薬物性肝障害 |
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関連情報 |
肝炎」「アレルギー」「好酸球増加」「活性酸素」 |
病態 | 肝毒性を持つ薬剤・食品により、直接の肝毒性またはアレルギー機序によって肝機能異常をきたす。 |
分類 | <1>薬物固有の肝臓毒による「中毒性肝障害」と <2>過敏性反応による「アレルギー性肝障害」に大別され、 大部分をアレルギー性肝障害が占める。 |
病型分類 | 肝細胞障害型薬物性肝障害(hepatocellular injury type)、 胆汁うっ滞型薬物性肝障害(cholestatic type)、 混合型薬物性肝障害(mixed type)、 急性肝不全(acute hepatic failure type)、 薬物起因の他の肝疾患(othertype liver diseases caused by drugs) |
検査 | 血清トランシアミナーゼ・・・高値 血清γ-GTP・・・・・ときに高値 血清ALP・・・・・・・・ときに高値 末梢白血球数・・・・増多 末梢好酸球数・・・・増多 薬剤感受性試験 肝生検 |
診断 基準 |
1978年、 (1)薬物の服用開始後(1~4週)肝機能障害の出現を認める。 (2)症状: 「発熱、発疹、掻痒感、黄疸が挙げらているが、発熱、発疹を伴う肝機能障害をみとめた時には薬物性肝障害を考える。」 (3)末梢血液像: 1.6%以上の好酸球の増多が特徴的。 ーーー約半数の症例に認められる。 2.または、白血球増加を認める。 (4)生化学的検査: 胆汁鬱血型の場合、ビリルビン、胆道系酵素、コレステロール高値を認める (5)薬剤感受性試験:陽性。 「遅延型過敏症と考えられ、細胞性免疫を利用した薬物感受性試験が開発されている。」 (a)リンパ球幼若化試験(LST) (b)マクロファージ遊走阻止試験(MIT) (6)偶然の再投与により、肝障害の発現を認める。 |
肝臓 | 薬が肝臓をむしばむ 患者に肝機能障害ある場合、医師が考える原因は第1にC型肝炎などのウイルス感染だ。日本では肝炎患者の約8割はウイルス感染による。2番目に疑うのが飲酒。しかし、「ウイルス検査で異常がなく、アルコールの飲み方も適切だとすると薬が原因の場合が多い」(石井教授)という。 過去に報告された原因薬は抗生物質が最も多く、鎮痛薬などを含む中枢神経作用薬、細菌などを排除する化学療法薬などが続く。 薬による肝障害は中毒性とアレルギー性に大別される。中毒性肝障害は肝臓の代謝能力を上回る量の薬を服用することで起きる。英国では劇症肝炎患者の1/2が解熱・鎮痛剤を自殺目的で大量に飲むことが原因と言われている。 日本人に多いのはアレルギー性肝障害、薬が肝臓で代謝された後の分子が、自分の体内にはない異物と認識されて抗原となり、アレルギー反応を引き起こすタイプだ。抗原になるかどうかは遺伝的要因による。同じ薬を飲んでも、遺伝子が違うとアレルギーを起こしたり起こさなかったりする。 薬物性肝障害患者の50~70%が薬を服用してから30日以内で発症し、90%が、60日以内に異常を示すという。典型的な症状は発熱・発疹・皮膚のカユミ・だるさや、白血球の中の好酸球の増加、胆汁が排泄されず蓄積されるために起こる黄疸。 特に好酸球の増加や黄疸は70%の患者でみられる。「黄疸が出るまで肝臓が悪いという意識はほとんどない」(石井教授)のが実情。 薬物性肝障害の診断はリンパ球培養試験(DLST)を行う。肝障害に伴って増加するリンパ球の量を調べるものだが、的確に判定出来る検査ではない。経過を追って繰り返し調べることが必要という。 |
検査 | 薬剤によるリンパ球刺激試験(DLST) |
薬物性肝障害(厚生労働省) (英語名: Drug-induced liver injury (肝細胞障害型薬物性肝障害、胆汁うっ滞型薬物性肝障害、混合型薬物性肝障害、急性肝不全、薬物起因の肝疾患) |
病型分類:
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薬の服用により、肝臓の機能が障害される「薬物性肝障害」が引き起こされる場合があります。 解熱消炎鎮痛薬、抗がん剤、抗真菌薬、漢方薬など、さまざまな医薬品で起こる場合がありますので、何らかのお薬を服用していて、以下のような症状がみられ、症状が持続する場合には、放置せず医 師・薬剤師に連絡してください。 |
1. 薬物性肝障害とは?
① たくさん飲んではじめて副作用が出る場合
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2.早期発見と早期対応のポイント
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薬物性肝障害は
1.早期発見と早期対応のポイント
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副作用の概要 【起因薬投与開始から症状出現(発症)までの期間についての注意】
○ 肝障害のタイプからみた症状の特徴
②他覚所見
○ 肝障害のタイプからみた所見の特徴
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③臨床検査所見 <検血・血液像> ○ 薬物性肝障害の発症機序からみた所見の特徴
○ 肝障害のタイプからみた所見の特徴
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④ 画像検査所見
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<肝細胞障害型>
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<胆汁うっ滞型>
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⑤ 病理検査所見
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○ 肝細胞壊死の分布からみた分類 帯状壊死(zonal necrosis)
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⑥ 発生機序
表1 代謝性特異体質により肝障害を起こすと考えられる薬物 アカルボース、アミオダロン、イソニアジド、イトラコナゾール、経口避妊薬、ザフィルルカスト、ジクロフェナクナトリウム、ジスルフィラム、タモキシフェン、蛋白同化ステロイド、ダントロレンナトリウム、テガフール・ウラシル、塩酸テルビナフィン、トログリタゾン*、バルプロ酸ナトリム、塩酸ヒドララジン、フルコナゾール、フルタミド、ペモリン、塩酸ラベタロール —————————————————————————— * :販売中止 上記薬物による肝障害はアレルギー性機序で起こる場合もあることに留意する。 |
⑦ 薬物ごとの特徴
○ アセトアミノフェン
<精神・神経用薬>
○ハロタン
<循環器用薬(抗凝固剤を含む)>
○ チオプロニン
<抗がん剤>
○ シクロホスファミド
○ タモキシフェン
○ テガフール・ウラシル配合剤
○ フルタミド
○ メトトレキサート
○ 6-メルカプトプリン
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<化学療法薬(抗真菌剤を含む)>
○ 塩酸テルビナフィン
○ ニューキノロン系抗菌薬
○ フルコナゾール
○セフェム系製剤
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<漢方薬> 肝障害の報告は全薬物中4.7 %で、多い順に小柴胡湯、柴苓湯、葛根湯と続く。一般に、発症までの期間は、1 ヶ月以内44 %、3 ヶ月以上29 %とやや長い症例がある。初発症状は、黄疸、全身倦怠感、腹部症状などであるが、アレルギー症状や白血球・好酸球の増多を伴う者は少ない。1999年の全国調査では、肝細胞障害型53.9 %、混合型35.0 %、胆汁うっ滞型11.0 %で、DLST 陽性率は51.3 %であった(表2)。最近の報告では、DLST陽性率が非常に高率とのことで、診断に用いるのに注意を要するとされている。特にリンパ球幼若化活性をもつ薬物の場合に注意を要する。 ○ 小柴胡湯 サイコ、ハンゲ、オウゴン、タイソウ、ニンジン、カンゾウ、ショウキョウを含む合剤であり、慢性肝炎などにも用いられる。肝障害発症時に発疹、発熱などのアレルギー症状を伴うものが無く、正確な発症機序は明らかでない。発症は0.64%(2,495 例中16 例)、発症までの期間は8週未満と8週以上が共に9 例であった((株)ツムラ資料、1998.9)。1999 年の全国調査ではDLST 陽性率は17 例中9 例と高率であった(表2)。 <代謝性疾患用剤(糖尿病・高脂血症用剤)> 1999 年の全国調査にて、肝障害の報告は全薬物中3.5 %で、多い順にトログリタゾン、アカルボース、ボグリボース、グリベンクラミド、エパルレスタットと続く。臨床型では、肝細胞障害型が53.7 %、混合型が25.9 %、胆汁うっ滞型が14.8 %、劇症肝炎が多く5.6 %で、DLST 陽性例は20.5 %と低率であった。トログリタゾンのような代謝性特異体質による肝障害が多く含まれたため、アレルギー症状を欠くものが多かったと思われる。 ○ アカルボース α-グルコシダーゼ阻害剤で、糖尿病治療に用いられ、重篤な肝障害が10,000 人に1~2 人の頻度で報告されている。1999 年の全国調査ではDLSTは施行7 例全例で陰性であった(表2)。2000 年に戸田らが1993 年12 月~1998 年6月に集計した125 例について検討しているが、それによると、発症は女性に多く(62 %)、しかも女性に重篤例が多かった(72 %)。発症年齢は男性59.0 歳、女性59.9 歳と中高年。症状は、倦怠感/疲労感、黄疸、掻痒、食思不振など、アレルギー症状(発疹1 例、発熱2 例)や好酸球増多(6 例)を認める者は非常に少ない。薬物服用後4 週以内の発症は10~20%、1 年以内の発症は98 %で、残りは1 年を超えて発症している。重篤例では、12~20 週での発症が全体の25 %と最も多く、投与量と肝障害の関連は認められていない。彼らは2 例の劇症肝炎死亡例を認めている。以上を総合すると、アレルギー性肝障害というよりも、代謝性特異体質に起因して肝障害が発症するものと考えられる。 <その他> 1999 年の全国調査にて、痛風・高尿酸血症用薬(0.7%)、呼吸器用薬(0.4%)、免疫抑制剤(0.4 %)、泌尿・生殖器用薬(0.2 %)、骨代謝改善薬(0.1 %)、ホルモン薬(4.6 %)、抗アレルギー薬(3.7 %)、ビタミン薬(0.8 %)、一般用医薬品(5.8 %)などが、肝障害を起こし得る。臨床型では、肝細胞障害型が46.4 %、混合型が32.5 %、胆汁うっ滞型が19.6 %、劇症肝炎が多く11.4 %で、DLST 陽性例は施行例中32.1 %で陽性であった。 ○ アザチオプリン 免疫抑制剤として腎移植後などに使用されている。グルタチオンS-トランスフェラーゼで代謝されると6-メルカプトプリンとなる。6 ヶ月~5 年の使用後に発症するが、男性の腎移植患者や、SLE などの基礎疾患を持つ患者に発症リスクが高い。全身倦怠感、関節痛、発熱、腹痛、食思不振、嘔気、嘔吐、下痢、体重減少、掻痒感、黄疸などを来たし、進行すると腹水、食道静脈瘤、肝脾腫、凝固障害などを認める。肝組織像に特徴があり、peliosishepatis、類洞閉塞症候群、結節性再生性過形成(nodular regenerativehyperplasia [NRH])がみられる。 ○ ザフィルルカスト 2001 年から発売されているロイコトリエン受容体拮抗薬で、気管支喘息治療に用いられる。一過性にトランスアミナーゼ上昇を来すが無症状で、使用継続しても一般には3 ヶ月以内に正常化する。しかし、3 ヶ月~18 ヶ月の継続投与の間に、稀に(0.1 %未満)顕性の肝障害を来たし、その1/3 は重症化する。劇症肝炎死亡例も報告されている。重症化例にはザフィルルカスト1日投与量が40 mg よりも80 mg の患者が多い。肝障害は圧倒的に女性に多く、また40 歳代以降の中高齢者に発症している。アレルギー症状を伴う症例は非常に少ない。これらから代謝性特異体質に起因する発症の可能性が強い。ザフィルルカストはCYP2C9 によりメチル水酸化を受けていくつかの肝毒性のある中間代謝物へと代謝されるとされており、一般にCYP 活性が女性に高いことが指摘されている。 ○ 経口避妊薬(エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤の合剤) 服用中の女性に胆汁うっ滞型の肝障害を来すことがある。黄疸と掻痒感を認め、ビリルビンは上昇するがALP 上昇は軽度、γ-GTP は正常値に留まるものが多い。これは、エストロゲンによる肝細胞毛細胆管側膜上のトランスポーター(MRP2、BSEP)の阻害によると考えられる。また、長期(数ヶ月~20 数年)の服用後に肝の限局性結節性過形成(focal nodularhyperplasia [FNH])、腺腫、肝癌を発生することがある。また、エストロゲンは肝由来の凝固因子を増加させるため肝静脈血栓症を惹起することがある。 ○ ジスルフィラム アセトアルデヒド阻害薬で抗酒精療法に用いられ、肝障害は服用開始後1~24 週に出現する。肝細胞障害型を呈するものが多く、アレルギー症状は少なく、代謝性特異体質による発症の可能性が強い。 ○ 蛋白同化ステロイド 男性ホルモン作用は弱く、再生不良性貧血などに使用される。C17 アルキル化ステロイドで、軽度のトランスアミナーゼ上昇や胆汁うっ滞を主とする肝障害を起こすことがあるが、ALP の上昇は非常に軽度である。肝組織ではzone 3 を中心とした胆汁うっ滞像を認める。毛細胆管レベルでの胆汁分泌障害が原因とされる。稀ではあるが、経口避妊薬と同様にpeliosishepatis、肝腺腫、肝細胞癌を発症する症例がある。 ○ ビタミンA(パルミチン酸レチノール) 高用量、長期に使用した場合に、非特異的な肝酵素上昇を認め、時に門脈圧亢進症状(腹水)を伴う。肝組織像では、星細胞(伊東細胞)の増殖と脂肪蓄積が見られ類洞が圧排されて狭小化する。 ○ プロピルチオウラシル 甲状腺ペルオキシダーゼ阻害作用を持つ抗甲状腺薬で、投与開始後多くは1~3 ヶ月に肝障害を発症する。肝細胞障害型が多く、1999 年の全国調査では胆汁うっ滞型は無い。チアマゾールなど、他の抗甲状腺薬でも肝障害を発症するが、胆汁うっ滞型が比較的多い。骨髄抑制や無顆粒球症などを伴う重篤な症例の報告もある。主にアレルギー性機序によると考えられる。 表2.5 例以上報告のあった薬 |
3.副作用の判別基準(判別方法) 判断の基本は、薬物服用と肝障害の経過とが時間的に関連することと、他の肝障害の除外診断である。 従来わが国では、1978 年に提案された診断基準案(薬物と肝、第3回薬物と肝研究会記録、1978、 p.96-98、 杜稜印刷)が用いられてきたが、アレルギー機序による肝障害にのみ対応したものであること、診断のポイントとなる薬物リンパ球刺激試験(DLST)の偽陽性のために診断がつきにくいという欠点があった。その後、1993 年に出された国際コンセンサス会議の診断基準(J Clin Epidemiol. 1993:46: 1323-1330)の有用性も示されていたが、3 年間の日本肝臓学会大会での議論を経て、我が国なりにこれに手を加えた新しい診断基準が2004 年に提起された。これは表4 に示すスコアリングを用いて診断を行うもので、まずALT とALP 値から肝障害を分類して、8つの項目ごとにスコアリングを行い、表4 の脚注に示した判定基準で判定するものである。このスコアリングを薬物性肝障害683 例と除外症例99 例とに当てはめたところ、感度は98.7%、特異度は97.0%と良好な判定が行えた。また、スコアリングを行うにあたってのマニュアルを表5 に示す |
薬物性肝障害診断基準の使用マニュアル(肝臓 2005; 46: 85-90 より引用) -------------------------------------------------------------------------------- 1. 肝障害をみた場合は薬物性肝障害の可能性を念頭に置き、民間薬や健康食品を含めたあらゆる薬物服用歴を問診すべきである。 2. この診断基準は、あくまで肝臓専門医以外の利用を目的としたもので、個々の症例での判断には、肝臓専門医の判断が優先する。 3. この基準で扱う薬物性肝障害は肝細胞障害型、胆汁うっ滞型もしくは混合型の肝障害であり、ALT が正常上限の2 倍、もしくはALP が正常上限を超える症例と定義する。 ALT およびALP 値から次のタイプ分類を行い、これに基づきスコアリングする。
5. 自己免疫性肝炎との鑑別が困難な場合(抗核抗体陽性の場合など)は、肝生検所見や副腎皮質ステロイド薬への反応性から肝臓専門医が鑑別すべきである。 6. 併用薬がある場合は、その中で最も疑わしい薬を選んでスコアリングを行う。薬物性肝障害の診断を行った後、併用薬の中でどれが疑わしいかは、1 発症までの期間、 2 経過、 5 過去の肝障害の報告、 7 DLST の項目から推定する。 7. 項目4 薬物以外の原因の有無で、経過からウイルス肝炎が疑わしい場合は、鑑別診断のためにはIgM HBc 抗体、HCV-RNA 定性の測定が必須である。 8. DLST が偽陽性になる薬物がある(肝臓専門医の判断)。DLST は別記の施行要領に基づいて行うことが望ましい。アレルギー症状として、皮疹の存在も参考になる。 9. 項目8 偶然の再投与が行われた時の反応は、あくまで偶然、再投与された場合にスコアを加えるためのものであり、診断目的に行ってはならない。倫理的観点から原則、禁忌である。なお、代謝性の特異体質による薬物性肝障害では、再投与によりすぐに肝障害が起こらないことがあり、このような薬物ではスコアを減点しないように考慮する。 10.急性期(発症より7 日目まで)における診断では、薬物中止後の経過が不明のため、2 の経過を除いたスコアリングを行い、1 点以下を可能性が少ない、2 点以上を可能性ありと判断する。その後のデータ集積により、通常のスコアリングを行う。 |
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4.判別が必要な疾患と判別方法 <肝細胞障害型> ○ 急性ウイルス肝炎(B 型慢性肝炎の急性増悪を含む) 海外渡航歴、なま物の摂取、不特定の性的行為の有無、家族歴IgM HA 抗体、HBs 抗原、IgM HBc 抗体、HCV 抗体、HCV-RNA の測定 ○ CMV、 EBV による肝障害 咽頭痛、頸部リンパ節腫大の有無白血球像で異型リンパ球の増多、血清LDH の増加IgM CMV 抗体、IgM EB VCA 抗体などの関連抗体の測定 ○ アルコール性肝障害 飲酒歴 血清γ-GTP およびIgA の高値、AST>ALT のトランスアミナーゼ値上昇 ○ 過栄養性脂肪肝 BMI、HOMA-IR、腹部超音波所見 ○ 自己免疫性肝炎 IgG、抗核抗体の測定 自己免疫性肝炎については、薬物性肝障害との判別はスコアリングでは不可能なので、肝生検所見や副腎皮質ステロイド薬への反応性から判別する。 ○ ショック肝 血圧低下がおこる原因疾患の有無、血圧低下の病歴 <胆汁うっ滞型> ○ 閉塞性黄疸 腹部所見(圧痛、腫瘤触知など)腹部超音波検査もしくは腹部CT ○ 原発性胆汁性肝硬変 血清IgM、抗ミトコンドリア抗体、抗PDH 抗体の測定 ○ 原発性硬化性胆管炎 MRCP、可能であればERCP ○ 特殊な肝内胆汁うっ滞 良性反復性肝内胆汁うっ滞、妊娠性肝内胆汁うっ滞など 5.治療方法 薬物性肝障害の多くの症例は早期発見により薬物投与中止により速やかに回復する。一部においては発見の遅れや、個体差により重篤化し治療に難渋することがある。薬物性肝障害の診断基準に関する議論が多く内外でなされている。薬物性肝障害の一般的な治療を述べる。 <一般療法> 薬物性肝障害の基本治療としては、起因薬物の同定を速やかに行い、早期にその薬物の投与を中止することが第一である。軽度の肝障害は自然に改善する。ALT 300 IU/L 以上、総ビリルビン 5 mg/dL 以上などの中等度以上の肝細胞障害や黄疸を呈する場合は、入院加療にて経過観察をする。しかし一部に劇症化する例がありその予後は肝移植を必要とされる例がある。 一般的な急性肝障害(急性肝炎など)の治療に準じ、安静臥床での経過観察、消化のよい(低脂肪食:脂肪を一日30~40 g に制限など)食事を中心とした食事療法、そして薬物療法である12)。食事ができない場合5~10%ブドウ糖500~1000 mL を基本に輸液を施行する。 しかし肝庇護薬を含めた薬物療法はそれ自体でさらに肝障害を引き起こすこともありうるので、乱用は慎むべきである。薬物療法が基本的に必要なのは、黄疸遷延化例と劇症肝炎移行が考えられる例である。また、飲酒者においては健常者よりも薬物性肝障害を起こしやすいともいわれている。それはフリーラジカルのスカベンジャーである、グルタチオンおよびシステインが減少しており、肝細胞内での脂質過酸化が起こりやすい状況であり、抗酸化作用のある薬物や、ビタミンC、E などの使用も効果があるとされている。 <薬物療法> 1.基本的薬物療法 1) 肝細胞障害型 中等度以上肝細胞障害例(ALT 300 IU/L 以上)においては、グリチルリチン製剤で抗アレルギー作用のある強力ネオミノファーゲンシー(SNMC)の静注を行いALT 改善に努める。SNMC は、一回、20~100 mL の静注同時に、肝細胞膜保護作用を有するウルソデオキシコール酸(UDCA)の経口投与を行う13)14)。これらにより、ALT 100 IU/L 以下に低下させることに努める。 肝細胞障害が重症化し、劇症肝炎に陥ったときの治療は、IVH、人工肝補助療法を用いる。血漿交換、血液透析を行う。劇症肝炎予後予測式を参考にし、場合によっては肝移植となる場合もある15)16)。与芝の予知式を挙げる。Z=-0.89+1.74×(原因)+0.056×総ビリルビン(mg/dL) - 0.014×コリンエステラーゼ(U/L)、原因がHAV、HBV(急性感染)、アセトアミノフェンなら原因=1、原因がHBV キャリア、C、非A~非C、アレルギー性薬物性肝炎、自己免疫性なら原因=2 とし、1 あるいは2 の数値をあてはめ使用する。Z>0 で脳症発現の可能性大、PT60%の時点におけるデータで、かつ血液浄化法開始前の検査値を使用する。これらは、ウイルス性などの一般的な劇症肝炎の治療に準ずる。 アセトアミノフェンの大量服用による、急性肝不全の場合服薬直後であれば、胃洗浄を施行する。しかし、服薬10 時間以内であれば肝グルタチオンを補填する目的で前駆体であるN-アセチルシステインを点滴静注する17)。しかし本邦においては静注薬がないので、N-アセチルシステインであるアセチルシステイン内用液を胃管から、初回140 mg/kg、 以後4 時間毎に70 mg/kg を17 回、計18 回を経口または経鼻胃管より投与する。(血中濃度をモニターするとよい)。 2)胆汁うっ滞型の薬物性肝障害の治療薬 胆汁の流出障害がおこるので、食事は脂肪の吸収不良防止のために低脂肪食とする12)。総ビリルビン 10 mg/dL 以上の高度の黄疸遷延例に対しては脂溶性ビタミンの不足を補う。ビタミンA( 10 万単位)、K(10 mg)を4週ごとに筋注、次に薬物療法の選択となる。 また、遷延する黄疸の場合(総ビリルビン10 mg/dL 以上)、脂溶性ビタミン不足が生ずるため、ビタミンA( 10 万単位)、K(10 mg)を4 週ごとに筋注、次に薬物療法の選択となる。 薬物療法としては、まずは、利胆作用のあるUDCA は副作用が少なく第一選択薬である14)18)。世界的にこのように記載されており、遷延化が見られる場合、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)を使用する。しかし、開始後1週間で改善の見られない場合、漸減中止とする。 また、 UDP グルクロノシルトランスフェラーゼ活性亢進作用を期待し、フェノバルビタールを使用することもある。タウリン(アミノエチルスルホン酸)も利胆作用があり使用される。タウリンは、抗酸化作用が強く、肝細胞保護作用も持ち合わせるので、使用しやすい19)。また、掻痒感が強い場合、新しい陰イオン交換樹脂であるコレスチミドが従来のコレスチラミンよりも量が少なく飲みやすく、効果も強くよく使用されるようになってきた。 (参考)その他の治療 以下の処方は十分な科学的根拠はないが、広く使用されている 処方例 ・ウルソデオキシコール酸 100 mg 3~6 錠 分3 食後1 日2 回 (適応外) ・タウリン散(1 g)3~6 包 分3 食後1 日3 回 ・強力ネオミノファーゲンシー注(グリチルリチン製剤) 1 回40~60mL1 日1~2 回 静注 ・プレドニゾロン錠 5 mg 6~8 錠 分2~3 食後1 週間前後服用しビリルビン値の低下が認められれば、以後3~4 日毎に漸減する。開始後10 日以内に改善のみられない場合、速やかに漸減中止する。 ・茵陳蒿湯 (2.5 g/包)3 包 分3 食前 胆汁うっ滞に有効である場合がある。 ・コレスチミド 500 mg 6~8 錠、分2 朝夕食前 (適応外)掻痒感が強い場合に使用する。ウルソとは同時に服用しない。 ・コレスチラミン 9g を水100 mL に溶かし、分2~3服用。上記に比べ量が多く飲みづらい問題点があり、最近はあまり使用されない。 ・抗ヒスタミン薬との併用をすることもある。ジフェンヒドラミン軟膏を塗布することが多い。 などが具体的な使用例である。 |
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典型的症例概要 ○ 肝細胞障害型 症例1: 60 歳代、女性 主訴:全身倦怠感、発熱 飲酒歴:機会飲酒 喫煙歴:なし 現病歴:大動脈閉鎖不全症、高血圧症、慢性胃炎と診断され、塩酸ベタキソロール、シメチジン、テプレノンを内服していた。約2年後の血液検査では、AST 26 IU/L、ALT 15 IU/L、ALP 198 IU/L(正常値100~358 IU/L)、γ-GTP 25 IU/L(正常値7~29 IU/L)と肝機能検査値に異常は認めなかった。血圧コントロール不良のため、その27 日後にバルサルタンを追加された。バルサルタン開始15 日後、全身倦怠感が出現、37℃台の発熱も認めたため、近医を受診。受診時施行の血液検査で高度の肝障害を認め、翌日紹介入院となった(第1病日)。 入院時現症・検査所見:全身倦怠感、発熱以外の愁訴はなく、肝脾腫、黄疸などの身体所見も認めなかった。 検査所見では、WBC 2,800 /μL (neut 82%、eos 0%、lymph 15%、mono 2%)、RBC 435×104/μL、Hb 13.2 g/dL、PLT 138×103/μL、プロトロンビン時間71%(PT INR 1.27)、Alb 4.3 g/dL、T. Bil 0.59 mg/dL、AST 1180 IU/L、ALT 1280 IU/L、ALP 234 IU/L、γ-GTP 38 IU/L と肝細胞障害型の肝障害を認めた。HBs 抗原(-)、HCV RNA 定性(-)、IgM-HA 抗体(-)、抗核抗体(+)、抗ミトコンドリア抗体(-)、IgG 1463 mg/dL、IgM 144 mg/dL、CMV IgG(+)、CMV IgM(-)、EBV VCA IgG(+)、EBV VCA IgM(-)であった。入院時の腹部CT では肝形態は正常、脾腫も認めなかった(図17)。 臨床経過: 薬物投与歴より、バルサルタンによる薬物性肝障害が疑われたため、同剤を中止し、経過観察とした。発熱は入院当日に37℃台のものを認めたのみで、それ以降は認めず、全身倦怠感も軽減した。肝機能検査値は、第6 病日には、AST 156 IU/L、ALT 490 IU/L、ALP 296 IU/L、γ-GTP 69IU/L、第15 病日には、AST 29 IU/L、ALT 62 IU/L、ALP 223 IU/L、γ-GTP48 IU/L と速やかに改善した。バルサルタンに対するリンパ球刺激試験(DLST)の結果は陰性であった。第14 病日に肝生検を施行。門脈周辺域の炎症細胞浸潤、小葉のspotty necrosis を認め、急性肝炎の像と類似していた(図18)。 経過、検査結果より、バルサルタンによる薬物性肝障害を考え、薬物性肝障害診断基準に従いスコアリング、国際コンセンサス会議の診断基準では7 点で”probable”、2004 DDW-J 薬物性肝障害ワークショップで提案された診断基準では「可能性が強い」となり、バルサルタンによる肝細胞障害型の薬物性肝障害と診断した。血圧についてはアゾセミドでコントロール可能となった。第16 病日に退院。退院20 日後の外来での血液検査では、AST 27 IU/L、ALT 24 IU/L、ALP 207 IU/L、γ-GTP 35 IU/L と肝機能検査値はほぼ正常化していた。その後の肝機能検査値は正常値を維持している。 薬物の投与歴、原因と疑われる薬物中止後の経過、他の原因の除外などにより、肝細胞障害型の薬物性肝障害との診断に至った症例である。 ○ 胆汁うっ滞型 症 例: 50 歳代、女性 既往歴:関節リウマチ 20 歳より治療中 抗リウマチ薬(詳細不明)で間質性肺炎の既往あり 8年前 帯状疱疹 4 年前 高脂血症 同年 喫煙歴:なし 飲酒歴:機会飲酒 (ビールを少量 年に数回程度) 現病歴:労作時前胸部痛のため近医で心カテを実施したところ、狭窄部を認めたため加療目的で紹介された。入院4 日後にPCI:経皮的冠動脈血行再図17. 腹部CT 画像 図18. 症例1 の肝生検組織像建術(#7 に薬剤漏出性ステント留置)を施行した。たこつぼ心筋症と対角枝領域に梗塞を認めた。 入院後経過:入院当初(PCI 施行4 日前)は正常範囲内であった肝機能(トランスアミナーゼ、胆道系酵素など)が、PCI 施行13 日後より徐々に上昇しだした(AST 62 IU/L、 ALT 73 IU/L、 ALP 223 IU/L、 γ-GTP 305 IU/L)。グリチルリチン製剤(SNMC)60mL 連日投与をPCI 施行19 日後(AST 258 IU/L、ALT 416 IU/L)より開始した。PCI 施行25 日後には、(T.Bil 4.36mg/dL、 AST619 IU/L、 ALT 1128 IU/L、 ALP 2452 IU/L、 γ-GTP 2045 IU/L)となった。肝機能の悪化とともに薬疹が出現、PCI 施行33 日後(T−Bil 13.01mg/dL、AST 334 IU/L、 ALT 683 IU/L、 ALP 2369 IU/L、γ-GTP 1716 IU/L)、トランスアミナーゼの改善傾向を認めるも、黄疸の悪化を認めた。使用していた薬剤に対しDLST を施行したところアスピリン(100mg)、ニコランジル(5mg)が陽性と判定された。PCI 施行50 日後には(T.Bil 26.68mg/dL、D.Bil 20.08mg/dL、 AST 104 IU/L、 ALT 196 IU/L、 ALP 2276 IU/L、γ-GTP 1405 IU/L)、黄疸がさらに悪化。PCI 施行51 日後よりスティーブンス・ジョンソン様の皮疹・口唇びらんが出現し、PCI 施行52 日後よりステロイドパルス治療を開始。循環器系の薬物をできるだけ中止したかったが、ステント留置から3 ヶ月間は抗凝固療法(アスピリン)を緩めることは出来ず、PCI 施行56 日後(T.Bil 22.34mg/dL、D.Bil 17.87mg/dL、 AST 218 IU/L、ALT 373 IU/L、 ALP 2903 IU/L、 γ-GTP 3067 IU/L)にも黄疸の改善認めず、胆道系酵素の悪化を認めたため、PCI 施行57 日後より血漿交換を開始し、合計12 回施行した。徐々に肝機能は改善し、PCI 施行86 日後(T.Bil5.02mg/dL、D.Bil 4.22mg/dL、 AST 163 IU/L、 ALT 236 IU/L、 ALP 1712IU/L、 γ-GTP 1113 IU/L)と黄疸の軽減を認め、PCI 施行102 日後には、血漿交換の施行日をあけても(T.Bil 1.06mg/dL、D.Bil 0.63mg/dL、 AST 59IU/L、 ALT 98 IU/L、 ALP 904 IU/L、γ-GTP 850 IU/L)となり血漿交換を終了した。PCI 施行105 日後に経皮的肝生検を施行した結果は薬物性肝障害に伴う胆汁うっ滞像として矛盾はなかった。しかし、その時点では(T.Bil1.12mg/dL、AST 82 IU/L、 ALT 125 IU/L、 ALP 1369 IU/L、 γ-GTP 1467IU/L)と上昇していたため循環器系の薬物を最小限とし、PCI 施行106 日後よりウルソデスオキシコール酸(UDCA) 600mg、1日3回を開始した。肝機能障害は再燃することなくPCI 施行122 日後(T.Bil 0.69mg/dL、AST 36IU/L、 ALT 67 IU/L、 ALP 626 IU/L、 γ-GTP 973 IU/L)、黄疸の消失と胆道系酵素の改善傾向を認め退院となった。 発症時期、DLST により、アスピリン、ニコランジルによる薬物性肝障害と診断した症例である。DDW-J'04 薬物性肝障害シンポジウム案によるスコアリングでは10 点(highly probable)と判定された。肝細胞障害も伴うが、高度黄疸が進行し胆汁うっ滞がメインの経過をとり、ステロイドパルス治療、血漿交換、UDCA が奏功した薬物性肝障害の一例である。 (症例提供:自治医科大学大宮医療センター:落合香織) ○ 混合型 症 例:60 歳代、男性 混合型急性肝障害 起因薬:オキサトミド、ベタメタゾン・マレイン酸クロルフェニラミン配 合剤 主 訴:倦怠感、尿濃染 現病歴:起因薬投与前の肝機能異常なし。疥癬に対して①ベタメタゾン・マレイン酸クロルフェニラミン配合剤の内服投与が開始、その後②オキサトミドが開始された。①の開始後82 日目および②の開始後28 日目に混合型肝障害を認めた。 発症時検査データ: T.Bil 5.18 mg/dL 、D.Bil 3.48 mg/dL、AST 250 IU/L、ALT 378 IU/L、ALP 765 IU/L、 γ-GTP 264 IU/L、T.Chol 230 mg/dL、WBC 4700/μL、 好酸球15.3%、 PT 78%、 抗ミトコンドリア抗体陰性、血清IgM 44 mg/dL、IgM- HA 抗体陰性、IgM-HBc 抗体陰性、HCV-RNA 定性陰性、HSV-IgM 陰性、CMV-IgM 陰性、EBV VCA IgM 陰性 【腹部超音波検査】胆道系疾患なし。 【国際コンセンサス会議(1993)薬物性肝障害診断基準スコア】6 点、probable. 【薬物によるリンパ球幼若化試験結果】上記2 剤とも陰性。 【日本消化器病学会週間(2004)薬物性肝障害診断基準案スコア】8 点、可能性高い。 【組織所見】Drug induced liver injury:中心静脈周囲の肝細胞の変性と10%の脂肪化。類洞内に軽度の好酸球浸潤あり。肝細胞内に胆汁色素の沈着を認めたが、胆管病変はなかった。(発症14 病日) 【治療と経過】発症後2 日目に起因薬中止。起因薬物中止のみで肝障害改善傾向あり、その後にウルソデオキシコール酸600mg/日内服、グリチルリチン静注用製剤投与を開始し肝障害改善した。 ○ 急性肝不全 症例1:60 歳代、男性 主 訴:意識障害、発熱 既往歴・生活歴:常習飲酒家ではない。常用薬はなく健康食品類摂取もない。 現病歴:過去に肝障害を指摘されたことはない。S 状結腸癌に対してS 状結腸切除術を施行されたあと、術後補助化学療法としてテガフール・5-FU合剤(以下被疑薬、450 mg/日)の経口投与が開始された。投与18 日目に39.5℃の発熱・咽頭痛が出現し他院を受診し、咽頭炎の診断で感冒薬を投与された。改善しないため被疑薬投与20 日目に血液検査を受けたが肝障害を認めなかった。その後も発熱が持続し、投与24 日目より食思不振が増悪して経口摂取不能となったが被疑薬のみ必須の薬と考えて25 日目まで内服を続けていた。最終内服から15 時間後に呼名応答困難となり救急搬送された。 入院時現症:血圧101/61 mmHg、体温37.4℃、脈拍103/分・整、意識は JCSⅠ-3 で肝性脳症3 度、眼球結膜及び皮膚に黄染を認めた。咽頭は軽度発赤。胸部に異常なし。腹部は平坦・軟で圧痛は認めず、腸雑音はやや亢進。肝脾腎を触知せず、肝濁音界も縮小なし。下肢に軽度の浮腫を認めた。神経学的所見では見当識障害があり(日付と場所を言えず)、羽ばたき振戦の誘発を認めた。巣症状・髄膜刺激症状は認めなかった。入院時検査所見:WBC は13000/μL と上昇、好酸球数は1200/μL であった。PT 21.2 秒(22%)と延長。生化学検査ではAlb は3.4 g /dL と僅かに低下しており、AST 1215 IU/L、ALT 2440 IU/L、ALP 744 IU/L、γ-GTP 244IU/L、LDH 1025 IU/L と高値であり、全体として肝実質細胞傷害優位であった。T.Bil 2.5 mg/dL であった。また、BUN 70 mg/dL、Cre 2.8 mg/dLと軽度の腎前性腎不全の像を示していた。肝炎ウイルスマーカーは全て陰性で、有意な自己抗体も認めなかった。画像では肝実質は不均一で超音波では実質エコーパターンは粗造であったが肝容積は保たれており、腹水は認められなかった。 臨床経過:以上より急性型の劇症肝不全と診断し直ちに集中治療室入院とした。病歴と既報例の傾向より、家族から得た上記の問診のみで被疑薬を推定した。比較的蛋白結合率の低い薬物であることから血液浄化療法として通常の血液透析を選択、来院後2 時間で開始、3 時間施行した。来院時の血中テガフール濃度は17034 ng/ml と通常投与時のピーク濃度の1.5 倍程度の高値であり、透析後に半減した。これとともに脳症は急速に改善、肝障害も単峰性で軽快した。併用療法としてはUDCA、グリチルリチン製剤、ごく短期間の副腎皮質ステロイド投与を行なった。第3 病日に施行した肝生検所見は線維化所見のない広範肝壊死、回復期の第14 病日に再度施行した肝生検では大部分の肝細胞が再生し、小葉構造も保たれていた。 DLST は被疑薬に対して一過性に強陽性を呈した。DDW-J’04 薬物性肝障害シンポジウム案によるスコアリングでは11 点(highly probable)と判定された。 初期の診断と治療の導入が重要であった薬物性肝障害の重症型と診断された症例である。 (症例提供:土浦協同病院消化器内科 永山和宜・田沢潤一) 症例2:ベンズブロマロン 60 歳代、男性、原疾患:高尿酸血症 併用薬:スクラルファート 臨床経過 35 日前 アロプリノールの投与を受けていたが、投与中止。 投与開始日 ベンズブロマロン投与開始(150 mg/日)。 77~86 日後頃 心窩部痛、全身倦怠感を自覚。 98 日後 AST 1286 IU/L , ALT 1369 IU/L 99~107 日後頃 グリチルリチン・グリシン・システイン配合剤、ビタミンK2 投与。 108 日後 心窩部痛、熱感出現。ベンズブロマロン中止し入院。 114 日後 肝性脳症、肝不全に至る。 115 日後 AST 465IU/L、ALT 372IU/L、T.Bil 31.3mg/dL。肝性脳症スコアー II 度 116 日後 DIC を疑い、メシル酸ガベキサート(1500 mg/日)投与開始(156日後まで) 121 日後 FFP(5 単位/日)投与開始(176 日後まで) 123~125 日後 直接血液灌流法によるビリルビン吸着施行。 162~174 日後 肝性脳症スコア:II~V 度 176 日後 肝不全により死亡。剖検にて、肝の広範囲壊死を確認。 肝炎ウイルスマーカー:陰性 DLST(156 日後):ベンズブロマロン陰性、アロプリノール陰性 (参考資料)平成12 年2 月 緊急安全性情報99-2 号 ○ その他の薬物起因の肝疾患 クエン酸タモキシフェンによる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)例日本消化器病学会誌 2002; 99: 1119 より、千葉大学 横須賀 収教授の許可を頂き掲載 症 例:50 歳代、女性 現病歴:左乳癌に対し手術施行。この時、AST 13 IU/L、 ALT 12 IU/L であった。飲酒歴は手術時まで機会飲酒。乳癌術後、クエン酸タモキシフェン20 mg/日を3年間内服していた。AST 114 IU/L、 ALT 103 IU/L であったため、同剤による肝障害を疑い、同意を得た上で中止するも、全身倦怠感および肝機能異常が6ヶ月異常持続したため、入院となる。身長 150 cm、体重 54 kg。血液検査所見を表1に示す。腹部超音波検査とCT(図19)で脂肪肝を認めた。 腹部CT:肝臓はびまん性に輝度が低下し、脂肪肝の所見 を呈している。 本例は大量飲酒の既往を認めず、肝生検所見(図20)からNASH と診断した。UDCA 600 mg/日内服を開始し、全身倦怠感、肝機能の著明な改善がみられた(入院約6ヶ月後 AST 29 IU/L、 ALT 40 IU/L)。 図20 肝組織所見 a 小葉構造は一部乱れている。実質の脂肪変性が目立ち、門脈域、実質内に線維の進展がみられる(Azan-Mallory 染色)。 b 実質には脂肪変性に加え、層状壊死が散見される。門脈域には炎症細胞浸潤が目立つ(HE 染色)。 c 類洞に沿い線維の進展、肝細胞周囲線維化を認める(Azan-Mallory 染色) |
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その他、早期発見・早期対応に必要な事項 ① Pharmacogenomics を利用した薬物性肝障害の予測法に関する研究 薬物代謝を行う重要な酵素にチトクロームP450(CYP)がある。 CYP の分子種の酵素活性は各個人により大きく異なっている。酵素作成の遺伝子に突然変異が起こると蛋白の組成が変わり、酵素活性がなくなる。この酵素活性をもっていないヒトをpoormetabolizer と呼び、通常の酵素活性をもっているヒトをextensive metabolizer と呼ぶ。 生まれつき酵素活性があるヒトと、ないヒトが存在する。 酵素活性のないヒトが比較的多数認められる場合を、遺伝的多型があるという。 酵素活性がないヒトに基質となる薬物を投与した場合、薬物血中濃度は酵素活性があるヒトに比較し数倍から数十倍上昇し、副作用が出現しやすくなる。 遺伝的多型が存在する酵素には、CYP2A6、 2D6、2C19、 アセチルトランスフェラーゼ (アセチル基転移酵素)、アルデヒドデヒドロゲナーゼなどがある。 さらに、遺伝的多型には人種差が存在する。CYP2D6 のpoor metabolizerは白人の7%ほどに存在するが、日本人には1%未満しか認められない。CYP2C19 は、日本人を含む黄色人種の約20%はpoor metabolizer で、白人は5%以下である。同じように白人の半数はアセチルトランスフェラーゼのslow acetylator である。一方、日本人はrapid acetylator が90%を占めているとされている。このように、 代謝酵素の遺伝子多型には民族差があることが知られており、日本人での研究が必要となる。 また、わが国で開発されたイリノテカン(カンプトテシン誘導体、CPT-11)について、薬物動態関連分子の遺伝子多型から、副作用の原因、予防法に関する研究が最近進んでいる。 イリノテカンは体内でカルボキシルエステラーゼによって活性代謝物(SN-38)に転換され、抗がん効果を発揮する。 SN-38 は細胞障害性が強く、そのままでは正常細胞にも作用し副作用発現の原因になリ、副作用として骨髄抑制、下痢のほか肝障害も報告されている。 実際には、患者の体内でUGT1A1 によってグルクロン酸が付加され、細胞毒性が減少し、解毒される。 ところがプロモーター領域にあるTATA box のTA の繰り返し配列が通常は6 回であるところ7 回ある多型の場合は、UGT1A1 の発現が減弱しSN-38の解毒が進まず強い副作用(特に好中球減少)がみられる症例が多いことが明らかとなっている23-26)。また、特にアジア人では、UGT1A1 のエクソン部分の遺伝子多型やUGT1A9の遺伝子多型によっても、SN-38 の体内動態やグルクロン酸抱合に違いがあることが判明している27-31)。このUGT1A1 の遺伝子多型を調べて、投与量を決めることが考案され、我が国でも臨床応用が始まっている。また、チクロピジンによる肝障害(胆汁うっ滞型)は白人よりも日本人で多いことが知られており32)、予備的研究ではあるが、日本人において、チクロピジンによる肝障害の発生患者群とコントロール群のHLA(Human leukocyte antigen: ヒト白血球抗原)のタイプを比較して、肝障害発症患者はHLA A*3303 を有意に多く保有していること(オッズ比13.04)、この遺伝子型は北アメリカの白人では0.53%に対し日本人では9.7%と多いことが報告されている33)。今後の検証的な研究が必要ではあるが、将来、投与前にHLAをタイピングすることで、チクロピジンによる肝障害の発生を予測できる可能性があると考えられる。 このように薬物代謝には個体間差があることが明らかとなり、遺伝子多型と薬物性肝障害の発症との関連性を検討することより、副作用予防に対する今後のオーダーメイド医療に大きく貢献すると考えられている。 ② 最新の研究からの薬物性肝障害の検討 フルタミド投与における肝障害に対するウルソデオキシコール酸(UDCA)投与の有効性-肝障害発症機序解明から、UDCA の効果発現機序から臨床応用へ-フルタミドおよびその代謝物OH-フルタミドは、男性ホルモンであるアンドロゲンのレセプター(AR)のアンタゴニストで、アンドロゲンと拮抗してAR に結合して作用を阻害する。ARは、遺伝子転写因子で、アンドロゲン依存性である前立腺癌の増殖を促進するが、フルタミドはそれを阻害し効果が良いことから、現在広く臨床現場で使用されている薬物である。 しかし、重要な副作用として肝機能異常があり、その出現率は13.5%と報告されている34)。フルタミド投与による肝障害は胆汁うっ滞や門脈域の壊死を伴う肝炎型が多く、まれに劇症肝炎をおこす重篤例の報告もある35-36)。しかし、いまだフルタミドによる肝障害の明確な発現機序は不明である。アレルギー反応の関与や37)、P450 による親電子産物生成、肝内グルタチオンの低下が原因とする報告もある38-39)。わが国において、臨床的にフルタミドの薬物性肝障害に対しUDCA 投与の有効性を示唆する報告がなされた。絶飲水、絶食下においてフェノバルビタールとフルタミドをラットに投与し、実験的肝障害モデルの作製に成功した41)。本モデルは、AST (GOT)、 ALT (GPT) 値が上昇し、小葉中心性壊死性変化であり、胆汁うっ滞像は認めなかった。病理組織学的にも、高用量の群が最も広範囲に病変を認めた。肝障害程度は、用量依存性があることが示唆された。フルタミドによる肝障害はチトクロームP450(CYP)によりフルタミドが酸化され、その反応物が関与することが示唆されている。またフルタミドは、P450 のうち、CYP1A2 により主に代謝され、OH-フルタミドとなり、血中で維持されることも明らかとなってきた42)。また、代謝物であるFLU-1、FLU-2、FLU-3 は、OH-フルタミドともに細胞障害性は弱いことが明らかとなった。フルタミドの酸化体である、FLU-1-N-OH の肝細胞障害性の検討のため、合成したもので検討すると培養ヒト肝細胞において肝細胞障害を起こし、GSH とも結合することが明らかとなった。ヒト肝ミクロゾームにFLU-1 を添加すると、FLU-1-N-OH が合成された。 つまり、CYP1A2 活性が低く、GSH が少ない状況下では肝障害が引き起こされる可能性が推測される。さらに、肝障害ラットの障害部位にFLU-1-N-OH の蛋白結合体が免疫染色で確認し、フルタミド投与患者の尿中にFLU-1-N-OH を検出することが確認された43)。これらの事象より、CYP1A2 活性が低く、GSH 量が低い場合には、FLU-1-N-OH が肝障害を起こしうる可能性が示唆された。そこで、CYP1A2 のノックアウトマウス(KO マウス)を利用し肝障害発現の検討を行った。通常マウスに高用量のフルタミドを投与しても肝障害は起こらないが、KO マウスではアミノ酸欠乏下で肝障害が起こり、小葉中心性にびまん性の肝細胞壊死が認められ、CYP1A2 活性が肝障害に関与していることが示唆された44)。P450 が関与する薬物性肝障害の多くは肝臓全体にびまん性に認められ、中心静脈周囲の小葉中心性の肝細胞壊死を特徴としている。本モデルの病理組織所見が同様の所見であることから、これのみでは説明できない面もあるが、P450 が関与している可能性が強く考えられる。そこで、ラットにおける実験的肝障害モデルを作製し、フルタミドによる肝障害に対するUDCA の効果を検討した。モデルラットにUDCA を同時投与したところUDCA の同時投与群での肝障害を軽減した。図21 に示すようにUDCA 非投与群と比較して、UDCA10、20 および40mg/kg 投与群において、AST、ALT 値が有意に低く、さらに、UDCA 投与20 および40mg/kg投与群においてはLDH も有意に低く、病理所見も肝細胞壊死領域範囲が縮小した。以上の結果から、本フルタミド投与実験モデルにおいて、UDCA 同時投与は用量依存的に肝障害を軽減し、臨床におけるフルタミド肝障害の改善に対する有効性が示唆される結果であった。 また、フルタミドの代謝産物へUDCA が影響を及ぼすか否かを検討した。代謝産物であるOH-フルタミド、FLU-1 およびFLU-2、さらに未変化体のフルタミドの血漿中濃度を測定した。その結果、UDCA 投与により血漿中濃度に変化はなくフルタミドの代謝へは、UDCA は全く影響をしないものと推測された。 以上の結果から、本フルタミド投与実験モデルにおいて、UDCA 同時投与は用量依存的に肝障害を軽減し、臨床におけるフルタミド肝障害の改善に対する有効性が示唆される結果であった。CYP1A2 活性低下により、フルタミド酸化体が多く産生され、抗酸化作用を持つUDCAが効果を発揮する可能性が考えられる。 ラットにおける肝細胞障害型肝障害に対するUDCA の効果は、ガラクトサミン45)でも報告されている。従って、今回のフルタミドによる肝障害が肝細胞障害型の可能性が高いので、肝細胞保護作用による効果が期待される(適応外)。対照群をおいた比較試験ではないが、フルタミド単独群(UDCA 非投与群):111 例、UDCAとフルタミド併用群(UDCA 併用群):70 例の比較検討を行った結果が出されている。肝障害発現率は、UDCA 投与群において、非投与群の32%に比し11%と有意に低かった。図22 は肝障害発現率をUDCA 投与群と、非投与群とで比較しKaplan-Myer 法で示したものである。その結果、UDCA を同時投与しておくと、フルタミド投与初期においても肝障害の発現を抑えるが、その後の発現抑制も顕著であることが明らかとなった。つまり、フルタミドによる薬物性肝障害に対するUDCA の予防効果が示唆されるものである。これは、前述したラットモデル実験を臨床的に確認したものである。臨床的EBM ではないが、基礎的な実験根拠に基づくUDCA 治療といえるであろう。薬物性肝障害に対して、このように実験モデルと、臨床検討が同時に行われているものは未だないと思われ、今後の薬物剤肝障害の予防を考える上でも重要な課題と考える。 |