(cache) ヘモクロマトーシス - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

ヘモクロマトーシス(へもくろまとーしす)

Hemochromatosis

執筆者: 大西 真

概要

 ヘモクロマトーシスは、鉄の代謝異常による疾患であり、全身の臓器に鉄が過剰に沈着して臓器障害をきたす。原因遺伝子が明らかとなり、遺伝子診断により早期発見・早期治療が可能になると考えられる。原発性ヘモクロマトーシスは欧米では発症頻度が高く、Caucasianでは遺伝子以上が10%にも達するといわれるが、アジアでは原発性がきわめて稀であり、わが国での正確なキャリアの率などは明らかではない。

病因

 ヘモクロマトーシスは体内における鉄貯蔵の異常な増加と、それに引き続く各種臓器の組織障害による疾患であり、原発性と二次性に分類される(表1)。 


表1. ヘモクロマトーシスの鑑別診断

 原発性はその原因遺伝子についても解析が進み、常染色体劣性遺伝をすることが知られている。染色体第6番にあるHFE遺伝子が原発性ヘモクロマトーシスの原因遺伝子として同定され、多くの症例は282番目のアミノ酸の変異(C282Y)が原因であることがわかってきたが、63番目のアミノ酸の変異(H63D)の意義、この遺伝子異常では説明できない家系の解析などは今後の課題である。

病態生理

 青銅糖尿病ともよばれ、古典的には肝腫大、糖尿病、皮膚の色素沈着が3主徴とされた。鉄の体内バランスは、腸管からの吸収により調節されている。腸管におけるフェリチンの発現低下、トランスフェリン受容体発現へのフィードバック機構の欠如などがみられる。原発性ヘモクロマトーシスの原因遺伝子といわれるHFEは、MHC Class I ファミリーとホモロジーがあり、β2-ミクログロブリンと複合体を形成すると考えられるが、鉄代謝における役割はさらなる研究が必要である。ヘモクロマトーシスでは、鉄の大半がヘモジデリンとしては肝では正常の50倍、心臓では10倍程度の沈着をみる。

臨床症状

自覚症状

 易疲労感・全身倦怠感・脱力感・腹痛・関節痛・性欲減退・糖尿病・無月経・うっ血性心不全や不整脈といった症状をしめす。下垂体機能低下・肝硬変に伴う症状、皮膚への色素沈着などがみられる。

他覚症状

 理学所見としては、肝腫大・脾腫・関節炎・拡張型心筋症・皮膚色素沈着・睾丸萎縮・体毛減少・甲状腺機能低下症などが主要なものとしてあげられる。鉄の正のバランスが長期間続くことで組織への鉄の沈着がみられ、40~50歳代で症状を発現するといわれる。男女比は10:1以上で男性が多いが、女性の場合、月経、出産、乳汁分泌などにより一生涯で数十gの鉄喪失があることにより説明可能と考えられる。肝では実質細胞および結合織よりなる隔壁にヘモジデリンなどの鉄沈着を認め、Kupffer細胞への沈着は輸血による二次性ヘモクロマトーシス以外では少ない。門脈 周囲および小葉周囲への線維化を認めるが、進行すると小結節性の肝硬変となる。膵、心筋、内分泌腺にもヘモジデリン沈着を認める。皮膚では表皮の萎縮を認め、基底膜細胞にはメラニンの沈着を認める。

検査成績

 血清鉄、血清フェリチン、総鉄結合能、トランスフェリン飽和率が増加する。特にフェリチンが上昇している場合はヘモクロマトーシスを疑う。

診断・鑑別診断

 ヘモクロマトーシスの診断は臨床所見、経過、鉄代謝異常の証明で診断が可能である。血清鉄、トランスフェリン飽和度、フェリチンの上昇をみる。アルコール性肝障害、慢性肝炎でもこれらの検査値の異常をみることがあり、肝生検による実質細胞への鉄沈着の証明、肝細胞への鉄含有量の測定が確定診断に用いられる。またCT、MRIは臓器への鉄沈着を診断するために有用な検査であり、肝のCT値が鉄沈着量に応じてびまん性に増加し、MRIではT2強調画像での信号の減少を認める。

治療

 瀉血療法が中心である。可能な限り、毎週または2週おきに500ml(250mgの鉄に相当)の瀉血を行う。瀉血と同時に、鉄キレート療法(メシル酸デフェロキサミンの非経口投与)を行う。血清フェリチン値は瀉血療法のモニタリングに使用し、正常値を保つようにする。

予後

 瀉血を繰り返すことにより生存が延びるのみならず、症状も軽快する。内分泌系異常・関節症状にはあまり効果がないといわれるが、肝障害・心不全の悪化を防ぐ。心不全の強い例、貧血のある例では瀉血の代りに鉄キレート剤が投与されるが、効果は少ない。

最近の動向

 トランスフェリン飽和度を調べ、男性で60%を超えている場合は(女性では50%)、血清フェリチン値を調べ、増加している場合は肝生検を行って診断を確定し、瀉血療法を開始する。始めは急速に治療を行い、その後はフェリチン値を正常に保つように瀉血療法を持続する。

 もしフェリチン値が正常の場合は、定期的に血清フェリチンやトランスフェリン飽和度を測定してフェリチンが上昇した場合は瀉血療法を始めるか、瀉血療法を始めてフェリチン値でモニタリングを行う。

参考文献

1) Edwards CQ,Kushner JP. Screening for Hemochromatosis. N Engl J Med 1993;328:1616-1620.

2) Pietrangelo A. Hereditary Hemochromatosis-A New Look at an Old Disease.  N Engl J Med 2004;350:2383-2397.

3) Chung R T., Misdraji J., Sahani D V. Case 33-2006-A 43-Year-Old Man with Diabetes, Hypogonadism, Cirrhosis, Arthralgias, and Fatigue.N Engl J Med 2006;355:1812-1819.

執筆者による主な図書

北村聖・大西真・三村俊英 編集:フォローアップ検査ガイド,医学書院

執筆者による推薦図書

シャーロック:“シャーロック”肝臓病学,西村書店

(MyMedより)その他推薦図書

1) 足立幸彦・垣内雅彦・岩田加壽子 著、昌栄印刷 編集、織田美幸 イラスト:グルメディカルシリーズ C型肝炎・脂肪性肝炎(NASH) 鉄制限療法で肝臓をまもる,昌栄印刷 2007

2) 江部康二 著:主食を抜けば糖尿病は良くなる!糖質制限食のすすめ,東洋経済新報社 2005

3) 日本消化器病学会 編集:肝硬変診療ガイドライン,南江堂 2010
 

免責事項

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