池田指導が招来した脅迫・言論抑圧
乙骨正生 ジャーナリスト
「脅迫」認定を報じない聖教新聞
言論出版妨害事件に盗聴事件さらには各種の選挙違反事件に名誉毀損事件などなど、創価学会ならびにその幹部や活動家は、これまでさまざまな違法行為や不法行為そして人権侵害事件を引き起こしてきた。こうした創価学会の不祥事の歴史に、1月20日、新たな1ページが加わることとなった。
創価学会本部の事務総長を務める谷川佳樹副会長が、平成20年5月22日号「週刊新潮」記事で名誉を毀損されたとして、新潮社らと矢野絢也元公明党委員長を提訴した事件の判決で、東京地裁が、谷川氏が創価学会青年部の最高幹部らとともに、矢野氏を吊し上げた際の発言が、脅迫にあたると認定したからである。
もっとも判決は、形式的には谷川氏の勝訴である。というのも判決では、谷川氏が提出した面談の模様を隠し録りしていた録音テープに、矢野氏の子息の身の安全に関する「人命に関わるかもしれない」との谷川発言が記録されていなかったことを理由に、「週刊新潮」記事の名誉毀損性を一部認めたからだ。
これを受けて1月21日付「聖教新聞」は、「矢野絢也、新潮社に賠償命令 名誉毀損裁判で谷川副会長が勝訴 東京地裁」との見出しで判決を報道。その中で、「問題の新潮記事は、矢野の一方的な言い分を鵜呑みにして、05年5月に谷川副会長、青年部の代表と矢野の懇談の席で、あたかも同副会長が矢野に対し、『人命にかかわるかもしれない』などと脅したという、虚偽を掲載したもの。同副会長がそのような脅迫を行った事実は一切なかった」と、まるで谷川氏には一点の瑕疵もなかったかのように報じている。
だが判決は、隠し録りされたテープに「人命に関わるかもしれない」との発言はなかったとする一方で、「『息子がどうなってもいいのか』といった趣旨のことを言って、被告矢野を脅迫したとの事実については、真実であると認められる」と、谷川氏が矢野氏の子息の身の安全に言及しつつ、脅迫した事実を「真実」だと認定。谷川氏の謝罪広告の請求を斥け、損害賠償の支払額も請求額1100万円の33分の1の30万円と弁護士費用3万円しか認めず、訴訟費用も33分の32を原告谷川氏の負担、33分の1を被告側の負担とした。
その意味で1月20日の東京地裁判決は、形式的には新潮社と矢野氏の敗訴だが、実質的には記事の大部分の真実性が認められ、あまつさえ谷川氏らが矢野氏を脅迫したという事実が認定されたことを踏まえるならば、矢野氏の勝訴判決ともいえる。
公益法人でありながら、違法行為・不法行為・人権侵害行為を繰り返す創価学会の反社会的体質、公益法人としての適格性の欠如は、いまさら指摘するまでもないが、1月20日の東京地裁判決でその根拠に「脅迫」という新たな要素が加わったといえよう。
筆者はこれまで、創価学会に反社会的体質が醸成される要因は、ひとえに池田大作名誉会長の言動にあると指摘してきたところだが、谷川氏をはじめとする青年部最高幹部らが、今回のような脅迫という違法な人権侵害を犯すに至った原因もまた、池田氏の指導・指示・命令にあることは明白である。
今回、谷川氏らが矢野氏を吊し上げ、脅迫にまで及んだ理由は、判決にも詳述されているように、平成5年9月に矢野氏が月刊誌「文藝春秋」に掲載した手記が、池田氏の国会証人喚問の危機を招いたというこじつけにある。吊し上げにおける以下の谷川発言は、そのいきさつを象徴的に示している。
「月刊『文藝春秋』にこの手記を出したこと自体どうなんだと。利敵行為であり、いー、同士を裏切る、先生を貶める、広宣流布に弓を引く、そういう行為じゃないかと思っているわけです」
「先生の喚問、最後ギリギリのところにいって、会長の参考人招致がテロップで流れました、テレビに。その時に矢野さんがいた位置は、山友、内藤の位置なんですよ。正直言うと。私たちの心証はそうだったんです。先生の喚問の材料に使われたわけですから。明らかに敵だと」
公明党の創立者であり、宗教法人・創価学会を政治団体化させた池田氏には、憲法の政教分離規定に反する疑惑について国会で説明する義務と責任がある。だが、池田氏は証人喚問を含む国会への招致を極度に恐れている。その結果、自らにとって不都合かつ不愉快な国会招致の危機という事態を招いた人物や団体を「敵」と位置づけ、その攻撃を指示してきたことは周知の通り。その一方で自らを守ることを幹部・会員に厳命してきた。その一端は以下の通りである。
「物事は正邪ではない。勝つか負けるかなんだ。全員が『勝つ』と強く決めていけ。勝つか負けるか。やられたらやりかえせ。(中略)なんでもいいから、言い返すんだ。こわがったり、ひるんだりしてはいけない。怒鳴っていけばいいんだ。(中略)反逆者には『この野郎、馬鹿野郎』でいいんだ」(埼玉指導 平成元年3月12日)
「師である私が迫害を受けている。仇を討て。言われたら言い返す。打ち返す。切り返す。叫ばなければ負けである。戸田先生も、牧口先生の仇をとると立ち上がった。私も戸田先生の仇をとるために立った。私の仇を討つのは、創価同窓の諸君だ」(平成8年11月3日 『創価同窓の集い』にて)
「師匠に対する裏切り者を、絶対に許さない。弟子が団結し、師匠を永遠に守る。師に反逆した者、師をいじめた者を、断じて倒す。私は、この学会精神を忘れてはならないと、強く申し上げておきたい」(平成19年9月25日付「聖教新聞」)
こうした池田氏の自己中心的で独善的で排他的な言動が、創価学会の反社会的体質を醸成しているのである。その池田氏が「体調不良」で倒れつつある今日、創価学会は体質改善を図ることが可能なのか。本判決をその岐路にして欲しいものである。
なお原告・被告とも判決を不服として東京高裁に控訴したため、今後、事件は東京高裁で審理される。
乙骨正生(おっこつ・まさお)フリージャーナリスト。1955年生まれ。創価中学・創価大学法学部卒。宗教・政治・社会分野などを取材、週刊誌・月刊誌を中心に執筆。著書に『怪死』(教育資料出版会)『公明党=創価学会の野望』『公明党=創価学会の真実』『司法に断罪された創価学会』(かもがわ出版)など。