Drug-induced liver injury
薬物性肝障害
 
トップへ戻る病名・症状薬剤性肝障害
会員サービス
関連情報
肝炎」「アレルギー」「好酸球増加」「活性酸素

病態 肝毒性を持つ薬剤・食品により、直接の肝毒性またはアレルギー機序によって肝機能異常をきたす。
分類 <1>薬物固有の肝臓毒による「中毒性肝障害」と
<2>過敏性反応による「アレルギー性肝障害」に大別され、
大部分をアレルギー性肝障害が占める
病型分類 肝細胞障害型薬物性肝障害(hepatocellular injury type)、
胆汁うっ滞型薬物性肝障害(cholestatic type)、
混合型薬物性肝障害(mixed type)、
急性肝不全(acute hepatic failure type)、
薬物起因の他の肝疾患(othertype liver diseases caused by drugs)
検査 血清トランシアミナーゼ・・・高値
血清γ-GTP・・・・・ときに高値
血清ALP・・・・・・・・ときに高値
末梢白血球数・・・・増多
末梢好酸球数・・・・増多
薬剤感受性試験
肝生検
診断
基準
1978年、
(1)薬物の服用開始後(1~4週)肝機能障害の出現を認める。
(2)症状:
「発熱、発疹、掻痒感、黄疸が挙げらているが、発熱、発疹を伴う肝機能障害をみとめた時には薬物性肝障害を考える。」
(3)末梢血液像:
 1.6%以上の好酸球の増多が特徴的。
   ーーー約半数の症例に認められる。
 2.または、白血球増加を認める。
(4)生化学的検査:
胆汁鬱血型の場合、ビリルビン、胆道系酵素、コレステロール高値を認める
(5)薬剤感受性試験:陽性。
「遅延型過敏症と考えられ、細胞性免疫を利用した薬物感受性試験が開発されている。」
    (a)リンパ球幼若化試験(LST)
    (b)マクロファージ遊走阻止試験(MIT)
(6)偶然の再投与により、肝障害の発現を認める
肝臓 薬が肝臓をむしばむ
患者に肝機能障害ある場合、医師が考える原因は第1にC型肝炎などのウイルス感染だ。日本では肝炎患者の約8割はウイルス感染による。2番目に疑うのが飲酒。しかし、「ウイルス検査で異常がなく、アルコールの飲み方も適切だとすると薬が原因の場合が多い」(石井教授)という。
過去に報告された原因薬は抗生物質が最も多く、鎮痛薬などを含む中枢神経作用薬、細菌などを排除する化学療法薬などが続く。
薬による肝障害は中毒性とアレルギー性に大別される。中毒性肝障害は肝臓の代謝能力を上回る量の薬を服用することで起きる。英国では劇症肝炎患者の1/2が解熱・鎮痛剤を自殺目的で大量に飲むことが原因と言われている。
日本人に多いのはアレルギー性肝障害、薬が肝臓で代謝された後の分子が、自分の体内にはない異物と認識されて抗原となり、アレルギー反応を引き起こすタイプだ。抗原になるかどうかは遺伝的要因による。同じ薬を飲んでも、遺伝子が違うとアレルギーを起こしたり起こさなかったりする。
薬物性肝障害患者の50~70%が薬を服用してから30日以内で発症し、90%が、60日以内に異常を示すという。典型的な症状は発熱・発疹・皮膚のカユミ・だるさや、白血球の中の好酸球の増加、胆汁が排泄されず蓄積されるために起こる黄疸。
特に
好酸球の増加黄疸は70%の患者でみられる。「黄疸が出るまで肝臓が悪いという意識はほとんどない」(石井教授)のが実情。
薬物性肝障害の診断はリンパ球培養試験(DLST)を行う。肝障害に伴って増加するリンパ球の量を調べるものだが、的確に判定出来る検査ではない。経過を追って繰り返し調べることが必要という。
検査 薬剤によるリンパ球刺激試験(DLST)



薬物性肝障害(厚生労働省)
(英語名: Drug-induced liver injury
(肝細胞障害型薬物性肝障害、胆汁うっ滞型薬物性肝障害、混合型薬物性肝障害、急性肝不全、薬物起因の肝疾患)
病型分類:
  • 肝細胞障害型薬物性肝障害(hepatocellular injury type)、
    胆汁うっ滞型薬物性肝障害(cholestatic type)、
    混合型薬物性肝障害(mixed type)、
    急性肝不全(acute hepatic failure type)、
    薬物起因の他の肝疾患(othertype liver diseases caused by drugs)
 
薬の服用により、肝臓の機能が障害される「薬物性肝障害」が引き起こされる場合があります。
解熱消炎鎮痛薬、抗がん剤、抗真菌薬、漢方薬など、さまざまな医薬品で起こる場合がありますので、何らかのお薬を服用していて、以下のような症状がみられ、症状が持続する場合には、放置せず医
師・薬剤師に連絡してください。
  • 倦怠感」、
  • 食欲不振」、
  • 「発熱」、
  • 「黄疸」、
  • 「発疹」、
  • 「吐き気・嘔吐」、
  • 「かゆみ」
など
1. 薬物性肝障害とは?
  • 肝臓は、生命維持に必要なさまざまな働きをする大切な臓器です。薬の代謝(化学変化)は肝臓で行なわれることが多く、さまざまな代謝産物が肝臓に出現するため、副作用として肝機能障害が多いと考えられています。
    代表的なものとしては、解熱消炎鎮痛薬、抗がん剤、抗真菌薬(水虫や真菌症の飲み薬)、漢方薬などでみられます。市販の解熱消炎鎮痛薬、総合感冒薬(かぜ薬)のような医薬品でみられることもあります。また、単独では肝障害を引き起こさなくても、複数の薬を一緒に飲むと肝障害が出る場合が
    あります。
副作用の出かたには次のようなパターンがあります。
① たくさん飲んではじめて副作用が出る場合
  • これを中毒性肝障害といい、例えばかぜ薬にもよく使われているアセトアミノフェンという解熱消炎鎮痛薬はどんな人でもたくさん(規定量の10~20 倍以上を一度に)飲めば肝機能障害が出ます。決められた用法・用量を守ることが重要です。
② 飲んだ量に関係なく副作用が出る場合
  • ほかの人では、服用しても何も問題ない薬でも、ある人では少量でもかゆみ、発疹、じんま疹、肝機能障害などが出るパターンの肝障害です。この場合、副作用が出るかどうか事前に予測することは難しいのですが、ほかの薬でアレルギーが出たとか、もともと喘息やじんま疹などいわゆるアレルギー体質の方に出やすい傾向があります。服用をはじめてから数時間といった早い時期の発疹で始まるなど、反応が急速な場合もあります。
③ ある特定の人にしか副作用が出ない場合
  • 薬を代謝する酵素や、薬に対する免疫に個人差がある場合に出る肝障害です。お酒の強さに個人差があるように、薬の代謝、分解にも個人差があることが分ってきました。薬によっては6 ヶ月以上(なかには2 年以上)服用を続けた後に肝機能障害が出ることもあります。薬の副作用によって肝障害が生じた場合、気づかずに長期使用すると重症化する場合があるため、注意が必要です。
2.早期発見と早期対応のポイント
  • 「倦怠感」、「発熱」、「黄疸」、「発疹」、「吐き気・おう吐」、「かゆみ」などがみられ、これらの症状が急に出現したり、持続したりするような場合であって、医薬品を服用している場合には、放置せずに医師、薬剤師に連絡をしてください。
    受診する際には、服用したお薬の種類、服用からどのくらいたっているのか、症状の種類、程度などを医師に知らせてください。早期の対応策としては、その薬を飲まないことですが、勝手に中止すると危険な薬もありますので、医師に相談して下さい。
  1. 副作用を早く発見するためには、まず、飲んだ薬がどのような作用をもつ薬であるか、どのような副作用が予想されるか、医師や薬剤師からよく説明を受けておくことです。最近では、薬局から渡される薬の説明書や「おくすり手帳」も有用です。
    • なお、抗がん剤、抗糖尿病薬、高脂血症薬、痛風薬、睡眠薬や抗うつ剤など、肝障害を起こす可能性がある薬の治療を受ける方は、担当医師や薬剤師から使用するお薬の種類、肝障害を含めた副作用と、早期発見のための定期的な血液検査などについての説明がありますので、必ず説明をお聞きください。

  2. 次に、薬を飲みはじめたら、予想される副作用に気をつけ、疑問を感じたら、症状が起った日時や状態をメモして医師に確認しましょう。
  3. 昼食後の薬などは、外出先では飲みにくいため飲み忘れることがあります。
    この場合、夕方にまとめて昼の分まで飲むのは避けてください。一回の服用量が多すぎて副作用が出やすくなります。もしも飲み忘れた場合、どうしたら良いかを予め医師や薬剤師に尋ねておくことをお勧めします。
  4. 薬を飲む時の水または湯の量も副作用が出にくいように配慮して決められています。
    • 例えば解熱消炎鎮痛薬などは胃が荒れないように多めの水または湯で飲むように書かれています。服用する時間や食事との関係も、薬の吸収や副作用の面から配慮されています。服用方法を守ってください。
    • お酒と一緒に薬を飲むようなことは避けて下さい。
  5. 肝臓病や腎臓病がある場合には薬の代謝、分解、排泄が悪くなり、副作用が出やすくなります。
    またいわゆるアレルギー体質の方なども副作用が出やすいので、事前に医師に告げておくことが大切です。
  6. 他の病院から出されているお薬がある場合には、医師および薬剤師に薬の説明書を提示してください。手元にない場合は、薬の名前だけでも結構です。
    • 飲みあわせによっては副作用が出やすい場合があります。
    • また自分で健康食品やサプリメントを摂取している場合は必ず医師にその内容を告げてください。
    • 医薬品との飲みあわせが問題になることがあります。
    • また健康食品やサプリメントそのものが肝機能障害の原因となっていることもあります
  7. 最後に薬の副作用は身体の症状にあらわれる前に血液検査で発見されることが多いので、服用をはじめたら定期的に血液検査を受けることが極めて大切です。
    • 長期に服用する薬では特にその事が重要です。肝臓に腫瘍が出来たり、血管に異常を来すといった形であらわれる副作用もあり、その場合には腹部超音波エコー検査などの画像診断が必要です。
【主な症状と具体的な身体所見】
  • ○ 全身症状:倦怠感、発熱、黄疸など
    ○ 消化器症状:食欲不振、吐き気、おう吐、腹痛など
    ○ 皮膚症状:発疹、じんましん、かゆみなど
また、症状として現れませんが、血液検査で発見される場合もあります。

薬物性肝障害は
  • 「中毒性」と「特異体質性」に分類され、前者は薬物自体またはその代謝産物が肝毒性を持ち、用量依存性である。
  • 後者は現在ではさらに「アレルギー性特異体質」によるものと「代謝性特異体質」によるものに分類され、薬物性肝障害の多くはこれに属する。
    1. アレルギー性特異体質は薬物そのものや中間代謝産物がハプテンとなり担体蛋白と結合して抗原性を獲得し、T 細胞依存性肝細胞障害により惹起される肝障害で、代謝性特異体質は薬物代謝関連酵素の特殊な個人差(遺伝的素因)に起因する。
    2. 特異体質性は一般的に用量依存性でないため発症の予測は困難なことが多いが、代謝性特異体質は代謝関連遺伝子異常などを調査することにより、予測可能になりつつある。
    3. なお、特殊型として脂肪化、腫瘍形成があり、
      • 経口避妊薬や蛋白同化ホルモン薬などを長期に服用することによる肝腫瘍(良性、悪性)や
      • ある種の薬物による脂肪肝や
      • 非アルコール性脂肪肝炎( non alcoholicsteatohepatitis: NASH)発症
      がある。
    4. 低頻度ながら多くの薬物で肝障害が生じる可能性があり、肝障害が発生した場合、薬物性肝障害を疑い、速やかに使用を停止すれば重篤化することはほとんどないが、気づかずに長期使用すると重篤化することがある。本マニュアルでは、医薬品による肝障害を中心に重篤な副作用について記載する。

1.早期発見と早期対応のポイント
  • 薬物性肝障害の既往のある患者が、肝障害の原因となった薬物を再度服用した場合、より重篤な肝障害が発現する可能性があることを十分に患者へ説明し、薬物性肝障害の既往の有無について、詳細に聴取することが肝要である。
【定期的検査による早期発見が第一の鍵】
  • 薬物性肝障害の重篤化を予防するには、その徴候をいかに早く把握するかが重要である。早期発見のためには、投与薬物が初回投与の場合、投与後定期的に肝機能検査を実施し、肝障害の早期発見に努める。多くの薬物性肝障害は薬物服用後60 日以内に起こることが多いが、90 日以降の発症もみられる(約20%)。また、問診では、全身倦怠感など、次項に示す症状の有無を聴取し、肝障害を示唆する症状があれば肝機能検査を行う。
【初発症状】
  • 薬物性肝障害はアレルギー性特異体質(後述)によることが多く、発熱やかゆみ、発疹などの皮膚症状が早期にでることがある。黄疸が初発症状のこともある。最も頻度が高いのは全身倦怠感、食思不振である。しかし、何も症状がでないこともあるので、定期的肝機能検査(服用開始後2 ヶ月間は 2~3 週に1 回)がすすめられる。
【危険因子】
  • 慢性飲酒者においては健常者よりも薬物性肝障害を起こしやすいともいわれている。肝細胞内での脂質過酸化が起こりやすい環境が形成されているので、慢性飲酒者には注意を促すよう指導する。肝疾患をもつ患者では、薬物性肝障害が起きた場合、重症化することがあるので注意を要する
【薬物性肝障害における重要な検査と予防】
  • AST(GOT)、 ALT(GPT)の変動に注意し、肝障害を早期に検出する。
  • 肝障害の重症化の予知には、プロトロンビン時間、血清アルブミン、コリンエステラーゼの測定が有用である。
  • 肝機能検査の異常を判断するには、投与前の初期値が重要で、肝障害を起こす確率が高い薬物を使用する場合はあらかじめ肝機能検査を実施しておく必要がある。医薬品の添付文書に服用後定期的な肝機能検査の指示があれば、それに従う。
    肝障害の原因と考えられる薬物はその可能性を除外できない限り、再度使用しないことが原則である。化学療法薬など肝障害を起こしやすい薬物をやむを得ず使用する場合、肝機能検査値に十分注意しながら投薬する。肝障害が発現した場合、慎重に継続投与し、重症化の徴候がみられた場合、直ちに投与を中止する。
【肝臓専門医との連携強化を】
  • 投与薬物が初回の場合、投与開始後定期的に肝機能検査を実施し、早期発見に努めることが重要である。薬物性肝障害が発現した場合、被疑薬投与を中止するとともに、重篤化しないか見極め、早急に適切な治療を開始する必要がある。
    治療を迅速かつ適切に行うためには、一般臨床医と肝臓専門医との連携強化が必要である。一般臨床医の日常診療における細心のフォローアップによって患者さんの異常を早期に発見し、タイミングを逃さず専門医による適切な治療を受けることで、薬物性肝障害の重篤化を阻止することが可能となる。
【患者指導のポイント】
  • 多くの薬物は肝臓で代謝されるため肝障害を起こす可能性がある。
  • 薬物服用歴は重要な確認事項であり、発症までの期間、経過および肝障害の報告などが起因物質の特定には重要な要素となる。したがって、薬物性肝障害の報告がある薬物の服用開始時には定期的な肝機能検査が行われるように留意するなど、より早期発見に努める必要がある。また、検査が実施できない場合には肝障害に伴う症状(倦怠感、食欲低下、嘔気、茶褐色尿、黄疸)に気づいた場合には、すぐに主治医に受診するよう指導する。
    アレルギー性特異体質による肝障害の初期症状としては、発熱(38~39℃)、発疹等のアレルギー症状が早期に現れ、次第に強くなる全身倦怠感と嘔気・嘔吐等の消化器症状が出現する。代謝性特異体質(後述)による場合には、常用量であっても、服用期間依存的に肝細胞障害が発現するとされている。薬物代謝酵素を誘導する薬物(フェニトイン、フェノバルビタールなど)との併用により症状が悪化した報告があるので併用薬を含めて患者に応じた指導が必要である。
    肝細胞障害型では肝機能検査値に異常はあるものの、臨床上は無症状であることが多い。胆汁うっ滞型では、胆汁うっ滞に関連して黄疸が出現する。
    特異体質による薬物性肝障害を事前に予測することは困難であるが、起因薬物の中止で速やかに治癒する例が多い。肝細胞障害が主体の肝障害(肝細胞障害型)は肝障害に気づかず、起因薬物の服用を継続した場合、肝不全に陥ることがある。胆汁うっ滞が主体の肝障害(胆汁うっ滞型)では、起因薬物を継続投与した場合には閉塞性黄疸に匹敵するほどの高度の黄疸を呈し、胆汁性肝硬変に進展する例もある。したがって予後は原因薬物の中止に大きく左右され、より早期の症状に気づいて、主治医と連絡をとり、適切な処置を受けられるように指導する必要がある。
副作用の概要
【起因薬投与開始から症状出現(発症)までの期間についての注意】
  • 発症機序によっては1 回の内服で発症する可能性もあることや、2 年以上の継続投与で発症した例もあることから服薬期間の長短で薬物性でないと判断することはできない。
【薬物性肝障害の発症機序からみた開始から発症までの期間の特徴】
  • 個体特異体質性発症機序のひとつであるアレルギー性特異体質によるものの場合は、投与薬物に対してアレルギーを既に獲得している場合には1 回の投与で発症する可能性があるが、投与開始後にアレルギーを獲得し、その結果発症する場合はさらに期間(2~6 週)を要する。
    肝障害の発症機序が薬物の過剰摂取による用量依存性の中毒性発症機序である場合や、用量は通常量であっても起こり得る特異体質のうち、薬物代謝酵素の特殊な個人差に基づく代謝性特異体質の場合では、発症までに要する期間がアレルギー性特異体質による肝障害より長くなる。
  ①自覚症状
  • 薬物性肝障害に特徴的なものはなく、全身症状(倦怠感、発熱、黄疸)、消化器症状(食思不振、嘔気、嘔吐、心窩部痛、右季肋部痛)、皮膚症状(皮疹、掻痒感)が挙げられる。
    また自覚的症状を認めず肝機能検査所見が診断の契機となる場合も少なくない。
 ○ 薬物性肝障害の発症機序からみた症状の特徴
  • 個体特異体質性発症機序のひとつであるアレルギー性特異体質によるものの場合は、前述の症状のうち皮疹などアレルギー症状を認めやすく、またアレルギー性の場合は肝内胆汁うっ滞を起こしやすいため、黄疸や皮膚掻痒感を認めることがある。これに対して肝障害の発症機序が薬物の摂取過剰による中毒性発症機序や、摂取量は通常量であっても起こり得る代謝性特異体質による場合の症状はさまざまで、特徴的なものを挙げることは困難である。

 ○ 肝障害のタイプからみた症状の特徴
  • 胆汁うっ滞型や混合型では眼球黄染などの黄疸症状や皮膚掻痒感が目立つ。これに対して肝細胞障害型の場合は障害が高度であれば黄疸を伴うこともあるが、肝細胞障害型に特徴的な症状はない。なお肝不全に陥った場合は肝性脳症、出血傾向、腹水貯留など肝不全の病態で認められる症状が出現する。

  ②他覚所見
  • 全身所見(発熱、黄疸など)、
  • 腹部所見(肝腫大、脾腫、心窩部や右季肋部圧痛、肝不全に陥った場合の肝萎縮や腹水貯留など)、
  • 皮膚所見(皮疹など)や
  • 肝不全時の精神神経所見としての肝性脳症などが挙げられる。
  • なお併発する皮疹についてはその形態はさまざまで、蕁麻疹、播種状丘疹紅斑、湿疹様、紅皮症、固定薬疹、光線過敏症、紫斑などや重症型(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症)になると全身におよぶ粘膜の障害や表皮壊死を認める場合もある。
 ○ 薬物性肝障害の発症機序からみた所見の特徴
  • アレルギー性特異体質によるものでは、前述の所見のうち皮膚所見や発熱などアレルギーによる所見を高頻度に認める。またアレルギー性発症機序では肝内胆汁うっ滞が好発するため黄疸を認めることがある。これに対して中毒性発症機序である場合や、代謝性特異体質による場合ではより様々な所見があり、特徴的なものはない。

○ 肝障害のタイプからみた所見の特徴
  • 胆汁うっ滞型や混合型では眼球結膜や皮膚黄染などの黄疸を認める。これに対して肝細胞障害型の場合では障害が高度であれば黄疸を伴うこともあるが、肝細胞障害型に特徴的な所見はない。なお肝不全に至った場合は肝性脳症や出血傾向や腹水貯留など肝不全の病態で認められる所見が出現する。
③臨床検査所見

<検血・血液像>
○ 薬物性肝障害の発症機序からみた所見の特徴
  • アレルギー性特異体質によるものでは、末梢血白血球増多や好酸球増多などアレルギーによる所見を認めやすいが、これらは必須ではない(なお薬物性肝障害の診断基準における末梢血好酸球増多は6%以上を指す)。これに対して中毒性発症機序の場合や、代謝性特異体質の場合は特徴的なものはない。
○ 肝障害のタイプからみた所見の特徴
  • 肝細胞障害型、胆汁うっ滞型・混合型それぞれに特徴的な所見を挙げることは困難である。なお肝不全に至った場合、播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発すれば血小板減少、出血傾向に伴う貧血を認め、感染を併発すれば白血球増多や血液像で核の左方移動をみとめるなど多彩な所見を呈する。
<肝 機 能>
○ 肝障害のタイプからみた所見の特徴
  • 肝細胞障害型では血清AST(GOT)、ALT(GPT)値の上昇が主体で、血清アルカリホスファターゼ(ALP)の上昇は軽度ないし中等度で基準値上限の2 倍を超えることはない。高度肝障害の場合には直接反応型ビリルビンの上昇が主体の総ビリルビン値の上昇をきたす。
    胆汁うっ滞型では、AST、ALT の上昇は軽度で、基準値上限の2 倍を超えることはない。一方、胆汁うっ滞の指標であるALP は基準値上限の2 倍以上であり、γ-GTP も著明な上昇を示す。また、ビリルビンも早期より増加する。混合型は肝細胞障害型と胆汁うっ滞型を合わせた型であり、AST、ALT 、ALP の基準値上限の2 倍を超える上昇がみられる。
<凝 固 系>
  • 通常の薬物性肝障害では、プロトロンビン活性やヘパプラスチンテストなどの凝固系が異常低値を呈することはないが、重症化すればこれらは低下する。プロトロンビン活性が低下の傾向を示した場合、重症化、劇症化の可能性があり、適切な対応が必要である。なお、抗凝固薬を服用している場合、肝予備能の低下を伴わなくても低下するため注意が必要である。
<自己抗体>
  • ある種の薬物では抗核抗体(ANA)や抗ミトコンドリア抗体(AMA)や抗平滑筋抗体(SMA)などの自己抗体が出現することが知られている。
  • ニトロフラントインやメチルドパなどによる肝障害では抗核抗体(ANA)、抗平滑筋抗体(SMA)が、塩酸ミノサイクリンによる肝障害ではANA や抗平滑筋抗体の出現をみることがある。
  • 抗てんかん薬のフェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピンでは抗てんかん薬過敏症症候群(antiepileptic drug hypersensitivity syndrome; AHS)と名付けられた症候を示し(頻度は1 万人に3 人と低い)、チトクロームP450(CYP)に関連する自己抗体が出現する。
  • 繁用されるジクロフェナクナトリウムもそれを代謝するCYP やUGT と付加体(adduct)を形成し、自己抗体を出現させる可能性がある。これらの薬物以外でもANA 陽性で高γグロブリン血症や血清IgG 高値を認めたり、全身性エリテマトーデスの症候を起こす80以上の薬物が知られている。autoimmune polyglandular syndrome type
    1(APS-1)ではautoimmune regulator gene の欠損で薬物性肝炎をはじめ、全身的に多様な症状(副腎不全や卵巣機能不全など)を引き起こすが、CYP1A2 を標的にした自己抗体が現れる。
<薬物によるリンパ球刺激テスト(DLST)注)>
  • アレルギー性発症機序の場合に陽性となることがあるが、薬物の代謝産物がハプテンとなる場合には陽性にならないため、DLST が陰性であっても起因薬として否定はできない。また一部の漢方薬で偽陽性を呈するとの報告もある。注)この検査は保険適応外である。
④ 画像検査所見
  • 薬物性肝障害の画像所見として特徴的なものはなく、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、混合型などの病態とその重症度、脂肪化など肝細胞変性の程度に応じた変化が認められる。一部に腫瘍形成注1 など、特殊な所見を呈するものがある。
 注1)腫瘍形成:
  • 蛋白同化ホルモン、経口避妊薬では、限局性結節性過形成(focal nodularhyperplasia[FNH])や肝細胞腺腫といった腫瘍性変化が生じることが知られている。FNH は、5cm 以下で単発、肝表面に存在することが多く、多発は約20%である。腫瘍は線維性隔壁で小結節に分かれ、中央に放射状の線維化(central scar)が特徴的である。超音波検査(US)、CT、MRI では、このcentralscar を反映して、放射状の末梢静脈の存在(spoke-wheel sign)が認められることがあり、鑑別に有用とされている、しかし、CT、US では腫瘍そのものの同定が困難で、画像上の確認も困難なことが多い。肝細胞腺腫の場合、肝動脈造影において、腫瘍の周辺から、多数の栄養動脈が中心に向かう所見が特徴的とされているが、その他には、肝細胞癌やFNH との鑑別に有用とされる画像所見はない。
<肝細胞障害型>
  • 肝障害(肝細胞の変性、壊死)の程度に応じて、肝の形態変化などが認められる。
    軽度の肝障害では、画像上、特に所見を認めないことが多いが、急性肝炎様病態では、肝腫大、肝辺縁の鈍化を認めることがある。腹部超音波検査(US)では、肝炎の程度に応じて肝実質は低エコーとなり、末梢門脈が目立つようになる。また、胆のう萎縮とともに胆のう壁の層状肥厚が認められる。CTでの所見も基本的にUS のそれと同様である。肝炎の程度が強い場合は、門脈域の炎症を反映し、門脈域に沿った低吸収域(interface hepatitis を反映する)がみられる(図1-CT 画像)。
    • 図1 胆のう壁のびまん性の肥厚、門脈域にそった低吸収域を認める。

    亜広範、広範肝壊死などを伴う重症型肝炎の場合、肝細胞壊死の強い部分はCT 上、境界不明瞭な低吸収域を示す。この低吸収域の形状は様々で、びまん性、地図状、多発性などのパターンをとることがある(図2-CT 画像)。
    • 図2 広範な肝壊死を反映して、肝内には境界不明瞭な地図状の低吸収域を認める。

    また、腹水や、肝静脈の狭小化、門脈の拡張を認めることもある。劇症肝炎になった場合は、肝の萎縮、変形をきたすことがある。肝萎縮の程度が強いほど予後不良といえる(図3-CT 画像)。
    • 図3 劇症肝炎例。肝は変形し著明に萎縮、大量の腹水を認める。

    慢性化した場合、画像(CT、US)上は、肝は正常かやや腫大する程度で、肝辺縁はやや鈍化する。肝障害が長期に持続すると脾腫を認めることもある。また、肝細胞の脂肪変性を来たす場合は、脂肪化の程度に応じて画像上の変化が認められる。脂肪肝では、US 上、肝浅部のエコーレベルの上昇(brightliver)、肝深部のエコーレベルの低下(deep attenuation)、肝内脈管の不明瞭化(vascular blurring)、肝腎コントラスト(hepatorenal contrast)、肝脾コントラスト(hepatosplenic contrast)などが認められる。CT では、肝実質CT 値の低下が認められ、脾臓のCT 値を下回り、肝の脂肪化が強い場合には、肝のCT 値は脈管のそれを下回る(図4-CT 画像)。
    • 図4肝の著明な脂肪化をきたした症例。肝のCT値は著明に低下し、脾、脈管のそれを下回る。

    副腎皮質ステロイド薬、メトトレキサート、テトラサイクリン系抗菌薬、タモキシフェン、アミオダロンなどの薬物でみられることがある。
<胆汁うっ滞型>
  • 軽度の肝障害では、画像上、特に所見は認めない。ただし、慢性に経過し、原発性胆汁性肝硬変などに類似した病態に至ったものでは、肝辺縁の鈍化、脾腫などの所見を呈する。閉塞性黄疸との鑑別は、CT、US で、肝内胆管、総胆管の拡張がみられないことを確認すれば容易である。
<混合型>
  • 軽度であれば、特に所見を認めない。重症度、経過により、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型でみられるのと同様の画像所見を呈する。以上のように、画像診断では、薬物性肝障害に特徴的といえるものはなく、補助診断、重症度の評価などに用いられる。
⑤ 病理検査所見
  • 薬物性肝障害の病理検査所見は、あらゆる急性および慢性の肝障害所見を図4肝の著明な脂肪化をきたした症例。肝のCT値は著明に低下し、脾、脈管のそれを下回る。
    呈するため、これのみで確定診断に至ることは少ない。薬物性肝障害の最終診断はあくまで臨床所見を踏まえてなされるべきである。しかし、薬物によっては特徴的な組織像を示し、それが診断の鍵となることもある。また、ウイルス性、アルコール性、代謝性など他の肝疾患や閉塞性胆道疾患の除外が
    必要な場合に有用であることも多い。
    薬物性肝障害の病理所見は、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、混合型に大別されるが、血管病変、腫瘍形成などを呈する特殊型も存在する注2。ここでは、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、混合型について、それぞれの病理検査所見の特徴を記述する。
<肝細胞障害型>
  • 肝細胞障害型では、原因薬物、発症機序により、様々な肝細胞の変性・壊死所見がみられる。
    中毒性機序による場合、障害された肝細胞は萎縮し、細胞質が好酸性となり、核が濃縮される凝固型壊死の形態をとる(図5-組織画像)。
    • 図5 肝細胞の孤立性の凝固壊死(矢印)
    この場合の炎症細胞浸潤は、壊死肝細胞に対する反応性のもので軽度に留まり、浸潤細胞は好中球が主体となる。

    アレルギー性機序による場合、肝細胞の変性・壊死所見は、ウイルス性肝炎などでみられるものと類似する。肝細胞変性は風船化(ballooning)の形態をとり(図6-組織画像)、
    • 図6 肝細胞の風船化(ballooning)。
    • 風船化した肝細胞の一部には細胞質内にMallory body を認める(矢印)
    壊死により好酸体(acidophilic body)を形成する。変性・壊死は同一の領域で観察される。好酸体は肝細胞索から類洞内に放出され、Kupffer 細胞に貪食されて処理され、壊死物質を貪食したKupffer 細胞は腫大する。Kupffer 細胞の増生はみられるが、浸潤細胞は、リンパ球が主体で、好酸球や時に好中球の浸潤もみられる。門脈域に好酸球浸潤が目立つ場合は、薬物性肝障害に特徴的な所見ととらえることができるものの、頻度はそれほど高くない。薬物性肝障害の場合、炎症細胞浸潤の程度は、ウイルス性肝炎と比較しても軽度である。肉芽腫は、アレルギー性機序による場合にみられ、薬物に対する肝網内系の免疫応答の結果として形成される。肉芽腫にはリンパ球、組織球、好中球、好酸球などが構成成分である炎症性肉芽腫(図7-組織画像)と、リンパ球、活性化マクロファージが構成成分である類上皮性肉芽腫があり、ともに、多核巨細胞を伴うことがある。他の肉芽腫形成性の病変(サルコイドーシス、結核など)との鑑別が困難な場合もある。
      • 図7 炎症性肉芽腫(矢印)。

    肝細胞の脂肪化は、肥満、過栄養、飢餓などのほか、種々の薬物でも起こり得る変性所見である(図8-組織画像)。肝脂肪化には大脂肪滴と小脂肪滴によるものがあり、原因薬物としては、前者はアルコール、メトトレキサート、副腎皮質ステロイド薬など、後者はテトラサイクリン系抗菌薬などがあげられる。脂肪化はパラフィン包埋による標本では空胞化として捉えられるが、正確な脂肪の証明にはSudan
    • 図8 大小の脂肪滴による肝細胞の著明な脂肪化を認める。


    Ⅲ染色などを行う必要がある。慢性の脂肪化の多くは大滴性で、アルコール、副腎皮質ステロイド、メトトレキサートなどが原因薬物として知られている。近年、組織学的にアルコール性肝炎類似病変を呈する非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)が注目されているが、同様の病態を惹起しうる薬物としては、アミオダロン、タモキシフェンなどが報告されている。これらの薬物は潜在性NASH を顕在化させることもある。

    マロリー体(Mallory body)は、アルコール性肝炎でよくみられ、慢性胆汁うっ滞、NASH、肝細胞癌でも認められる、肝細胞変性に伴って肝細胞質内に認められる好酸性の細胞内封入体であるが、種々の薬物性肝障害でも認められる(図6-組織画像)。
    これらの変性・壊死は、原因薬物によっては、肝小葉の特定の領域に分布することがある。肝細胞壊死がびまん性に存在する場合には急性肝炎様、亜広範・広範肝壊死となれば急性肝炎重症型あるいは劇症肝炎様の病態を示し、慢性に経過した場合は門脈域の拡大とリンパ球、形質細胞、ときに好酸球浸潤、限界板の炎症性破壊(interface hepatitis)を伴い(図9-組織画像)、慢性活動性肝炎の所見を呈する。
    • 図9 門脈周辺域(zone 1)の炎症細胞浸潤および線維化。Interface hepatitisを伴う。


    以下に肝細胞壊死の分布からみた分類とその特徴を記す。
○ 肝細胞壊死の分布からみた分類

帯状壊死(zonal necrosis)
  • 肝実質は肝小葉という組織学的単位の集合として考えられているが、機能的な面からacinus(細葉)という単位の集合として捉えられる。Acinus は門脈血流により、門脈周辺域(zone 1)、小葉中間帯(zone 2)、小葉中心域(zone 3)に分けられる(図10)。
    Acinus 内では領域による機能の違いがみられ、小葉中心域は薬物代謝酵素P-450 が豊富で多くの薬物代謝に関わるため薬物性肝障害の発現領域となることが多い。薬物性肝障害の壊死、炎症所見は、原因薬物によって、それぞれの領域に特徴的に分布することがあり、特に中毒性機序
    • 1: 門脈周辺域(zone 1)
      2: 小葉中間帯(zone 2)
      3: 小葉中心域(zone 3)
      図10 Acinusの構造によるものではこのタイプが多い。以下に、その代表的な例を示す。
      ・ 門脈周辺域の壊死(zone 1):リン中毒や硫化鉄中毒などが知られている。
      ・ 小葉中間帯の壊死(zone 2):実際の臨床例では稀である。
      ・ 小葉中心域の壊死(zone 3):アセトアミノフェンなど、多くの中毒性機序によるものや、ハロタンではこのパターンを呈する。小葉中心域(zone 3)の肝細胞障害は薬物性肝障害の組織診断にきわめて有用な所見である(図11-組織画像)。
びまん性壊死(diffuse necrosis)
  • びまん性に広がる急性ウイルス肝炎類似の炎症所見、spotty necrosis(単細胞壊死)などを示す(図12-組織画像)。炎症は、早期には小葉中心域(zone3)に若干強い傾向を示すこともあるが、領域ごとに違いを認めないこともある。アレルギー性機序によるものはこのタイプを示すことが多く、イソニアジ
    ド、フェニトインなどによるものが知られている。
    • 図11 小葉中心域(zone 3)の炎症細胞浸潤および線維化。
広範・亜広範肝壊死(massive、 submassive hepatic necrosis)
  • 亜広範肝壊死はbridging necrosis(架橋壊死)を主体とする高度の肝実質壊死をいう。肝壊死は小葉のすべての肝細胞を含み、なかでも小葉中心域(zone 3)が含まれる頻度が最も高く、肝壊死はしばしば一つ以上の領域にまたがって観察される。広範肝壊死は、すべての領域に肝壊死が及ぶ状態で、予後不良である。肝細胞の脱落は著明で、肝の基本構造の消失を呈し、出血、多数の組織球浸潤を伴い、残存した小葉内には胆汁うっ滞所見を認めることもある(図13-組織画像)。亜広範肝壊死・広範肝壊死は臨床的には、劇症肝炎・急性肝炎重症型を呈する。原因薬物として、アカルボース、ベンズブロマロンによるものなどが知られている。
    図12 小葉にびまん性にspottynecrosisを認める(矢印)。
<胆汁うっ滞型>
  • 胆汁うっ滞型の薬物性肝障害は、炎症細胞浸潤の有無、胆管障害の有無により分類される。
    炎症細胞浸潤を伴わない単純型のものは、胆汁の輸送、分泌の障害によるもので、細胞質内、毛細胆管、まれに細胆管に胆栓を認める。これらの変化は小葉中心域(zone 3)にみられることが多く、軽度の好中球浸潤を伴うことがあるが、肝細胞の障害、門脈域の細胞浸潤は通常みられない。閉塞性黄疸でみられるような小葉間胆管の増生、拡張、胆管周囲の浮腫、線維化、胆管炎などの所見は認めない。このような病態を呈する原因薬物としては、蛋白同化ステロイド、経口避妊薬、シクロスポリン、ワルファリンカリウムなどがあげられる。
    胆汁うっ滞に小葉内の炎症細胞浸潤を伴うものもあるが、この場合の浸潤細胞は通常、軽度で、単核球が主体である。この炎症性変化は小葉中心域(zone 3)にみられることが多く、重篤な例ではびまん性に認められる。単純型のものと異なり、門脈域にも、リンパ球を主体とした、時に好酸球や好図13 劇症肝炎死亡例。肝細胞の広範な壊死、脱落を認める。また、細胆管内に胆汁栓を認める。
    中球を含んだ細胞浸潤を認める。単純型の場合と同様、閉塞性黄疸でみられるような変化は認めない。原因薬物として、インドメタシン、塩酸クロルプロマジン、タモキシフェンをはじめとして、多くのものが報告されている。
    胆管障害を伴うものでは、小葉間胆管細胞の軽度の羽毛状変性(featherydegeneration)、核濃縮を伴う細胞壊死などを認め、胆管周囲の炎症細胞浸潤を伴う。浸潤細胞は好中球が主体のことも(アロプリノール、塩酸ヒドララジンなど)、リンパ球が主体のことも(シメチジン、トルブタミドなど)ある。胆管障害を来たす炎症の持続は、種々の程度の胆管消失をもたらす(胆管消失症候群:vanishing bile duct syndrome)。塩酸クロルプロマジン、塩酸イミプラミンなどの薬物では急性胆汁うっ滞に引き続き、長期の胆汁うっ滞が持続することがある。これは急性期における高度の小葉間胆管消失に伴うもので、原発性胆汁性肝硬変(PBC)の3 期病変類似の小葉改築をきたすとの報告もある。急性期の肝生検で、小葉間胆管障害が80~90%に見られた場合には、PBC 類似の組織進展を認めることがある。
<混合型>
  • 肝細胞障害と胆汁うっ滞の両者の特徴を呈するものもあり、高度で広範な肝壊死により胆汁うっ滞が引き起こされたもの、胆汁うっ滞型で、炎症の程度が高度なものなどが含まれると考えられる。
    病理検査所見は、それのみでは起因薬物を決定できないことに加え、肝生検という侵襲的な検査を伴うという欠点はあるが、診断とそれに基づく治療法の決定、予後予測、あるいは治療後の効果判定など有用な情報を与えてくれる。診断に難渋する症例、治療の選択に迷う症例、検査可能な症例では施行を考慮することが望ましい。
    注2)特殊型として、以下のようなものが報告されている。
    1. 血管病変 シクロホスファミド、ブスルファン、アザチオプリン、エトポシドなどの抗腫瘍薬で、中心静脈から肝静脈壁に線維性肥厚、内腔狭窄を伴うveno-occlusive disease(VOD)や、類洞の拡張と血液貯留を示すpeliosis hepatis、門脈血栓などが知られている。
    2. 腫瘍形成 蛋白同化ホルモン、経口避妊薬などによる限局性結節性過形成(focal nodularhyperplasia:FNH)や肝細胞腺腫などが知られている。
⑥ 発生機序
  • 薬物性肝障害は現在「中毒性」と「特異体質性」に分類されている。前者は薬物自体またはその代謝産物が肝毒性を持ち、用量依存的に肝障害が全てのヒトに発生・悪化するものを指し、動物実験にて再現可能である。抗がん剤の一部、アセトアミノフェンなどのほか、臨床には用いられないパラコート(除草薬)、四塩化炭素、キノコ毒などが起因物質として知られている。
    一方、後者は予測不可能で、動物実験での再現ができず、大部分の症例が含まれる。これは現在さらに「アレルギー性特異体質」によるものと「代謝性特異体質」によるものとに分類される。「アレルギー性特異体質」による肝障害では、薬物またはその反応性中間代謝物がハプテンとなり、肝細胞の種々の構成成分と結合して抗原性を獲得してアレルギー反応が起きる。非常に多くの薬物がこの範疇に入り、多くは薬物服用後1~8 週間で発症する。肝細胞内の物質が抗原性を獲得してどのように肝細胞障害が生じるのかの道筋についてはなお十分には解明されていないが、図14 に肝障害発症の模式図を示す。
    図14.薬物性肝障害の発症機序
    一方、「代謝性特異体質」による肝障害は代謝酵素活性の特殊な個人差に起因して、1 週(特に8 週以降)~1 年ないしそれ以上のかなり長期の薬物服用後に肝障害を発現する。発熱、好酸球増多などのアレルギー症状を欠いており、偶然の再投与でも肝障害再発現までに日時を要することがある。長期の投与の間に代謝異常を惹起し肝障害作用を持つ中間代謝産物の蓄積を来す場合、また薬物による軽度肝障害への適切な修復・再生反応が起こらなくなった場合などが疑われている。代表的な起因薬物としては、イソニアジドや販売中止となった糖尿病治療薬のトログリタゾンなどが含まれる(表1)。ただし、同一薬物でも、アレルギー性特異体質によると考えられる症状・検査異常を認める場合と代謝性特異体質によると考えられる場合があり、また両方の機序での発症もあり得るので、注意を要する。
———————————————————————————
表1 代謝性特異体質により肝障害を起こすと考えられる薬物
アカルボース、アミオダロン、イソニアジド、イトラコナゾール、経口避妊薬、ザフィルルカスト、ジクロフェナクナトリウム、ジスルフィラム、タモキシフェン、蛋白同化ステロイド、ダントロレンナトリウム、テガフール・ウラシル、塩酸テルビナフィン、トログリタゾン*、バルプロ酸ナトリム、塩酸ヒドララジン、フルコナゾール、フルタミド、ペモリン、塩酸ラベタロール
——————————————————————————
* :販売中止
上記薬物による肝障害はアレルギー性機序で起こる場合もあることに留意する。


⑦ 薬物ごとの特徴
  • 薬物が極めて多岐に渡り、全てを記載することが不可能なため、薬効分類上報告の多かったものから代表的薬物をいくつか挙げて解説する。1999 年の全国調査で、表2 に5 例以上報告のあった薬物についての例数、病型、DLST 陽性率を、表3 に劇症肝炎の起因薬物を、それぞれ掲載する。
<解熱消炎鎮痛薬>
  • 肝障害の報告は全薬物中約12.6 %(解熱・鎮痛薬11.9 %、痛風・高尿酸血症治療薬0.7 %)、と抗生物質に次いで多い。多い順に、ジクロフェナクナトリウム、アセトアミノフェン、ロキソプロフェンナトリウム、アセチルサリチル酸、メフェナム酸、イブプロフェン、インドメタシン、プラノプロフェンと続く。総合感冒薬による肝障害も少なくなく、臨床型としては、肝炎型が50.0 %、混合型が32.2 %、胆汁うっ滞型が14.9 %、劇症肝炎が2.9 %で、DLST は63.7 %と高率に陽性である。
○ アスピリン(アセチルサリチル酸)
  • 用量依存性、血中濃度依存性の軽度のトランスアミナーゼ上昇を来すことから、中毒性の肝障害と考えられている。黄疸を来すことはほとんどなく、肝組織像では、小葉中心部を主とする巣状壊死と門脈域の軽度の炎症細胞浸潤を認める。ウイルス感染児への投与にて意識障害と肝の小滴性脂
    肪肝を特徴とするライ症候群を生じる危険があるので使用を控えるべきである。

○ アセトアミノフェン
  • アニリン系の非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)で、中毒性肝障害を惹起する。適正な使用量では安全で有効な解熱鎮痛薬であるが、最少量2.4g の服用での死亡例の報告がある。一般用医薬品にも使用されているが、医師の処方にて使用される場合も多い。アセトアミノフェンの約50 %は酵素UGT1A6 によりグルクロン酸抱合され、約30 %は硫酸抱合され、Gilbert症候群で肝障害のリスクが高いとの報告もある。日本人の同症候群患者では遺伝子UGT1A1 の多型のある症例が存在し、遺伝子UGT1A6 多型とリンクしているサブグループが存在するため、アセトアミノフェンのグルクロン
    酸抱合能が低下している場合もあり得る。硫酸抱合の異常と肝障害発症に関する報告は見当たらない。
    投与されたアセトアミノフェンの5~10%はチトクローム P450 (CYP)2E1 により、N-アセチルベンゾキノンイミン(NAPQI)へと代謝され、さらにグルタチオン抱合されて尿中へと排泄される。NAPQI は反応性が高く肝細胞の各種酵素・蛋白と共有結合、一部は非共有結合をして、酵素等の活性低下をもたらし、脂質過酸化促進にも作用する。残り4~8 %は、CYP 2A6 によって無害なカテコール代謝物(3-ハイドロキシアセトアミノフェン)へと代謝される。
    NAPQI が何らかの原因により肝細胞内で多量に生成され蓄積すると肝障害が惹起されるが、一般に高齢者では硫酸抱合能やグルタチオン合成能が低下しており、肝障害が発症しやすいと考えられる。CYP 2E1 は肝小葉の中心静脈周囲(zone 3)の肝細胞に高濃度に含まれ、一方zone 3 では酸素分圧が低くグルタチオン濃度も低いことが判明しており、アセトアミノフェン肝障害では肝細胞壊死がzone 3 を中心に発現する。トランスアミナーゼの上昇は急性ウイルス肝炎に比して高く、用量依存性に肝障害が悪化するため、高用量の服用では劇症肝炎を発症する。図15 に肝障害発症の模式図を示す。
    慢性の飲酒者ではCYP 2E1 が誘導されており、またグルタチオン濃度の低下もあり、肝障害の発症が起こりやすく重症化する危険性がある。CYP 2E1にて自身が代謝され一方でCYP 2E1 を誘導するフェノバルビタールやイソニアジドなどの薬物は、同時投与しておればアセトアミノフェン代謝を阻害している可能性があり、中止した場合にはアセトアミノフェンからNAPQIへの代謝を促進し、肝障害を発症しやすい。1999 年の全国調査ではDLSTは検査した15 例中9 例で陽性で、アレルギー性機序による発症例が存在している可能性も否定出来ない。
○ジクロフェナクナトリウム
  • 酢酸系のNSAIDs で、広く用いられているが、代謝性特異体質による肝障害を惹起すると考えられている。服用者の0.16 %に発症との報告があり、米国における180 例の解析では、発症者の79 %は女性で、71 %が60 歳以上の高齢者であった。薬物服用開始後、黄疸、食思不振、嘔気・嘔吐、肝腫大を認め、AST、ALT の著明上昇を来すものが多くみられる。発疹、発熱、好酸球増多などのアレルギー症状は認めなかったが、黄疸患者90 人中7 人が死亡している。臨床型としては、肝細胞障害型と混合型を合わせて92 %(軽度のものを含む)、胆汁うっ滞型が8 %で、1 ヶ月以内の発症例が24 %、3 ヶ月以内で63%、6 ヶ月以内とすると85 % であるが、6~12 ヶ月での発症例が12 %、1 年以上での発症例が3 %存在する。カナダからの報告でも、潜伏期は6~417 日(中央値 76 日)、ジクロフェナクナトリウム投与量の対数とトランスアミナーゼの対数との間に有意の相関を認めている。一方、1999 年の全国調査にてDLST 陽性は31 例中21 例と高率でアレルギー性の肝障害発症症例存在の可能性もある(表2)。稀に自己免疫性肝炎様の発症をする例も報告されている。
○スリンダク
  • 本剤は酢酸系のNSAIDs である。発熱、発疹、好酸球増多などのアレルギー症状を伴って発症し、女性に多く、胆汁うっ滞型が多い。
○ロキソプロフェンナトリウム
  • プロピオン酸系のNSAIDs で、肝障害の発生率は0.29 %(三共(株)資料2001.12)である。1999 年の全国調査で肝細胞障害型と混合型が大部分で、胆汁うっ滞型は無く、劇症肝炎死亡例が報告されている。投与直後~2 ヶ月の発症が多く、アレルギー性機序によると考えられる。

<精神・神経用薬>
  • 肝障害の報告は全薬物中7.8 %である。多い順にフェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、塩酸クロルプロマジン、ハロペリドールと続く。臨床型では、肝細胞障害型が50.8 %、混合型が35.2 %、胆汁うっ滞型が12.5 %、劇症肝炎が1.6 %で、DLST 陽性例は施行86 例中36.1 %と低
    い。
○ カルバマゼピン
  • イミノスチルベン系薬物で、抗けいれん作用と静穏作用を持ち、てんかん、三叉神経痛などに用いられる。酵素誘導作用により64 %の症例でγ-GTP が上昇する。また、5~20%の症例で一過性に軽度のトランスアミナーゼ上昇を認めるが、肝障害の発現との関係は不明である。全身性の薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome)の一つとして肝障害が発症することが多い。発症までの期間は1~16 週(平均4 週)で、投与量や血中薬物濃度と肝障害との関連は見られない。肝組織では種々の変化が存在するが、3/4 近くの症例で肉芽腫性肝炎が見られることが特徴であるが、ときには胆管炎、胆管消失症候群(vanishing bile duct syndrome)を認め、この場合は胆汁うっ滞が遷延する。発症には性差はないが、劇症肝炎死亡例が若年の女性に多いとの報告がある。
○ ダントロレンナトリウム
  • 長時間作動型の骨格筋弛緩剤で、米国(1977)の報告では1044 例中19 例(1.8%)に肝障害が発症した。主として肝細胞障害型で、急性肝炎、慢性活動性肝炎の像を呈する。多くは服薬開始後1~6 ヶ月で発症する。肝不全による死亡も報告されているが、服薬開始後2 ヶ月以降の発症者、女性、高齢者に多い傾向がある。アレルギー症状を欠く者が多いことから、代謝性特異体質が機序として考えられる。
○ バルプロ酸ナトリウム
  • 分岐脂肪酸の抗てんかん薬で、広く用いられている。10~40 %の患者で服用後数ヶ月の間に一過性の軽度のトランスアミナーゼ上昇を認めるが、ごく一部は顕性の肝障害を起こし、肝不全に陥る場合もある。顕性肝障害患者は若年者に多く(2.6 ヶ月~34 歳)、10 歳以下が約7 割を占め、特に劇症肝炎による死亡は2 歳以下、多剤併用例に多い。男性に多く、発症は服用後1~2 ヶ月に起こり6 ヶ月以降では非常に少ないが6 年間服用後発症の報告もある。肝組織像はzone 1 を中心にmicrovesicular fatty liver を示し、zone3 中心の肝細胞壊死を伴う。電顕像では種々のミトコンドリアの変化が認められる。バルプロ酸ナトリウムの代謝物の2-プロピル-ペンタン酸がミトコンドリア機能を抑制し、特に脂肪酸のβ酸化阻害が起こるものと考えられている。バルプロ酸ナトリウムによるミトコンドリアの尿素サイクル阻害により血中アンモニアの上昇も伴う。

○ハロタン
  • 全身麻酔薬で、肝細胞障害型(急性肝炎様)の肝障害を起こすが、回数を重ねると発症しやすく、また重篤化する。発症までは最初の麻酔後7 日以上の間隔があり、麻酔を重ねると早くなる傾向がある。不定の胃腸症状、発熱があり、その後トランスアミナーゼの上昇、黄疸を来す。時に好酸球増多を伴う。肝組織像では、中心静脈周囲の肝細胞壊死が見られるが、障害の程度の強いものでは帯状壊死、広範壊死まで起こりうる。ハロタンの代謝物によるアレルギー反応と考えられる。
○フェニトイン(ジフェニルヒダントイン)
  • 広く使用されている抗てんかん薬で、酵素誘導作用があり、ほぼ全例でγ-GTP が上昇し、軽度の一過性のトランスアミナーゼ上昇がある。明らかな肝障害は大人に多く、服用開始後1~6 週で、発熱、発疹、リンパ節腫大、好酸球増多、白血球増多などのアレルギー症状を伴って発症する。従ってアレルギー性機序が考えられる。黄疸、肝腫大、脾腫大の他、出血傾向を認めることがある。肝組織は、肝細胞の変性/壊死が中心であるが、肉芽腫、胆汁うっ滞を認めることもある。肝障害は高率に重症化/劇症化するので注意を要する。黄疸発症例の50 %は死亡するとの報告がある。
○ペモリン
  • 我が国では、軽症うつ病、ナルコレプシーにおける睡眠発作などに対して用いられている。米国において小児の注意欠陥多動障害患者治療に使用され、1975 年~1996 年に13 例の肝不全発症が報告された。基礎肝疾患(原発性胆汁性肝硬変)を持つもの(発症まで3 週間)、同薬の服用歴のあるもの(5週間)を除き、発症までの期間は3 ヶ月~4.5 年が多い。一部症例で抗核抗体陽性など免疫の発症への関与を示唆するデータもあるが、アレルギー症状が少なく、多くは代謝性特異体質に起因すると考えられる。

<循環器用薬(抗凝固剤を含む)>
  • 1999 年の全国調査にて肝障害の報告は全薬物中10 %(循環器用薬6.5 %、血液凝固関連製剤3.6 %)で、多い順に塩酸アプリンジン、アジマリン、トラピジル、ニフェジピン、塩酸ニカルジピン、メチルドパと続く。臨床型では、肝細胞障害型が38.0 %、混合型が36.8 %、胆汁うっ滞型が24.7 %、劇症肝炎が0.6 %で、DLST 陽性例は38.5 %であった。
○ 塩酸アプリンジン
  • クラスI に属する抗不整脈薬で、薬物服用後12 日~6 週間(平均3 週間)で発症する。発熱などのアレルギー症状を伴う症例と伴わない症例が報告されており、発症機序についてはなお不明である。肝障害は軽度~中等度で、薬物中止にて改善する。
○ アミオダロン
  • 心室性頻拍、心室細動などに用いられるクラスⅢの抗不整脈薬で、服用患者の15~50%にトランスアミナーゼ上昇を認めるが、臨床的に問題となる肝障害発生は少ない。アミオダロンは肝細胞内でリソゾーム、ミトコンドリアに入ってプロトン化し、1 ヶ月以内(最短2 日)~1 年以上の経過でトランスアミナーゼ上昇を中心とする肝障害を来すが、micronodular cirrhosis(小結節性肝硬変)を来す症例もある。リソゾーム内へのリン脂質蓄積症(臨床的には問題とならない)、ミトコンドリアに対する障害により脂肪肝炎を惹起する。使用中止後も薬物が長期間残留するため、回復に2 週間~4 ヶ月を要する。ヨードを含有するアミオダロンの蓄積によりCT 値の上昇を認めたとの報告がある。
○ カルシウム拮抗薬
  • ニフェジピンは肝細胞障害型の肝障害を起こすが、肉芽腫性肝炎や脂肪肝炎を来すことがある。塩酸ジルチアゼムや塩酸ベラパミルも肝細胞障害型肝障害を来すが脂肪肝炎が特徴的である。
○ 塩酸チクロピジン
  • 血小板凝集抑制剤として、血栓、塞栓治療などに用いられる。服用後2~12 週で胆汁うっ滞を主とする肝障害を発症することがあり、高齢者に多い。肝組織像は純肝内胆汁うっ滞像~胆汁うっ滞型肝炎を示し、回復に数ヶ月~年余を要する場合がある。
○ 塩酸ヒドララジン
  • 高血圧剤として広く用いられて来た。肝炎、肝内胆汁うっ滞、中心静脈周囲の肝細胞壊死、肉芽腫などを来す。服用後2~6 ヶ月での発症が多く、時には1 年以上の服用後に発症する。全身倦怠感、食思不振、上腹部痛、黄疸、肝腫大などを認める。アレルギー症状を欠くものが多いので、代謝性特異体質により発症する可能性が強い。塩酸ヒドララジンはINH と同じN-アセチルトランスフェラーゼにより肝でN-アセチル化されて無害なアセチルヒドラジンになる。アセチル化能の低下と肝障害発症に関連性を指摘する報告もある。
○ メチルドパ
  • 中枢性交感神経抑制薬として降圧に用いられ、使用開始後1~4 週(時には6~7 ヶ月後)に肝細胞障害型の肝障害を発症する。アレルギー性機序による。また、1~11 年(平均5 年)の使用後に慢性肝炎様の肝障害が起こることがある。
○ 塩酸ラベタロール
  • わが国でも降圧目的で古くから使用されているα、β遮断薬で、10,190例の使用症例中、27 例(0.26 %)に肝障害を発症した(グラクソ・スミスクライン(株)資料2002.10)。副作用発現までの期間は1 ヶ月以内~6 ヶ月が大部分であるが、長期服用後の発症例も存在する。アレルギー症状を欠く症例が多いことから、代謝性特異体質によるものと考えられている。通常は軽度の肝障害/胆汁うっ滞に留まるが、死亡例も報告されている。
<消化器用薬>
  • 肝障害の報告は全薬物中7.4 %で、1999 年の全国調査で報告の多い順にチオプロニン、ファモチジン、ランソプラゾール、シメチジン、スルピリド、オメプラゾール、塩酸ラニチジンと続く。臨床型では、肝炎型が48.8 %、混合型が25.6 %、胆汁うっ滞型が24.7 %、劇症肝炎が0.8 %であったが、DLST
    は69.7 %で陽性である。
○H2 受容体拮抗薬
  • シメチジンによる急性肝障害が少数ながら報告されている(欧米の報告では1 人/5,000 人~10,000 人の発症。我が国の統計ではALT 上昇が経口投与例の0.68 %注投与例の2.64 %[大日本住友製薬(株)資料、2006.10])。一部の症例では投与開始後一過性に軽度(正常値の2 倍以内)のトランスアミナーゼ上昇を見るが比較的短期間に正常化する。急性肝障害は2 ヶ月以内の発症が多いが10 ヶ月~1 年後の発症もある。中高齢者の発症がやや多く、また1 日800 mg 程度の高用量投与症例に多くみられ、胆汁うっ滞型肝障害が多い。
    アレルギー性と代謝性特異体質に起因する場合の両方があると考えられている。塩酸ラニチジンによる肝障害の頻度はさらに少数である(我が国においては経口投与例の発症率0.60 %[三共(株)資料、2005.3];英国における疫学調査では、肝障害発症相対リスクは、非使用者に対してシメチジン服用がオッズ比5.5、塩酸ラニチジン服用がオッズ比1.7 との報告あり(GarciaRodriguez ら、1997))。投与開始後8~42 日で肝障害の発症が報告されている。多くは50 歳以上の中高齢者で、1 日300 mg の高用量服用者が大部分で、ファモチジンによる肝障害も少数ながらある。

○ チオプロニン
  • 肝臓用薬であるが1999 年の全国調査でも45 例と多数報告例がある。投与開始から初期症状(嘔気、嘔吐、発疹、軽度の黄疸など)発現までの期間について、2 週間以内が48 %、4 週間以内が85 %、6 週間以内が93 %と報告され、比較的早期の発症が大部分で、アレルギー性機序が考えられている。肝障害は胆汁うっ滞型が多く、遷延する例では小葉間胆管の変性・壊死を伴い胆管消失症候群(vanishing bile duct syndrome)の像を示す。
○ プロトンポンプ阻害剤
  • オメプラゾール服用による肝障害の相対リスクは高くオッズ比2.1 と報告されている(H2受容体拮抗薬の項を参照)。わが国では服用者の0.8 %に肝・胆管系障害発症と報告されている(アストラゼネカ(株)資料、1999.3)。投与開始後3 日~8 週後の発症が多く、数年服用後の発症報告もあり、50歳以上の中高齢者に多くみられ、肝細胞障害型が多い。ランソプラゾールによる肝・胆道系障害の頻度は1.67 %と報告されており(武田薬品工業(株)資料、2002.3)、発症は服用後4 日目~9 週間後である。発症が早期であることからアレルギー性機序が考えられている。Helicobacter pylori 除菌
    療法では両薬物とも1 週間投与と短く、副作用が発現しても中止によりほとんどが軽快する。

<抗がん剤>
  • 1999 年の全国調査では、肝障害の報告は全薬物中2.9 %で、テガフール・ウラシル配合剤の報告が多い。臨床型では、肝細胞障害型が50.0 %、混合型が25.0 %、胆汁うっ滞型が13.6 %、劇症肝炎が多く11.4 %で、DLST陽性例は施行したうちの42.9 %であった。アレルギー性のものが大部分であるが、シクロホスファミドや6-メルカプトプリンのように肝毒性を持つ薬物もある。肝障害を基礎疾患として持つ患者が多いため、重症化する可能性がある。

○ シクロホスファミド
  • アルキル化薬で、トランスアミナーゼ上昇を来すこともあるが、特徴的には高用量使用時に類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome[SOS]:veno-occlusive disease [VOD]と同義)を発症する。代謝産物のアクロレインに肝毒性があると考えられ、ブスルファン、放射線照射などとの併用時に起こりやすい。SOS では圧痛のある腫大した肝、腹水、体重増加、黄疸などの症状が見られる。

○ タモキシフェン
  • 抗エストロゲン作用、エストロゲン作用を合わせ持つ非ステロイド性薬物で乳癌治療に使用される。報告されている肝障害には、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD、 脂肪肝および非アルコール性脂肪肝炎[NASH]であるが後者が多い)、peliosis hepatis、急性肝炎、胆汁うっ滞、肝癌(長期使用後)がある。村田ら(2000)は、105 例のタモキシフェン使用女性中40 例(38 %)にCT 検査で脂肪肝を認めており、40 例中35 例は使用開始後2 年間の内に発症している。海外では19 ヶ月以上使用後のNASH から肝硬変への移行、また6 年、12 年使用後の肝癌の発生も報告されている。タモキシフェン及び代謝物のN-デスメチルタモキシフェンが多くの服用患者肝のDNAと結合していることが報告され、発癌促進に関しての議論がある。

○ テガフール・ウラシル配合剤
  • 2005 年2 月までの集計では1.79 %の症例に肝障害を発症する。1992 年7 月~1998 年2 月の集計による安全性情報では117 例が報告されており、投与後2 ヶ月以内に発症した症例が69 例(59 %)で、劇症化した症例のほとんどがこの期間に発症している。残りは2 ヶ月以降~1 年以上の服用で発症しており、投与量との関連は認めていない。症状は食思不振を伴う倦怠感、発熱、嘔気、黄疸など、検査所見はAST、ALT、ビリルビンの上昇などで、DLST 施行39 例中18 例(46 %)で陽性である。以上から、肝障害発症には、症例によってアレルギー性特異体質と代謝性特異体質のいずれかが関与しているものと推測出来る。

○ フルタミド
  • 非ステロイド性アンドロゲン受容体拮抗薬で前立腺癌に用いられる。20~30 %の症例では服薬後無症候性の軽度のトランスアミナーゼ上昇を認めるが、服用継続例の約4 割は正常化する。投与量減量にて肝障害の軽減した症例もあるが一定の傾向は認められていない。ALT 100 IU/L 以上の肝障害は山口ら(2001)の報告で331 例中27 例(8.2 %)に見られた。100IU/L以下のトランスアミナーゼ上昇例(89 例、26.9 %)も含めての統計では、肝障害発症までの期間は、8 週までが39.7 %、13~20 週が23.3 %、48週(1 年)以降が14.7 %と、3 峰性の分布となった。肝細胞障害型と胆汁うっ滞型の両方の肝障害を来し、アレルギー症状を伴うものは多くない。肝不全死剖検例の肝組織像では広範肝細胞壊死を認めた。以上から、機序としては、代謝性特異体質による発症が考えられる。肝障害発症者の血中フルタミド及び代謝物の測定結果では、有意ではなかったが未変化体と代謝物の一つ(FLU-2)の濃度が高かった。フルタミドはCYP 1A と3A で代謝され、特にCYP 1A2 はフルタミドを水酸化して活性代謝物を形成する。CYP1A2 以外のCYP により代謝されて生じた酸化物は肝障害発症を助長するといわれており、CYP 1A2 の遺伝子多型が臨床的に問題となる可能性がある。喫煙者で肝障害発症率が低いが、喫煙にてCYP 1A2 が誘導されることが関係している可能性が指摘されている。

○ メトトレキサート
  • 葉酸拮抗薬で免疫抑制作用もあり、抗がん剤としての使用の他、関節リウマチ、乾癬などにも使用されている。用量依存性、服用期間依存性に肝障害が発症、悪化する。代謝産物に肝毒性があり、初期には脂肪化、核多型、炎症(脂肪肝炎類似)を認めるが、進行と共に線維化が進行し肝硬変に至り、発癌の報告もある。自覚症状はあまりなく、使用開始後軽度にトランスアミナーゼ上昇を来すが、線維化の進行を示す指標とはならず診断には超音波検査や肝生検を必要とする。高齢者、基礎に肝疾患のある患者、アルコール多飲者では悪化しやすい。トランスアミナーゼ上昇は葉酸の投与で改善する。

○ 6-メルカプトプリン
  • プリン拮抗薬で急性リンパ性白血病のほか、免疫抑制作用があるので炎症性腸疾患に用いられている。メチル化されて生じる代謝産物の6-メチルメルカプトプリンが肝毒性を有しており、血清濃度や赤血球中濃度と肝障害とが相関する。成人白血病患者において、塩酸ドキシサイクリンとの併用にて、肝障害の発症率が高くなるとの報告がある。小児科領域で6 ヶ月~2 年(平均1.4 年)の使用で肝障害の発生が報告されている。<化学療法薬(抗真菌剤を含む
<化学療法薬(抗真菌剤を含む)>
  • 肝障害の報告は全薬物中7.2 %で、1999 年の全国調査で、リファンピシン(RFP)、イソニアジド(INH)、サラゾスルファピリジン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ノルフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン、スルファメトキサゾール・トリメトプリム、グリセオフルビンの順に報告が多い。臨床型では、肝細胞障害型が52.3 %、混合型が31.8 %、胆汁うっ滞型が13.6 %、劇症肝炎が2.3 %で、DLST 陽性例は34.8 %と陽性率は低い。
○ イソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジド;INH)
  • 抗結核薬として最もよく使用されており、顕性肝障害の発生も約1%以下と報告されている。薬物性肝障害の報告のあるパラアミノサリチル酸カルシウムやリファンピシンとの併用も多く、しばしば起因薬の特定が困難である。
    INH 使用開始後数日から3 ヶ月頃までに無症状だが一過性に軽度のトランスアミナーゼの上昇を来すことが10~20%の症例で見られるが、大部分の症例では投与を継続していると1~4 週間のうちに軽快、正常化する。しかし、投与開始後2 ヶ月~1 年くらいで、一部の症例で肝障害が顕性となり、薬物を中止しなければ重症化する。肝障害は肝細胞障害型と混合型が大部分を占め、一部の症例を除いてアレルギーの症状やそれを示唆する検査異常を呈するものはなく、代謝性特異体質に起因すると考えられている。INH はアセチル化(間接代謝経路)と加水分解(直接代謝経路)との2つの主要経路で代謝される(図16)。
    前者の経路では、中間代謝物のモノアセチルヒドラジンが生成されこれがCYP により反応性の強い代謝産物に変化するため、rapid acetylator のヒトに肝障害が起こりやすいとの報告があるが、その後これを支持する文献は見当たらない。一方、後者の経路でも、INH hydrolase により肝毒性のあるヒドラジンが生成される。ヒドラジンはslow acetylator の患者の方が生成されやすいことから、逆にslow acetylator で肝障害が起こりやすいとの報告もあり、最近は後者の説の方が有力となっている。リファンピシンはINH hydrolase やCYP を誘導するので、併用にてINH の中間代謝物の蓄積の可能性があり肝障害が重症化する可能性も指摘されている。
○ サラゾスルファピリジン(スルファサラジン)
  • 5-アミノサリチル酸とスルファピリジンをアゾ結合した薬剤で、腸内細菌叢によりアゾ結合が切断され、潰瘍性大腸炎に用いられる。大部分の肝障害は服薬後1 ヶ月以内に起こり、全身性の薬物過敏症候群(hypersensitivity syndrome)の中で肝障害を認めることが多い。トランスアミナーゼ上昇、白血球増多、好酸球増多を認め、また補体低下を認めたとの報告もある。肝組織像は巣状の壊死炎症性変化が主で、胆汁うっ滞像は少ないが、非乾酪性肉芽腫を来す場合もある。

○ 塩酸テルビナフィン
  • 1997 年から我が国で使用が開始された抗真菌剤で、我が国での肝障害発症頻度などのデータは不十分である。欧米での肝障害の報告は26,000 例の使用中に5 例の肝障害発症の報告や、45,000~54,000 例に1 例の発症の報告がある。使用開始後2 ヶ月以内に発症する症例が大部分で、一部の症例で2~6 ヶ月の使用後に発症している。重篤な肝障害は服用2 ヶ月以内に発症し、いずれの臨床型もあり、全身倦怠感、食思不振、褐色尿、黄疸、掻痒感などを来す。アレルギー症状や好酸球増多を伴う症例は少なく、肝組織には単核球や好酸球の浸潤を伴い肝炎像/胆汁うっ滞像を認め、時に肉芽腫を伴う。2 ヶ月以上の服用後に発症する症例もあることから、原因としては、アレルギー性のものもあるが、代謝性特異体質によるものも含まれている可能性がある。

○ ニューキノロン系抗菌薬
  • オフロキサシン、レボフロキサシンなどの報告があるが、使用頻度は高いにもかかわらず肝障害発症は稀である。軽度の胆汁うっ滞型~混合型の肝障害を来す。
○ ピラジナミド
  • 肝毒性の強い抗真菌薬で、肝細胞障害型の肝障害を起こす。用量依存性で、アレルギー性機序による発症もあり得る。発症率は高く、特にINH、リファンピシンとの併用時に肝障害が起こりやすい。

○ フルコナゾール
  • トリアゾール系の抗真菌剤で、5 %未満の症例で軽度一過性のトランスアミナーゼ上昇を認める。服用開始後4 日~1 年(平均130 日)で肝障害が起き、用量依存性発症でないとされているが、一部用量依存性の発症の報告もある。混合型および胆汁うっ滞型が多く、複数の薬物を摂取している例や、種々の基礎疾患を持つ例が多く、多くは起因薬物の同定が困難である。肝組織像は肝細胞壊死、胆汁うっ滞は見られるが、肉芽腫や門脈域の炎症は見られない。電子顕微鏡観察では、肝細胞の滑面小胞体の増加、パラクリスタリン封入物を持つ巨大ミトコンドリアが存在し、発症機序としては、確定できないものの主に代謝性特異体質によるものと考えられている。
    同じトリアゾール系の抗真菌剤のイトラコナゾールでも、1 週~9 ヶ月後に肝障害の発症例が報告されているが多くは投与2 ヶ月以降の発症である。肝細胞障害型、混合型、胆汁うっ滞型のいずれもあり、早期に発症したものはアレルギー性の関与が、また長期服薬後の発症は代謝性特異体質が原因と考えられる。同効薬のケトコナゾールも同様の肝障害を発症するが、我が国ではローション剤のみが発売されている。
○ リファンピシン(RFP)
  • 半合成抗生物質の抗結核薬で、多くの場合イソニアジド(INH)などとの併用療法が行なわれている。RFP はビリルビンの肝細胞から胆汁中への排泄を障害するので、一過性に高ビリルビン血症が見られることがある。これとは別に、肝障害は投薬開始後1~8 週間までの発症が多く、中には4~7ヶ月後の発症例もある。単独使用の場合は、アレルギー性肝障害と考えられているが、通常はINH などと併用され、起因薬物としての同定が困難な場合が多い。1999 年の全国調査では、各種の臨床型があり、DLST 陽性は1例/7 例と低く、Steele らによる34 研究のメタアナリシス(1991)によれば、
    INH 単独使用例では0.6%、RFP 単独使用例では1.1%の肝障害発症に対して、両者の併用では2.5 %の肝障害が見られている。
    INH との併用療法の場合、発症率が比較的高いこと、一般にアレルギー症状(発熱、発疹、好酸球増多)の随伴が見られないこと、再投与で急激な肝障害が見られないことなどから、代謝性特異体質による可能性が考えられている。INH+RFP 併用療法時の肝障害発症は15 日目までが多く、INH 単独使用時に比して早期発症であるのが特徴的である。
    INH は前述のようにアセチル化されてアセチルヒドラジンとなるが、slowacetylator ではヒドラジンが蓄積し、これがRFP により誘導された水解酵素により加水分解された産物が肝障害に関与している可能性が指摘されている。ただし、acetylator の状態と肝障害発症との関連については、議論の余地が残っている。高齢者、アルコール多飲者、基礎に慢性肝疾患を持っている者、栄養状態の悪い者が併用療法時の肝障害発症の高リスク者に挙げられている。
<抗菌薬>
  • 1999 年の全国調査によれば、起因薬を1剤に同定出来た687 例(一般用医薬品、健康食品を含む)で、全薬物中約22 %と最多である。しかし、これらの薬物は肝障害発症の頻度が高いわけではなく、使用頻度が高いことを反映しているものと考えられる。非常に多種類の薬物で報告されているが、多い報告順にピペラシリンナトリウム、セフォチアム、セファクロル、塩酸ミノサイクリン、セファゾリンナトリウム、アンピシリン、セフメタゾールナトリウム、ホスホマイシン、クラリスロマイシン、アモキシシリン、スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム、イミペネム・シラスタチンナトリウム、セフテラムピボキシル、セフポドキシムプロキセチル、フロモキセフナトリウムなどが挙げられる。臨床型では、肝炎型が51.3 %、混合型が32.9 %、胆汁うっ滞型が15.3 %、劇症肝炎が0.6 %で、DLST は50.6 %で陽性である。なお、2004 年4 月~2006 年6 月の3 年間にセフトリアキソンナトリウム(推定年間使用者数約104 万人)に起因する劇症肝炎による死亡が3例(50 歳代男性、80 歳代男性と女性)報告された(医薬品・医療機器等安全性情報230 号、2006.11)。80 歳代の2 症例ではそれぞれ2 日間、7 日間の服用後に発症している。

○セフェム系製剤
  • 数パーセントの症例で使用中に一過性の軽度のトランスアミナーゼ上昇が報告されているが、臨床上問題となる肝障害は稀である。使用頻度が高いため、報告は比較的多く、臨床病型は肝細胞障害型、混合型、胆汁うっ滞型のいずれもが報告されており、アレルギー性の発症と考えられている。使用頻度の影響があるものの、1999 年の全国調査で報告の比較的多かったものは、セフォチアム、セファクロル、セファゾリンナトリウム、セフメタゾールナトリウムなどである。
○カルバペネム系製剤
  • 肝障害の発症はセフェム系と同様稀である。イミペネム・シラスタチンナトリウム投与2516 例にて一過性の軽度のトランスアミナーゼ上昇が1 %の症例でみられるが、臨床的に問題となる肝障害発症はほとんどない。
○ペニシリン系製剤
  • 上記の報告数は各薬物の使用頻度も影響されるので、必ずしも発症率を反映しているものではない。一般に天然型ペニシリン製剤による肝障害は稀で、合成製剤に起因するものが主である。上記のごとく比較的発症頻度の高いものとしては、ピペラシリンナトリウム、アンピシリン、アモキシシリン、ス
    ルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム配合剤などが挙げられる。海外においては、オキシペニシリン、クラブラン酸カリウム・アモキシシリン配合剤、タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム配合剤が多く報告され、55 歳以上の発症率が高い。使用開始後1~8 週でアレルギー症状を伴って発症することが多く(特に2 週間以上の使用例で発生率が高い)、用量依存性が無く、偶然の再投与にて急速に肝障害が再発することなどから、アレルギー性の発症と考えられる。クラブラン酸カリウム・アモキシシリン配合剤による肝障害はアモキシシリン単独によるよりも頻度が高く、胆汁うっ滞型が主で、高齢者に多く、やや男性に多い傾向がある。胆汁うっ滞型においては、胆管消失症候群(vanishing bile duct syndrome)となり回復に長期間を要する場合がある。
○マクロライド系製剤
  • 古くはエリスロマイシンエストレートによる主に胆汁うっ滞型の肝障害が有名で、他のエリスロマイシン誘導体によっても頻度は低いが同様の肝障害(胆汁うっ滞型が多い)が起こりうる。投与開始後数日~3 週間で発症するが、時には投与終了後に発症する場合もある。しばしば急性胆嚢炎様の症状(腹痛、発熱、黄疸など)の初発症状が見られ、発熱、発疹、好酸球増多などのアレルギー症状を伴うことが多く、再投与にて急速に肝障害が再発することから、アレルギー性機序が考えられている。その他のマクロライド系抗生物質では、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンによる肝障害の報告がある。
○テトラサイクリン系製剤
  • 塩酸テトラサイクリンによる肝障害の頻度は低く、高用量の静脈内投与例での発症が報告されており、時に肝不全を来たす。肝組織像では小滴性の脂肪肝を呈し、ミトコンドリアでの脂肪酸β酸化の障害などが示唆されている。妊婦では急性妊娠脂肪肝の発症に関係しているので使用を控えるべきである。一方、尋常性ざ瘡などに少用量で使用される塩酸ミノサイクリンによる肝障害は、使用頻度が高いためか比較的多く報告されている。投与開始後早期に発症するものは21 歳以下の若年者に多く、肝細胞障害型が主でアレルギー性機序が考えられている。一方、4 ヶ月~2 年以上の長期使用例ではSLE様症状を伴い抗核抗体が陽性になるなど自己免疫性肝炎様の肝障害を発症する場合がある。



<漢方薬>
肝障害の報告は全薬物中4.7 %で、多い順に小柴胡湯、柴苓湯、葛根湯と続く。一般に、発症までの期間は、1 ヶ月以内44 %、3 ヶ月以上29 %とやや長い症例がある。初発症状は、黄疸、全身倦怠感、腹部症状などであるが、アレルギー症状や白血球・好酸球の増多を伴う者は少ない。1999年の全国調査では、肝細胞障害型53.9 %、混合型35.0 %、胆汁うっ滞型11.0 %で、DLST 陽性率は51.3 %であった(表2)。最近の報告では、DLST陽性率が非常に高率とのことで、診断に用いるのに注意を要するとされている。特にリンパ球幼若化活性をもつ薬物の場合に注意を要する。

○ 小柴胡湯
サイコ、ハンゲ、オウゴン、タイソウ、ニンジン、カンゾウ、ショウキョウを含む合剤であり、慢性肝炎などにも用いられる。肝障害発症時に発疹、発熱などのアレルギー症状を伴うものが無く、正確な発症機序は明らかでない。発症は0.64%(2,495 例中16 例)、発症までの期間は8週未満と8週以上が共に9 例であった((株)ツムラ資料、1998.9)。1999 年の全国調査ではDLST 陽性率は17 例中9 例と高率であった(表2)。

<代謝性疾患用剤(糖尿病・高脂血症用剤)>
1999 年の全国調査にて、肝障害の報告は全薬物中3.5 %で、多い順にトログリタゾン、アカルボース、ボグリボース、グリベンクラミド、エパルレスタットと続く。臨床型では、肝細胞障害型が53.7 %、混合型が25.9 %、胆汁うっ滞型が14.8 %、劇症肝炎が多く5.6 %で、DLST 陽性例は20.5 %と低率であった。トログリタゾンのような代謝性特異体質による肝障害が多く含まれたため、アレルギー症状を欠くものが多かったと思われる。

○ アカルボース
α-グルコシダーゼ阻害剤で、糖尿病治療に用いられ、重篤な肝障害が10,000 人に1~2 人の頻度で報告されている。1999 年の全国調査ではDLSTは施行7 例全例で陰性であった(表2)。2000 年に戸田らが1993 年12 月~1998 年6月に集計した125 例について検討しているが、それによると、発症は女性に多く(62 %)、しかも女性に重篤例が多かった(72 %)。発症年齢は男性59.0 歳、女性59.9 歳と中高年。症状は、倦怠感/疲労感、黄疸、掻痒、食思不振など、アレルギー症状(発疹1 例、発熱2 例)や好酸球増多(6 例)を認める者は非常に少ない。薬物服用後4 週以内の発症は10~20%、1 年以内の発症は98 %で、残りは1 年を超えて発症している。重篤例では、12~20 週での発症が全体の25 %と最も多く、投与量と肝障害の関連は認められていない。彼らは2 例の劇症肝炎死亡例を認めている。以上を総合すると、アレルギー性肝障害というよりも、代謝性特異体質に起因して肝障害が発症するものと考えられる。

<その他>
1999 年の全国調査にて、痛風・高尿酸血症用薬(0.7%)、呼吸器用薬(0.4%)、免疫抑制剤(0.4 %)、泌尿・生殖器用薬(0.2 %)、骨代謝改善薬(0.1 %)、ホルモン薬(4.6 %)、抗アレルギー薬(3.7 %)、ビタミン薬(0.8 %)、一般用医薬品(5.8 %)などが、肝障害を起こし得る。臨床型では、肝細胞障害型が46.4 %、混合型が32.5 %、胆汁うっ滞型が19.6 %、劇症肝炎が多く11.4 %で、DLST 陽性例は施行例中32.1 %で陽性であった。

○ アザチオプリン
免疫抑制剤として腎移植後などに使用されている。グルタチオンS-トランスフェラーゼで代謝されると6-メルカプトプリンとなる。6 ヶ月~5 年の使用後に発症するが、男性の腎移植患者や、SLE などの基礎疾患を持つ患者に発症リスクが高い。全身倦怠感、関節痛、発熱、腹痛、食思不振、嘔気、嘔吐、下痢、体重減少、掻痒感、黄疸などを来たし、進行すると腹水、食道静脈瘤、肝脾腫、凝固障害などを認める。肝組織像に特徴があり、peliosishepatis、類洞閉塞症候群、結節性再生性過形成(nodular regenerativehyperplasia [NRH])がみられる。

○ ザフィルルカスト
2001 年から発売されているロイコトリエン受容体拮抗薬で、気管支喘息治療に用いられる。一過性にトランスアミナーゼ上昇を来すが無症状で、使用継続しても一般には3 ヶ月以内に正常化する。しかし、3 ヶ月~18 ヶ月の継続投与の間に、稀に(0.1 %未満)顕性の肝障害を来たし、その1/3 は重症化する。劇症肝炎死亡例も報告されている。重症化例にはザフィルルカスト1日投与量が40 mg よりも80 mg の患者が多い。肝障害は圧倒的に女性に多く、また40 歳代以降の中高齢者に発症している。アレルギー症状を伴う症例は非常に少ない。これらから代謝性特異体質に起因する発症の可能性が強い。ザフィルルカストはCYP2C9 によりメチル水酸化を受けていくつかの肝毒性のある中間代謝物へと代謝されるとされており、一般にCYP 活性が女性に高いことが指摘されている。

○ 経口避妊薬(エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤の合剤)
服用中の女性に胆汁うっ滞型の肝障害を来すことがある。黄疸と掻痒感を認め、ビリルビンは上昇するがALP 上昇は軽度、γ-GTP は正常値に留まるものが多い。これは、エストロゲンによる肝細胞毛細胆管側膜上のトランスポーター(MRP2、BSEP)の阻害によると考えられる。また、長期(数ヶ月~20 数年)の服用後に肝の限局性結節性過形成(focal nodularhyperplasia [FNH])、腺腫、肝癌を発生することがある。また、エストロゲンは肝由来の凝固因子を増加させるため肝静脈血栓症を惹起することがある。

○ ジスルフィラム
アセトアルデヒド阻害薬で抗酒精療法に用いられ、肝障害は服用開始後1~24 週に出現する。肝細胞障害型を呈するものが多く、アレルギー症状は少なく、代謝性特異体質による発症の可能性が強い。

○ 蛋白同化ステロイド
男性ホルモン作用は弱く、再生不良性貧血などに使用される。C17 アルキル化ステロイドで、軽度のトランスアミナーゼ上昇や胆汁うっ滞を主とする肝障害を起こすことがあるが、ALP の上昇は非常に軽度である。肝組織ではzone 3 を中心とした胆汁うっ滞像を認める。毛細胆管レベルでの胆汁分泌障害が原因とされる。稀ではあるが、経口避妊薬と同様にpeliosishepatis、肝腺腫、肝細胞癌を発症する症例がある。

○ ビタミンA(パルミチン酸レチノール)
高用量、長期に使用した場合に、非特異的な肝酵素上昇を認め、時に門脈圧亢進症状(腹水)を伴う。肝組織像では、星細胞(伊東細胞)の増殖と脂肪蓄積が見られ類洞が圧排されて狭小化する。

○ プロピルチオウラシル
甲状腺ペルオキシダーゼ阻害作用を持つ抗甲状腺薬で、投与開始後多くは1~3 ヶ月に肝障害を発症する。肝細胞障害型が多く、1999 年の全国調査では胆汁うっ滞型は無い。チアマゾールなど、他の抗甲状腺薬でも肝障害を発症するが、胆汁うっ滞型が比較的多い。骨髄抑制や無顆粒球症などを伴う重篤な症例の報告もある。主にアレルギー性機序によると考えられる。
表2.5 例以上報告のあった薬
3.副作用の判別基準(判別方法)
判断の基本は、薬物服用と肝障害の経過とが時間的に関連することと、他の肝障害の除外診断である。
従来わが国では、1978 年に提案された診断基準案(薬物と肝、第3回薬物と肝研究会記録、1978、 p.96-98、 杜稜印刷)が用いられてきたが、アレルギー機序による肝障害にのみ対応したものであること、診断のポイントとなる薬物リンパ球刺激試験(DLST)の偽陽性のために診断がつきにくいという欠点があった。その後、1993 年に出された国際コンセンサス会議の診断基準(J Clin Epidemiol. 1993:46: 1323-1330)の有用性も示されていたが、3 年間の日本肝臓学会大会での議論を経て、我が国なりにこれに手を加えた新しい診断基準が2004 年に提起された。これは表4 に示すスコアリングを用いて診断を行うもので、まずALT とALP 値から肝障害を分類して、8つの項目ごとにスコアリングを行い、表4 の脚注に示した判定基準で判定するものである。このスコアリングを薬物性肝障害683 例と除外症例99 例とに当てはめたところ、感度は98.7%、特異度は97.0%と良好な判定が行えた。また、スコアリングを行うにあたってのマニュアルを表5 に示す

薬物性肝障害診断基準の使用マニュアル(肝臓 2005; 46: 85-90 より引用)
--------------------------------------------------------------------------------
1. 肝障害をみた場合は薬物性肝障害の可能性を念頭に置き、民間薬や健康食品を含めたあらゆる薬物服用歴を問診すべきである。
2. この診断基準は、あくまで肝臓専門医以外の利用を目的としたもので、個々の症例での判断には、肝臓専門医の判断が優先する。
3. この基準で扱う薬物性肝障害は肝細胞障害型、胆汁うっ滞型もしくは混合型の肝障害であり、ALT が正常上限の2 倍、もしくはALP が正常上限を超える症例と定義する。
ALT およびALP 値から次のタイプ分類を行い、これに基づきスコアリングする。
肝細胞障害型 ALT>2N + ALP≦N または ALT比/ALP比≧5
胆汁うっ滞型 ALT≦N + ALP>2N または ALT比/ALP比≦2
混合型 ALT>2N + ALP>N かつ 2<ALT比/ALP比<5
N:正常上限、
ALT 比=ALT 値/ N、
ALP 比=ALP 値/ N
4. 重症例では早急に専門医に相談すること(スコアが低くなる場合がある)。
5. 自己免疫性肝炎との鑑別が困難な場合(抗核抗体陽性の場合など)は、肝生検所見や副腎皮質ステロイド薬への反応性から肝臓専門医が鑑別すべきである。
6. 併用薬がある場合は、その中で最も疑わしい薬を選んでスコアリングを行う。薬物性肝障害の診断を行った後、併用薬の中でどれが疑わしいかは、1 発症までの期間、 2 経過、 5 過去の肝障害の報告、 7 DLST の項目から推定する。
7. 項目4 薬物以外の原因の有無で、経過からウイルス肝炎が疑わしい場合は、鑑別診断のためにはIgM HBc 抗体、HCV-RNA 定性の測定が必須である。
8. DLST が偽陽性になる薬物がある(肝臓専門医の判断)。DLST は別記の施行要領に基づいて行うことが望ましい。アレルギー症状として、皮疹の存在も参考になる。
9. 項目8 偶然の再投与が行われた時の反応は、あくまで偶然、再投与された場合にスコアを加えるためのものであり、診断目的に行ってはならない。倫理的観点から原則、禁忌である。なお、代謝性の特異体質による薬物性肝障害では、再投与によりすぐに肝障害が起こらないことがあり、このような薬物ではスコアを減点しないように考慮する。
10.急性期(発症より7 日目まで)における診断では、薬物中止後の経過が不明のため、2 の経過を除いたスコアリングを行い、1 点以下を可能性が少ない、2 点以上を可能性ありと判断する。その後のデータ集積により、通常のスコアリングを行う。
4.判別が必要な疾患と判別方法
<肝細胞障害型>
○ 急性ウイルス肝炎(B 型慢性肝炎の急性増悪を含む)
海外渡航歴、なま物の摂取、不特定の性的行為の有無、家族歴IgM HA 抗体、HBs 抗原、IgM HBc 抗体、HCV 抗体、HCV-RNA の測定
○ CMV、 EBV による肝障害
咽頭痛、頸部リンパ節腫大の有無白血球像で異型リンパ球の増多、血清LDH の増加IgM CMV 抗体、IgM EB VCA 抗体などの関連抗体の測定
○ アルコール性肝障害
飲酒歴
血清γ-GTP およびIgA の高値、AST>ALT のトランスアミナーゼ値上昇
○ 過栄養性脂肪肝
BMI、HOMA-IR、腹部超音波所見
○ 自己免疫性肝炎
IgG、抗核抗体の測定
自己免疫性肝炎については、薬物性肝障害との判別はスコアリングでは不可能なので、肝生検所見や副腎皮質ステロイド薬への反応性から判別する。
○ ショック肝
血圧低下がおこる原因疾患の有無、血圧低下の病歴
<胆汁うっ滞型>
○ 閉塞性黄疸
腹部所見(圧痛、腫瘤触知など)腹部超音波検査もしくは腹部CT
○ 原発性胆汁性肝硬変
血清IgM、抗ミトコンドリア抗体、抗PDH 抗体の測定
○ 原発性硬化性胆管炎
MRCP、可能であればERCP
○ 特殊な肝内胆汁うっ滞
良性反復性肝内胆汁うっ滞、妊娠性肝内胆汁うっ滞など

5.治療方法
薬物性肝障害の多くの症例は早期発見により薬物投与中止により速やかに回復する。一部においては発見の遅れや、個体差により重篤化し治療に難渋することがある。薬物性肝障害の診断基準に関する議論が多く内外でなされている。薬物性肝障害の一般的な治療を述べる。
<一般療法>
薬物性肝障害の基本治療としては、起因薬物の同定を速やかに行い、早期にその薬物の投与を中止することが第一である。軽度の肝障害は自然に改善する。ALT 300 IU/L 以上、総ビリルビン 5 mg/dL 以上などの中等度以上の肝細胞障害や黄疸を呈する場合は、入院加療にて経過観察をする。しかし一部に劇症化する例がありその予後は肝移植を必要とされる例がある。
一般的な急性肝障害(急性肝炎など)の治療に準じ、安静臥床での経過観察、消化のよい(低脂肪食:脂肪を一日30~40 g に制限など)食事を中心とした食事療法、そして薬物療法である12)。食事ができない場合5~10%ブドウ糖500~1000 mL を基本に輸液を施行する。
しかし肝庇護薬を含めた薬物療法はそれ自体でさらに肝障害を引き起こすこともありうるので、乱用は慎むべきである。薬物療法が基本的に必要なのは、黄疸遷延化例と劇症肝炎移行が考えられる例である。また、飲酒者においては健常者よりも薬物性肝障害を起こしやすいともいわれている。それはフリーラジカルのスカベンジャーである、グルタチオンおよびシステインが減少しており、肝細胞内での脂質過酸化が起こりやすい状況であり、抗酸化作用のある薬物や、ビタミンC、E などの使用も効果があるとされている。

<薬物療法>
1.基本的薬物療法
1) 肝細胞障害型
中等度以上肝細胞障害例(ALT 300 IU/L 以上)においては、グリチルリチン製剤で抗アレルギー作用のある強力ネオミノファーゲンシー(SNMC)の静注を行いALT 改善に努める。SNMC は、一回、20~100 mL の静注同時に、肝細胞膜保護作用を有するウルソデオキシコール酸(UDCA)の経口投与を行う13)14)。これらにより、ALT 100 IU/L 以下に低下させることに努める。
肝細胞障害が重症化し、劇症肝炎に陥ったときの治療は、IVH、人工肝補助療法を用いる。血漿交換、血液透析を行う。劇症肝炎予後予測式を参考にし、場合によっては肝移植となる場合もある15)16)。与芝の予知式を挙げる。Z=-0.89+1.74×(原因)+0.056×総ビリルビン(mg/dL) - 0.014×コリンエステラーゼ(U/L)、原因がHAV、HBV(急性感染)、アセトアミノフェンなら原因=1、原因がHBV キャリア、C、非A~非C、アレルギー性薬物性肝炎、自己免疫性なら原因=2 とし、1 あるいは2 の数値をあてはめ使用する。Z>0 で脳症発現の可能性大、PT60%の時点におけるデータで、かつ血液浄化法開始前の検査値を使用する。これらは、ウイルス性などの一般的な劇症肝炎の治療に準ずる。
アセトアミノフェンの大量服用による、急性肝不全の場合服薬直後であれば、胃洗浄を施行する。しかし、服薬10 時間以内であれば肝グルタチオンを補填する目的で前駆体であるN-アセチルシステインを点滴静注する17)。しかし本邦においては静注薬がないので、N-アセチルシステインであるアセチルシステイン内用液を胃管から、初回140 mg/kg、 以後4 時間毎に70 mg/kg を17 回、計18 回を経口または経鼻胃管より投与する。(血中濃度をモニターするとよい)。

2)胆汁うっ滞型の薬物性肝障害の治療薬
胆汁の流出障害がおこるので、食事は脂肪の吸収不良防止のために低脂肪食とする12)。総ビリルビン 10 mg/dL 以上の高度の黄疸遷延例に対しては脂溶性ビタミンの不足を補う。ビタミンA( 10 万単位)、K(10 mg)を4週ごとに筋注、次に薬物療法の選択となる。
また、遷延する黄疸の場合(総ビリルビン10 mg/dL 以上)、脂溶性ビタミン不足が生ずるため、ビタミンA( 10 万単位)、K(10 mg)を4 週ごとに筋注、次に薬物療法の選択となる。
薬物療法としては、まずは、利胆作用のあるUDCA は副作用が少なく第一選択薬である14)18)。世界的にこのように記載されており、遷延化が見られる場合、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)を使用する。しかし、開始後1週間で改善の見られない場合、漸減中止とする。
また、 UDP グルクロノシルトランスフェラーゼ活性亢進作用を期待し、フェノバルビタールを使用することもある。タウリン(アミノエチルスルホン酸)も利胆作用があり使用される。タウリンは、抗酸化作用が強く、肝細胞保護作用も持ち合わせるので、使用しやすい19)。また、掻痒感が強い場合、新しい陰イオン交換樹脂であるコレスチミドが従来のコレスチラミンよりも量が少なく飲みやすく、効果も強くよく使用されるようになってきた。

(参考)その他の治療
以下の処方は十分な科学的根拠はないが、広く使用されている
処方例
・ウルソデオキシコール酸 100 mg 3~6 錠 分3 食後1 日2 回 (適応外)
・タウリン散(1 g)3~6 包 分3 食後1 日3 回
・強力ネオミノファーゲンシー注(グリチルリチン製剤) 1 回40~60mL1 日1~2 回 静注
・プレドニゾロン錠 5 mg 6~8 錠 分2~3 食後1 週間前後服用しビリルビン値の低下が認められれば、以後3~4 日毎に漸減する。開始後10 日以内に改善のみられない場合、速やかに漸減中止する。
・茵陳蒿湯 (2.5 g/包)3 包 分3 食前 胆汁うっ滞に有効である場合がある。
・コレスチミド 500 mg 6~8 錠、分2 朝夕食前 (適応外)掻痒感が強い場合に使用する。ウルソとは同時に服用しない。
・コレスチラミン 9g を水100 mL に溶かし、分2~3服用。上記に比べ量が多く飲みづらい問題点があり、最近はあまり使用されない。
・抗ヒスタミン薬との併用をすることもある。ジフェンヒドラミン軟膏を塗布することが多い。
などが具体的な使用例である。
典型的症例概要

○ 肝細胞障害型
症例1: 60 歳代、女性
主訴:全身倦怠感、発熱
飲酒歴:機会飲酒
喫煙歴:なし
現病歴:大動脈閉鎖不全症、高血圧症、慢性胃炎と診断され、塩酸ベタキソロール、シメチジン、テプレノンを内服していた。約2年後の血液検査では、AST 26 IU/L、ALT 15 IU/L、ALP 198 IU/L(正常値100~358 IU/L)、γ-GTP 25 IU/L(正常値7~29 IU/L)と肝機能検査値に異常は認めなかった。血圧コントロール不良のため、その27 日後にバルサルタンを追加された。バルサルタン開始15 日後、全身倦怠感が出現、37℃台の発熱も認めたため、近医を受診。受診時施行の血液検査で高度の肝障害を認め、翌日紹介入院となった(第1病日)。
入院時現症・検査所見:全身倦怠感、発熱以外の愁訴はなく、肝脾腫、黄疸などの身体所見も認めなかった。
検査所見では、WBC 2,800 /μL (neut 82%、eos 0%、lymph 15%、mono 2%)、RBC 435×104/μL、Hb 13.2 g/dL、PLT 138×103/μL、プロトロンビン時間71%(PT INR 1.27)、Alb 4.3 g/dL、T. Bil 0.59 mg/dL、AST 1180 IU/L、ALT 1280 IU/L、ALP 234 IU/L、γ-GTP 38 IU/L と肝細胞障害型の肝障害を認めた。HBs 抗原(-)、HCV RNA 定性(-)、IgM-HA 抗体(-)、抗核抗体(+)、抗ミトコンドリア抗体(-)、IgG 1463 mg/dL、IgM 144 mg/dL、CMV IgG(+)、CMV IgM(-)、EBV VCA IgG(+)、EBV VCA IgM(-)であった。入院時の腹部CT では肝形態は正常、脾腫も認めなかった(図17)。
臨床経過:
薬物投与歴より、バルサルタンによる薬物性肝障害が疑われたため、同剤を中止し、経過観察とした。発熱は入院当日に37℃台のものを認めたのみで、それ以降は認めず、全身倦怠感も軽減した。肝機能検査値は、第6 病日には、AST 156 IU/L、ALT 490 IU/L、ALP 296 IU/L、γ-GTP 69IU/L、第15 病日には、AST 29 IU/L、ALT 62 IU/L、ALP 223 IU/L、γ-GTP48 IU/L と速やかに改善した。バルサルタンに対するリンパ球刺激試験(DLST)の結果は陰性であった。第14 病日に肝生検を施行。門脈周辺域の炎症細胞浸潤、小葉のspotty necrosis を認め、急性肝炎の像と類似していた(図18)。
経過、検査結果より、バルサルタンによる薬物性肝障害を考え、薬物性肝障害診断基準に従いスコアリング、国際コンセンサス会議の診断基準では7 点で”probable”、2004 DDW-J 薬物性肝障害ワークショップで提案された診断基準では「可能性が強い」となり、バルサルタンによる肝細胞障害型の薬物性肝障害と診断した。血圧についてはアゾセミドでコントロール可能となった。第16 病日に退院。退院20 日後の外来での血液検査では、AST 27 IU/L、ALT 24 IU/L、ALP 207 IU/L、γ-GTP 35 IU/L と肝機能検査値はほぼ正常化していた。その後の肝機能検査値は正常値を維持している。
薬物の投与歴、原因と疑われる薬物中止後の経過、他の原因の除外などにより、肝細胞障害型の薬物性肝障害との診断に至った症例である。

○ 胆汁うっ滞型
症 例: 50 歳代、女性
既往歴:関節リウマチ 20 歳より治療中
抗リウマチ薬(詳細不明)で間質性肺炎の既往あり 8年前
帯状疱疹 4 年前
高脂血症 同年
喫煙歴:なし
飲酒歴:機会飲酒 (ビールを少量 年に数回程度)
現病歴:労作時前胸部痛のため近医で心カテを実施したところ、狭窄部を認めたため加療目的で紹介された。入院4 日後にPCI:経皮的冠動脈血行再図17. 腹部CT 画像 図18. 症例1 の肝生検組織像建術(#7 に薬剤漏出性ステント留置)を施行した。たこつぼ心筋症と対角枝領域に梗塞を認めた。
入院後経過:入院当初(PCI 施行4 日前)は正常範囲内であった肝機能(トランスアミナーゼ、胆道系酵素など)が、PCI 施行13 日後より徐々に上昇しだした(AST 62 IU/L、 ALT 73 IU/L、 ALP 223 IU/L、 γ-GTP 305 IU/L)。グリチルリチン製剤(SNMC)60mL 連日投与をPCI 施行19 日後(AST 258 IU/L、ALT 416 IU/L)より開始した。PCI 施行25 日後には、(T.Bil 4.36mg/dL、 AST619 IU/L、 ALT 1128 IU/L、 ALP 2452 IU/L、 γ-GTP 2045 IU/L)となった。肝機能の悪化とともに薬疹が出現、PCI 施行33 日後(T−Bil 13.01mg/dL、AST 334 IU/L、 ALT 683 IU/L、 ALP 2369 IU/L、γ-GTP 1716 IU/L)、トランスアミナーゼの改善傾向を認めるも、黄疸の悪化を認めた。使用していた薬剤に対しDLST を施行したところアスピリン(100mg)、ニコランジル(5mg)が陽性と判定された。PCI 施行50 日後には(T.Bil 26.68mg/dL、D.Bil 20.08mg/dL、 AST 104 IU/L、 ALT 196 IU/L、 ALP 2276 IU/L、γ-GTP 1405 IU/L)、黄疸がさらに悪化。PCI 施行51 日後よりスティーブンス・ジョンソン様の皮疹・口唇びらんが出現し、PCI 施行52 日後よりステロイドパルス治療を開始。循環器系の薬物をできるだけ中止したかったが、ステント留置から3 ヶ月間は抗凝固療法(アスピリン)を緩めることは出来ず、PCI 施行56 日後(T.Bil 22.34mg/dL、D.Bil 17.87mg/dL、 AST 218 IU/L、ALT 373 IU/L、 ALP 2903 IU/L、 γ-GTP 3067 IU/L)にも黄疸の改善認めず、胆道系酵素の悪化を認めたため、PCI 施行57 日後より血漿交換を開始し、合計12 回施行した。徐々に肝機能は改善し、PCI 施行86 日後(T.Bil5.02mg/dL、D.Bil 4.22mg/dL、 AST 163 IU/L、 ALT 236 IU/L、 ALP 1712IU/L、 γ-GTP 1113 IU/L)と黄疸の軽減を認め、PCI 施行102 日後には、血漿交換の施行日をあけても(T.Bil 1.06mg/dL、D.Bil 0.63mg/dL、 AST 59IU/L、 ALT 98 IU/L、 ALP 904 IU/L、γ-GTP 850 IU/L)となり血漿交換を終了した。PCI 施行105 日後に経皮的肝生検を施行した結果は薬物性肝障害に伴う胆汁うっ滞像として矛盾はなかった。しかし、その時点では(T.Bil1.12mg/dL、AST 82 IU/L、 ALT 125 IU/L、 ALP 1369 IU/L、 γ-GTP 1467IU/L)と上昇していたため循環器系の薬物を最小限とし、PCI 施行106 日後よりウルソデスオキシコール酸(UDCA) 600mg、1日3回を開始した。肝機能障害は再燃することなくPCI 施行122 日後(T.Bil 0.69mg/dL、AST 36IU/L、 ALT 67 IU/L、 ALP 626 IU/L、 γ-GTP 973 IU/L)、黄疸の消失と胆道系酵素の改善傾向を認め退院となった。
発症時期、DLST により、アスピリン、ニコランジルによる薬物性肝障害と診断した症例である。DDW-J'04 薬物性肝障害シンポジウム案によるスコアリングでは10 点(highly probable)と判定された。肝細胞障害も伴うが、高度黄疸が進行し胆汁うっ滞がメインの経過をとり、ステロイドパルス治療、血漿交換、UDCA が奏功した薬物性肝障害の一例である。 (症例提供:自治医科大学大宮医療センター:落合香織)

○ 混合型
症 例:60 歳代、男性 混合型急性肝障害
起因薬:オキサトミド、ベタメタゾン・マレイン酸クロルフェニラミン配
合剤
主 訴:倦怠感、尿濃染
現病歴:起因薬投与前の肝機能異常なし。疥癬に対して①ベタメタゾン・マレイン酸クロルフェニラミン配合剤の内服投与が開始、その後②オキサトミドが開始された。①の開始後82 日目および②の開始後28 日目に混合型肝障害を認めた。
発症時検査データ:
T.Bil 5.18 mg/dL 、D.Bil 3.48 mg/dL、AST 250 IU/L、ALT 378 IU/L、ALP 765 IU/L、 γ-GTP 264 IU/L、T.Chol 230 mg/dL、WBC 4700/μL、 好酸球15.3%、 PT 78%、 抗ミトコンドリア抗体陰性、血清IgM 44 mg/dL、IgM- HA 抗体陰性、IgM-HBc 抗体陰性、HCV-RNA 定性陰性、HSV-IgM 陰性、CMV-IgM 陰性、EBV VCA IgM 陰性
【腹部超音波検査】胆道系疾患なし。
【国際コンセンサス会議(1993)薬物性肝障害診断基準スコア】6 点、probable.
【薬物によるリンパ球幼若化試験結果】上記2 剤とも陰性。
【日本消化器病学会週間(2004)薬物性肝障害診断基準案スコア】8 点、可能性高い。
【組織所見】Drug induced liver injury:中心静脈周囲の肝細胞の変性と10%の脂肪化。類洞内に軽度の好酸球浸潤あり。肝細胞内に胆汁色素の沈着を認めたが、胆管病変はなかった。(発症14 病日)
【治療と経過】発症後2 日目に起因薬中止。起因薬物中止のみで肝障害改善傾向あり、その後にウルソデオキシコール酸600mg/日内服、グリチルリチン静注用製剤投与を開始し肝障害改善した。

○ 急性肝不全

症例1:60 歳代、男性
主 訴:意識障害、発熱
既往歴・生活歴:常習飲酒家ではない。常用薬はなく健康食品類摂取もない。
現病歴:過去に肝障害を指摘されたことはない。S 状結腸癌に対してS 状結腸切除術を施行されたあと、術後補助化学療法としてテガフール・5-FU合剤(以下被疑薬、450 mg/日)の経口投与が開始された。投与18 日目に39.5℃の発熱・咽頭痛が出現し他院を受診し、咽頭炎の診断で感冒薬を投与された。改善しないため被疑薬投与20 日目に血液検査を受けたが肝障害を認めなかった。その後も発熱が持続し、投与24 日目より食思不振が増悪して経口摂取不能となったが被疑薬のみ必須の薬と考えて25 日目まで内服を続けていた。最終内服から15 時間後に呼名応答困難となり救急搬送された。
入院時現症:血圧101/61 mmHg、体温37.4℃、脈拍103/分・整、意識は JCSⅠ-3 で肝性脳症3 度、眼球結膜及び皮膚に黄染を認めた。咽頭は軽度発赤。胸部に異常なし。腹部は平坦・軟で圧痛は認めず、腸雑音はやや亢進。肝脾腎を触知せず、肝濁音界も縮小なし。下肢に軽度の浮腫を認めた。神経学的所見では見当識障害があり(日付と場所を言えず)、羽ばたき振戦の誘発を認めた。巣症状・髄膜刺激症状は認めなかった。入院時検査所見:WBC は13000/μL と上昇、好酸球数は1200/μL であった。PT 21.2 秒(22%)と延長。生化学検査ではAlb は3.4 g /dL と僅かに低下しており、AST 1215 IU/L、ALT 2440 IU/L、ALP 744 IU/L、γ-GTP 244IU/L、LDH 1025 IU/L と高値であり、全体として肝実質細胞傷害優位であった。T.Bil 2.5 mg/dL であった。また、BUN 70 mg/dL、Cre 2.8 mg/dLと軽度の腎前性腎不全の像を示していた。肝炎ウイルスマーカーは全て陰性で、有意な自己抗体も認めなかった。画像では肝実質は不均一で超音波では実質エコーパターンは粗造であったが肝容積は保たれており、腹水は認められなかった。
臨床経過:以上より急性型の劇症肝不全と診断し直ちに集中治療室入院とした。病歴と既報例の傾向より、家族から得た上記の問診のみで被疑薬を推定した。比較的蛋白結合率の低い薬物であることから血液浄化療法として通常の血液透析を選択、来院後2 時間で開始、3 時間施行した。来院時の血中テガフール濃度は17034 ng/ml と通常投与時のピーク濃度の1.5 倍程度の高値であり、透析後に半減した。これとともに脳症は急速に改善、肝障害も単峰性で軽快した。併用療法としてはUDCA、グリチルリチン製剤、ごく短期間の副腎皮質ステロイド投与を行なった。第3 病日に施行した肝生検所見は線維化所見のない広範肝壊死、回復期の第14 病日に再度施行した肝生検では大部分の肝細胞が再生し、小葉構造も保たれていた。
DLST は被疑薬に対して一過性に強陽性を呈した。DDW-J’04 薬物性肝障害シンポジウム案によるスコアリングでは11 点(highly probable)と判定された。
初期の診断と治療の導入が重要であった薬物性肝障害の重症型と診断された症例である。
(症例提供:土浦協同病院消化器内科 永山和宜・田沢潤一)

症例2:ベンズブロマロン
60 歳代、男性、原疾患:高尿酸血症
併用薬:スクラルファート
臨床経過
35 日前 アロプリノールの投与を受けていたが、投与中止。
投与開始日 ベンズブロマロン投与開始(150 mg/日)。
77~86 日後頃 心窩部痛、全身倦怠感を自覚。
98 日後 AST 1286 IU/L , ALT 1369 IU/L
99~107 日後頃 グリチルリチン・グリシン・システイン配合剤、ビタミンK2 投与。
108 日後 心窩部痛、熱感出現。ベンズブロマロン中止し入院。
114 日後 肝性脳症、肝不全に至る。
115 日後 AST 465IU/L、ALT 372IU/L、T.Bil 31.3mg/dL。肝性脳症スコアー II 度
116 日後 DIC を疑い、メシル酸ガベキサート(1500 mg/日)投与開始(156日後まで)
121 日後 FFP(5 単位/日)投与開始(176 日後まで)
123~125 日後 直接血液灌流法によるビリルビン吸着施行。
162~174 日後 肝性脳症スコア:II~V 度
176 日後 肝不全により死亡。剖検にて、肝の広範囲壊死を確認。
肝炎ウイルスマーカー:陰性
DLST(156 日後):ベンズブロマロン陰性、アロプリノール陰性
(参考資料)平成12 年2 月 緊急安全性情報99-2 号

○ その他の薬物起因の肝疾患
クエン酸タモキシフェンによる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)例日本消化器病学会誌 2002; 99: 1119 より、千葉大学 横須賀 収教授の許可を頂き掲載
症 例:50 歳代、女性
現病歴:左乳癌に対し手術施行。この時、AST 13 IU/L、 ALT 12 IU/L であった。飲酒歴は手術時まで機会飲酒。乳癌術後、クエン酸タモキシフェン20 mg/日を3年間内服していた。AST 114 IU/L、 ALT 103 IU/L であったため、同剤による肝障害を疑い、同意を得た上で中止するも、全身倦怠感および肝機能異常が6ヶ月異常持続したため、入院となる。身長 150 cm、体重 54 kg。血液検査所見を表1に示す。腹部超音波検査とCT(図19)で脂肪肝を認めた。
腹部CT:肝臓はびまん性に輝度が低下し、脂肪肝の所見
を呈している。
本例は大量飲酒の既往を認めず、肝生検所見(図20)からNASH と診断した。UDCA 600 mg/日内服を開始し、全身倦怠感、肝機能の著明な改善がみられた(入院約6ヶ月後 AST 29 IU/L、 ALT 40 IU/L)。
図20 肝組織所見
a 小葉構造は一部乱れている。実質の脂肪変性が目立ち、門脈域、実質内に線維の進展がみられる(Azan-Mallory 染色)。
b 実質には脂肪変性に加え、層状壊死が散見される。門脈域には炎症細胞浸潤が目立つ(HE 染色)。
c 類洞に沿い線維の進展、肝細胞周囲線維化を認める(Azan-Mallory 染色)
その他、早期発見・早期対応に必要な事項
① Pharmacogenomics を利用した薬物性肝障害の予測法に関する研究
薬物代謝を行う重要な酵素にチトクロームP450(CYP)がある。 CYP の分子種の酵素活性は各個人により大きく異なっている。酵素作成の遺伝子に突然変異が起こると蛋白の組成が変わり、酵素活性がなくなる。この酵素活性をもっていないヒトをpoormetabolizer と呼び、通常の酵素活性をもっているヒトをextensive metabolizer と呼ぶ。 生まれつき酵素活性があるヒトと、ないヒトが存在する。 酵素活性のないヒトが比較的多数認められる場合を、遺伝的多型があるという。 酵素活性がないヒトに基質となる薬物を投与した場合、薬物血中濃度は酵素活性があるヒトに比較し数倍から数十倍上昇し、副作用が出現しやすくなる。 遺伝的多型が存在する酵素には、CYP2A6、 2D6、2C19、 アセチルトランスフェラーゼ (アセチル基転移酵素)、アルデヒドデヒドロゲナーゼなどがある。 さらに、遺伝的多型には人種差が存在する。CYP2D6 のpoor metabolizerは白人の7%ほどに存在するが、日本人には1%未満しか認められない。CYP2C19 は、日本人を含む黄色人種の約20%はpoor metabolizer で、白人は5%以下である。同じように白人の半数はアセチルトランスフェラーゼのslow acetylator である。一方、日本人はrapid acetylator が90%を占めているとされている。このように、 代謝酵素の遺伝子多型には民族差があることが知られており、日本人での研究が必要となる。
また、わが国で開発されたイリノテカン(カンプトテシン誘導体、CPT-11)について、薬物動態関連分子の遺伝子多型から、副作用の原因、予防法に関する研究が最近進んでいる。 イリノテカンは体内でカルボキシルエステラーゼによって活性代謝物(SN-38)に転換され、抗がん効果を発揮する。 SN-38 は細胞障害性が強く、そのままでは正常細胞にも作用し副作用発現の原因になリ、副作用として骨髄抑制、下痢のほか肝障害も報告されている。 実際には、患者の体内でUGT1A1 によってグルクロン酸が付加され、細胞毒性が減少し、解毒される。 ところがプロモーター領域にあるTATA box のTA の繰り返し配列が通常は6 回であるところ7 回ある多型の場合は、UGT1A1 の発現が減弱しSN-38の解毒が進まず強い副作用(特に好中球減少)がみられる症例が多いことが明らかとなっている23-26)。また、特にアジア人では、UGT1A1 のエクソン部分の遺伝子多型やUGT1A9の遺伝子多型によっても、SN-38 の体内動態やグルクロン酸抱合に違いがあることが判明している27-31)。このUGT1A1 の遺伝子多型を調べて、投与量を決めることが考案され、我が国でも臨床応用が始まっている。また、チクロピジンによる肝障害(胆汁うっ滞型)は白人よりも日本人で多いことが知られており32)、予備的研究ではあるが、日本人において、チクロピジンによる肝障害の発生患者群とコントロール群のHLA(Human leukocyte antigen: ヒト白血球抗原)のタイプを比較して、肝障害発症患者はHLA A*3303 を有意に多く保有していること(オッズ比13.04)、この遺伝子型は北アメリカの白人では0.53%に対し日本人では9.7%と多いことが報告されている33)。今後の検証的な研究が必要ではあるが、将来、投与前にHLAをタイピングすることで、チクロピジンによる肝障害の発生を予測できる可能性があると考えられる。
このように薬物代謝には個体間差があることが明らかとなり、遺伝子多型と薬物性肝障害の発症との関連性を検討することより、副作用予防に対する今後のオーダーメイド医療に大きく貢献すると考えられている。

② 最新の研究からの薬物性肝障害の検討
フルタミド投与における肝障害に対するウルソデオキシコール酸(UDCA)投与の有効性-肝障害発症機序解明から、UDCA の効果発現機序から臨床応用へ-フルタミドおよびその代謝物OH-フルタミドは、男性ホルモンであるアンドロゲンのレセプター(AR)のアンタゴニストで、アンドロゲンと拮抗してAR に結合して作用を阻害する。ARは、遺伝子転写因子で、アンドロゲン依存性である前立腺癌の増殖を促進するが、フルタミドはそれを阻害し効果が良いことから、現在広く臨床現場で使用されている薬物である。
しかし、重要な副作用として肝機能異常があり、その出現率は13.5%と報告されている34)。フルタミド投与による肝障害は胆汁うっ滞や門脈域の壊死を伴う肝炎型が多く、まれに劇症肝炎をおこす重篤例の報告もある35-36)。しかし、いまだフルタミドによる肝障害の明確な発現機序は不明である。アレルギー反応の関与や37)、P450 による親電子産物生成、肝内グルタチオンの低下が原因とする報告もある38-39)。わが国において、臨床的にフルタミドの薬物性肝障害に対しUDCA 投与の有効性を示唆する報告がなされた。絶飲水、絶食下においてフェノバルビタールとフルタミドをラットに投与し、実験的肝障害モデルの作製に成功した41)。本モデルは、AST (GOT)、 ALT (GPT) 値が上昇し、小葉中心性壊死性変化であり、胆汁うっ滞像は認めなかった。病理組織学的にも、高用量の群が最も広範囲に病変を認めた。肝障害程度は、用量依存性があることが示唆された。フルタミドによる肝障害はチトクロームP450(CYP)によりフルタミドが酸化され、その反応物が関与することが示唆されている。またフルタミドは、P450 のうち、CYP1A2 により主に代謝され、OH-フルタミドとなり、血中で維持されることも明らかとなってきた42)。また、代謝物であるFLU-1、FLU-2、FLU-3 は、OH-フルタミドともに細胞障害性は弱いことが明らかとなった。フルタミドの酸化体である、FLU-1-N-OH の肝細胞障害性の検討のため、合成したもので検討すると培養ヒト肝細胞において肝細胞障害を起こし、GSH とも結合することが明らかとなった。ヒト肝ミクロゾームにFLU-1 を添加すると、FLU-1-N-OH が合成された。
つまり、CYP1A2 活性が低く、GSH が少ない状況下では肝障害が引き起こされる可能性が推測される。さらに、肝障害ラットの障害部位にFLU-1-N-OH の蛋白結合体が免疫染色で確認し、フルタミド投与患者の尿中にFLU-1-N-OH を検出することが確認された43)。これらの事象より、CYP1A2 活性が低く、GSH 量が低い場合には、FLU-1-N-OH が肝障害を起こしうる可能性が示唆された。そこで、CYP1A2 のノックアウトマウス(KO マウス)を利用し肝障害発現の検討を行った。通常マウスに高用量のフルタミドを投与しても肝障害は起こらないが、KO マウスではアミノ酸欠乏下で肝障害が起こり、小葉中心性にびまん性の肝細胞壊死が認められ、CYP1A2 活性が肝障害に関与していることが示唆された44)。P450 が関与する薬物性肝障害の多くは肝臓全体にびまん性に認められ、中心静脈周囲の小葉中心性の肝細胞壊死を特徴としている。本モデルの病理組織所見が同様の所見であることから、これのみでは説明できない面もあるが、P450 が関与している可能性が強く考えられる。そこで、ラットにおける実験的肝障害モデルを作製し、フルタミドによる肝障害に対するUDCA の効果を検討した。モデルラットにUDCA を同時投与したところUDCA の同時投与群での肝障害を軽減した。図21 に示すようにUDCA 非投与群と比較して、UDCA10、20 および40mg/kg 投与群において、AST、ALT 値が有意に低く、さらに、UDCA 投与20 および40mg/kg投与群においてはLDH も有意に低く、病理所見も肝細胞壊死領域範囲が縮小した。以上の結果から、本フルタミド投与実験モデルにおいて、UDCA 同時投与は用量依存的に肝障害を軽減し、臨床におけるフルタミド肝障害の改善に対する有効性が示唆される結果であった。
また、フルタミドの代謝産物へUDCA が影響を及ぼすか否かを検討した。代謝産物であるOH-フルタミド、FLU-1 およびFLU-2、さらに未変化体のフルタミドの血漿中濃度を測定した。その結果、UDCA 投与により血漿中濃度に変化はなくフルタミドの代謝へは、UDCA は全く影響をしないものと推測された。
以上の結果から、本フルタミド投与実験モデルにおいて、UDCA 同時投与は用量依存的に肝障害を軽減し、臨床におけるフルタミド肝障害の改善に対する有効性が示唆される結果であった。CYP1A2 活性低下により、フルタミド酸化体が多く産生され、抗酸化作用を持つUDCAが効果を発揮する可能性が考えられる。
ラットにおける肝細胞障害型肝障害に対するUDCA の効果は、ガラクトサミン45)でも報告されている。従って、今回のフルタミドによる肝障害が肝細胞障害型の可能性が高いので、肝細胞保護作用による効果が期待される(適応外)。対照群をおいた比較試験ではないが、フルタミド単独群(UDCA 非投与群):111 例、UDCAとフルタミド併用群(UDCA 併用群):70 例の比較検討を行った結果が出されている。肝障害発現率は、UDCA 投与群において、非投与群の32%に比し11%と有意に低かった。図22 は肝障害発現率をUDCA 投与群と、非投与群とで比較しKaplan-Myer 法で示したものである。その結果、UDCA を同時投与しておくと、フルタミド投与初期においても肝障害の発現を抑えるが、その後の発現抑制も顕著であることが明らかとなった。つまり、フルタミドによる薬物性肝障害に対するUDCA の予防効果が示唆されるものである。これは、前述したラットモデル実験を臨床的に確認したものである。臨床的EBM ではないが、基礎的な実験根拠に基づくUDCA 治療といえるであろう。薬物性肝障害に対して、このように実験モデルと、臨床検討が同時に行われているものは未だないと思われ、今後の薬物剤肝障害の予防を考える上でも重要な課題と考える。