が10ng/mlあるいはヘモグロビン値が11g/dl以下になるまで繰り返す。
■瀉血療法の副作用は,一般的に行われている献血と同様認められないが、感染性血液を扱っているため,医療従事者が針刺し事故で感染Lないよう十分な注意を払うとともに瀉血バッグも感染性廃棄物として厳重な管理を行う。
■瀉血療法はIFNによる抗ウイルス効果を増強しないが、ALTの低下によって示される肝障害と肝臓組織学的所見の改善を示す。
■瀉血療法の効果を維持するために,追加瀉血、鉄制限食または追加瀉血と鉄制限食の併用が推奨される。
■瀉血と低鉄食による長期観察例では線維北進展の抑制が認められ、発癌抑制効果も期待される。
「C型肝炎」 治療に関するRecommendation (2001) 京都府立第3内科 岡上 武
Recommendation2-1.
・対象患者の治療目的が完治か発病抑制かを明確にし、 目的を患者に説明する。肝線維化(病期)と肝炎の程度、 年齢などを考慮し、個々の患者が完治する確率と発病の危険性を正しく評価し、患者にきちんと説明する。
Recommendation2-2.
・抗ウイルス療法にはIFN単独と IFN・Ribavirin併用療法がある。IFNにはいくつかの種類があり、作用、副作用に少し差がある。IFNにはIFNα、IFNβ、consensusIFN、Peg−IFNがあり、それぞれに特徴や欠点 を有する。
・対症療法は炎症と線維化の抑制による発病抑制が目的である。抗炎症にはUDCA、SNMC、瀉血などがあり、小柴胡湯の抗線維化作用は未だ明白ではない。
Recommendation2-3.
・適応、禁忌決定のために、年齢、健康状態、病気の素因とともに、ウイルス側要因の検索をおこなう。肝生検 による病期(線維化の程度)の評価が重要である。抗ウイ ルス療法の適応の有無、発癌抑制策の選択には上記の検査が重要で、特に抗ウイルス療法を選択する前には副作用発現の素因に関する評価も重要である。肝硬変の一部は抗ウイルス療法の適応である。
Recommendation2-4.
・ウイルス学的効果判定と生化学的効果判定の両者が重要で、再投与の際にもこれは必要である。著効、再燃、無効に分類する。ウイルスが排除されれば完治し(著効)、結果として著明な発病抑制に繋がる。しかし、ウイルスが排除されなくても血清トランスアミナーゼが一過性に正常化(再燃)しても有意に発病が抑制される。また、ウ イルス学的再燃例はIFN長期投与、IFN・Ribavirinでの再投与の適応である。
Recommendation2-5.
・完治しやすいか否かの効果予測をおこなった上で治療法を選択する。ウイルス側要因(ウイルス量、遺伝子の型)、宿主側の要因として肝線維化の程度を把握する。治療法の進歩が著しいため、IFNの種類やIFN・Ribavirin 治療成績を十分に認識し、治療法を選択する。高ウイルス量例でも著効を示す例があり、また、一過性有効例で も発病抑制効果があるため、副作用などの問題がなければ、適応症例には一度は抗ウイルス療法を試みるべきで ある。
Recommendation2-6.
・再投与の目的は完治であるが、発病抑制を目的に再投与することもある。初回投与時にウイルス学的無効例は再投与で著効になる可能性は極めて低い。初回治療時ウイルス学的再燃例は長期投与で著効になる可能性がある。 また、長期発癌抑制を目的に、生化学的再燃例に再投与することがある。
Recommendation2-7.
・血清トランスアミナーゼ(ALT)値を出来るだけ低値 (ALT≦60IU/l)に保つように努力する。血清ALT低値例からは発癌例が低い。
・血清ALT高値で血清フェリチン高値例では瀉血と鉄制 限食が重要である。瀉血の前に肝組織の鉄染色での検討が重要で、鉄沈着の著明な例では瀉血により血清フェリチン値を20ng/ml以下にすると、血清ALT値は有意に低下する。