血液検査の結果、自分自身の肝臓に余分な鉄分がたっぷりたまっていた場合には、「瀉血(しやけつ)療法」の出番となります。
鉄分はフェリチンと結合して貯えられるので、血中フェリチン値は貯蔵鉄の量をかなり正確に反映します。正常なフェリチン値は男性が18・6~261ng/ml、女性が4・0~64・2ng/mlとされています。
この肝臓の中の余分な鉄分を減らすのが「瀉血療法」です。瀉血療法とは1回200cc~400ccの血液を繰り返し抜いていくという治療法です。
瀉血によって血液を抜くと、ヘモグロビン(赤血球の成分。全身に酸素を運ぶ役割を果たす)が減ります。減少したヘモグロビンを補うためには、血を造らなければなりません。
そのさい、肝臓に過剰に蓄積した鉄が造血に使用され、肝臓の中の鉄が減少することで炎症が抑えられるという治療法です。
瀉血の初期治療は、男性で400ml、女性で200mlを2週間に1回瀉血して、貯蔵鉄をほぼ完全に排除します。血清フェリチン値が10ng/ml以下になるまで瀉血を続けます。維持療法として、血清フェリチン値20ng/ml以下に保つようにします。
瀉血中にヘモグロビン値が10g/dl以下となった場合、一時中断をして貧血の回復を待ちます。以降は、体内の鉄量をその前後にとどめる維持療法に切り換えます。これでほとんどの患者さんは瀉血開始後2~3ヵ月で肝機能が改善し、GOT、GPT値が下がります。
副作用の代表はやはり貧血です。貧血によって虚血性心疾患や慢性呼吸不全の悪化等がみられたり、肝硬変等の進行例に瀉血療法を行えば、低アルブミン血症を介した浮腫も起こりえます。
したがって患者さんに瀉血療法を行えるかどうかは、患者さんごとに綿密に検討し、さらに瀉血療法施行中もきめ細かい観察が必要となると思います。
瀉血療法には除外規定があり、年齢については20歳未満を除外、非代償性肝硬変の患者、貧血ぎみの人、低アルブミン血症、妊娠、妊娠予定の人、腎疾患、心疾患、肺疾患、血液障害などの患者は除外します。
また日本赤十字社の見解によると、瀉血後の日常生活への影響は、瀉血量が血管の中を流れている血液量(循環血液)の15%以下であれば、問題になることはないそうですが、通常200mlの瀉血の場合、赤血球の回復には約2~3週間、400mlの瀉血の場合には、約3~4週間がかかるそうです。
もちろんご高齢の方になれば回復に時間が余計にかかるでしょう。
先日は69歳の男性が瀉血療法で1ヵ月間に1000ccもの血を抜かれ、フラフラになり、体調を悪化させて寝込んでしまう事例がありました。明らかに貧血ですね。
確かに先の瀉血療法の初期治療の方法を見れば、男性で400mlを2週間に1回抜くわけですから、かなりの量になります。しかし患者さんは、年齢も違えば体力も一人一人全く違う中で、一律に同じ方法で行うことの方がおかしいと思います。
この治療法はどこかの大学で考えて決められた治療法だから、必ずその通り実行しなければならない……ということではなく、担当医の先生と良く相談しながら、患者さんの一人お一人の体力や体調を見て進めていくべきと考えます。
瀉血療法中を行って、せっかく肝臓から鉄分を抜こうとしているときに鉄分が豊富な食事をしては意味がないと思います。
瀉血療法をやっている最中は、鉄分の多い食品は摂取を控えましょう。鉄分の多い食品としては、アサリやシジミなどの貝類やワカメ、ほうれん草や切り干し大根、牛肉、レバー、黒豆、納豆や豆腐などの大豆製品もあげられています。
最終的に治療法を選ぶのは医師ではなく患者さんご本人です。治療方針に少しでも疑問があれば、納得いくまで話し合ってくださいね。