2人の心は決まっていた。
1点を追う宇部商9回の攻撃。無死一、二塁。2番打者の上村は、打席に向かう途中、勢いづくベンチに視線をやった。玉国監督に動きはない。
3球目、甘いスライダーを振り抜く。打球は右翼手の頭を越えて芝生に落ちた。逆転の三塁打。「サインが出ていないときは『打て』。自分もそのつもりだった」。上村は振り返る。
この回、宇部商は徹底して攻めた。先頭の星山が三遊間安打、井田も左前安打で続く。そして上村だ。セオリー通りならば、1、2番のどちらかにバントをさせ、中軸に期待するだろう。しかし、「強攻」には綿密に計算された裏がある。
まず3番・工藤は7回までに3三振。さらに、選手の性格も決め手になった。「井田は気持ちが強く、選球眼もいい。上村は1本ヒットが出れば、続くタイプ」と玉国監督。事実、上村は3回戦で1イニングに2本の長打を放った。この試合でも、5回に右前安打を打っていた。
対照的だったのは日大三だ。終盤、「強打」の看板をかなぐり捨て、7回は無死からの走者を2度の犠打で進めてでも1点を奪いにきた。小倉監督は感嘆する。「自分なら、あの場面はバント。チームの打撃を信じて打たせた玉国さんはすごい」
玉国監督は事も無げに言う。「バントするときはするが、あそこは強攻。ウチは元々、攻撃のチームです」。勝ち上がったのは、自分たちの力を信じたチームだった。