企業年金を中心に約2000億円の資産を運用する投資顧問会社「AIJ投資顧問」(東京都中央区、浅川和彦社長)が、高利回りで収益を上げているなどと顧客に虚偽の情報を伝えていたとして、金融庁は24日、金融商品取引法違反(投資家の利益に反する事実)の疑いで同社に1カ月の業務停止命令と業務改善命令を出した。証券取引等監視委員会が同社を検査したところ、残高は約200億円しかなく、大半は消失。預託された企業年金は大幅な含み損を抱えるとみられる。
同日午前、自見庄三郎金融担当相が記者会見し、「金額は不明だが、顧客資産を毀損(きそん)していたとみられ、投資家保護の観点から命令を出した」と話した。
関係者によると、同社は1989年設立で、資本金2億3000万円。昨年3月末時点で123の企業から預かった2100億円を投資運用していた。そのうちほとんどが企業年金(122件)で、年金1870億円を管理。顧客の大半は建設業、電気工事業などの中小企業による総合型の厚生年金基金だった。
同社は金融派生商品の運用により「市場の変動に左右されずに安定収益が上がる」「リスクを減らし絶対的な収益を目指す」などとうたい、運用実績も好調なように見せかけていたという。
しかし、監視委が今年1月下旬から検査したところ、大半は消失し残高は1割未満にまで落ち込んでいた。業績が不調にもかかわらず、集めた資金を配当に回していた疑いがあるという。監視委の検査で会社側も虚偽の説明があったことを認めているという。
このため金融庁は、残った資金を保全するため早急に業務停止命令を出すことを決定。実態の解明まで資産を引き出すことは不可能になる見込みだ。年金の消失が確定すれば、顧客の厚生年金加入者は深刻な打撃を受ける可能性もある。【川名壮志、田所柳子】
企業年金は、国民年金などに上乗せして、企業が任意に設ける年金。大企業なら1社単独、中小企業なら地域・業種が集まって作る年金基金で管理されており、実際の運用は、投資顧問業者などに依頼して行うことが多い。投資顧問業者の事務的なミスなどで損失が出た場合は賠償を求めることができるが、運用の失敗による損失の穴埋めは、金融商品取引法で禁じられている。企業は従業員に、将来年金を支払うことを約束して掛け金を集めているため、損失が出た場合は、企業が不足分を追加拠出することを迫られる場合もある。企業の財務に余裕がなければ年金基金を解散することもできるが、将来受け取る年金が減る可能性もある。
毎日新聞 2012年2月24日 11時04分(最終更新 2月24日 13時09分)
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