1年前はどうで1年後の今はどうか 震災1年に向けて増える英米の震災報道
NRCが東電の情報を信用しなかった理由として(色々あるのでしょうが)、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のピーター・ランダース記者は記者ブログで「This is too big for Tepco(これは東電の手に余る)」と判断されたからだと書いています(日本語版はこちら)。
3月16日に情勢把握と支援のため訪日したNRCのベテラン、チャック・カスト氏が「This has really overwhelmed Tepco(全く東電の手に負えない状態になった)」とNRCに報告したそうです。事態は東電の対応能力をはるかに超えていると。また4号機の使用済み燃料プールが干上がっていて、おそらく放射性物質をまき散らしている、ゆえに80キロ圏内は退避させろと強く主張したのもカスト氏で、今年2月21日の取材に対してカスト氏は、プールに水があると言える資料が何ひとつ出てこなかったのだと説明したそうです。日本が当時出してきた燃料プールの写真はビデオの数フレームを取り出したもので(ビデオそのものは日本側が提供を拒否したとか)、水面かと思えるかすかな光が映っているようにも見えたが、「まったく見えない」とカスト氏は主張。プールは干上がっているようだという米側の情報を信用することにしたのだそうです。
アメリカ側が日本政府の高官から情報を日常的に得られるようになったのは3月22日から。当初の手も足もでない状態から徐々に態勢を整えた東電については、「一時は膝をついて倒れている状態だったが、やがて立ち上がり、歩き始め、走り始めた」とカスト氏は話しています。
○ タブロイド紙も日本人を称え
震災1年を前に、東京電力は20〜21日にかけて福島第一原発を外部に公開しました。AFP記事によると、フランスのエリック・ベッソン産業・エネルギー・デジタル経済担当相も21日、外国の政治家として初めて、事故後の福島第一原発を視察したそうです。肩書きからしてもわかるように、ベッソン氏は「近年で最悪の原発事故を抑えようと戦っている作業員たちに、福島第一のメルトダウンで大打撃を受けた産業の再生は、彼らにかかっていると告げた」そうです。
記事によると大臣は「原子力はエネルギー源として手放すには大切すぎると述べ、さらに『私はエネルギーのほとんどを原子力から作り出す国から来ました』と話した」とのこと。さらに「最も安全な方法で稼働する民間事業者運営の原子力発電プログラムを、私たちはまだ信じている。原発業界が再生するかはあなたたちにかかっています」と鼓舞したのだそうです。
ベッソン大臣にはAFPの記者が同行したとのこと。東電が昨年11月に報道陣に事故後初公開した時と同じで、今回も外国メディア数社が代表取材で現地入りしていました。
アイルランドの『アイリッシュ・タイムズ』や英『ベルファスト・テレグラフ』は21日付で、デビッド・マクニール記者の記事を掲載。原発周辺の地域に雑草が生い茂り、壊れた店舗の看板がそのままに放置されていることや、スーパーの駐車場に自動車が放置されている、「最近の研究によると鳥たちもこの地域を見捨てたそうだ」と描写した上で記者は、報道陣が乗ったバス内で線量計の警告音があちこちから鳴り響く様子を書いています。富岡町に入ると線量が上がり続け、原発の正門前では15マイクロシーベルト毎時に達したそうです。
福島第一の原子炉6基に近づくにあたって防護服とマスクで完全防備するよう指示された記者は、「2月の福島は氷点下の寒さだが、それでも耐え難いほど暑い。30度を超えた去年の夏、何千人もの人がこの防護服を着て作業を続け、瓦礫を撤去し、原子炉に水を運び続けたのだ。『暑さの中で次々にバタバタと倒れていったけど、続けるしかなかった』と作業員の一人は話す」と書いています。
また記者は、温度上昇が懸念された2号機について、高橋毅新所長が「問題は温度計の故障だと分かりました。ご心配をかけて本当に申し訳ない」と謝ったと書きます。そして「東電の関係者は絶え間なく謝っている。彼らの謝罪は形式的で儀式的なものになっていて、大事故に対する国民の怒りを和らげる効果、あるいは事故発生からこちら東電が見せてきた頑なな態度に対する国民な怒りを和らげる効果は、彼らの謝罪にはない。しかし少なくともここ、第一原発の現場では、謝罪は本物に思える。ここの作業は厳しく容赦なく、そして長期的には死に至る可能性もある」とも。
記者はさらに、昨年12月に体調不良を理由に退任した吉田昌郎氏の後任となった高橋所長について、「高橋氏は疲れ切っているように見えるが、原発を『冷温停止状態』に持ち込むための作業の進捗状況には満足していると話す」と描写。さらに、「この大惨事をどれだけ深く受け止めているか。その重みは、世界で最も厳しい職場のひとつで日夜を過ごす高橋所長ら幹部たちの、うつろな目をした顔に刻みこまれている。何より所長を突き動かすのはひとつ。『できるだけ早く皆さんが自宅に帰れるようにしたい』のだと言う」とも書いています。
震災直後から被災地の様子を大きな写真で伝えてきた保守系の英タブロイド紙『デイリー・メール』は今回も代表取材の写真を並べ、「これは史上最悪の取材ツアー?」といういかにもな見出しを付けています。記事の書き出しも、「ほとんどのジャーナリストにとって費用相手持ちの取材ツアーというのは、地球の最果てにあるエキゾチックな場所へ旅するチャンスだ。しかしこの気の毒な連中の場合、そうはいかなかった。連中が参加したのは、放射能にまみれた福島第一原発を見て回る、華やかとはほど遠い取材ツアーだった」と、いかにもイギリスのタブロイド紙らしい書き方でした。
ところでイギリスのタブロイド紙といえば『ザ・サン』で、盗聴疑惑が取りざたされたり記者がネタもとに対する贈収賄疑惑で逮捕されたりと、それこそ色々な意味でいわくつきの新聞なので、このコラムではほとんどめったに取り上げてきませんでした。ですが、今回「へえ、サンがねえ」という記事を見つけたのでご紹介します。
20日付の『サン』は「Japan: One year on(日本:あれから1年)」と題して、被災地と被災した人の、去年と今の写真を並べています。記事はそして「世界中のテレビ画面に恐ろしい光景が映し出された」あの日と原発事故による被害のほどを手短に書いた上で「にもかかわらず、あれから1年弱しかたっていない今、生活は平常に戻りつつある。道路は通れるようになり、あるいは再建され、がれきは取り除かれ、壊された建物は撤去されている」と書いています。
日本に住んでいる人なら、がれきが一見取り除かれたように見える写真のフレーム外に、がれきが実はうずたかく積まれ、処分がままならない状態にあることを知っています(こちらのAFP記事も、実にがれきの5%しか処分できていないことを報じています)。
またがれきのあるなしでは語れない被災者の苦しみ、原発警戒区域から避難した人たちや取り残された動物たちの苦しみなどが写真の外にはあり、並んだ写真を見ただけではとてもでないけれども「ああ、復興が進んでる。良かったねえ」とは言えない状態にあることを、日本にいる多くの人が知っています(日本にいなくても知っている人だってたくさんいるでしょう)。
けれども『サン』はそこをあえてなのかどうか、こう書いています。「被災した人たちは協力し合い、自分たちの地元を立て直してきた。この見事な光景ゆえに、世界は日本を尊敬し、日本に共感してきた」と。
えげつない暴露記事や煽り記事が得意で、ふだんはこういう温かなことを書かないのが『サン』の芸風。私はそう偏見を抱いているので、この記事に「なんでまた?」と首をかしげつつも、それでも『サン』にこういう記事が載ったことは記憶にとどめたいと思います。
◇本日の言葉
・fog of war = 戦争の霧、極度の混乱状態で情報が錯綜すること
◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程(国際関係論)修了。全国紙記者、国際機関本部勤務を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)など。
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