リザーバーマスクの云々

リザーバマスクを理解するために、酸素投与法の基本をまとめました。
まだ臨床経験のない学生や新人医療関係者向けかと。

酸素投与の基本

①投与方法

酸素を投与するには、口や鼻に管やマスクを持っていって間接的に吸気中の酸素濃度を上げる方法、
気管切開した穴から酸素を流す方法、
気管内挿管して直接酸素の濃い空気を流す方法、
などがあります。
ここでは低流量システムのマスクのみについて説明します。
低流量システムとかの考え方はどっか別の資料を参照してください。

②投与量

酸素の投与量には、２つの表記法があります。
一つは、吸気中酸素濃度（FIO2:エフアイオーツー）という考え方。
たとえば空気中には20％の酸素が含まれています。
これをFIO2は20％もしくは0.20である、といいます。
これは気管内挿管をしている時だけ、正確に計ることができます。
マスクなどでは、流している酸素と周囲の空気をどれくらいの比で吸っているか正確に測ることができないためです。

もう一つは、マスクなどで流している酸素量であり、単位は L/分(リットル毎分) です。
これは100％酸素を流してます。
気管内挿管の場合は酸素と空気を適度に混ぜますが、マスクからは100％酸素が流れています。
モノにもよりますが、1L/分から15L/分の幅で調節します。
正確ではありませんが、どれくらい酸素を流せばどれくらいのFIO2が得られるかという予測値はあります。
後述します。

患者さんがどれくらいの酸素を吸っているかという情報がもっとも大事なので、
FIO2の方がより重要な値だといえます。
L/分ってのはボンベからどれだけ流しているか、ってだけですからね。
極論しちゃえば、鼻カヌラの患者さんが口呼吸のみだったら
１L/分だろうと15L/分だろうとFIO2 20％です。

③酸素流量と吸気中酸素濃度の関係

マスクや鼻カヌラから流れてくる酸素を無駄なく吸ったとして、
どれくらいの酸素量が得られるか期待値を計算してみましょう。

＜健康な成人男性：１回の吸気量500ml、呼吸数15回/分、吸気時間：呼気時間＝１：２＞
この人に6L/分のマスクで酸素を吸ってもらいましょう。
吸気時間：呼気時間＝１：２なので、吸気時間は呼吸にかかる時間のうちの3分の1です。
呼吸数が15回/分なので１回の呼吸に60秒÷15回＝４秒かかり、うち吸気は4秒÷3＝1.33秒です。
酸素は6L/分なので100ml/秒。すると一回の吸気に酸素は1.33秒×100ml/秒＝133ml入ってきます。
一回の吸気量は500mlなので、足りない500ml－133ml＝367mlは外界の空気を吸うことになります。
空気中には酸素は20％含まれるので、367ml×0.2＝73.4ml。
流している酸素量と足して133ml＋73.4ml＝206.4ml。これだけの酸素を一回の呼吸で摂取してます。
一回の吸気量は500mlでありそのうち206.4mlが酸素なので、
吸気中の酸素濃度、つまりFIO2は41.3％　となります。
教科書的にはマスク6L/分でFIO2 40％なので、大体あってそうです。

ここで呼吸が切迫していて、吸気量300ml、呼吸数30回/分の患者さんを想定します。
吸気時間：呼気時間＝１：２で、同じく酸素マスク6L/分で投与しましょう。
同様の計算をすると、マスクから吸う酸素は一回66.7ml、合計酸素は113.7mlとなり
FIO2は37.8％となります。
これはつまり、酸素がほしくて呼吸数が増えている人に対して
呼吸数に反比例して供給できる酸素量が減ってしまうことを意味してます。
低流量システムの限界です。

具体的な投与方法

①鼻カヌラ

→画像
鼻カニューレと言っても良いかもしれません。最も簡便で患者に苦痛・負担が少ない方法・・・とされてます。
少なくとも酸素しながら食事を摂れるってのはでかいです。
難点は鼻が乾燥すること、口呼吸の人では期待した酸素投与量が得られないこと、など。
また、教科書的には6L/分以上、経験的には4～5L/分以上ではそれ以上のFIO2は期待できません。
鼻から吸える空気の量はたかが知れてるってことです。
また、高流量にすると鼻が乾いて苦痛であるってのも重要です。
以下、酸素流量(L/分)に対するFIO2の期待値。

L/分	FIO2(％)
１	２４
２	２８
３	３２
４	３６
５	４０

②酸素マスク

→画像
最もポピュラーな酸素投与法です。イメージが沸かない人はいないと思います。
鼻と口をすっぽり覆う形になるので、患者さんによっては不快感を抱きます。
寝てる間に寝ぼけて外してしまう方も少なくないです。
流量5L/分以下ではマスク内に呼気(低O2、高CO2)が溜まってしまい、期待されるFIO2が得られないといいます。
しかし現場では1～5L/分の場合は患者さんのお好みで鼻カヌラかマスクを選んでもらってるのが現状です。
ちゃんと血中酸素飽和度や血液ガス分析でモニタリングしてるので問題ないのでしょう。
以下、酸素流量(L/分)に対するFIO2の期待値。

L/分	FIO2(％)
５～６	４０
６～７	５０
７～８	６０

③リザーバーマスク

→画像
ようやく本題です。
上述のマスクに下に、リザーバーバッグという袋がついています。
だから"リザーバ付きマスク"とも言われます。
このリザーバーバッグ内に高濃度酸素が貯留することで、
吸気中の100％酸素量を増やす→FIO2を上げることができます。
リザーバーバッグがどれくらいの容積なのかはちょっと調べきれませんでしたが、
リザーバーバッグ内に溜まっている酸素を吸ってなお足りない分を外気から吸うことになるので
上述の計算を理解していただけた方なら、明らかにFIO2が上がることが分かるでしょう。
以下、酸素流量(L/分)に対するFIO2の期待値。

L/分	FIO2(％)
６	６０
７	７０
８	８０
９	９０
１０～	９９

ちなみに逆流防止弁つきリザーバマスクというのもあり、
リザーバーバッグ内に呼気が入らないようになっていて
これにより100％酸素を貯留できるようになってます。
普通のリザーバマスクより高濃度の酸素吸入が期待できます。

④その他

色々あるんですよ。ベンチュリーマスクだとかインスピロンだとか。
でも敢えて割愛。

以上。
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